偽りの恋人
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PM.7:00
『あ、あのっミカエルさん、私変じゃないですか?』
ミ「そのようなことありませんよ。とても素敵です」
黒のベンツに乗るりんは、自分の服装が落ち着かず何度も何度も運転席に座るミカエルに尋ねる。
ミラー越しに微笑まれて、りんはほっとして窓の外を見た。
『綺麗ー…』
まるで外国のお城のような建物が見えて来て、思わず口から零れる。
輝く建物の周りの壮大な庭園には大きな噴水があり、どれも息を飲む程美しい。
小さい頃絵本で見たような大きな門をくぐり、りんの乗った車は停車した。
先に来ていると言った跡部を探す為ドアノブに手を掛けた時、それより早く外側から開けられた。
跡「ミカエル、ご苦労だったな」
ミ「いえ、無事にお会い出来て良かったです」
車から降りていたミカエルに例を言う跡部に、すっと手を差し出される。
りんは戸惑いつつもその手を握り、車内から出た。
跡「悪かったな、1人にして…………」
『いえ!』と手を振るりんの姿を見た瞬間、跡部は言葉を詰まらせた。
りんが着ているのは濃いめのブルーのドレス。
その上には白のふわふわしたファーを羽織り、長い髪は柔らかなウェーブを生かし横に流していて。
化粧もしているからか…普段幼く見える顔がぐんと大人っぽく見えた。
可愛いより、綺麗だと思った。
『や、やっぱり変ですよねっ』
じっと見つめられるのはやはり似合っていないからか。
恥ずかしくなったりんは俯き、伺うように前を見ると跡部の服装もいつもと違うことに気付いた。
黒のタキシードに、りんのドレスの色に似た濃いめのブルーのワイシャツを着こなし、どれもとても似合っている。
やはり自分と歩くと、跡部がマイナスの意味で注目されてしまうのではないだろうか…
跡「…膝に」
『?え、』
跡「膝に大きい絆創膏してんのにな」
『!』
体育祭で転んだ傷はドレスで隠れギリギリ見えない。
だが何処かからかうように言われ、りんはムゥと頬を膨らませた。
跡「その格好でその顔か」
ククッと笑いを堪えた後、再びすっと手を差し出した跡部。
りんは目をぱちくりとさせて跡部を見ると、「行くぞ」と素っ気なく言われた。
そう、今日は恋人同士の設定なのだ。
『…はい、』
慣れないレディファーストに戸惑いつつ。
その手をそっと取ると、跡部はふっと笑い歩きだした。
後ろから、「いってらっしゃいませ」とミカエルの声が聞こえた。
りんは、圧倒されていた。
穏やかな庭園とは一変して、会場内に入るとドレスコードをした人達で華やかに賑わっていた。
並べられている豪華な料理も自分が決して口にしたことがないものばかりで、先ほどから聞こえてくる会話もりんにはわからない単語ばかり。
最早自分だけが別世界の人間なのだ。
『(……ぅう、)』
りんは急に恐くなり、隣に立つ跡部の服の袖を気付かぬ内に握っていた。
跡部は一瞬びっくりしたように目を見開き、小刻みに震えるりんに気付くと頭に手を置く。
安心させるように撫でてやると、そっと不安気に見上げたりんがふにゃりと力なく笑った。
跡「…お前な、」
『?』
少し顔の赤い跡部は、りんから顔を背け俯いてしまう。
どうしたのかと首を傾げていると、「景吾」と名前を呼ばれ2人で振り向いた。
跡「母様、お久し振りです」
「そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ」
その言葉に跡部が顔を上げると、柔らかく微笑む女性。
落ち着いた着物に身を包んで、優しい雰囲気と凛とした強さを感じさせた。
『(この人が…)』
顔形も意志の強そうなところが跡部と似ていて、無意識にじっと見つめてしまっていると…
女性と目が合った。
ドキッとして1歩後退りしてしまいそうになる。
「…景吾、この方が?」
跡「はい。今日はパートナーとして出席して頂きました」
『は、はじめまして。越前りんと言います』
跡部の自然な紹介に合わせ慌てて頭を下げるりんは、決して自然とはいえない。
女性は特に驚いた様子もなく、「そう」と相槌をうっただけだった。
「可愛らしい方。どうぞパーティーを楽しんでいらしてね」
『は、はいっ』
柔らかい笑みは心を落ち着かせるところなのに、りんは動揺していた。
その笑顔が、作り笑いのようで。
『あの、跡部さ……』
ふと隣に立つ跡部を見上げるが、彼は母親の背中を目で追っていた。
その表情は強張っていて、りんは声を掛けるのを躊躇う。
やがて心配そうに自分を見つめるりんに気付き、「行くか」と再び手を取り歩きだした。
「皆様、本日は私の孫の為にお集まり頂きありがとうございます」
「ご存知かと申し上げますが、孫の龍間(たつま)に跡部財閥新事業を任せることになりました」
「その祝いと、今後も更なる向上を目指し持続することを願い、今回このような……」
跡部の従兄弟の龍間と祖父が挨拶を終え、会場内は拍手で包まれた。
りんはそれをただ漠然と聞いていて、未だ落ち着かずキョロキョロと顔を動かす度に、跡部に元の位置に戻されていた。
「景吾、浦沢様が見えましたよ」
跡「はい、今行きます」
母親に呼ばれ跡部が行ってしまうと思ったが、ウェイターと何かを話している。
りんが不思議がる間もなく、グラスを片手に跡部が戻ってきた。
『…?』
跡「おら、これでも飲んでおとなしくしてろ」
『(…りんごジュース!)』
ストロー付きのりんごジュースを渡されて、まるで小さい子供に言い聞かせるような話し方にガンと衝撃を受けるりん。
りんが傷付いていることも知らず、常に本気な跡部は頷いたのを確認すると母親の元へ向かった。
『(わ、私…子供っぽい?)』
いくら綺麗に着飾っても、顔は幼いし体型だって年相応ではない。
しゅんと落ち込みながらもストローを加えると、
「ねぇ、貴方」
後ろから声がした為振り向けば、りんより少し年上の女性2人が立っていた。
「貴方、景吾様のパートナーですって?」
「羨ましいわぁ。何処の家の方なの?」
『え?えっと、』
なかなか質問に答えないりんに、その女性達は更に質問をしてくる。
「景吾様のご趣味は?」
「好きな食べ物は?」
「好きなブランドは?」
彼女達は、初めからりんなど興味がない。
跡部に近付きたい一心で話し掛けてきたのだ。
りんはこの場から離れたくなって、ぐっと唇を噛んだ。
『…私、少し具合が悪いので』
目を丸くする2人の間をするりと抜けて、りんは駆け足である場所に向かった。