過保護応援団
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*りんside*
1位で回ってきたバトンをしっかり受け取って、走る。
と思ったのに。
カーブのところで同時に走っていた人が転んでしまい、私の近くにいた為、
『わわ…!』
その人につまづいて私もバランスを崩し、転倒してしまった。
リョ「っりん…!」
ざわめく観客席から真っ先に聞こえた、お兄ちゃんの声。
先輩達が「大丈夫か!?」と心配そうな顔で叫んでいた。
『(大丈夫…)』
右足から流れる血を押さえて、ぐっと力を入れて何とか立ち上がる。
情けなくて、瞳がじわりと熱くなった。
でも…泣いてる場合じゃない。
走らなきゃ。
痛みを堪え、今持ってる精一杯の力で再び走り出す。
抜かれた1人に追い付いたところで、アンカーの人にバトンを渡した。
ハァと乱れた息が落ち着いてきた時、ガクンと足に重みがかかった気がした。
『い、いた……』
さっきは走ることに夢中で感じなかったけど、今更ズキズキと痛み出したみたい。
右足を引きずるようにして救護室まで行くと、見知っている人物がいた。
要「お疲れ」
『要先生っ』
私の姿を見ると立ち上がり、傍まで来てくれる先生。
要「うーわ、派手に転けたなぁ」
『う゛~…』
消毒液が傷口に染みて思わず眉を寄せていると、頭にぽんぽんと手が乗せられた。
要「良く頑張ったな」
何、で。
そう言って笑顔を向ける先生を見ていたら、ふと、力が抜けて。
じわりと溜まった涙が溢れるように、ポロポロと落ちてくる。
要「なーくなー」
『ふ、ふぇ……』
俯く私の頭を、小さな子供をあやすように優しく撫でてくれる。
『(白石さん、)』
その動作は、大好きなあの人を連想させた。
白石さんもきっと、大丈夫って笑って、同じことしてくれるんだろうな。
会いたいなんて、この状況で思ってしまう。
ぼんやりと絆創膏を貼られるところを眺めていれば、誰かの気配に面を上げた。
『…お兄ちゃん!』
微かに息を乱し、救護室の椅子に座る私と先生を黙って見下ろしているお兄ちゃん。
気のせいか、お兄ちゃんは先生の顔を睨み付けているような……
リョ「大丈夫?」
右膝の大きな絆創膏を見ながら問われて、慌てて手を振った。
『うん、大丈夫だよ!』
私の言葉を聞いて、「そっか…」とお兄ちゃんは安心したように肩を落とした。
お兄ちゃん、心配して来てくれたんだ……
嬉しくてぶわっと涙が溢れる。そんな私を放置して、お兄ちゃんと先生は見つめ?合っている。
要「へー君がりんの双子のお兄さん、」
リョ「(呼び捨て…)あんた誰?」
ジロジロと興味深そうにお兄ちゃんを見る先生は、眉を寄せて明らかに不機嫌なお兄ちゃんに気付いていない。
要「君の妹の担任をしてる、水城要です」
リョ「…どうも」
要「…………」
先生の表情から、本当に双子か?と思ってるに違いない。(←馴れた)
リョ「もう帰れる?」
『あっ一旦教室に帰ってホームルームがあるし、先に帰っててもい「帰れるよね」………』
お兄ちゃんは話を聞かず腕を掴むと、右足を気遣いつつ私を連れていこうとする。
その態度に、機嫌が悪い…と察する。
私何かしたかな?とオロオロと不安になっていれば、ふと名前を呼ばれた。
「さっきは大丈夫だった?」
『ふぇ?は、はいっ』
救護室を訪ねてきた男子生徒は、私がバトンを渡したアンカーの人だった。
「ギリギリで勝てたんだ……ありがとう」
『え…!』
泣いていたこともあり、すっかりリレーのことを忘れていた。
勝てた事実が嬉しくて自然と頬が緩んでしまう。
『こちらこそ、ありがとう』
『心配してくれてありがとう』と2回お礼を言ってその人を見ると、何故か驚いた顔をしていて。
顔が赤いので熱でもあるのかな…とじっと見つめれば、その人は更に顔を赤くする。
と、私の背後を見て今度は顔を真っ青にして、慌てたように去っていった。
『ど、どうしたんでしょうか?』
要「うーん」
要先生に助けを求めるように振り向く。
すると先生はお兄ちゃんに目線を配ると、困ったように笑った。
要「…両想いか」
その呟きに首を傾げていると、
芥「りんちゃああん大丈夫なの!??」
菊「わああん!りん痛い?痛いー?」
ドッシーンと効果音がしそうな勢いでのし掛かってきた先輩達。
駆け付けてくれたことが嬉しいけれど、……重い。
助けて下さい~と瞳だけの訴えに気付いてくれた不二先輩が、苦笑しながらも背中にくっつく菊丸先輩を離してくれた。
やがてジロちゃんも忍足先輩に剥がされ、救護室は一気に賑やかになっていった。
ホームルームを要先生が早く終わらせてくれたお陰で、制服に着替えた私はお兄ちゃんと先輩達と帰り道を歩いていた。
忍「りんちゃん、怪我したところ大丈夫なん?」
『あ、はいっ』
大したことないですよと隣に立つ忍足先輩に笑いかける。
自分の不注意で転んでしまっただけなのに、皆に心配掛けてしまい申し訳ない気持ちになった。
菊「ねーねーこれから隆さん家にお寿司食べ行って良い?」
大「英二…さっきあんなに食べてたじゃないか(隆さんが可哀想で…)」
桃「焼き肉で良いじゃないっスか~な、越前!」
リョ「俺も焼き肉がいいっス」
相変わらず仲の良い先輩達の会話を後ろで聞きながら、くすりと笑みを溢してしまう。
ふと、右手が軽くなったと思ったら…私の持っていた鞄が跡部さんの手に移動していた。
『跡部さ…悪いですよっ』
跡「足、引きずってんぞ」
『(ババレてる…!)』
気付かれないように歩いてたつもりなのに、さらりと指摘され言い訳することも出来ない。
俯きつつお礼を言うと、跡部さんは何処か楽しそうに笑った。
いつの間にか隣にいたはずの忍足先輩の姿はなく、賑やかな皆の輪から少し離れた場所で歩く形となった。
『えと、今日は来て下さってありがとうございました』
わざわざ応援に来てくれて、皆に頑張ったねって言って貰えて、すごく嬉しかった。
跡部さんの目を真っ直ぐに見て伝えれば、青く澄んだ瞳が微かに揺れた気がした。
跡「まぁ、お前が足速いとは意外だったな」
『へ!意外…ですか?』
跡「いつも転んでそうなのにな」
「そういや転んだのか」と私の右膝を見て呟く跡部さん。
何だか馬鹿にされた気がして、私は無意識の内に頬を膨らませていた。
跡部さんはそんな私を見てすっと目を細める。
片手が伸びてきて…それが私の頬を摘まんだ。
『ふ、ふへらてふたさい!(やめてください!)』
跡「何だその顔」
ククク…と笑いを堪える跡部さんに、ムッとして今度は眉を寄せた。
跡部さんって時々私で遊んでる気がする…
抵抗して跡部さんの手を掴んだ時、「りん」と不意に呼ばれた。
跡「…お前に、頼みがある」
『え…?』
急に真剣な顔付きになった為、それに合わせるように身を硬くする。
いつだったか…跡部さんのこの表情を、見たことがある。
真っ直ぐに見つめてくるので私も見返していると、すっと跡部さんの顔が近付いてきた。
思わぬ行動に戸惑っていれば、その顔は私の耳元でピタリと止まり、
跡「…俺の女になれ」
………
………………
………………………
暫く思考が停止していると、長いと跡部さんに打ち切られてしまう。
『わ、私は女です』
跡「ああ、そうだな」
まさか、今まで男だと思われていたのかな。
言葉の意味がわからずぐるぐる混乱する私を見て、跡部さんは深い溜め息を吐いた。
跡「俺様の、女になって欲しい」
跡部さんの、女…?
それって……………
ようやくたどり着いた答えに、私の顔は直ぐ様真っ赤になった。
あたふたと全身を使って慌てる姿が面白いのか、跡部さんはふはっと吹き出す。
跡「実は『わ、私が跡部さんの女だなんて滅相もないとゆうか、そのっ』
跡「いや『そそそれに、私は白石さんの女?で、白石さんの女も滅相もないのですが、えぇと…えと、』
何が何だかわからなくて混乱する頭のまま、捲し立てるように話してしまう。
『し、失礼します…!』
跡「あ?…おい!」
後ろから名前を呼ばれるが、今の私には振り返る余裕もなく。
バクバク鳴っている胸を押さえ、笑顔で手を振るジロちゃんやがっくんに飛び付いた。
跡「……話を聞け」
1人取り残された跡部さんが、ぽつり呟いたことも知らず。