海の家
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梅「ある日急に来なくなっての…もう40年も経つわい」
40年も、待っていたと言うのだろうか。
ここで、たった1人で。
梅「だからお前さんを見た時、てっきりあの人が…歳造さんが帰って来たかと思っての」
幸「…………」
梅「可笑しな話じゃ。私と同じくヨボヨボか、それともー…」
言葉が途切れたと同時に、「会えますよ」と幸村の声音が降りてきて。
幸「会えますよ、きっとまた。…そんなに想っているなら」
優しい、だけど力強い幸村の言葉に、梅は一瞬驚いた顔をする。
何も言わず、再び前に向き直った。
梅「…不思議でな、寂しくはないんじゃ。あの子がこうして、来てくれるから」
「手も掛かるがな」と付け足しながら笑い、誰のことを言っているかはすぐにわかった。
幸「手が掛かる子ほど可愛いですけどね」
梅「まぁの」
幸「俺もそう思います」
気が合うの、と顔を見合わせて笑う。
梅「お前さん、恋しとるな」
急に予想もしていなかったことを言われ、ふと笑い声が消える。
戸惑う表情を読み取られたのか、梅はニヤリと笑った。
梅「そんな顔で笑えるのは、恋しとる証拠じゃ」
敵わないな、と思わず肩を竦める。
幸村はすっと目を細め、夕日で照らされる海を真っ直ぐ見つめた。
幸「…その恋は、絶対に報われないんです」
落ち着いた声で呟く幸村を見上げる梅だったが。
赤「梅ばーちゃん!もう食っていい?」
梅「どれどれ…ったく」
ご褒美として皆に焼きそばを作っていた梅は、赤也の声でくるっと振り向く。
幸村も苦笑しながら、店の中に入る梅に続いた。
『あの、おばあちゃん。今日は本当にお世話になりました!』
梅「何、お疲れさん。良く頑張ったね」
小走りで近付くなり、深々と頭を下げるりん。
同時に封筒を渡され、その額に驚いた。
『こんなに…っ』
梅「いーんじゃ。あんた達のお陰で昔に戻れたみたいでの…私も楽しかった」
「ありがとう」と微笑まれ、りんは何故か涙が零れそうになる。
必死に堪えていると、優しい顔をした梅が背中を擦ってくれた。
『あの、』
砂浜の上に足をつき、輝く海の手前で恐る恐る、という様子で声を掛けた。
声を掛けられた人物は、振り向くなり目を見開いた。
丸「おー…」
『と、隣いいですか?』
丸「うん」
波打ち際に座る丸井の隣に、りんもちょこんと腰を下ろした。
『先輩、さっきは、えと…可愛いって言ってごめんなさい』
丸「え?」
突然の謝罪に驚く表情を見せる丸井に、りんは更に続ける。
『怒ってる、みたいだったから……』
次第に小さくなる声。
俯くりんの姿を見ながら、丸井は思っていた。
自分以外の人のことを、何故そこまで気遣えるのかと。
彼女は相変わらず…何処までも優しい。
丸「…怒ってねぇよ」
顔を上げた時、大きな瞳が数回瞬きした。
丸「普段の俺は?」
『え?』
丸「……どうだ?」
やはり可愛いのか、それとも。
可愛いなんて言われ慣れていたが、りんに言われるのは嫌だった。
好きな子には尚更。
りんは暫くキョトンとしていたが、
『……かっこいいです』
思わず横を向けば、りんは真っ直ぐに自分を見つめていた。
『テニスをしてる時もそうじゃない時も。先輩は、かっこいいです』
そう言って、ふわりと優しく笑った。
丸「(……そっか)」
見栄好いたお世辞なんかには決して聞こえない。
いつも真っ直ぐな瞳をして、正直で純粋で。
だから、りんのことが、こんなにも。
丸井はぐっと砂を掴み、息を飲むとくるり、顔の向きを変えた。
丸「…あのさ、りん……」
だが言葉はすぐに途切れてしまう。
その代わりに…肩にりんの頭が触れた。
丸「(…え、ちょ、ぇえ!)」
丸井の肩に自身の頭を乗せて、スースーと穏やかな寝息を立てて眠るりん。
よぼと疲れていたのか、丸井が焦っていても全く起きる気配がない。
丸井は顔を赤くしながらも、恐る恐るその寝顔を覗いた。
丸「……………」
伏せられた長い睫毛に、薄く開いた桜色の唇。
目を閉じていても、まるで人形……寧ろ天使のよう。
スゥとゆっくり息を吸った。
丸「…………りん、」
俺は、
言葉と重なる、波の音。
自分の囁いた言葉にカァァと顔を赤く染めていれば、
仁「青春じゃの~」
赤「本当本当!」
丸「ッッ!!」
ぬっと突然現れた2人。
丸「に…あ、い…!」
"仁王"、"赤也"、"いつからそこにいた?"
…と言いたい。
仁「さぁて、いつからじゃっけかの?」
わざとらしく首を傾げ、ニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべる仁王。
その姿に腹も立つが、呆れも含んだ溜め息が零れた。
赤「それにしてもりん、頑張ってましたからね」
仁「よっぽど疲れたんじゃな…」
仁王はりんの前にしゃがみ、その頭をぽんぽんと撫でる。
すると…伏せられていた瞼がゆっくりと開いた。
大きな瞳に仁王、赤也を映し、そして。
『…ふぇ!ま、丸井先輩ごごごめんなさい…!』
肩に頭を乗せていたことに気付いて、慌てて立ち上がった。
丸「いや…気にすんな」
笑っているが、微かに眉を下げる丸井。
内心起こした仁王が憎らしかった。
『赤也先輩、今日は本当にありがとうございましたっ』
赤「いや、頑張ったのはりんじゃん。また何かあったら言えよ」
『はい!』
くしゃりと頭を撫でられ、ニッと笑う赤也を見ていたら自然と微笑んでしまう。
丸「…お前らって仲良いよなー」
赤「そうっスか?」
仁「一緒にバイトしたらどうじゃ?」
仁王の提案に、顔を輝かせたのはりんだった。
『はい!楽しそうです!』
赤「そうだな、んじゃ高校生になったらってことで!」
丸「ちょ、マジ?じゃあ俺も!」
『はいっ』
結局丸井も加わり、最終的には仁王までもが加わったのだった。
『(楽しみだなぁ)』
皆で働けたらどんなに楽しいだろうか。
初めてのアルバイト。
戸惑いもたくさんあったけれど、そこで得たものの方が大きかった。
『(もっともっと頑張ろう)』
今度は、自分が赤也を手助け出来るように。
柳「4人共、帰るぞ」
赤「ういっス!」
先を行く先輩達の後を、追うようにして走り出す。
りんも最後ながら慌ててついて行った。
『(…そういえばあの時、)』
誰かに、優しい声で囁かれた気がした。
あの声は……
そんなことを考えながら、
もう一度瞳に焼き付けるように、夕日で照らされた海を見つめた。
その頃……
南「…おいリョーマ、今何時だ?」
リョ「19時3分。親父、1分置きに聞いてる」
ソワソワと時計を確認している、父と兄の姿。
りんがいない為、結局2人でテニスをして過ごしたのだった。
菜「そろそろ帰って来ると思いますよ」
南「でも菜々子ちゃ『ただいまー!』おかえりィイりんちゃん…!!」
ドタバタと全員に迎えられて、りんは驚きつつもニッコリと笑った。
ルンルンと機嫌良く体を弾ませている姿に、更に不安が募り、
その直後行われた質問攻めは、夜遅くまで永遠と続いたのだった……