青春花火
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
金「なぁなぁ、花火まだ上がらないん??」
千「そやね、あと少しじゃなかと?」
花火が見やすいように金太郎を肩車する千歳は、一緒になって夜空を見上げる。
まるで兄弟のような2人を微笑ましく思い、目を細める小石川と銀も静かに天を仰いだ。
ユ「(よ、よっしゃ…小春と手繋ぐんなら今しかあらへん!!)
な、なぁ小春っ」
小「ん?」
ユ「(両手塞がっとるぅぅ!)」
両手いっぱいに焼きそばやたこ焼きを持つ小春の姿に、ユウジは盛大に肩を落としたのだった。
そんな中、謙也は皆の輪から離れキョロキョロと首を動かしていた。
謙「光、」
土手の下に座り前を見ていた財前は、その声に振り向く。
財「…謙也さん」
謙「ったく、暗い顔やなぁ」
「花火始まるで?」と明るく笑う謙也。
財「別に、どうでもええです」
謙「クールやな」
財「…何があったか、聞かんのですか」
きっと、彼は大体気付いているはずだ。
財前が悩んでいる時、落ち込んでいる時は…いつも真っ先に気付いてくれる。
その時だけ「光」と呼ばれるが、当の本人は自覚があるのかないのか。
謙也は何も言わず隣に腰を下ろし、同じように前を見つめた。
謙「…聞いてもええんか?」
コクッと顔を縦に振る財前に、謙也の表情も少しだけ真剣になる。
財「…俺、結構本気やったみたいです」
謙「うん」
財「答えなんかわかっとったのに、痛くて」
謙「…うん」
『私、は…白石さんが好きです』
『特別だって思えるのも、白石さんだけなんです。だから、ごめんなさい…』
あんなに赤くなって言われれば、誰だって、適うわけがない。
こんなに胸が痛いのは、初めてで。
謙「誰も好きにならへんより、ずっとええ」
「だからお前は幸せ者や」と、謙也は軽く笑って財前の頭に手を乗せた。
どうしてこの人がモテないのだろうか。
きっと、本人が鈍感なだけだ。
視界が歪んで、優しく撫でるその手を振りほどけない。
頬を伝った涙に謙也は気付いただろうか。
とぼとぼと、地に足が付かないようにりんは土手を歩いていた。
『(早く戻らなきゃ…)』
花火が始まってしまう。
それでも、足が上手く動かない。
「ねー、君めっちゃ可愛いね」
「1人ならさ、俺らと一緒に回らへん?」
「奢ってあげるよー」
高校生の男子達に囲まれても、りんはあまりにもぼおっとしていた為、気付けなかった。
おーいと目の前で手を振られ、ようやくハッと瞬きをした。
『ふぇ!?』
「うわ、かわええ反応ー」
ぐるりと見知らぬ男達で囲まれて、りんは訳がわからず頭を混乱させる。
その内の1人がりんの肩を強引に引き寄せようとした時。
「…って!」
『!』
伸びて来た別の腕によってその男のが掴まれ、あまりの力強さに顔を歪ませた。
白「汚い手で触るなや」
男達は直ぐ様反論しようと身を乗り出したが、白石の鋭い瞳にぐっと押し黙る。
やがて逃げるように去って行った。
『…白石さん』
白「目離すとこれなんやからな…大丈夫?」
『うう、ごめんなさい…』
短く溜め息を吐かれてしまい、しゅんと頭が下がる。
白「まぁ、俺のせいでもあるか…」
『え?』
白石と目が合った時、りんの心臓はドキリとした。
財前のことを言った方が良いのかと考えると、自然と下を向いてしまう。
白「…りんちゃん、少し話そ?」
その言葉にコクンと頷けば、手を引かれるように歩きだす。
財前に手を握られていたことを思い出して、やっぱり言わなきゃ…とキュッと唇を噛み締めた。
大きな橋の下。丁度死角になっている場所まで来ると、白石はりんの手を離した。
温もりがなくなったことを少し残念に思いながら、りんもその場に腰を下ろす。
隣に座る白石をそっと盗み見ると案の定目が合ってしまい、鼓動が大きく鳴った。
『わ、私…白石さんに言った方が良いかずっと悩んでて、』
白「…うん」
りんはスゥと息を吸い、意を決して口を開けた。
『財前さんに、好きだって言われました…』
一瞬、白石の目は微かに見開かれる。
前を向き「そうか…」と呟いただけだった。
『凄くびっくりしました、嬉しいと思いました……でも、
私は、白石さんが大好きだから』
『そう言いました』と、少し恥ずかしそうにりんは微笑んだ。
突然、白石は頭を抱えて膝に顔を埋めた。
『し、白石さん?』と慌てるりんに対して、何か小さな声で言った。
白「良かった……」
本当に心から安心してるようで、キョトンとするりん。
白「実はな、…財前がりんちゃんに告白するって知ってたんや」
『え!』
白「その背中押したん、俺や」
「ごめんな」と眉を下げた白石に、りんはふるふると首を横に振った。
白「りんちゃんのこと信じとったけどな、せやけど、後から不安になってもーて…」
「アホやろ」と笑う白石に、さっきよりも強く首を横に振る。
白石が自分を信じてくれていたこと。
それが、素直に嬉しいと感じた。
『でも私、ちゃんと戻って来ましたよ。白石さんの傍に……』
小さく微笑んで、りんは白石の髪にそっと触れる。
遠慮がちに撫でればふわふわとした毛がくすぐったくて。
暫く目を丸くしてされるがままになっていた白石は、フッと口元を緩めた。
白「うん。ありがとう」
ふわりと微笑んだ白石に、りんの鼓動はドキンと鳴いた。
慌てて髪から手を離した時、バーンと大きな音が響いた。
『わぁ…』
ようやく花火が始まったらしい。
見上げれば、暗かった夜空に満面の花が輝いていた。
『綺麗ですね、白石さ…』
キラキラと目を輝かせたりんが同意を求めようと振り向いた時…
すぐ傍に白石の顔があって。
遠くで花火が上がる音がして、りんの声は掻き消されてしまった。
唇に当たる柔らかい感触が、思考を溶かしていく。
まるで割れ物を扱うような優しい口付けに、りんもそっと瞼を閉じた。
ゆっくりと離れお互いの顔を至近距離で見つめ合えば、りんの瞳からはポロポロと涙が零れていた。
白「りんちゃ…嫌やったん?」
『ち、違います…っ』
白石が不安そうに尋ねると、りんは慌てて否定した。
『幸せだなって、思って…』
好きな人が、自分を好きでいてくれる。
それがこんなに幸せで、心地いいなんて知らなかった。
急にギュッと抱きしめられて、ドキドキと胸が破裂しそうになる。
白「…俺もや」
同じように白石の鼓動を感じて、それが嬉しくて、りんの瞳からまた涙が零れる。
上がった花火がハート型なのを、背中越しから眺めていたりんは知った。
2人肩を並べて、暫く花火を見上げていた。
白石に貰ったピンクのヨーヨーで自然と遊んでしまうりん。
白「今日はずっと紅葉とおった気するわ」
『ええ!』
白「やってりんちゃん逃げるんやもん…」
突然報告されて、りんはガンとショックを受ける。
勿論逃げていた自分が悪いのだが……
『も、紅葉さん浴衣似合ってましたね』
白「んーそやな、」
『(!ふ、ふぇ…)』
自分で問い掛けたのに、再び傷付いてしまった。
今日1回も誉めてもらっていない、寧ろ話題にも上がっていないことにりんは酷く落ち込んでしまう。
『…私だって、頑張っておしゃれしたつもりだったのに……』
心の声が口から零れてしまったことに気付かないりんは、まるで小さな子供のようにむーと頬を膨らませる。
白石は首を傾げながらその姿を見つめ、だんだん頬が緩んでいった。
白「ふっはは、」
可笑しそうにクスクス笑われて、声に出ていたことに今更ながら気付いた。
あっという間にりんの顔は真っ赤に染まる。
その顔を見られたくなくて、後ろ向きに付けていたお面を慌てて顔に装着した。
白「おーいりんちゃん?」
『わ、わ私のことは気になさらないで下さい…!忘れて下さい///』
もう穴があったら入りたい。
そしたらそこで一生を遂げたい勢いだ。
いつまでもお面を外さないりんに溜め息を吐き、白石はそっと腕を伸ばして猫型のそれに触れた。
白「…浴衣、滅茶苦茶かわええよ」
耳元で甘く囁かれれば、もう諦めるしかない。
拗ねていた気持ちなんてとっくに消えて、今は嬉しい気持ちでいっぱいになった。
そっとお面を取られた時。目の前に映る彼は、大好きな笑顔で笑った。