青春花火
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後ろにいた財前の存在に気付くと、白石の眉が微かに寄せられた。
白「謙也達心配してたで?」
財「知っとります、今戻ろうとしてましたから」
りんが持つ綿飴に気付くと、財前に視線を移し白石は目を細める。
無言で見つめ…睨み合う2人の空気を破ったのは、『あの』という細い声。
『わ、私…先戻ってますね!』
白&財「「え、」」
白石の腕をスルリと振り切り、そのまま素早く人混みの中に消えたりん。
残された2人はポカンと目を丸くするしかない。
財「…何かあったんですか?」
白「いや、…俺もわからんのや」
財「りんは理由もなく、あんな態度取らへんやないですか」
そやなと、何処か寂しそうに笑う白石に財前は思わず呆れたような表現をした。
どうせ物凄いタラシ発言でもしたか、人前で手でも出したのだろう。
白「でも…何とかせなアカンな」
「嫌われたくないし」と呟きながら、近くにあるヨーヨー釣りの店の前にしゃがみ込む。
小さな子供達の視線を気にも止めず、白石は真剣になってそれを救い始めた。
唐突な行動に財前は首を捻りながら、その光景を見つめる。
白「…綿飴好きって、知ってたんやな」
何の話だと眉を寄せるが、先程の行動を思い出した。
同時に美味しそうに食べるりんの姿が頭を過る。
財「…別に知らんかったです。欲しそうやったんで」
白「ははっりんちゃんわかりやすいからなぁ」
財前は無意識の内に顔をしかめていた。
好きな食べ物、好きな音楽、好きな場所。
きっと、自分よりずっと近い存在である彼は、りんが好きなものは全部知っているはずだ。
自分は彼女の特別なんだと告げられた気がして、財前は強く唇を噛み締めた。
白「……言わな、わからんで」
ピンクのヨーヨーに釣り糸を通しながら、白石は言葉を漏らす。
財前が聞き返すより早くそれを持ち上げた。
白「りんちゃん鈍感やから」
財「…何を「お前はいつも一言多いし、全然素直やないけど、」
くるっと、振り向いた。
白「俺にとってはな、可愛い後輩やねん」
そう言って小さく笑う白石に、財前は目を見開いた。
1年の春、
入部したテニス部で、初めて言われた。
「もっと肩の力抜いてもええよ」
あの頃、誰かにそう言って欲しくて。
いつも、あの人は欲しい言葉をくれる。
意気がって何個も開けた穴。両耳に塞がる複数のピアスを見ても、財前らしいなと笑うのだ。
そう、
彼は、そんな人だ。
白「伝えたいこと、あるんやろ?」
財前を真っ直ぐに見据える白石は、ずっと憧れていた部長の顔をしていた。
やがて財前は走り出し、その姿が見えなくなるまで白石は見届ける。
白「何か言いたそうやな」
紅「別に?」
店の裏から出て来た紅葉。
白「…アホやなぁ、俺」
小さく笑いながら立ち上がった彼の顔は、何処か悔しさが交えているように見えた。
紅「…信じとるんか?りんちゃんのこと」
その問い掛けに、白石は面を上げてフッと口元を緩めた。
白「両方な」
慣れない下駄が、走ることを妨げているように感じる。
浴衣もだんだんはだけてきているが、最早気にならなかった。
財「(…アホやろ)」
恋人が他の男に告白されることを許すなんて、その背中を押すなんてどうかしてる。
その言葉を受け今走っている自分も、どうかしてる。
本当はずっと、胸の奥に引っ掛かってた。
勝ち目のない試合。
結果は見えているけれど、
-財前さん!
伝えたい、全部。
謙「おーざいぜ「謙也さんっりんは…?」
ハァハァと息を切らしながら、真剣な顔付きで尋ねる財前。
謙「へ、りんちゃんならあっちに…って財前!?」
謙也が指を差した方向を見るなり、だっと駆け出した。
階段に座り皆と楽しそうにおしゃべりしていたりんは、財前に気付くとふわりと破顔した。
『財前さんっえと、白石さんは………ふぇ!?』
腕を掴まれたと思ったら、半ば強引に立たされ有無を聞かず連れていかれる。
財前!?と戸惑う声達を背中に受けながら、財前とりんは人混みに紛れ込んでいった。
『…ざ、財前さんっ』
何回呼んでも振り向く素振りも見せず、ぐんぐん進んでいく財前。
腕を掴んでいた手はいつの間にかりんの小さな手の平を包んでいて、強い力が込められる。
どの位経ったのか。
気付いたら人混みから抜けていて、2人は土手の先にいた。
左右に出店が数件ある程で、さっきまでの賑やかさが嘘のようだった。
『ど、どうしたんですか…?』
緩み始めた歩調に合わせ、りんは心配そうに尋ねる。
財「…………き…や」
『?へ、』
財前は振り向かず、握った手の平に力を入れた。
財「りんが…好きや」
低い声音は、確かに届いた。
一瞬、りんは驚いた顔をする。
『財前さん、手…』
財「ああ…堪忍」
やっと振り向いた財前は、視線を落とし繋いでいた手を放した。
『えと、ありがとうございます…私も、財前さん好きです』
少し恥じらいながらも、嬉しそうに微笑むりん。
自分は財前が好きだが、向こうは良くからかってくるので、嫌われてるのでは…と実は不安に思っていた。
なので好かれていると知った今、素直に嬉しいのだ。
ニコニコ顔のりんを見ていた財前は、「…ちゃう」と呟く。
財「…白石部長、あんたのこと好きやろ?」
『!』
意気なり白石の名を出され、りんは顔を赤く染めた。
暫くして『た、多分…?』と何故か疑問系でゆっくり頷く。
財「俺もな、同じやねん」
真剣な顔をする財前につられるように、りんも体を固くした。
『(…そ、それって…?)』
頭の中を整理するのに暫く時間がかかり、やがてその言葉の意味を理解した時…りんの顔は赤く染まった。
『え、えと…』
あたふたと1人慌て出すが、自分を真っ直ぐに見つめる財前を見てぐっと手の平を握り締める。
ちゃんと、答えなきゃいけない。
『私、』
まだ何も言っていないはずなのに。
その時少しだけ、財前が悲しそうに微笑んだ気がした。