青春花火
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『あ、あの…』
背中に当たるふわふわした感触は、恐らくベッド。
視界に映るのは天上と、自分を見下ろす彼だけ。
状況についていけず戸惑うりんの体を、白石は隠すように馬乗りになる。
白「…こういうことや」
『え…』
白「わかる?』
コツンと額と額が重なり、近過ぎる距離にりんは顔を真っ赤に染める。
暫く何も言わずお互いを瞳に映していたが、やがて白石の方から顔を逸らした。
白「やっぱり…俺は下で寝るわ」
りんの頭を一撫でして、体をお越し部屋を出て行こうとする。
同じ体勢で固まっていたりんだったが、慌てて立ち上がり彼の服の裾を掴んでいた。
弱い力だが後ろに引っ張られ、白石が振り返るとりんは微かに震えていて。
『…い、一緒は…駄目ですか?』
白「あんなぁ…りんちゃ『は、端の方で、私床でいいです!だから、えと……』
そこまで言って言葉を詰まらせたりんは、下を向き俯いてしまった。
その様子が何処か変に感じ、白石はじっと見つめる。
白「りんちゃん?」
『…………………………………………こ、怖くてっ』
消え入りそうな小さな声だった。
掴んでいた裾を、無意識にキュッと強く握る。
『いつも真っ暗にならないように、豆電気を付けて寝てるんです。それにうーちゃ…えと、ぬいぐるみも置いて来ちゃって……』
『だから…』と又もや言葉が途切れてしまう。
一緒に寝て下さいなんて、恥ずかしすぎて言える訳がない。
面倒くさいって思われたらどうしよう…と不安で泣きそうになりながら、りんはそっと面を上げた。
その瞬間、白石が突然自身の髪をわしゃわしゃと乱しだしたので、びくっと体が跳ねた。
白「あー……も、何なん?」
『!ご、ごめんなさ、』
白「いや、ちゃうくて…」
白石はハァと息を吐くとりんの脇を通り過ぎ、部屋に戻るなりベッドに寝そべった。
上半身だけ起こし隣に1人分のスペースを空ける。
白「おいで」
『!』
手招きする彼に戸惑いながらも、りんは怖ず怖ずと近付いていった。
『し、失礼します…っ』とガチガチに固まりながら布団に入れば、ははっと笑われる。
白「やっぱ…りんちゃんには適わん」
『?』
白「少しずつ、慣れてこな」
白石は柔らかく微笑み、りんの頭を優しい手付きで撫でる。
ドキドキと鼓動が忙しなく鳴っていたりんだったが、やがてその心地好さに瞼をゆっくりと伏せた。
暫くするとスー…と寝息が聞こえて来て、白石はふっと口元を緩めた。
白「…ホンマにかわええな」
りんを家に呼ばなかったのは、自分の歯止めが利かなくなりそうで怖かったから。
大切にしたい。
頬杖をつきながら、白石は微かに目を細め無防備な寝顔を見つめ思った。
白「てゆーか、寝れへんから……」
きっと今夜は、今までで1番長い夜になるだろう。
静寂の部屋の中で吐かれた溜め息は、暗闇に消えていった。
紅「あはははっ」
神社の階段に座って、可笑しそうに笑い腹を押さえる紅葉。
白石が睨みを効かせれば、「堪忍」と思わず出た涙を指で拭った。
白「…誰のせいやと思ってんねん」
紅「ごめんて。せやけど同じベッドで寝て何もあらへんなんてなぁ…」
ククク…と笑いを堪える紅葉に、白石はハァと深い溜め息を零す。
白「朝から友香里も一切目合わさんし、2人してコソコソと何なん?」
紅「うちは賛成はしとらんかったけど、まぁ折角やし?蔵がどうするか気になってな」
ハタから見たら楽しいかもしれないが、こちら側としては大問題だ。
そのせいで昨夜は一睡も出来ずに、一晩中耐えていたと言うのに。
白「(…まぁ、ええこともあったけど)」
天使のような寝顔を、独り占め出来たこと。
浴衣を着た小さな子供達が目の前を駆けてゆき、白石は視線を前に向けた。
今夜、神社の傍の土手で、花火大会がある。
皆で行こうと言うことで、(正確には白石はりんと2人きりが良かったが、金ちゃんが皆で行くと駄々をこねた為)
現在はお祭りをエンジョイ中だ。
白「似合うてるやん、浴衣」
紅「どーも。お兄さんも似合うてますよ」
紅葉は紺地に大きな牡丹模様が付いた浴衣を着ていて、凛とした雰囲気の彼女にはとても似合う。
対して、白石は縞柄のシンプルな浴衣に身を包んでいた。
黒地に深緑色の帯が映えている。
その色っぽさは高校生の粋を越えていた。
すれ違う女の子はその姿に目をハート型にさせ、おまけに…
「お兄さんかっこええですね〜」
「私達と一緒に回りません?」
と、逆ナンされることもしばしば。
大学生くらいの女性2人組は階段に座る紅葉を視界に入れていないのか、完全に無視している様子。
苦笑を浮かべる白石を見つめ、またか…と紅葉は肩を落とす。
とその時、白石の前にすすっと現れたりん。
白「りんちゃん、」
「…誰よアンタ」
『わ、私は…っ』
人混みに負けないくらいの大きな声で叫んだと思ったら、
『白石さんの…か、か、か、かかの』
「はぁ?」
『か、のじょ、ですので……』
言った傍から顔を真っ赤に染めるりんに、白石は思わず瞬きをした。
小さな体を震わせ自分を必死に守ろうとしている姿が可愛いらしくて、嬉しくて。
白石はその手をキュッと握って、驚いた顔をするりんにニッコリと微笑んだ。
白「俺な、彼女にしか興味ないねん」
「悪いけど他当たってや」と、万人が気絶するであろう極上の笑顔を向ける。
その輝くオーラとは逆に黒い何かを感じた2人は、慌てて去って行った。
白石はその背中を見届けた後、反対の手でりんの頭をポンポンと撫でた。
白「ありがとうな、守ってくれて」
『そんな、私は何も…っ』
突然白石の手が頬に移った為、りんはびくっと反応してしまう。
白「…かわええ」
すっと目を細めた白石の顔が、徐々に近付いてきて。
暫くぽけっとしていたりんだったが、状況を理解するなり顔を赤く染め慌て出した。
『し、白石さ…///(人がいるのに…っ)』
ギューッと強く目を瞑るが、何も起こらなくて…
不思議に思い瞼を開けてみれば、りんのしていたお面を手に取る白石の姿。
白「かわええなこれ。りんちゃん家の猫にそっくりやん」
『(お、お面…)』
カルピンみたいで可愛くて、先程金太郎と一緒に買ったお面を彼は気に入ったみたいだ。
りんはドキドキいう胸に手を当て、ぐっと唇を噛んだ。
白「何処から行く?」
『わ、私…金ちゃん達と回りますっ』
白「え?どないし…」
白石の言葉を聞かずペコリと一礼したりんは、駆け足で走り去って行ってしまった。
その背中を見つめながら、暫く呆然と立ち尽くす白石。
紅「フラれたなぁ…からかうからやで」
白「は?いつ…?」
紅「…天然もいい加減にせぇよ。嫌われてまうで」
日頃からバカップルにも程がある、というくらいラブラブなところを見せられているので、紅葉は冗談のつもりだった。
だが…彼にとっては大ダメージだったのか、かなり傷付いてしまった。
紅「(やれやれ…)」
紅葉は腰を上げ、しゅんと眉を下げて落ち込む白石に先程買ったラムネを投げ渡す。
それをじっと見つめ「…りんちゃんがええ」と独り言のように呟いた彼は、まるで捨てられた子犬のようだった。