愛結び
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パァンと、ボールが壁に当たり弾かれる。
静まり返った空気にその音は大きく響いていた。
白石はハァと汗を拭い、ふと背後に目を向けた。
白「…クリスくん?」
薄暗い周囲の中、淡い金髪が浮かんで見える。
クリスは組んでいた腕を解き、ふっと口角を上げた。
ク「忘れられてるかと思った」
白「いきなりおったから驚いたわ…何でここにおるん?」
クリスは、これまでの経緯を大まかに話した。
納得したように頷いていたが、りんの名が出ると少しだけ白石の顔が曇る。
それを見逃さなかった。
ク「…お前ら、上手くいってないみたいだな」
りん同様、彼もまた何も答えない。
面倒臭い奴らだ…とクリスは内心呆れていた。
ク「りんは、全部自分に非があると思い込むから。お前のことも必死になって庇って…」
多分、余程惚れてるんだろう。
ク「りんの初めては全部俺が貰う筈だったのに」
クリスが何処か投げ遣りに言えば、白石を包むオーラが一変した。
白「俺が許さへん」
鋭く射ぬくような瞳。
クリスはそれを待っていたのか、薄い笑みを浮かべる。
地面に転がっていたテニスボールを拾うと、それを勢い良く白石に投げつけた。
ク「なら試合で俺が勝てば、りんのファーストキスは貰う」
白「何言うてん、渡すわけあらへんやろ」
2人の間にはバチバチと火花が散り始め、こうして…1人の女の子を巡る戦いは白熱していくのだった。
葵「はー温まりましたね~」
佐「はは、そうだな」
温泉で汗を流し、ゆっくり癒された2人。
濡れた髪をタオルで拭きつつ、談笑しながら部屋を目指して歩いていた。
その時…
佐「あれ、りんちゃん?」
葵「え?」
通路の隅っこで、体を丸めて座るりんの姿が。
葵「本当だ。どうしたんですか?」
ウェーブのかかった長い髪からは水が滴れていて、温泉に入ったばかりの様子。
「風邪引いちゃうよ?」と佐伯は手を伸ばすが。
『白石さん…!』
佐「!!?」
葵「!!」
一瞬の如く、ギュッと佐伯に抱き付いたりん。
突然の事態に頭がついていけず2人は混乱する。
佐「え、えっと、りんちゃん…?」
『はい!りんですっ』
名前を呼ばれて嬉しいのか、ピョンピョン飛び跳ねる。
葵は口を大きく開けて、その様を呆然と見つめるしかなかった。
千「ちょ、ぇえ!?何してんの!佐伯くん」
佐「あ、いや違うんだ。これは『白石さん!』
するりと佐伯から離れると、今度は千石…の隣にいる亜久津に抱き付いた。
亜「な…!」
『えへへ///』
ニパッとはにかむように微笑まれれば、あの亜久津も顔を赤く染めた。
が、正気に戻ると首を横に振り、強引に離れさせる。
亜「近寄るな!」
『!』
りんは衝撃を受け、大きな瞳をうるっと潤ませた。
放心状態だった千石も、我に返って慌ててあやし始め、
千石「りんちゃん、泣かないで…!」
『でも、白石さんに…き、嫌われちゃいました……』
白石と聞き、何かが可笑しいと首を傾げる。
佐「さっき俺のこともそう呼んだよ」
千石「?どうなって…って、りんちゃん!?」
バビュンと鳴る勢いで、りんは何処かに走り去って行った。
ユ「あ~良い湯だったわ」
小「そやねぇユウくん。それより蔵リンよ、遅れて来たと思うたらクリスちゃんと一緒で…」
ユ「…ずっとりんの話で盛り上がってたなぁ」
何処か遠い目で語るユウジ。
自販機に小銭を入れようとしていると、通路の向こう側からダダダと言う足音が聞こえて来た。
何だ?と2人して目を凝らせば、
小「きゃ、りんちゃん??」
ガバァと思い切り小春に抱き付いたりん。
ユ「!な、小春から離れろや」
ぐいっと襟を掴み離すと、今度はユウジをキョトンとした瞳で見つめた。
りんはふにゃっと破顔して、何の躊躇もなく抱き付いた。
ユ「!」
『ユージさん、白石さんの匂い……』
クンクンとTシャツを嗅ぐ姿はまさに子犬。
既にユウジは顔を真っ赤にさせていて、ふっと後ろに倒れた。
小「ユウくん!しっかりしぃ!!」
小春はその頬を軽く叩くが、完全に気を失っていた。
謙「ユウジ?どないしたん」
財「またコントっスか?」
騒ぎに気付いた謙也と財前が、続いてやって来る。
金「あ、りんやん!」
駆け出した金太郎だったが、その横を高速で通り過ぎるりん。
真っ先に飛び込んだのは…謙也の胸だった。
謙「え、…ぇえ!!」
『謙也さんも…白石さんの匂いがします///』
軽い変態発言だが、りんだから許せることで…
財「…何してん、」
ピキッと音を立て固まってしまった謙也の代わりに、隣にいた財前がりんの肩を引いた。
くるっと振り向き、今度は財前にギュウッと抱き付く。
『白石さん……』
愛おしそうに、その名を呼んで。
財「…………」
やがて財前は、ゆっくりと体を離した。
りんは頭の上に?マークを浮かべながら、横を向く財前を見上げる。
小「あ、ほらりんちゃん…蔵リン来たわよ!」
小春にトントン肩を叩かれ、その視線の先を追えば…遠くから白石が歩いて来ていて。
白「?えらい騒がしいなぁ」
白石の姿を瞳に映した瞬間、りんの表情はパァァと輝く。
物凄い勢いで駆け出して、突進するかのごとく抱き付い……タックルした。
りんは馬乗りになり、その衝撃でゴンッと後ろに倒れる白石。
白「痛…りんちゃん?」
状況が理解出来ずに目を丸くする。
りんはりんで、会いたかった本人にやっと名前を呼んで貰えて、嬉しい気持ちでいっぱいだった。
『……白石さん、好きです』
その瞳はトロンと熱を持ち、白石だけを見つめていて。
りんの濡れた髪から落ちた水滴が、白石の頬に付いた。
『好き……大好き、』
白石の目は見開かれ、ドクンと鼓動が鳴った。
『大好きです、』
白「……りんちゃん、」
『好き、…好きです』
白「うん…わかっとるよ」
何度も何度も言うりんに優しく笑う。
白石は腕を伸ばして、赤く染まった頬にそっと触れた。
りんは一瞬びくっと肩を揺らしたが、すぐに嬉しそうに微笑んで白石に近付いてゆく。
そのまま、ぽすっと肩に顔を埋めた。
暫くするとすー…と寝息が聞こえてきて、
白「…………」
色んな意味で、溜め息が零れた。