無人島
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白「紅葉、りんちゃんおる?」
コンコンと部屋の戸が叩かれたので開けてみれば、馴染みの姿があった。
目が合えば、万人が気絶するであろう笑顔でにっこりと微笑まれる。
否、紅葉にはまったく効果がないが。
紅「いや?さっき海岸行く言うて、まだ戻って来てへんけど」
白「ほんま?」
そう告げれば微かにしゅんと眉が下がった。
この顔で何かを頼まれて断われる女子は、恐らく世界中で自分だけだろう。
紅「デートのお誘い?まったく何処に来てもラブラブやな……」
白「ちゃうて。急にりんちゃんに会いたくなってなぁ」
紅「…いつもやん!」
思わず全力で叫んでしまい、いけないと一呼吸置く。
白石は素でボケることが多々ある為、まともに取り合っていたらキリがないと紅葉は承知していた。
特に色恋沙汰に関しては。
白「ほな俺も降りてみるわ。波も強うなって来とるみたいやし」
紅「ん?あ、ほんまや」
自分の肩越しから部屋の窓を覗く白石に合わせ振り向くと、穏やかな海から一変して、波が高くなり荒れて来ていた。
確かに、心配だ。
紅「頼んだで、蔵」
ザザーンと、海水が浜辺に重なる。
りんはその音を聞きながら、近くで体育座りをしていた。
隣をチラリ見れば、胡坐をかいて同じように前を向く財前。
もう1時間はずっとこの状況が続いていた。
案の定、2人とも携帯を部屋に忘れて来ていて、おまけにこの波なので船も出せない。
引き潮を待つしかないのだ。
『皆さん、心配してるでしょうか……』
財「…部長と越前は間違いなくな(過保護やし)」
『うう…ごめんなさい、』
本当に心から反省しているのか、りんはずっと頭を下げたままで。
財前は切れ長の目をすっと細めた。
財「別にあんたのせいだけやない。止めへんかった俺も悪いし」
『いえ、財前さんは悪くないです…っ私が、』
財「それにこの島、正直気になっとったし」
その言葉を聞いて、自分の為に言ってくれてるんだとりんは悟った。
突き放すような低い声音とは裏腹な、優しさ。
『財前さん、ありがとう…』
何に対してのありがとうなんだろう。
けれど、言いたくて。
財前はそんなりんを見つめ、何も言わず再び前を向いた。
財「…この海見てたら、書けるやろって思うて」
『え?』
財「歌詞」
歌詞?と首を傾げるりん。
ふと、さっき財前が耳にヘッドホンを当てていたことを思い出した。
『財前さん、曲作ってるんですか?』
財「ん、」
途端に、りんは目を大きく見開いた。
『すごい、すごいですね!』
財「そんな大それたもんやないけどな。文化祭でバンドやっとるから、それで」
『バンド?』
財「謙也さんに無理矢理誘われたんや」
またまた新事実が発覚。
財前の話によれば、謙也がドラム、ユウジがベース、財前がギターという配置らしい。
いつも音楽を聞いている財前に、なら曲も作ってやという何とも強引な理由で頼まれたのだと言う。
『ボーカルは?』
財「前の人辞めてもーたから…今年は白石部長でやる言うてる(本人嫌がっとるけど)」
『白石さんが!?』
白石さんがボーカル…と、りんはその姿を想像してみる。
『…見てみたいなぁ』
素直に口から零れた。
きっと、かっこいいに違いない。
財「…文化祭、来たらええやん」
『ぇ、』
「部長も喜ぶし」との言葉にりんはカァァと頬を赤く染める。
暫くして、コクンと頷いた。
財「…自分すぐ赤なるな。赤面症?」
『ちが…!///』
更に顔を真っ赤に染めるりんに、口角を吊り上げる財前。
『(や、やっぱり財前さんって…意地悪だ)』
口元だけ薄く笑う姿を見ながら、りんの中の彼の印象が振り出しに戻った。
ふと、自分の足元まで海水が上って来ていることに気付く。
『はわ…っ』
慌てて立ち上がると、財前も同じように腰を上げていた。
りんと違ってまったく慌てた様子を見せないで、ただ小さく溜め息を吐いた。
財「何処かに落ち着ける場所あるかもな」
そう言って歩きだした財前。
『わ、私も行きます…!』
1人取り残されるのかと思い込み、りんはその後を慌ててついて行った。
こうして、2人は夜の無人島に足を踏み入れるのだった……