妹愛
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体が軽くなったと思ったら、梓がゆっくりと離れていた。
リョーマが体を起こすと静寂が訪れる。
梓「ふ、あはっ越前くん真剣すぎ。ちょっとからかってみたかっただけよ」
本当に可笑しいと言うように笑う梓。
梓「そーんなに一途なら、もう他の女で遊ぶようなこと、止めなよ?」
リョ「…………はい」
からかわれていたとはいえ、嘘をついていたことは事実で。
意外な程に反省するリョーマの姿を見て、問い詰める気もなくなる。
梓「よし、素直で宜しい!」
リョーマの頭をわしゃわしゃと撫で回して、梓はニッと笑った。
少しムッとするリョーマだったが、その屈託のない笑顔につられ微かに微笑んだ。
パタンと部屋のドアが閉まり、手を振っていた動きがだんだんと遅くなる。
梓「……本気だったんだけどな…」
溜め息交じりに呟いた告白は、静寂の部屋の中に消えていった。
夜の街を通り過ぎ、住宅地に入ると自然と早足になっていく。
自分の足音だけがやけに大きく響き渡っていた。
角を曲がり、自宅が見えて来た時……そこに人影があることに気付いた。
暗くて良く見えなかったが、リョーマはすぐにわかった。
リョ「(……りん)」
そわそわしてるのか、落ち着かない様子で。
リョーマがゆっくりと歩み寄って行くと、顔の向きを変えたりんと目が合った。
一瞬嬉しそうにぱあっと顔が輝いたと思ったら、すぐに慌てて目を逸らされる。
『!あ…お、おかえりなさいっ』
リョ「…ただいま」
………
……………
…………………。
リョ「『あの』さ」
二人の声が見事に重なった。
『な、何?』
リョ「いや…」
何かを思い付き、リョーマはくるっと背中を向けた。
首を傾げるりんだったが、
リョ「ちょっと付き合って」
『え?』
リョ「…夜の散歩」
顔だけ向けて言うリョーマに、りんは戸惑いつつもコクンと頷いた。
先を行くリョーマの後ろを追っていると、ふと足を緩め歩調を合わせてくれる。
隣同士になったことが嬉しくて、りんはこっそりと微笑んだ。
歩いてる時も二人の間に言葉はなく、やがて近所の公園にたどり着いた。
昔良く遊んだなぁと思わずじっと見入るりんに気付いたのか、リョーマは何も言わずに入って行った。
どちらともなく、ブランコに腰掛ける。
何となくそれをこいでいたりんは、ただ黙って乗る兄の姿をチラリと見る。
『あのね…お兄ちゃん』
ブランコを止めて、ギュッと自分の服の裾を握るりん。
何処か思い詰めた表情をしていたリョーマも、隣に視線を向けた。
『私……凄く我が儘だけど、お兄ちゃんに言いたいことがあるの…』
今思っている気持ちを、全部伝えたい。
リョ「…いいよ、聞かせて」
リョーマの顔を見て、張り詰めていた空気が少し緩んだ気がした。
一言一言、りんは話し始める。
『私ね、お兄ちゃんが好きになる人は皆、私も好きなんだ。
アメリカ時代の友達も、青学の先輩も……皆』
それは、幼い頃からリョーマの傍にいたからわかること。
大好きな兄が心を許した人だから、自然と安心できた。
『だけどね、今回だけ違った。お兄ちゃんと一緒にいるあの人を見て………』
次の言葉をリョーマはじっと待つ。
『……嫌だった…』
嫌だった、すごく、すごく。
『お兄ちゃんを取られた気がして、嫌だったの…』
リョ「………」
こんな風に思うのは、初めてで。
『でも…』とりんはリョーマと視線を合わせる。
『お兄ちゃんが好きになった人だから……
私も少しずつ、好きになりたい』
だから、
『だから……』
りんは俯いて、前に向き直った。
ずっと顔を上げないのでリョーマが「りん」と呼べば、膝に下ろしていた手に力が入るのがわかった。
『……嫌いに…ならないで……』
細くて弱い声だった。
顔を上げられないのは、溜まった涙が溢れてしまうから。
隣の気配がなくなったと思ったら、リョーマが自分の目の前に立っていた。
リョ「……馬鹿だな」
顔を上げたと同時に、ふわっと抱きしめられて。
「本当に馬鹿」ともう一度言われ、堪え切れなくなったりんの瞳から涙が溢れてくる。
リョ「嫌いになるわけないじゃん…」
『…う……ふぇ…』
リョ「…そんなの我が儘の内に入んないし」
何処まで甘え下手なんだろうか。
困らせたくないから、迷惑かけたくないから、いつも自分一人で溜め込んで。
だから…余計に放っておけなくなるのに。
『だって…お、お兄ちゃん超勝手って、』
リョ「あれは…嫉妬してたから……」
『え…?』
リョ「~っ…本当に思ってないよ」
そう言うと、りんは安心したのかリョーマのシャツをキュッと握ってきた。
リョ「…それに、付き合うって一回買い物に同行しただけだから」
『……えっ』
リョ「それだけ。…もうきっとないよ」
こう言わないと話が拗れそうだからと、リョーマは心の中で呟いた。
『そっか…』とりんの表情は和らぐ。
リョ「…連絡もしないで遅くなって、ごめんな」
フルフル首を横に振るりんの頭を、優しく撫でた。
これが、愛しいという気持ちなら
もうこれ以上に大切な存在は、きっと出来ないと思った。
りんにとって大事な人が、いつか自分も…同じように大事に想える時が来るだろうか。
想いたい、りんがそうしてくれるように。
腕の中、大切な女の子を抱きしめながら。
リョーマは願うように夜空を見上げていた。