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*りんside*
病室で衝撃的(?)な光景を目の当たりにした私は、現実逃避をすべく…病院の中庭に来ていました。
『でも、まさかクリスに会えるなんて』
『ほんとにほんとに嬉しい!』と心からの思いを伝えると、「俺もだよ」と懐かしい笑顔が返ってくる。
今日も学校が終わると、すぐに病院に向かっていた。
部屋に飾るお花でも買って行こうかなと花屋さんに足を運んだ時……「花束を作って欲しいんだけど」と先約がいて。
その声、その髪は良く知っている人のもので、私はまさか…と半信半疑でその背中を見つめる。
すると熱視線に気付いたのか、ふと振り向いた彼に『っクリス…!!』と叫んでしまった。
ク「りん!何してんの?」
『私はお兄ちゃんにお花を…クリスこそ、どうしてっ?』
ク「俺もリョーマの見舞いに行くとこ。事故のこと聞いて、」
『お兄ちゃんの為に来てくれたの…?』と嬉しくて自然と目の奥が潤んでいく。
クリスはそんな私を見て少し気恥ずかしそうにしながら、「…ま、それもあるけど」と口ごもる。
ク「丁度日本でテニスの大会に出ることになって、その遠征も兼ねてな」
『大会?すごいね…!』
「そーだろ?」と鼻を高くするクリスに、『すごいすごいっ』とぴょんぴょん飛び跳ねてしまう。
はしゃぎながら、ハッとここがお店だったことに気付く。
クリスと一緒にお花を選んで、お兄ちゃん驚くだろうなぁとその様子を想像しながら一緒に病院に向かった。
ク「まだいじけてんの?」
中庭のベンチに腰掛け、さっきの光景をまた思い出していると…クリスが私の顔を覗き込んでいた。
ビー玉のように透き通った瞳には、頬を膨らませた私の顔が映っていて。
『いじけてないもん…』と小さな子供のように強がってしまう。
ク「…ブラコンめ」
『っ!///だ、だって、まさかあの人がいるなんて思わなくて、びっくりして』
ク「あの人って?」
『何でもない…』と発した声がどんどん小さくなっていく。
私をじっと見ていた視線を逸らし、「まぁ確かに美人だったな」と思い出しながら頷くクリスに、『!』とまた衝撃を受けた。
『やっぱり、クリスも好きなんだね…』
ク「(やっぱり?)俺はタイプじゃない。昔からりんしか可愛いと思えないんだよな」
『?えっ?』
いきなり褒められて、『あ、ありがとう…クリスも綺麗だよ///』と出会った時から思っていたことを伝えた。
嬉しくてニコニコと笑っていると、「はぁ〜」とクリスに大きな溜め息を吐かれてしまう。
ク「ったく…まぁ今更期待してないけど、」
『?』
何かをゴニョゴニョと呟くクリスを不思議そうに見ていると、「リョーマの気苦労がわかるよ」とぽんと頭に手が乗る。
私はさっきお兄ちゃんに渡せなかった花束を抱えながら、『…クリス、私ね』と胸のつかえを今なら言える気がした。
『意識のないお兄ちゃんを見た時……息が出来なかった』
お兄ちゃんが永遠に目の前からいなくなってしまう気がして、怖くて仕方なくて。
また重いって呆れられるかもしれない。
それでも…お兄ちゃんの怪我が1日でも早く良くなるなら、何だってしたい。
『学校に行かずに、ずっとお兄ちゃんの傍にいれたらいいのに……』
面会時間が終わり、病室に1人で残されるお兄ちゃんの姿を思い出していると、クリスが「何でそこまで…」と呟いた。
ク「リョーマの怪我はりんのせいじゃねぇだろ?」
『…ううん』
小さく首を横に振った時、「何の話してんの?」と近付く声に振り返った。
車椅子に座ってじっと私達を見据える姿に、『!お兄ちゃんっ』と慌てて近付いていく。
『大丈夫?1人でここまで来たの?』
リョ「大丈夫、早く慣れたいし」
ほっと胸を撫で下ろしていると、「…竜崎と小坂田、りんに会いたがってたよ」とお兄ちゃんが教えてくれた。
『うん。ごめんね、変な態度取って…後で連絡しなきゃ』
ク「喜べリョーマ。りんは大好きなお兄ちゃんが取られるんじゃないかって心配らし『わ、わああ!クリス…!』
リョ「……………」
むぎゅっとクリスの口に両手を当てるけど、全てを言われた後だったので手遅れだった。
恐る恐るお兄ちゃんを見るとすぐに視線が合い、何故かその表情が和らいでいる気がした。
リョ「…何だ。クリスと話してたのってそんなこと?」
『?う、うん、お兄ちゃんの話だよ(気のせいかな…?)』
てっきり、また溜め息を吐かれるかもと思っていたのに。
お兄ちゃんはクリスと私の間を遮るように、車椅子を移動させていた。
ク「…リョーマもほんと変わってねぇな」
リョ「何それ。クリスにだけは言われたくないんだけど」
ク「どうだろーな?正直、テニスも身長も伸びすぎて負ける気しないけど」
リョ「…試してみる?まぁ、絶対俺の勝ちだけどね」
『???』
ゴゴゴ…と張り合い出した2人の横で、何で私の身長はミリ単位でしか伸びないんだろう…と自分の発育にしゅんと落ち込んでしまう。
『そ、そういえばっクリスの試合っていつなの?』と話題を変えようとパンッと手を叩いた。
ク「ああ、今月の24日」
『そうなんだ!私応援に行ってもいい?』
ク「それは嬉しいけど、りん誕生日じゃん。イブだし…」
『うん?』とクリスの言いたいことがわからずに首を傾げる。
困ったようにも嬉しそうにも見える顔を見つめていると、「俺も行く」とお兄ちゃんが力強く頷いた。
リョ「…外出許可、貰えるか聞いてみる」
『ほんと??お兄ちゃんと一緒に行けるなんて嬉しいっ』
ク「ちょ、ちょっと待て。2人共無理してねぇか?」
リョ「『?何で?』」
ク「……………」
日本でクリスの試合が見れるなんて、今からワクワクが止まらない。
濁りのない言葉が重なって、お兄ちゃんも私と同じ気持ちでいるんだと確信した。
そんな私達を驚いたように見ていたクリスの顔が、じわじわと赤く染まっていく。
「……ありがとう」と嬉しさを含んだ声を聞いて、お兄ちゃんと顔を見合わせて微笑んだ。
***
倫「いい?絶対に帰る時間は守るのよ。りん、お兄ちゃんのことちゃんと見ててね」
『うんっ任せて』
菜「でも、外出許可貰えて本当に良かったですね」
車から降りると、一気に冬の冷たい空気に包まれる。
私はもこもこのマフラーに顔を埋めながら、送ってくれたお母さんと菜々子さんと向かい合っていた。
何故かお兄ちゃんではなく私の格好を見渡して、「本当に大丈夫かしら…」と肩頬に手を当てるお母さん。
首を傾げる私に、「…りん、キャンプでもするつもり?」とお兄ちゃんがツッコんだ。
『えへへ、ちょっと張り切り過ぎちゃったかな?』
倫&リョ「「うん、張り切り過ぎ」」
菜「……………」
皆に声を揃えて言われるくらい、私は大荷物を抱えていた。
まずは、朝早く起きて作った重箱に入れたお弁当。それと温かいお茶とお味噌汁とポタージュが入った水筒。
レジャーシートと、カイロと、スポーツドリンクと、代えの包帯と、念の為の痛み止め薬と……(※以下省略)
いつ遭難しても大丈夫なくらいの重装備をした私に、いくつもの呆れた視線が突き刺さった。
倫「ま、まぁ…何があっても安心ね。いってらっしゃい、楽しんで」
「クリスくんに宜しくね」と聞こえた声に、思わずお兄ちゃんの車椅子を押していた手を止めた。
振り返ると優しく微笑むお母さんがいて、『…うん!』と私も笑顔で返していた。
クリスの試合会場は近く、私達が着いた頃には殆んどの席が埋まっていた。
スーツを着た大会の関係者のような人達と、女性の観客が多いみたいで……
「「「クリス!頑張ってー!!」」」
"クリスLOVE""こっち向いて"と書かれた団扇を掲げている人達。
最初は団体戦。
一列に並んだ選手の中にクリスの姿を発見したと同時に、その歓声は一際大きくなる。
「きゃああ!!!」と甲高い声が会場中に響いて、キーンと耳鳴りがした。
リョ「……耳が死にそうなんだけど」
『う、うん…クリスって本当に人気なんだね』
お兄ちゃんの言葉に静かに同意していれば、クリスは不愉快そうに声のする方を見つめているようだった。
べっと舌を出して親指を下に向ける姿に、一瞬静まった声が……雄叫びのようなものに変わった。
『(……試合、最後まで見れますようにっ)』
鼓膜が破れてしまう方が先か、試合が無事に終わる方が先か。
それよりも先に、お兄ちゃんが「うるさい。帰る」と言い出さないかハラハラしている間に、試合は進んでいった。
相手は日本人で、プレーを見ているとかなり実力がある選手なんだとわかる。
それでも…クリスの方がスピードも、パワーも、テクニックも、何もかも圧倒的に上回っていた。
『(クリス……すごい、)』
楽しそうにラケットを握り締める姿と幼い頃の姿が重なって、胸がじん…と熱くなる。
クリスを見ていると本当にテニスが好きなんだと伝わって、まるで…お兄ちゃんの試合を見ているようで。
自然と隣に視線をやると、お兄ちゃんも真っ直ぐにクリスの試合を見据えていた。
『(………お兄ちゃん、)』
幼い頃から…戦ってみたい相手と出会った時、お兄ちゃんの金色の瞳が子供のようにキラキラと輝くのを知っている。
言葉を発することもなく、クリスの試合が終わるまでその輝きが消えることはなかった。
***
団体戦は準優勝、個人戦で優勝したクリス。
大会の関係者の人達と話している間、私とお兄ちゃんは近くの木の下で日向ぼっこをして待つことにした。
「お腹空いた…」と空を見上げてお兄ちゃんが呟くから、『先に食べてようか?』とせっせとランチを用意する。
『お兄ちゃん、どうかな?』
リョ「………ん、美味しい」
『良かったあ』と頬いっぱいに食べてくれる姿に嬉しくなる。
お兄ちゃんがサンドイッチを口に入れようとした時、パクッと食べたのは……別の人だった。
「…うまっ!何これ、何処で売ってんの?」
リョ「っ!マイク!?」
『(だ、誰……?)』
クリスと同じユニフォームを着た男の人は、驚くお兄ちゃんにニッと歯を見せて笑った。
"マイク"と呼ばれたその人は濃い金髪の髪を片方編み込みにしていて、「久しぶり〜リョーマ!」とぎゅーっと後ろから抱き付いた。
リョ「いや…何でここにいるの?」
マ「何でって俺も試合に出てたし?つーか、絶対観てたから知ってるだろ」
「そーいやいたっけ…」と改めて思い出すお兄ちゃんに、「嘘だろ!?」と涙目になるマイクさん。
そのやり取りを呆然と見つめていると、バチッと視線が合わさった。
マ「初めまして!リョーマとは前にテニススクールが一緒で…ってごめんね、突然お邪魔して」
『あ、初めまして…!越前りんです。いつも兄がお世話になってます』
リョ「いや、全然世話になってないから」
マ「え!リョーマの妹さん??」
黙々と新しいサンドイッチを食べ始めたお兄ちゃんと私を交互に見て、目を丸くするマイクさん。
ぐうう〜と大きく鳴るお腹の音を聞いて、『あの、良かったら一緒にどうですか?』とお誘いした。
マ「え!いいの?実はめっちゃくちゃお腹空いててさ〜」
『ふふっはい。作り過ぎちゃったので、食べて貰えると嬉しいです』
唐揚げや卵焼きを豪快に頬張り、「…全部美味しい!これほんとに作ったの?」とマイクさんは人懐こい笑顔を向ける。
私は一生懸命作った料理を褒められたことが嬉しくて、『良かったです』と頬が緩んでいくのを感じた。
ごくん。と大きな音を立てて飲み込んだマイクさんの顔が、何故か赤く染まっていく。
マ「りんちゃん、女神じゃん…」
『(め、女神?)』
リョ「……………」
『?』と首を傾げながら見ていると、「ここで何してんだ?」とガシッとマイクさんの肩に別の腕が回った。
『!クリス、優勝おめでとうっ』
リョ「お疲れ」
ク「ありがとな。惚れ直したか?」
『うんっかっこよかったよ』と数分前の試合を思い出しながら伝えると、クリスの顔がカァッと赤く染まる。
私達の掛け合いをじっと聞いていたマイクさんは、「ああ…!もしかして、」と唐突に手を叩いた。
マ「前に言ってたクリスの初恋の子で、リョーマの大切な子って「「もうお前黙れ」」
むぎゅっとマイクさんの口の中に食べ物を詰め込むお兄ちゃんとクリス。
私は慌ててお茶を差し出しながら、仲良いんだなぁ…と微笑ましく思っていた。
マ「やべ!俺もう行かなきゃ。監督に呼ばれてたんだった」
「早く行け」と追い払う仕草をするクリスに、ガン!と又もや涙目になるマイクさん。
背中を向ける前にちょいちょいと私とお兄ちゃんを手招きして、あることを教えてくれた。
途端にうるうると瞳に涙を浮かべる私と、ニヤリと口元を緩めるお兄ちゃんを見て、「?何だよ…」とクリスは眉間に皺を寄せる。
マ「何でも?じゃーなーりんちゃんご馳走様でした!また会おうね〜」
「bye」と語尾にハートマークを付けて、風のように爽やかに去っていったのだった。