一等星
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
*リョーマside*
あれから数日の時が経った。
俺は入院することになり、大半が暇なのでゲームしたり本を読んで過ごしていた。(…片手だとやりにくいけどね)
それでも特に退屈だと思わなかったのは、りんが毎日見舞いに来るからだ。
『お兄ちゃん、起きてる…?』
病室のドアを少しだけ開けて、ひょこっと顔を出すりん。
制服の上にコートを着ていて、しっかりとマフラーも巻いていた。
リョ「起きてる。外寒かったの?」
『うん〜今日は一段と寒いよ。お兄ちゃん風邪引いてない?』
「こっちのセリフ…」と言い掛けた時、『じゃーんっ』とりんは鞄から何かを取り出した。
それは温かそうな素材の、ベージュと白の色合いが優しいブランケット。
りんは照れ臭そうに笑いながら、俺にそれを差し出す。
『病院の中寒いかなあと思って』
リョ「…もしかして作ったの?」
『うん!お兄ちゃんが早く良くなりますようにって願いしながら一つ一つ編んで「重すぎ」
『!!』と俺の言葉に衝撃を受けて、りんは泣きそうな表情をする。
あまりのショックの受けように「嘘だよ…」と訂正してやれば、『…じゃあ、使ってくれる?』とおずおずと聞いてきた。
リョ「うん。さんきゅ」
『!お兄ちゃん、だいす…』
何かを言い掛けて、ハッと静止するりん。
何回も、何百回も言われてきたので、その言葉の続きはとっくに知ってる。
リョ「(……知ってるよ)」
りんにその言葉を言わせなくしたのは、俺だってことも。
いくら距離を取ろうとしても、お互い無理だとゆうことも。
ふわりと俺の肩にブランケットを掛けて、『良かった、やっぱり似合う』と無邪気に笑うりんをぼんやり見つめた。
『お兄ちゃん?』
リョ「…りん、毎日来てて大変じゃないの?」
「そろそろ試験でしょ」と言うと、ずばり当てられたのかギクッと肩を揺らすりん。
『う、うん。でも毎日ちゃんと勉強してるよ』
リョ「ふーん…」
『ほ、ほんとだもん!授業も真剣に聞いてるし、』
毎日学校の帰りに来て、土日も朝から見舞いに来るりんは一体いつ勉強してるんだろうか。(しかも編み物までしてるし…)
じっと疑いの眼差しを向けていると、りんはどんどん身を縮めていった。
リョ「……別に毎日来なくても、母さんや親父もいるし大丈夫だよ」
まぁ親父は来なくていいんだけど…と、見舞いに来てはエロ本を読んで過ごし、看護師さんにデレデレする駄目な大人に溜め息が溢れる。
りんに目を向けると、きゅっと膝の上で手を握り締めていた。
『でも…お兄ちゃんと一緒にいたい』
リョ「…っ」
素直すぎる(※ブラコンすぎる)りんに、俺は何も言えなくなる。
結局突き放せなくて、しょうがないな…と言うようにその頭に手を乗せていた。
リョ「じゃ、試験までここで勉強すれば?」
『うんっ』
ぽんぽんと撫でる度に尻尾が嬉しそうに揺れてるようで、見てて飽きない。
ふと病室のドアがノックされて、すっとその手を下ろした。
大「越前、いるかい?」
リョ「っ大石先輩、」
不「やっぱりりんちゃんも来てたんだ」
『不二先輩!』
そこにいたのは、「「やぁ」」と爽やかに手を上げる2人の先輩。
花束とフルーツの盛り合わせを抱えながら、俺の姿を見るとほっと安心した顔をした。
不「本当は一緒に行こうと思って、りんちゃんに連絡したんだよ」
『ええっ…………あ!』
『充電、切れてました…』と慌てて鞄から携帯を取り出して、謝るりん。
妹の抜けてる性格には慣れているのか、不二先輩は穏やかに笑っていた。
大「連絡を貰った時は本当に驚いたよ……でも、無事で良かった」
涙ぐむ大石先輩と不二先輩を見て、車に衝突した時の記憶が蘇る。
……俺が助けた女の子は無事だったようで、意識が戻った日に家族と一緒に面会に訪れていた。
何度も何度も頭を下げる両親と「おにいちゃん…ありがとう」と泣く女の子を見たら、「無事で良かったな」と呟いていて。
リョ「(…なんか親近感あるし)」
「おにいちゃんヒーローみたいだねっ」と興奮気味に話す女の子と、複雑な表情で見てくるその子の兄は、何故か他人とは思えなかった。
不「手塚に知らせたら、すごく心配してたよ。今度日本に帰って来るって」
リョ「えっ」
大「大勢で押し掛けても迷惑だろうし、今日は不二と俺が代表して来たんだ」
手塚部長、ドイツからわざわざ…?と目を丸くして聞いていると、「おチビー!!」と泣き喚く声が部屋中に響いた。
菊「無事で本当に良かったよおお!びっくりしたんだかんな!」
桃「越前!あの日俺が家まで送っていけば…ほんとにすまねぇ…!!」
河「手術したんだろ?まだ痛むか??」
海「…リハビリなら付き合ってやる」
乾「越前の為に、鎮静効果もある乾汁を作ってきたよ」
大「…と言うつもりだったんだが、皆がどうしても行きたいってきかなくて全員で来ることに……」
リョ「…いや、何となくそんな気はしてたっス」
菊丸先輩は相変わらずだけど、「おおお」と男泣きする桃先輩にギョッと驚く。
続けて乾先輩がこの世のものとは思えない色のドリンク…液体を見せてきたので、「気持ちだけでいいっスから」と丁重にお断りした。
「ちょっとあなた達!病室ではしゃぎすぎよ!!」
全「「「「「『すみません………』」」」」」
俺達に負けないくらいの大声で看護師さんに注意されて、一斉に大人しくなる先輩達が可笑しい。
くくくっと笑うと怪我したところが痛いのに、「笑い事じゃねぇよ…!」と桃先輩がまた泣き出して追い討ちをかけてくる。
菊「うう〜桃泣き過ぎ…伝染するじゃんよぉ」
『ぐす…っはい……』
海「っ!」
「ったく男のくせに」と言い掛けた海堂先輩は、同じく、だーっと涙を流す菊丸先輩とりんを見て口を閉ざしていた。
大「テニスには影響ないんだろ?」
リョ「はい…神経は傷付いてないらしくて、ちゃんと完治させたらまた出来ます」
それを聞いた全員が「良かった」と溢す。
優しい表情をした先輩達に囲まれて、何だか気恥ずかしくなった。
河「退院したら、俺の家に寿司食べに来なよ。越前の好きなの何でも握るから!」
桃「おお!いいっスね、隆さん家で寿司パーティー!」
リョ「それは嬉しいっス」
大「その頃なら手塚も一緒に行けるかもな」
不「ふふ、久しぶりの一家団欒だね」
この心配性な母さんと騒がしい兄ちゃん達は、厳格な父さん(手塚部長)の帰国に喜んでいるようだ。
本物の妹と目が合うとにっこり微笑まれたので、俺も自然と表情を和らげていた。
この時の俺は先輩達とりんの存在に心底安心していて、これから訪れる人達のことなんて考えていなかった……
***
朋「……………あのぉ、何でここにいるんですか?」
桜「と、朋ちゃん!先輩に失礼だよ」
リョ「……………」
次の日。夕日が差し込む病室に現れたのは、小坂田と竜崎、そして…
梓「?越前くんが事故にあったって聞いて、お見舞いに来ただけだよ〜」
けろりと言い返す梓先輩。
さっきから小坂田が睨み付ける度に間に座る竜崎が止めに入っていて、俺はハァと溜め息を溢していた。
リョ「…誰に聞いたんスか?」
梓「桃城くんが教えてくれたの。心配ですっ飛んで来ちゃった」
「まだ痛む?」と包帯で巻かれた箇所じゃなく、頬に貼られた絆創膏に触れる先輩。
咄嗟のことに反応出来ずにいれば、「〜〜っっちょっと!?」と小坂田が声にならない声で叫んだ。
梓「もー折角可愛い顔なのに〜!痕残らなきゃいいけど、」
リョ「いや…これ大した傷じゃないんで。あと離れて下さい」
朋「!そ、そーよリョーマ様の言う通りよっあんた近すぎるのよ…!」
梓「何よ?別にいいじゃない。越前くんのことが心配なんだから」
「お互い好みも似てるんだし、仲良くしようよ」と提案する梓先輩に、「!?」と今度こそ言葉を失う小坂田。
竜崎もその発言に驚いてるのかより大人しくなり、桃先輩め…とこの面倒な状況を作った男を恨めしく思う。(「俺のせいなのか!?」←by桃城)
桜「リョ、リョーマくん、早く治ってテニス出来るといいね…っ」
リョ「うん、リハビリ出来るようになったらすぐ治すつもり」
梓「リハビリも無理したら駄目なのよ。まずは、車椅子から松葉杖でちゃんと歩けるようにならないと」
朋「…何であんたが知ってんのよ」
最早敬語も使わない小坂田に、「この人の親父、スポーツトレーナーだから」と俺が答えてしまう。
そのことが更に気に食わないのか、眉がぴくりと動いた。
梓「そーあと、叔父は監督ね」
リョ「叔父って?」
梓「黒部コーチ。合宿で一緒だったでしょ?」
その事実には俺も驚き、目を丸くしていると「じゃなきゃマネージャーに呼ばれないよ」と先輩は何でもないように笑う。
リョ「(…ああ、だからか)」
前回の長期合宿で、りんの代わりに梓先輩が青学のマネージャーを務めていた。
その時はスポーツ医学やトレーニングに詳しいからか…と(特に興味もないし)深掘りしなかったけど、先輩が呼ばれた理由に納得した。
朋「な、何それ…?美人な上に頭も良くてテニスにも詳しいなんて…許せない……!!」
桜「と、朋ちゃん?心の声全部出ちゃってるっ」
リョ「……………」
わなわなと震える小坂田にも動じず、「え?やだ嬉しい〜」と"美人"という言葉に喜ぶ先輩。
俺はどんどん悪化していく状況に緊急のナースコールのボタンを押そうかと考えていると、ガラッと病室のドアが開いた。
『お兄ちゃんっ!今日はね、びっくりサプライズー………』
興奮した様子で話していたりんは、俺の姿…ではなく、小坂田と竜崎、そして梓先輩を見るとわかりやすく固まる。
動かないりんの隣からひょいっと様子を伺うように現れた人物を見て、俺まで固まってしまった。
「?どうした、入んねーの?」
リョ「っクリス……!?」
そこにいたのは……アメリカにいる筈の親友だった。
前に会った時よりも身長が伸びているようで、相変わらずのさらさらした金色の髪は無造作に下ろされ、その整い過ぎた顔を照らしている。
懐かしい青い瞳と視線が合えば、呆然としていた小坂田と竜崎の顔が真っ赤に染まった。
クリスはふっと表情を緩め、「何だよリョーマ、モテモテじゃん」と溢す。
その言葉に俺が言い返す隙もなく…… りんは静かにドアを閉めた。