月夜
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*りんside*
温泉を出て、ぱたぱたと化粧水で肌を整えてから、いつもみたいに髪を耳の下で2つに結ぶ。
浴衣に乱れがないか確認してから、私は小走りで部屋に向かった。
『た、只今戻りました……』
返事がないので奥に進んで行くと、窓辺の椅子に白石さんが座っていた。
その真剣な横顔にドキンと胸が高鳴って、話し掛けるのも忘れて魅入ってしまう。
すぐに私の存在に気付いた白石さんは、「りんちゃん、おかえり」と微笑んでくれた。
『何見てたんですか?』
白「ん?月。星の中にあって、綺麗やなぁって思うて」
白石さんの向かいの椅子に座り、同じように夜空を眺めてみれば丸い月が浮かんでいた。
周りをたくさんの星が囲んでいて、『ほんとですねー…』と自然と声が溢れる。
『あ。月の中にはうさぎがいるって本当なんですかね?』
白「どうなんやろなぁ。あ、せやから見とるとりんちゃんのこと思い出すのかも」
『??』
何で私を?と頭の上に"?"マークをたくさん浮かべて、白石さんを見つめる。
途端に表情を和らげる白石さんに、きゅんと胸が苦しくなって。
ただ真っ直ぐに見つめられることが恥ずかしくて、思わず髪をクロスして顔を隠した。
白「っ何やそれ……余計に可愛くなるだけなんやけど?」
『!も、もうっ私じゃなくて月を見て下さい…っ』
白「月より、りんちゃん見てた方が幸せやもん」
『!?///』
当たり前のように言い切る白石さんを止めることなんて出来ず、『も、もう、いいです…』と降参した。
くすくすと楽しそうに笑う声を聞いていたら、私もふっと肩の力が抜けた。
『(……もしかして、)』
卓球で白石さんが負けたのは……
その可能性に辿り着いて、『あの、白石さん』と切り出す。
何て聞こうかなと考えていたらちらちら見てしまっていたらしく、白石さんはハッと何かを察した。
白「ん。おいで、りんちゃん」
『……………………ふえぇ!?///』
突然両手を広げた白石さんに暫く首を傾げて、それが何を意味しているのか気付いてしまった。
"さぁ、甘えてええんやで"と白石さんの瞳がキラキラと輝いているようで、『うう…』と声が漏れる。
おずおずと近付いて、白石さんの膝の間に収まるように座った。
白「は〜りんちゃんあったかい。ずっとこうしてたいわ」
『(あ、顎が…っ)白石さんも、温かいです、』
白石さんの顎が私の頭に乗せられ、後ろからぎゅうっと抱き締められる。
ドキドキドキドキ心臓が飛び出そうなくらい音が鳴っていて、白石さんにもとっくに伝わってる気がする。
くっ付くとシャンプーの香りが強くなって、同じ香りをさせていることが嬉しかった。
『……あのった、卓球の時……///』
白「ん?」
『もし、白石さんが勝ってたら…何てお願いしようと思ってたのかなって、』
後ろを振り返りながら尋ねたのに、ばちっと目が合うと慌てて顔を前に戻してしまう。
「…言うてええんか?」と白石さんの声が耳元で響いて、びくんと体が跳ねた。
白「"りんちゃんに膝枕して欲しい"って言おうとしてた」
『へ?ひ、膝枕……?』
思ってた答えと違うものが返ってきたので、思わずぱちぱちと瞬きをしてしまう。
『("温泉一緒に入りたい"とか、"い、一緒に寝たい"とかだと思ってた……)』
白石さんの願望?を勝手に想像していた私は、カァアアと1人で赤面する。
逃げることも隠れることも出来ずに、早く顔の熱が冷めますようにと祈っていると……すっとお腹に回されていた腕が解かれた。
白「…そんな緊張せんでも、りんちゃんの嫌がることはせんから、」
「大丈夫やで」と力のない声が聞こえて、もう一度振り返れば。
白石さんは優しく、何処か寂しそうな瞳で私を見つめていた。
『(どうして……)』
白石さんの泣きそうな表情を見るのは、これが初めてじゃない。
私は痛む胸を抑えながら、座ったままの体勢で正面から白石さんを抱き締めていた。
近すぎる距離に心臓がバクバクと破裂しそうなくらい高鳴っているけれど、愛おしいと思う気持ちには抗えなくて。
白「…りんちゃん、離れや」
『離れません……っ』
白「っこの体勢アカンから、」
『っアカンくないです』
自分だって後ろから抱き締めるのに、私からは駄目だなんて意地悪だ。
白石さんの胸に顔を埋めるようにしていると、トクトクと鼓動が速くなっているのを感じた。
『(……白石さんも、同じ)』
さっきよりも体温が上がっていて、私と同じように感じてくれていることが嬉しかった。
『私…旅館に着いてから、ずっと緊張しててごめんなさい』
『それと、わざと負けてくれてありがとうございます』と伝えると、私を映していた瞳が揺れる。
きっと、白石さんは私が意識して上手く話せないことも、緊張でどうしたら良いかわからなくなってることも、全部わかってたんだ。
白石さんはくしゃりと前髪を掻き上げながら、「…ははっ」と笑った。
白「ほんまに、敵わんなぁ……りんちゃんには」
『?』
瞳を細めて柔らかく微笑むから、私は何故かつんと瞳の奥が熱くなってしまって。
『(……苦しい、)』
白石さんが笑うと、胸の奥がきゅうっと締め付けられて、甘い熱に浮かされるような感覚になる。
いつも私のことを考えてくれる優しいところ。
何でもないみたいに振る舞う、柔らかくて弱いところ。
『(全部全部…………大好き)』
衝動のまま、吸い寄せられるように白石さんの頬に唇を寄せていた。
白石さんは一瞬驚いたような顔をして、その長い指を私の頬にそっと這わせる。
けれど、幾ら目を瞑って待っていても何も起こらなくて………不思議に思った私は、ゆっくりと瞼を開けてみた。
白石さんと間近で視線が重なり、欲情を含んだ瞳にドキリと全身が震えた。
白「……っ堪忍な………今、余裕あらへん」
切長の瞳を潤ませ、熱のこもった視線が真っ直ぐに注がれる。
独り言のように呟きながらも、私を離そうとする白石さんに気付いてしまう。
離れたくない、大丈夫だと伝える為に、その手をぎゅっと握って微笑んだ。
瞬間……白石さんの瞳の熱が大きくなるのを感じながら、私はそっと瞼を閉じた。
***
月の光に照らされた部屋の中。
ゆっくりと冷たい布団に押し倒されながら、私は視線の置き場を探していた。
白「…寒ないか?」
『は、はい、』
いつの間にか、ぴったりとくっ付けて敷かれていた布団。
最初は冷えていた背中も、白石さんに見つめられただけで全身が熱を帯びていった。
『(……どうしよう、)』
旅行に誘われた時、もしかしたら"そう"なるかもと……期待と不安を抱いている自分がいた。
でも、いざその場面になると思考が蕩けてしまって、何も考えられない。
『(雪ちゃんに色々選んで貰ったのに、)』
自分では決して選ばない、可愛いけれどちょっぴり大人なデザインの下着。
「白石さんも絶対気に入ってくれるはず!」と雪ちゃんのお墨付きだけれど、晒せる自信なんて全くなくて。
「りんちゃん、こっち向いてや」と切ない声音に素直に従うと、ドキリと鼓動が跳ね上がった。
端正な顔が徐々に近付いてきて、呼吸ごと飲み込まれてしまう。
『………んっ』
啄むようなキスが、唇を味わうようにどんどん深くなっていく。
思考だけじゃなくて体も蕩けてしまったみたいに熱い。
結いていたヘアゴムをするりと取られ、頭を撫でられただけでビクッと体が反応した。
『ふぁ…っ』
白石さんの熱い舌が首筋に這うと、自分でも聞いたことのないような甘い声が溢れた。
私の反応を確かめるような動きに堪え切れず、咄嗟に自分の手で口元を覆う。
それでも小さく溢れ出る声が恥ずかしくて、本当は耳も塞いでしまいたかった。
白「声、我慢せんでええんやで」
『っや、です……』
白「何で…?もっと、聞きたい」
耳元で低く懇願する声は、甘い吐息と混ざり合って……まるで媚薬みたいに私を翻弄する。
帯がしゅる…と解かれていくのを感じていた時、その手が僅かに震えていることに気付いた。
白「……はは、かっこ付かへんな、」
『白石さ「リードせな思うのに…上手くいかへん」
眉を下げて辛そうに微笑む白石さんに、私の胸もきゅうっと痛くなる。
リードしてくれなくていい。
白石さんと一緒に経験すること全てが……私には愛おしくて、意味のあるものだから。
ぎゅうっとしがみ付くように白石さんの背中に腕を回すと、トクントクンと高鳴る心音が重なる。
固く抱き締められながら、「りんちゃん、」と切なく絞るような声が聞こえた。
白「好きで好きで……可笑しくなりそうや」
震えた指先も、熱い体も、鼓動さえも愛おしくて、幸せの涙が溢れ出る。
顔を見つめながら『私もです……っ』と迷わずに返すと、白石さんの顔がぐにゃっと幸せそうに緩んだ。
『まだ…私の"お願い"、聞いて貰ってないですよね』
わざとだったとしても、折角卓球で勝ったんだから…言っても良いよね?
白石さんが何か言う前に耳元でそっと囁くと、触れている体温がぐんと上がった気がした。
"続き、して欲しい"
白「…っそれがりんちゃんの願いでええんか?」
半べそをかきながらも真っ直ぐに頷くと、白石さんの瞳が今までと違う色を宿した気がした。
「あほ、」と余裕のない声が鼓膜を刺激して、さっきよりも深いキスに腰が砕けそうになる。
白石さんから与えられる全てのことに反応して、下着のことなんて考える余裕もなくて。
はだけた浴衣を脱ぐ白石さんをぼうっと見つめていると、長い指が涙を拭き取ってくれた。
白「ほんまに、かわええ」
『…っ』
頬を撫でながら、その瞳が優しく細められる。
白石さんが私を見る目はいつだって柔らかくて、甘くて、真っ直ぐに愛おしいと伝えてくれるから。
『(……私も、伝えられてるかな、)』
気持ちが伝染したかのようにお互いの顔が近付き、ぎゅっと手を絡めた時………
聞き慣れた携帯の着信音が、何処からか鳴り響いた。
白「『……………』」
先に反応したのは白石さんで、すっと手を差し出して私を起こしてくれる。
「急用かもしれへんし、出た方がええよ」と言ってくれたので、慌てて浴衣を羽織り直してから、テーブルの上に置かれた携帯を探した。
『(えっと……お母さん?)』
手に取った時に音は鳴り止んでしまい、着信履歴を確認すると"お母さん"から何回も着信があったみたいで。
心配になって掛け直すと、《りん?やっと繋がった…!》と珍しく慌てた声が応えた。
『お母さん?どうしたの…?』
《っあのね、りん。落ち着いて聞きなさい…………実は今日、リョーマが》
話を聞きながら、私は『…………え、』と発したきり、言葉を失くしてしまった。
携帯を持っていた手がぶらんと下がり、私を心配するお母さんの声が微かに聞こえる。
「…りんちゃん?」と私の様子に気付いた白石さんが近付いて来ても、何も言えなかった。
リョ「りん」
全身を満たしていた甘い熱が嘘だったかのように、急速に冷えていく。
震える唇を何とか動かしても声にならなくて、ただ一筋の涙が頬を伝っていくだけだった。
『お……に、い、ちゃん…………』
光を失くした暗闇の中。私はただ、「りん」とお兄ちゃんが優しく呼んでくれるのを、ひたすら待ち続けていた。
応えてくれる筈もないのに……ずっと、それだけを求めていた。