月夜
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『白石さん、見て下さい!綺麗ですよっ』
船に乗った後、ロープウェイに乗り継いでいた白石とりん。
白い雪が木々に積もっていて、箱根の街並みを上から見下ろしながら、りんの気分は高鳴っていた。
白石は無邪気にはしゃぐりんを見つめ、口元を綻ばせる。
白「りんちゃん、寒いからこっちに寄りや」
手を差し伸べる白石に自分の手を乗せれば、優しく抱き寄せられて。
恋人同士の距離に、りんの鼓動はドキドキと加速していった。
白「あ。そういやこのロープウェイ、ジェットコースターみたいに走るから有名なんやって」
『え…!?』
途端にサーと顔を青く染め、体を震わせるりん。
自分から白石に体を寄せ、これから訪れるだろう衝撃に備えてぎゅっと目を瞑る。
すると、「…ふっ」と笑いを堪えるような声が隣から聞こえた。
白「堪忍な、冗談やで」
『…………?』
「そんな怖がるとは」とまだ笑っている白石を見て、りんは漸く意味を理解する。
『ひ、酷いです…!』と涙目で抗議したにも関わらず、白石は「かわええなぁ」とふんわり微笑んでいて。
りんの顔はボッと朱に染まり、責めるどころか恥ずかしくなってしまった。
2人がそんなやり取りをしていると、クスリと何処からか別の笑い声がした。
「ふふ、ごめんなさいね。あんまり可愛らしいやり取りだったから」
『??』
後ろを振り向くと、老夫婦が微笑ましいと言わんばかりの表情でりんと白石を見つめていた。
途端に、ロープウェイに2組で乗っていたことをりんはハッと思い出す。
『あの、うるさくしてごめんなさい(すごいはしゃいでた気がする///)』
「あら、いいのよ。私だってはしゃいでるもの。ねぇ?あなた」
「そうだなぁ。お前は昔から変わらないな」
隣に座っている男性は、呆れたように溢しつつも優しい笑みを浮かべていた。
「桜や紅葉の時期も綺麗だけど、冬の箱根も良いものね」
『!はい、すごく綺麗です』
白「お2人は良く旅行に行かれるんですか?」
「ああ。年に一度はこうして遠出をするんだ」
「毎年ね、結婚記念日に行こうって決めてるの」とニッコリ笑う女性。
皺のある頬を緩ませ、2人は幸せそうに身を寄せていた。
『(…いいなぁ)』
こんな風に。歳を取っても仲睦まじく、幸せそうに笑い合えるなんて素敵だ。
いつか自分も、白石とそうなれるだろうかー…遠い先の未来を思い浮かべて、そっと隣を盗み見る。
「ん?」と首を傾げながらも優しい眼差しを向けてくれる彼に、りんの頬は再び熱くなった。
「それじゃあね。年寄りの話し相手になってくれてありがとう」
『いえっこちらこそ楽しかったです。ご旅行、楽しんで下さい』
「「ありがとう」」と老夫婦は頭を下げて、手を繋いでゆっくり歩き出す。
その後ろ姿を見届けながら…りんは隣で揺れる白石の腕に、ぎゅっと掴まるようにくっ付いた。
白「りんちゃん…?」
白石はその行動にドキッとしながら、りんの顔を覗き見る。
無意識に触れたい衝動に駆られていたりんはというと、『え、えと』と視線を漂わせた。
『…何だか、白石さんにくっ付きたいなぁって思って』
今、大好きな人がこうして傍にいてくれることが、とても尊くて……幸せなことだと思えたから。
白石の顔を見つめながら微笑むと、その瞳が優しく揺らいで。
「ん゛ん゛っ」とくぐもった声を出す白石に、『?』と首を傾げるりん。
『?白石さん…?』
白「(可愛すぎて心臓止まるかと思うた………)ううん、りんちゃんとくっ付けて嬉しいわ」
『!はい///』
あんなに甘えた姿を妄想していたのに、現実のりんはそれを絶する可愛さである。
白石は今日1日で萌え殺されるのでは…と命の危険を感じながらも、幸せを噛み締めていたのだった。
***
「お待ちしておりました、白石様」
日が暮れる前に、予約していた旅館の前に到着した2人。
出迎えてくれた女将に荷物を預けて、りんは少し緊張しながら後に続いた。
大きすぎずアットホームな雰囲気の旅館は、居心地の良い温かさを感じさせる。
りんがほわー…と感動している間に、部屋の前に着いていた。
「お部屋はこちらでございます」
静かに襖が開くと、畳の香りがふわっと漂う。すぐ側で川が流れている為、ゆったりとした水の音が響いていた。
「ご夕食は後ほどお部屋にお待ちします。温泉は貸し切りの混浴もございますが、ご予約制になります。如何いたしますか?」
『!?こ、こ…ん///』
白石が「考えときます」と爽やかに答えたことで、りんの顔はボッと真っ赤に染る。
その後も平然と説明を受ける白石を見つめ、りんは感心しっぱなしだった。
『(…私だけ、ずっと動揺してる)』
初めての"ちゃんとした"お泊まりに緊張しているのは、自分だけなのかもしれない。
いつものスキンシップもされる度にドキドキして、意識しまくりの自分がただ恥ずかしかった。
「それでは、ごゆっくりお寛ぎ下さい」と女将が退場すると、再び2人だけの時間が訪れた。
『す、すごい綺麗な旅館でびっくりしました』
白「せやな。思ったより広くて嬉しいわ」
「ロビーに足湯もあるみたいやから、後で一緒に入ろか」との提案に、『はいっ』とりんも笑顔で返した。
『(変に意識しちゃ駄目だよね、)』
折角来たのだから、白石と一緒にいれる時間を楽しまなきゃと…りんは一人でうんうんと相槌を打つ。
立ち上がって窓際の障子を開けると、女将が言った通り大きな橋と川が見えた。
りんは白石に知らせようと振り向こうとした瞬間、突然背後に立った彼にドキリと肩が揺れた。
『っあ、あの、白石さ…』
ふわっと白石の腕が腰に回され、抱き締められたのかと思い身を固くする。
ドッキドッキと心臓が飛び出そうなほど高鳴っていた時、「…うん、りんちゃんはこのサイズで良さそうやな」と白石が呟いた。
『……??』
白「俺も変えなくて大丈夫そうやわ。良かった」
想像もしていなかった話をされて、ポカンとただ呆けるりん。
手に浴衣を持つ白石を見つめ、先程女将が「サイズが合わなければお申し付け下さい」と言っていたことを思い出した。
……つまり、白石はサイズを確認してくれていただけなのだ。
カァアアと顔を真っ赤に染めるりんの目には、薄らと涙が浮かんでいた。
『(は、恥ずかしいよ…)わ、私、』
白「ん?」
『着替えて来ます…っ///』
浴衣を貰い、スピードスターも驚きの速さでダーッと部屋を出て行くりん。
残された白石は目を丸くしながら、「りんちゃん……Sサイズそんな嫌やったん?」と的外れなことを呟いていたが、ツッコむ者はいなかった。
***
白「はーお腹いっぱいやわ。ご飯美味しかったなぁ」
『……ソ、ソウ、デスネ』
白「足湯も俺らしかおらんかったし、ゆっくり出来たな」
『ホント、デスネ』
白「りんちゃん?」
『ナ、ナンデショウ?』
白「(何でこの子、ロボットみたいになっとんのやろ…)」
隣で手と足を同時に出しながら歩くりんは、あからさまに様子が可笑しい。
思えば、旅館に着いてからずっと落ち着きがなかったような…
白「(もしかして、)」
足湯に浸かっていた時、白石が近付いただけで体をぴょん!と浮かせていたりんを思い出す。
(ロボットのようだが)名前を呼ぶとすぐにこちらを向いてくれるりん。
白石がじっと見つめること数秒……その顔がボボッと赤く染まったことで、"予想"が"確信"へと変わった。
あわあわと慌てた後、赤い顔を隠すように俯く姿に白石の胸がきゅんと鳴く。
白「(っこれは……可愛すぎるやろ、)」
その反応だけで破壊力は相当なものだが、お団子に結った髪を一つにまとめ、宿の浴衣に身を包んだりんの愛らしさは最早言葉に出来ない。
白石の目には天使……否、妖精のように映り、携帯を部屋に置いてきてしまったことを「く…っ」と嘆かずにはいられなかった。
一方のりんの心中も、全く穏やかではなく……
『(…どうしよう。白石さん、絶対変に思ってるよね)』
さっきから口元を手で覆ったり真剣な顔で何かを考え込む白石の様子に、りんは不安を募らせていた。
だが…挙動不審なことを自覚していても、どうすれば良いかわからないのだ。
『(し、白石さんがすごくかっこ良くて、顔が見れない……///)』
浴衣姿の白石は普段のかっこ良さに加え、色気がむんむんと漂っている。
更に"2人きり""お泊まり"というシチュエーションがプラスされてしまえば、鼓動は高鳴っていくばかりだった。
りんは熱を冷ます為に両手で頬を覆っていると、『!』とあるものの存在に気付いた。
『し、白石さん、卓球しませんか?』
白「え、卓球?」
この恥ずかしい空気を変えようと、慌てて卓球台を指差すりん。
「確かに、温泉といえば卓球やな」と白石が乗ってくれた為、りんはホッと息を着いた。
『やりましょうっルール決めますか?』
白「せやなぁ、先に10ポイント取った方が勝ちにしよか」
腕捲りをして気合を入れる白石を見兼ねて、りんは頷きながらもラケットを構える。
白「あと、"負けた方は勝った方の言う事を1つきく"って言うのはどやろ?」
『ふえ!?』
サーブを打とうとしていたりんは、驚きで体が飛び跳ねた。
前を見ると、白石はニッコリ微笑んでいて。
白「俺が勝ったら、りんちゃんに何して貰おかな〜」
『!///わ、私…負けないですよっ』
白「奇遇やなぁ。俺も負けへんで」
これ以上ドキドキさせられたら、倒れてしまうかもしれない。
りんは白石の言う"お願い"を想像しないように、首を横に振る。
手元に神経を集中させながら、ピンポン玉を高く上げた。