月夜
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*りんside*
『…くしゅんっ』
箱根港に浮かぶ海賊船に乗り、デッキの上で流れる景色をぼうっと眺めていた時。
冬の冷たい空気にあてられて、思わずくしゃみが溢れた。
すると、ふわりと後ろから何かに覆われ、突然温もりを感じた。
白「…大丈夫?中入るか?」
『っだ、大丈夫です、』
すぐ傍に白石さんの気配がして、鼓動がドキドキと高鳴っていく。
白石さんの着てるコートにすっぽりと収まり、後ろから抱き締められているような体勢。
好きな人の香りに全身が包まれて、私は体だけじゃなく顔も熱くさせた。
慌てて周りを見渡せば、乗車客は写真を撮ったりお喋りに夢中になっていて、私達のことなど気にしていないようだった。
『えと、白石さんは寒くないですか?』
白「ん?うん。結構着込んどるから大丈夫やで」
ぎゅーっと後ろから抱き締められる度、ポカポカと胸の中から温かくなる。
不思議と恥ずかしさは消えて、私は白石さんに身を預けるようにして立つことにした。
『…さっき、何てお願い事したんですか?』
白「神社で?」
コクコク頷く私に、「んー…秘密」と呟く白石さん。
船を乗る前に立ち寄った神社は縁結びで有名な場所ということもあって、秘密にされると余計気になってしまう。
冷たい風が吹く度、お揃いで買ったお守りが鞄の横で揺れていた。
白「りんちゃんこそ、何てお願いしたん?」
『!ふぇ、』
白「随分長かったけど、俺とのこと『な、内緒です…!///』
慌てて首を横に振る私に、白石さんは何だか不服そうで。
だって…白石さんだって教えてくれないのに、私だけなんて。
そう思ったけれど、いじける姿にきゅんと胸を打たれてしまい、私はゆっくりと振り返る。
自然と顔を寄せてくれる白石さんに近付いて、耳元でそっと囁いた。
『"白石さんと、旅行に来れて嬉しいです。これからもずっと一緒にいたいです"』
白「!」
『って…お願いしちゃいました』
恥ずかしくて『えへへ』と笑いながら伝えると、白石さんは私の目を自分の手で覆い、隠してしまった。
だんだん、真っ暗な視界に不安が募る。
『あの、白石さ「っ待って……今はアカン、」
「絶対、だらしない顔しとるから」
そう呟いた白石さんに、私はキョトリと目を丸くして。
姿は見えないけれど、聞こえる声から照れてることが伝わってくる。
『白石さん、お顔見たいです、』
白「…駄目」
『わ、私だっていつも真っ赤になってるんですよ?』
『おあいこですっ』と恥ずかしい事実を堂々と宣言してしまう。
やがて白石さんは観念したように息を吐いて、そっと私から手を離した。
クリアになった視界の先には、眉を下げて照れたように微笑む白石さんがいて。
『(っず、ずるい……)』
その表情にきゅううんと胸が苦しくなって、私の頬も熱を帯びていく。
お互い恥ずかしそうに顔を見合い、何だか可笑しくなって同時に笑みが溢れた。
白「今更やけど…りんちゃんが電話で来れるって言うてくれたの、ちょっとびっくりした」
『えっ』
白「いや、めちゃめちゃ嬉しいんやで?ただなぁ、お父さん(南次郎)が許してくれるなんて思ってへんかったから、」
白石さんのコートに包まれたまま、私は『えっと…』と言葉を詰まらせた。
『(白石さん、ごめんなさい)』
お父さんは許してないと思います……
私はチクリと胸の痛みを感じながら、心の中で思い出していた。
***
それは、白石さんから旅行に誘われた日の帰り道。
駅まで車で迎えに来てくれたお父さんと、私は無事に合流していた。
『お父さん、迎えに来てくれてありがとう』
南「良いってことよ〜どうせ家にいたって心配だしな」
何でもないみたいに言ってくれるお父さんに安心する。
後ろの席で見慣れた町の景色を眺めている間も、私の頭の中は白石さんでいっぱいだった。
『(旅行のこと、お父さんに言わなきゃ)』
白石さんの甘い笑顔を思い出したら、カーと頬が熱くなっていく。
慌てて首を横に振る私に、「どうだったんだ?」とお父さんが尋ねた。
南「文化祭に行ったんだろ。楽しかったか?」
『う、うん…!すっごく楽しかったよ』
四天宝寺ならではのユニークな出し物を一つ一つ教えると、「何だぁ?それ」とケラケラ笑い声が返ってくる。
『それでね、テニス部の"CLUB小芥子"が大人気でー…』
皆のホスト姿がかっこ良かったことを語っていた時、ハッと気付く。
恐る恐るバックミラーを確認すれば、「ホストだとぉ?」とお父さんはやっぱり険しい顔をしていた。
南「…白石くんは、りんと付き合いながらそんなチャラ付いたことしてんのか?」
『ほ、ホストって言ってもお喋したりするだけだし…それに、白石さんはチャラ付いてないよっ』
私が慌てて訂正する度に、何故かお父さんの眉間の皺も濃くなっていく。
『お父さん、白石さんのこと嫌い…?』
南「別に嫌いじゃねぇけど、気に食わねーな」
ガン!とショックを受ける私の前で、「俺の可愛い娘を独り占めしやがって…」とお父さんはブツブツ呟いていた。
南「ま、健全なお付き合いみたいで一応安心はしてるけどよ」
赤信号で停まっていた車が動き出す。
バックミラー越しに、「どうした?りん」とお父さんが疑いのない眼差しを私に向けていた。
『(……どうしよう、言えないよ)』
白石さんとのお付き合いを、お父さんが心配してることはわかってた。
それでも合宿に参加することを許してくれたり、こうして大阪に出掛けた帰りは迎えに来てくれたり。
そんな風に接してくれるお父さんに……2人きりで旅行に行きたいなんて、とても言えない。
私は膝に置いていた掌を、ぎゅっと静かに握り締めた。
***
雪「えっ白石さんと旅行!??」
耳がキーンと鳴るほど大声で叫ぶ雪ちゃんに、コクコクと頷く。
学校が終わって、私は制服のまま雪ちゃんの家に遊びに来ていた。
今までのことを話し終えると、向かいに座っていた雪ちゃんはバッと立ち上がった。
雪「そ、それでっ何て返事したの?」
『ま、まだ…親に相談してみるって言ってから、連絡してないの』
興奮気味だった雪ちゃんは、私の返事を聞くなりすっと静かに座り直す。
私が焼いたクッキーを一口かじって、「まだ相談してないんだ」とすぐに理解してくれた。
『うん…お父さんに言っても、多分許してくれないと思う』
雪「確かに。私もりんのパパが許してくれると思わないわ…」
前に旅行に行った時は、四天宝寺の皆も大人の渡邊先生も一緒だったから、お父さんも許してくれたんだと思う。(女の子の紅葉さんもいたし…)
鈍感と言われる私でも、今回は了承してくれないとわかっていた。
雪「…りんは、行きたいんだね」
下を向いていた顔をぱっと上げると、雪ちゃんが優しく微笑んでいた。
『(…………私は、)』
ー旅行、行かへん?俺と2人で
誘ってくれた時、白石さんの緊張が私にも伝わってきていた。
行きたいと答えて、安心したように頬を緩めた白石さんの顔がずっと忘れられなくて。
『うん……』
まだ早いのかもしれない。それでも、日に日に大好きになっていくこの気持ちに、正直でいたい。
『白石さんと、少しでも長く一緒にいたいの』
"いつか"じゃなくて、"今"傍にいたい。
白石さんに、もっともっと近付きたい。
私の言葉を静かに聞いていた雪ちゃんは、「りん、ほんとに変わったね」と呟いた。
『え?』
雪「ほら、前はお兄ちゃんで世界が回ってて、盲目的だったっていうか……狭い世界で生きてた気がするから」
「別にそれが悪い訳じゃないけど、」と続く。
雪「今のりんの周りにはたくさんの人がいて、その人達にりんの良さを知って貰えて、嬉しいの」
目を丸くする私に、雪ちゃんは眉を下げながら笑う。
雪ちゃんがそんな風に思ってたなんて知らなくて、思わず泣きそうになってしまった。
「つまり、私はりんの恋を応援してるってこと!」ともう一度立ち上がった。
雪「さぁ、買い物に行くよ!彼氏と旅行用の洋服や下着を選ばなきゃっ」
『!?ええっでも雪ちゃん、』
雪「私の家に泊まることにしちゃえばいいでしょ。どうせ親も仕事で殆どいないし」
「決まりね、早く支度して!」と急かされて、私は慌ててセーラー服を整える。
『雪ちゃん、ありがとう』
部屋を出る時に感謝の気持ちを伝えると、「その代わり土産話聞かせてよ」と雪ちゃんはまた笑ってくれた。