月夜
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緑色の葉が段々と朱色に色付き始め、季節は秋へと変わっていく。
大阪、四天宝寺高校の周りも紅葉した木々が囲んでいて、夕日に溶け込んでいた。
部活動の午後練が終わって帰っていく生徒達が多い中、テニス部では未だに汗を流す者がいた。
静かなテニスコートにラケットにボールが当たる音と、白石の息遣いが交差する。
謙「白石ーそろそろ部室締めるで」
既に制服に着替え、中々戻らない彼を呼びに来た謙也。
白石は漸く顔を上げ、「ああ、」と張り詰めていた空気を緩ませた。
白「もうそんな時間か…最近日が沈むの早いな」
謙「集中しすぎや。最近えらい練習しとるけど、大丈夫か?」
真面目な性格の白石。中学時代、不二と大戦した時みたいに根詰め過ぎていないかと心配なのだ。
親友を心配する謙也に、「大丈夫やって」と白石は明るく笑った。
白「最近予備校や試験やらで中々練習出れてへんからな。久しぶりにラケット持ったら楽しくて…つい」
謙「ま〜気持ちはわかるわ。俺もやけど、久しぶりに顔見る奴も増えたしな」
高校2年生の秋ともなれば、予備校などに通い、部活を欠席せざるを得ない生徒も増えていた。
医学部を志望する謙也も例外ではなく、学校、部活、予備校を往復する日々を過ごしている。
渋い顔でうんうんと頷いてくれる謙也を見て、白石は「すまん、謙也…」と心の中で謝罪していた。
白「(言えへんのや………ほんまは、りんちゃんに触れへん欲を発散しとるなんて…!!)」
タオルで爽やかに汗を拭っているのに、実は白石の心中は全く爽やかではなかった。
そう、長期合宿中にりんの本音を聞いてからというもの………白石の日常には変化が訪れていた。
たまに見ていたりんの夢を毎日のように見るようになり、それも決して人に言えないような、あれやこれやをする夢で。
極め付けはこの間したテレビ電話で、りんの顔を見てしまえば煩悩はぐんぐん膨れ上がっていく一方だった。
白「(これは、我ながらアカン過ぎる……)」
最早、何故今まで平気でいられたのかと不思議でしょうがない。
そう自問自答しながら、何とか気持ちを抑えようと無我夢中でテニスに打ち込んでいたのだ。
この想いが爆発してしまう前に、誰かに打ち明けてしまいたいが………
白「(謙也は彼女いたことあらへんし、イカつい金髪しとるけど中身はピュアボーイやしなぁ……)」←色々酷い
謙「?」
「な、な、何の話しとんねん…!?///」と真っ赤になって慌てる謙也の姿が目に浮かぶ。
財前なんてハッと鼻で笑い、「可哀想っスね」と憐れみの目を向けてくるに違いない。
いっそのこと、銀に座禅を頼んで煩悩を退散して貰おうか。
真剣に考え込む白石に「…ほんまに大丈夫か?」とピュアボーイ(謙也)が首を傾げていると、ぬっと現れた人物がいた。
小「その悩み、うちが解決してあげまひょか?」
白&謙「「っ!?」」
白石の肩に顎を乗っけるようにして、突如現れた小春。
大きく飛び退く白石と謙也に、意味深ににんまりと口元を緩めた。
小「蔵リンったら水臭いやないのぉ。こんな時こそ、乙女の相談室・小春ちゃんを利用せな」
白「乙女の相談室って…」
乙女ではなく、れっきとした男子の悩みなのだが……
謙「ようわからんけど、小春に聞いてもらい」
「先帰っとるで〜」と安心したように肩を落として、手を振る謙也。
取りあえず白石が制服に着替えてから、帰り道に相談することとなった。
小「蔵リン、りんちゃんの誕生日プレゼントで悩んでるんとちゃう?」
白「えっ」
何て切り出そうかと悩んでいた白石は、小春の問いに目を丸くした。
煩悩までは悟られていない安心感と消失感で、「そうなんや」と慌てて頷く。
白「りんちゃんってあんまり欲しい物とか言わへんから、リサーチするの難しくてな」
小「ん〜そうやねぇ…予算にもよるけど、コロンとか香り系も人気みたいやで」
「ええかもな」と白石は自然に相槌を打っていた。
何にせよ、この手の話は姉や妹には死んでもしたくないので、(バレたら一生からかわれる)小春の存在は有難い。
小「あとは〜旅行とかええんやないの?」
白「旅行?」
小「クラスの女子がな、彼氏と付き合って1年記念に旅行行く言うてたの」
「物よりりんちゃんも喜んでくれるんやない?」とウィンクする小春に、「旅行なぁ…」と白石は考えた。
白「いやいや、りんちゃん中学生やで?流石にお父さん(南次郎)が許さへんやろ」
小「そやねぇ、そこは了承して貰うしかないねんけど……蔵リン、想像してみてや。
りんちゃんとずーーっと2人きりで過ごせるんやで?」
白「(ずっと…?)」
白石は小春の言葉通り、悶々と妄想…想像力を働かせてみる。
誰にも邪魔されない観光地に行けば、恥ずかしがりやのりんも遠慮なく甘えてくれるかもしれない。
『白石さん、はいっどうぞ』と食べさしてくれるりん、『い、一緒に温泉浸かりますか…?』と顔を赤く染めて誘うりん……色んな彼女の姿を想像した白石は、とろろ〜んと別世界へと旅立っていった。
小「(蔵リンも"男子"なんやねぇ…)」
本当は彼の沸々とした気持ちに気付いているが、あえて触れずに提案した小春。
最近、2人の距離が前よりも近付いていると感じていた。
白石の溺愛度が凄まじいのは毎度のことだが、以前よりもりんが積極的になっている気がしたのだ。
小「あとでその子に聞いて、宿の詳細送っとくわ。安くてええとこあるみたいやから」
白「うん。おおきにな、小春」
小「ええのよ〜!(頑張るんやで、蔵リン!)」
白石の嬉しそうな笑顔にときめきながら、小春はエールを送ったのだった。
そして……この出来事から数日後の文化祭で、白石は(内心緊張しながらも)りんを旅行に誘った。
更に暫くしてりんからOKの返事が貰えた時は、飛び跳ねそうなくらい嬉しくて。
『あの、宜しくお願いしますっ』と改めて言うりんが可愛くて、 「こちらこそ宜しくな」と携帯を耳に当てながら、白石は微笑みを隠し切れなかった。
***
12月半ば。空気はつんと冷たいが、雲一つない青空が何処までも広がっていて心地良い。
そんな日に2人がやって来たのは………大阪と東京から離れた、箱根。
ゆったりした温泉街や観光地が盛んで、一泊の旅行をするにはぴったりの場所だ。
日常とかけ離れた土地で、大好きな彼女と2人きり。(←※他の人間は見えてない)
隣を歩くりんを見つめ、白石はほんわりとその嬉しさを噛み締めていた。
『荷物、旅館に送って貰えて良かったですね』
白「ほんまやな、身軽になって良かったわ」
「りんちゃんと手も繋げるしな」と甘くニッコリ笑えば、カァァとりんの顔は赤く染まる。
慌てて目を伏せた後、コクリと顔が縦に揺れた。
『はい……ずっと繋いでて欲しい、です///』
恥ずかしがりながらもぎゅっと白石の手を握る仕草に、こちらもぐっと胸が締め付けられる。
「可愛い可愛い」と心の声をいっぱいにしながら、白石は喜んでその手を握り返した。
その時…何となく繋がった掌から、緊張が伝わってくるような気がした。
『白石さん、確かこのバスに乗るんですよね?』
白「あ…せやな。山道登ってくれるらしいで」
だが、いつも通り柔らかく笑うりんを見て、白石は気のせいかと思うことにした。
そして、登山バスに揺られること数分。
降りた先には大きな港が広がり、りんの丸い目はパァァと輝いた。
『すごい…綺麗ですねっ』
白「せやなーあ!あれ船やないか?」
『本当だ、あれに乗るんですよね?』
白「うん。何や今からワクワクしてきたわ」
楽し気な白石の横顔を見つめ、『私もです』とりんの頬も緩んでいく。
本当に白石と旅行に来たんだという喜びを噛み締めながら、太陽が反射した港を瞳に映していれば。
隣からカシャッと携帯のシャッター音が鳴って……
『?も、もしかして、今撮りましたか?』
白「んー?撮ってへんよ」
『!絶対、撮りました…っ見せて下さい///』
確かめたくても、携帯を持った白石の腕が上に上げられてしまい中々取れない。
ぴょんぴょんっと必死にジャンプしているのに「ははっ」と白石は楽しんでいて、りんは頬を膨らませた。
『…っじゃあ、私も白石さんのこと撮りたいです』
いじけたように呟き、りんは携帯を取り出して白石に向ける。
だが…画面に映る彼は愛おしそうに目を細め、静かにこちらを見つめていて。
りんは顔を赤く染め、画面から目を逸らしてしまった。
白「一緒に撮ろか、りんちゃん」
『(うう…)は、はい』
全てわかったように甘く微笑む白石に、少し悔しく思いながらもりんは頷いてしまうのだった。