未来へ
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*りんside*
《へ~じゃあ保育園に行ったん?》
『はいっ皆でクッキーを作ったんですけど、それがすっごく楽しくて、』
《りんちゃんらしいな》と聞こえた声に、嬉しくて私の声も弾んでしまう。
新学期が始まり、保育園で職場体験をして来た。
その出来事を白石さんに聞いて欲しくて、早速電話を掛けると自分のことのように喜んでくれて。
「りん先生」と呼んでくれた園児達を思い出すと、自然と頬が緩んだ。
《ええなぁ。俺もりん先生に料理教わりたいわ》
『!ふぇ、』
白石さんと料理…?と、ぽわぽわとその光景が浮かんでくる。
それだけですごく楽しくなって、同時に白石さんのエプロン姿も想像してしまった。
《粉もんなら自信あるんやけどな~》
『はい、かっこいいです!(美味しかったです!)』
《え?》
『え?…………………………!?』
以前大阪に行った際に、白石さんに焼いて貰ったお好み焼きが美味しかったことを伝えたかったのに……
それなのに、何故か心の声と発した声が逆になってしまって。
《かっこいいって何が?》とやっぱり白石さんには届いてしまっていた。
『えと、聞き間違いですよ。"美味しかったです"って言ったんです』
《いや…言い間違いレベルすごないか?絶対"かっこいい"言うたで》
『!い、言ってないです…!///』
言った言ってないで暫く口論を繰り返していると、白石さんがぷ、と笑い出した。
《強情やなぁ》と楽しそうに笑う声を聞いていると私も可笑しくなってきて、堪らずクスクスと笑みが溢れた。
『白石さん、色々相談に乗ってくれてありがとうございました』
《いえいえ。ちゅーか俺、大したアドバイスもしてへんで》
『そんなことないですっ』
不安だった時、白石さんの声を聞いたら不思議と安心出来た。
白石さんが"大丈夫"って言ってくれると本当に大丈夫だと思えるのは、私の中で白石さんの存在がとても大きい証拠だから。
今ここに白石さんがいたら、優しく微笑みながら頭を撫でてくれるのかな。
『(……会いたいなぁ)』
お礼だって、本当は直接会って言いたい。
目を見て、笑い合って、白石さんと手を繋いで、近くで温もりを感じたい。
『(触れる距離に、行きたいよ…)』
でも、白石さんも「会いたい」を我慢してるんだって知ってるから、こんなこと言えない。
私が寂しさと格闘している間にも、《そんな言うならご褒美欲しいわ》と会話の続きがされていた。
『?ご褒美って?』
《んーせやなぁ……あ、りんちゃんとテレビ電話したい》
『!?』
動揺してすぐに答えられないでいれば、《…やっぱ駄目なん?》と次第に悲しそうな声に変わってゆく。
実は、テレビ電話は初めてじゃなくて、前に一度だけしたことがある。
その時は画面越しで白石さんと話すことが只々恥ずかしくて……結局電話に戻ったのだ。
《りんちゃんが恥ずかしいのはわかっとるけど…顔見てちゃんと話したい》
『っ』
切ない声音にきゅううと胸が締め付けられて。
そうだよね、いつまでも恥ずかしがってたら前に進めないよね。
『……わ、私も、白石さんのお顔を見ながら話したいです』
《!ほんま?》
『はいっ』
電話よりもっと白石さんを傍に感じたい。という気持ちは紛れもない本音だった。
《ほな一旦切って、またかけ直すな》と言う白石さんに頷き、ツーツーと電話が切れる。
……と同時に、私は慌てて自分の服装や髪型をチェックし始めた。
『(私、パジャマだった…っ)』
寝る前に電話をしていたから勿論パジャマだし、髪もただ無造作に下ろしただけ。
取りあえず落ち着かなきゃ、と自分に言い聞かせるようにリップクリームを塗っていると、再び携帯の着信音が鳴り響いた。
緊張しながらも何とかボタンを押すと、パッと映った姿にドキリと心臓が跳ねる。
私と目が合った途端、嬉しそうにふわりと微笑むから、声を出すのが遅れてしまった。
『あの、こんばんは…っ///』
《ははっこんばんは。やっと顔見れた》
そう言って、今度は照れ臭そうに笑う白石さん。
その笑顔に又もや胸を射抜かれてしまい、コクコクと顔を縦に振るのが精一杯だった。
(画面越しだけど)じっと見つめ合うこの時間が恥ずかしくて、何て言おうかなと言葉を探していると……《ぐ…っ》という声?と共に突然白石さんが画面から消えた。
『!?白石さん、どうかしましたか…っ?』
《いや…………りんちゃんが可愛くて、胸が苦しくなってしもーて……》
俯きながらも胸の辺りを押さえる白石さんを、『ふへ?』と目を丸くして見つめる。
《何やまた可愛くなってへんか?》と更に褒められてしまえば、私の顔は真っ赤っかに染まった。
《もー心配やわ。せめて傍にいられたらええんやけど、》
『し、白石さん///』
ブツブツと白石さんが心配事を並べるから、身なりをあんなに気にしていた自分が可笑しくなる。
思わずクスリと笑ってしまうと、《…笑い事ちゃうで?》と画面には眉を下げた白石さんの顔が映った。
『だって、心配し過ぎです。私は毎日白石さんのこと考えて…』
そこまで言ってからハッと口に手を当てる。
様子を伺うように画面を見てみると、ニマニマと嬉しそうに口元を緩めた白石さんがいて、『うう…』と恥ずかしさから俯いてしまった。
《そーか、りんちゃんは毎日俺のこと考えてくれとるのかぁ》
『!!///』
居た堪れなくて『毎日じゃなくて時々です!』と嘘をつきそうになったけれど、白石さんの嬉しそうな顔を見たら言えなくて。
頬の熱を感じながらもコクリと頷けば、《俺も同じ》と優しい声音が返ってくる。
《いつもりんちゃん何しとんのかなーって考えとる……早よ会いたくて仕方ない》
切なさと色気を含んだ声に変わって、ドキリと鼓動が跳ね上がった。
『(…白石さんこそ、更にかっこよくなってる)』
それに、何だかキラキラが増して、また一段と大人っぽくなったような……
バカップル丸出しの掛け合いをしているとも気付かずに、私は改めて白石さんに見惚れていた。
《この間、電話で大学の話したの覚えとる?》
『?はい。勿論覚えてますよ』
お父さんの影響で薬剤師に興味を持って、その方面に進学したいのだと教えてくれた。
迷わず顔を縦に振る私を見て、白石さんはホッと安心したような表情をした。
《俺な、東京の大学に行こうと思っとる》
《教わりたい教授もおるし》と話す白石さんの声を、私は目をまん丸にさせながら聞いていた。
そんな私に気付いた白石さんはポリポリと頬を掻きながら、《もしかして嬉しくないん…?》と冗談混じりに、少し不安気に尋ねてくる。
『(……そんなわけ、ないよ)』
前に、紅葉さんが白石さんのことを教えてくれたことがあった。
その時も嬉しかったけど、本人から改めて言われるとまるで違う……
嬉しくて嬉しくて、夢見たい。
『……そしたら、会いたいって思った時に、すぐに会えますね』
その幸せを噛み締めれば、自然と頬が緩んでいく。
白石さんは少しだけ目を見開いた後、《…ほんまやな》と優しく微笑んだ。
《絶対受かったるから、もう少しだけ待っててな》
『っはい』
《あ、でもそれまで会えへんかったら流石に泣くで?》
『そ、そんなこと絶対にないです…!』
ブンブン取れそうなくらいに首を横に振った後、『文化祭も行きますから』と私は少し食い気味に話してしまう。
胸の高鳴りを感じながら、楽しそうに笑う白石さんを画面越しで見つめていた。
ふと時計に目を向けるといつの間にか時間が過ぎていて、《ほな、そろそろ》と白石さんが切り出した。
『……………』
《りんちゃん?》
『あ、えと……今日いっぱいドキドキしたので、眠れるかなぁって思って、』
それもこれも全部、白石さんのせいなのだけど。
でも、私がもっと鍛えれば(←?)一々反応せずに鼓動が安定するのかな。すぐに顔も赤くならないかもしれない。
まだまだだなぁとお兄ちゃんの口癖に似たことを思いながら、再び画面に目を向けると……
『あ、あの、白石さん?』
《…………………………》
考える人のポーズを取りながら、ふーと息を吐いている白石さん。
その顔が何故か赤く染まっている気がして、『??』と私はただ首を傾げた。
《(っこれ、傍におったら絶対アカンやつ…)ほな、羊でも数えたろか?》
『!だ、大丈夫です///(そしたらもっと眠れなくなっちゃうっ)』
自分が小さい子になったような気がして、慌てて首を横に振ると白石さんにクスクスと笑われてしまう。
眠りに落ちるまで白石さんの声を聞いていたら、もしかしたら夢の中でも会えるかもしれないけれど……(←恥ずかしくてもう言えない)
名残惜しくも『おやすみなさい』と電話を切ろうとすれば、《りんちゃん》と優しく呼び止められた。
《これからも、色んなこと話して共有していこな》
『!はい、』
《おやすみ。大好きやで》
瞳を細めて、あまりにも優しい顔を向けるので……おさまった頬の赤みがまた増していく。
『わ、私もです』と何とか返してから、同じタイミングで電話を切った。
ドキドキドキドキ。未だに高鳴る鼓動を感じながら、ベッドにそのまま横になる。
『(やっぱり、羊数えてもらえば良かったかなぁ…)』
白石さんが東京に来てくれることが嬉しい。
何より……白石さんの未来にも、私が当たり前にいることが嬉しい。
『(あと何日で会えるんだろう)』
次に会えるのは四天宝寺の文化祭だから……と指折り数えていく。
その日を心待ちにして、私は白石さんが笑った顔を思い浮かべながら深い眠りに落ちていった。