未来へ
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陸「りんねーちゃん、輪投げやろーよ!」
空「それ終わったら金魚すくいがいい!」
『わわ、2人共走ったら危ないよ…!』
数分後、りんは双子に両腕を掴まれながらお祭りを楽しんでいた。
さっきまでは自分も同じことをリョーマにしていたというのに、今やすっかりお姉さんの立場である。
朋「あんた達、りんちゃんあんまり困らすんじゃないわよ!」
陸&空「「わ、鬼朋香だ…!!」」
「「りんねーちゃん助けて!」」と2人がぎゅーっとりんに抱き付くので、怒るに怒れず。
面食いめ…と我が弟達のあざとさには、呆れを通り越して感心してしまう朋香だった。
空「あの綺麗な金魚、りんねーちゃんにあげるねっ」
『ほんと?ありがとう、空くん』
そう宣言してから一生懸命に手を動かす姿を見つめ、りんは自然と微笑みを浮かべていた。
碧と同い年くらいだろうか。
武士を目指している小さな従弟の姿と重なり、微笑ましい気持ちでいっぱいになった。
『(小さい子って可愛いな)』
好きだなぁ、としみじみ思った時に、ふと気付いた。
『(……そっか、こういうことで良いんだ)』
好きなこと、今一番自分がしたいこと。
こういった日常で感じたことを、行動に移していけば良いのだと。
漸く吹っ切れたりんは双子と一緒に金魚すくいに集中していると、「桜乃大丈夫かな?」と隣で呟く声がした。
『?桜乃ちゃん?』
朋「だって、今頃リョーマ様と2人っきりよ。さっきは"ファイト"なんて言っちゃったけど」
「やっぱり羨まし~~」と嘆く朋香。
リョーマは優しいから大丈夫だとりんは答えようとするが、そういう意味ではないと徐々に気付いていく。
『(……そっか。だから桜乃ちゃん、顔真っ赤だったんだ)』
もしかしたらファンや憧れではなく、本当に恋をしているのかもしれない。
りんがその可能性にたどり着いた時、「!やば、お母さんから連絡来てた」と朋香は焦り始めた。
朋「あんた達もう行くよ。お母さん待ってるって」
陸「え~やだぁ!」
空「りんねーちゃんともっと遊ぶ!」
「文句言わないの!」と朋香が叱咤すると、2人はしゅんと大人しくなった。
見兼ねたりんは小指を差し出し、『じゃあ約束しよう』と提案する。
『また会う約束。今度はもっといっぱい遊ぼうよ、ねっ』
双子の弟達は顔を見合わせてから、柔らかく微笑むりんに小指を近付ける。
「…ん、"やくそく"する」「絶対だからね」と泣きべそをかきながらも笑顔になる双子に、りんも『うん!』と強く頷いた。
3人の姿が見えなくなるまで見送った後、りんはガヤガヤと行き交う人々の群れに紛れていく。
『(お兄ちゃんに連絡しないと)』
巾着から携帯を取り出して、"今から行くね。どの辺りにいるの?"と文字を打った。
だが、あまり携帯を見ない兄のことだ。もしかしたらこちらから見付ける方が早いかもしれない。
りんはベンチがある場所を目指して歩き出したー…その時、前から歩いて来た女性と思い切りぶつかってしまった。
その拍子に『…っ』と転んでしまうりんと、「いった~い」と声を上げる女性。
「大丈夫か?」
「うん~ちょっと腕が痛いけど」
「危ねーな気を付けろよ!」
『!ご、ごめんなさい、』
一緒にいた男はりんを睨み付け、彼女の肩に腕を回しながら去っていく。
りんはゆっくりと起き上がるが、下駄の鼻緒が片方切れていることに気付いた。
『(う、泣いちゃ駄目…)』
視界が涙の膜でぼやけそうになり、ぐっと唇を噛み締めて堪えた。
弱々しくも下駄を持ちながら歩き出した時、ふと白石の顔が頭を過ぎる。
今、もし彼が一緒にいたなら、「りんちゃん大丈夫か!?」と真っ先に心配してくれるのだろうか。
きっと優しく涙を拭って、困ったように笑って……
鼻の奥がツンと痛くなるのを感じていると、遠くのベンチにリョーマが座っているのが見えた。
『っおに、』
次第に駆け足になっていくが、兄の表情を見た途端……立ち止まってしまった。
その隣には桜乃がいて、リョーマが見たこともないくらい穏やかな表情をしていたから。
『……………』
静かにその光景を見ていたりんはくるっと足の向きを変え、その場を後にした。
***
花火が上がる音を聞きながら、すっかり日の落ちた道をとぼとぼと歩く。
下駄を片方履いていないりんは目立つのか、すれ違い様に何度か振り向かれていた。
『(……ここからでも少し見れるんだ)』
先程よりずっと少ないが、土手のところから花火を見上げている人達の姿が。
りんもそっと顔を上げて夜空に広がる花火を見つめていると、携帯の着信音が鳴り響いた。
表示された名前はやはり"お兄ちゃん"で、りんは暫く悩んでからピッとボタンを押す。
『も、もしもし』
《今何処にいんの?》
『っえと、さっき友達と会って、その子と花火見るね……ってメールしたよ』
《……見てない》
りんの予感は的中だ。だが、携帯をチェックしないリョーマが自分に電話を掛けてくれたことが嬉しくて。
『…急にごめんね、お兄ちゃん』とりんは花火を見上げたまま話した。
《別にいいけど……そこから見ると遠くない?》
『?え?』
そこから?と不思議に思いつつ辺りを見渡せば、「バーカ」と電話越しに聞こえていた声が鮮明になる。
後ろを振り返ったりんは、『っどうして……』と困惑した。
リョーマは携帯電話を持ちながら、目を丸くするりんにゆっくりと近付いていく。
『お兄ちゃん、あの………痛っ!』
額にデコピンされて、思わず涙目になるりん。
リョーマを見れば顔や首に汗をかいていて、甚平も少し着崩れていた。
『お兄ちゃん…もしかして、探してくれてたの?』
リョ「……そうだよ、普通は心配するだろ」
「バカりん」と今度は両方の頬をつねられ、『ほ、ほめんらさい…!』と素直に謝罪する。
やがて切れた鼻緒と素足で立つりんに気付き、リョーマはハァと溜め息を吐く。
突然しゃがみ込み背中を向けたので、『えっと…』とりんは首を傾げた。
リョ「それじゃ危ないから。乗れば」
『でも、いいの…?』
リョ「…いいから」
リョーマに急かされるようにして、りんはその背中に体をくっ付ける。
その瞬間ぐいっと持ち上がり、リョーマにおんぶされながら歩き出した。
『(……懐かしいな)』
兄の後頭部を見つめていたら、小さい頃に同じようにしてくれたことを思い出した。
確か…リョーマの後を慌てて追いかけていた時に転んでしまい、大泣きしてしまって。
リョーマは今みたいにしゃがみ込み、「行くよ」と小さい体で必死にりんをおんぶしてくれたのだ。
あれからずっと、りんにとって兄はヒーローだった。
『ごめんね……迷惑掛けて』
リョ「別に迷惑じゃないけど。何で嘘付いたんだよ」
『う、嘘じゃないもん…っ本当に友達といて、』
リョ「…ふーん」
「"友達"ね」と何もかも見透かされたように言われ、りんはドキリと冷や汗を流した。
『!そうだ、桜乃ちゃんはどうしたの?』
リョ「ああ…小坂田が戻って来て、一緒にいると思うけど」
『そうなんだ…』
取りあえず一人ではないことがわかって、ホッと胸を撫で下ろす。
リョーマと桜乃が一緒にいるところを見て逃げ出したのは……桜乃が恋をしているのだと、気付いてしまったから。
確信はないが、きっとそうなのだろうと思った。
『(邪魔しちゃいけないって思ったのに、)』
2人きりにしてあげたいと思ったのも、"寂しい"と思ったのも…どちらも正直な気持ちだった。
『……お兄ちゃん』
リョ「何?」
『好きな人、いるの?』
あまりにも予期していなかった質問に、リョーマは思わずりんを落としそうになる。
声のトーンから真剣に聞いているのだとわかり、「何それ」といつものように返すことが出来なかった。
『(……だって、あの顔知ってるよ)』
まるで愛おしいものを見つめるような、優しい顔。
白石が自分を見つめてくれる時……良くしているから。
その表情を思い出してから、自意識過剰かもしれないとカァアアと顔に熱が溜まっていく。
それでも、あの目で見つめられる度に心臓が跳ねて、きゅーっと胸が苦しくなることは確かだった。
りんが背中の上で恥ずかしさと格闘していることも知らず、「…何だよその質問」とリョーマは漸く口にした。
『だって、お兄ちゃんにだけ知られてるのってずるい、』
リョ「…あんなに人前でイチャイチャしといて何言ってんの?」
『!?い、(イチャイチャ!?)してないもん!///』
リョ「…………」
あんなにお互いハートを飛ばし合っているというのに、自覚がないのか…と呆れるリョーマ。
慣れとは怖いもので、今更一々驚きはしない。が、いつか白石には「自重しろよ」と言ってやりたかった。
『もし好きな子が出来たら、応援するね(梓さんの時はいっぱいヤキモチしちゃったけど…)』
リョ「…前はあんなにいじけてたのに?」
『!うう…もう大丈夫だよ。応援するっ』
高々と宣言するりんに、ふっと笑って。
「ありがとう」とリョーマが言うので、何故か泣きそうになってしまった。
大好きな兄が離れていく寂しさは、どうしても消すことが出来ない。
けれど…あんなに優しい顔をするリョーマの味方でいたいと、そう強く思うから。
『(……こんなに違うんだ)』
前に白石におんぶしてもらった時は、ソワソワしたりドキドキしたり、何処か恥ずかしくて。
リョーマの背中は心地良くて、小さい頃からずっと自分を守ってくれる……兄のものだった。
ぼんやりとそんなことを考えながら、ウトウトしていた目を閉じるりん。
すう…と背中越しに寝息が聞こえ、リョーマは「りん?」と問い掛けた。
リョ「(………寝てるし)」
自分は汗だくになりながらりんを探して、おんぶして帰っているというのに……呑気な奴。
そんな風に悪態を吐かず許してしまうのは、結局自分が妹には甘いからで。
打ち上がった花火は、暗い夜道を照らしてくれる。
リョーマはゆっくり歩きながら、先程聞かれた言葉を思い出していた。
好きな人、いるの?
リョ「……いるよ。今、背中で眠ってる」
呟いた声は誰にも届かず、ただ自分の胸にだけ突き刺さる。
遠くの方でまた一つ、花火が打ち上がる音が響いた。