未来へ
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カラン、コロンと下駄の音が響く。
いつもは人気のない神社もお祭りが開催されるとなれば、わっと賑やかな雰囲気となっていた。
出店が立ち並ぶ場所で、わーと子供のように目を輝かせながら歩く少女が1人。
白地に朝顔柄の浴衣、髪を1つに纏めたりんはとても儚げでしとやかだが、行動は無邪気そのものだった。
そんな妹には慣れっこのリョーマはというと、呆れながらも「食べるの?」と聞いてあげていた。
『うん!綿飴とかき氷食べたいな。あとね、射的と金魚すくいやりたいっっ』
リョ「…そんな一遍に出来ないから。順番な」
パァアアと嬉しそうに目を輝かせるりんは、恐らく祭りの参加者の中でも上位のはしゃぎっぷりだろう。
その無邪気さに呆れているリョーマも、今日は珍しく甚平を身に纏っていた。(※母に強制的に着せられました)
黒地に縦縞模様が何処か大人っぽい雰囲気を漂わせ、更にぐんと伸びた身長がそれを加速させていた。
リョ「…楽しそうだね」
『?うん、楽しいよ。だってお兄ちゃんとお出掛けなんて久しぶりだもんっ』
くるっと振り返り、本当に心から嬉しそうに微笑む。
花(に紛れてハート)を飛ばすりんから、リョーマはふいっと視線を逸らした。
近くの出店で綿飴を買う様子を、りんは首を傾げながら見つめる。
差し出されたそれを『ありが…』と受け取ろうとした瞬間、パクッと先に食べられてしまった。
『!ひ、ひどい、』
リョ「誰もあげるなんて言ってないし」
『そんな…』と兄の発言に衝撃を受ける。
しょぼんとするりんをさり気なく見つめていたリョーマは、口元に綿飴を押し付けた。
『!』
リョ「…今日だけ特別な」
甘い味が口いっぱいに広がっていき、ぱっと顔を上げるりん。
『ありがとう、お兄ちゃんっ』と嬉しそうな姿に小さく笑い返したリョーマは、先を歩き出した。
りんは綿飴を持ちながらその後をついて行き、先程の言葉は自分に対して言っているのだろうと気付いてしまう。
『("特別"、ずっと続けばいいのに…)』
それが叶わないことはわかっていても、願わずにはいられない。
ぼんやりと兄の背中を見つめていれば、「何してんの?」と足を止めてくれていた。
『(暗いのやめる…っ今日を楽しまなきゃ)』
りんははむっと綿飴を口に入れて、『お兄ちゃん、次はあれやろう!』と金魚すくいを指差した。
その後もお面を買ったり、射的をしたり、焼きそばをシェアしながら食べたりと2人はお祭りを楽しんだ。
『あ、ゴミ捨ててくるね』とりんが駆けて行った後、「リョーマ様ぁ~!!」と遠くから聞き覚えのある声が響いた。
朋「やっぱりリョーマ様だった!キャ~すごい偶然!」
桜「こ、こんばんは。リョーマくんもお祭り来てたんだね」
リョ「っ小坂田、竜崎」
突然現れた同級生2人に、目を丸くするリョーマ。
「リョーマ様、甚平すごい似合ってますぅ!」と目をハート型にした朋香に言われ、桜乃も顔を赤く染めながら同意する。
リョーマは家で何回も妹や母に褒められていたので、「…ども」と小さく頷いて対応した。
朋「リョーマ様は誰と…」
質問する前に、ハッと衝撃を受けた顔をする朋香。
朋「…ま、まさかリョーマ様、女の子と来てるんじゃ……」
桜「ええっそうなの…?」
リョ「?」
女の勘が働いた朋香は、コソコソと内緒話をするように桜乃と話す。
学校でもリョーマはモテることを知っているので、その可能性はあり得なくないのだ。(※リョーマが塩対応の為、言い寄る女子は少ない)
『お兄ちゃんっ今ね、あっちに……あれ、桜乃ちゃん朋ちゃん?』
桜&朋「「りんちゃんっ!」」
駆け寄ってくるりんを見て、2人が密かに安堵しているとは知らず。
『久しぶりだね~』とりんは嬉しそうに笑い、女子達はきゃっきゃっと再会を喜んだ。
リョ「(…入りづらい)りん、"あっちに"何?」
『!あ、そうだった。ちょっとついてきて欲しくて、』
興奮気味のりんにつられ、リョーマ、桜乃、朋香の3人は移動することにした。
***
河「お、越前~何だ皆も来てたのか!」
リョ「!河村先輩、」
りんに連れてこられたのは"焼き鳥屋"で、何故か頭に白タオルを巻いた河村がそれを焼いていた。
良くわからないまま立ち尽くすリョーマに、「食べるか?俺からのサービス」と差し出す。
『河村先輩、この焼き鳥すごく美味しいですっ』
河「本当?良かった」
リョ「上手いっス。……いや、そもそも何で先輩が焼く側に?」
リョーマは妹の順応力の高さに驚きつつ、皆が一番知りたい部分を尋ねた。
河「えーっと…ここの店主が俺の店の近所で働いてて、毎年夏祭りに参加してるんだ。
親父の古くからの知り合いでさ、今日は手伝い」
「流石に寿司屋は出来ないからね」と苦笑する河村。
そう言いつつも"河村寿司"と大きく書かれたタオルを巻いているところを見ると、ちゃっかり宣伝はしているらしい。
河「さっき不二や菊丸達も来たけど、会わなかった?」
リョ「げ、そうなんスか?」
桜「(今リョーマくん"げ"って言った…)」
先輩達に会えばこの状況をからかわれるだろうと予測し、正直な反応をしてしまうリョーマ。
優しい河村は「良かったね、一緒に来れて」とこっそりりんに伝え、仲の良い兄妹を微笑ましく思っていた。
暫く談笑していると、「「ねーちゃーん!!」」とだだだとこちらに向かって来る足音が響いて……
朋「!ちょ、あんた達どうしたの!?」
「へへ、母さんに連れて来てもらった!」
「ねーちゃん美味しそうなの食べてる!ずるい~~」
バッと朋香の腰に抱き付いたのは、小さな2人の男の子。
「はいはい、わかったから!」と焼き鳥を串から外し、朋香が差し出す。
「2人共久しぶりだね」と桜乃が挨拶しているので、顔見知りなのだろう。
朋「えーっと、こっちが弟の陸で、こっちが空です…」
「「こんばんはー!」」
疲れた様子の朋香とは打って変わって、双子の弟達は元気良く挨拶する。
りんは微笑みながら『こんばんは』と屈んで目線を合わせた。
すると、双子はじーっとりんとリョーマを交互に見渡し、
陸「このお兄ちゃんが、ねーちゃんがいつも言ってる"リョーマ様"?」
朋「な!?///」
空「でもリョーマ様彼女いるじゃん」
リョ「!?」
「ねーちゃん失恋したんだね…」と幼い弟達に憐れみの目を向けられ、朋香は「っあんた達ねぇ」と怒る寸前だ。
りんは誰のことを言っているのかわからずリョーマに助けを求めるが、何故か横を向かれてしまった。
桜「えっと、りんちゃんはリョーマくんの妹だよ」
『?初めまして、越前りんです。仲良くしてね』
ふんわりと優しく微笑むりんを見て、双子の弟達は目をまん丸にさせる。
今までの無邪気さはどこへやら、「「う、うん…///」」と何故か2人揃って恥じらい始めた。
朋「…何よ、あんた達急に大人しくなって。さてはりんちゃんに惚れたな?」
陸「!?な、何言ってんだよ!」
空「そうだよ!"としのさ"ありすぎだし…!」
朋「…何真剣に考えてんのよ」
リョ「(……ませガキ)」
呆れる朋香の後ろで、リョーマが眼光を鋭くしていたことは誰も知らなかった。
コソコソと恥じらいながらも弟達は姉に耳打ちし、「えー嫌よ!」と朋香は声を上げる。
やがて申し訳なさそうにりんと視線を合わせた。
朋「……りんちゃん、断ってくれて全然良いんだけど、この子達が一緒に遊びたいんだって」
『えっ私と?』
朋香の後ろに隠れながらも、チラチラと見上げてくる小さな男の子達。
その可愛らしさにりんは丸い瞳を柔らかく細め、『…うん、遊ぼっか』と笑顔で頷いた。
朋「ええ!いいの?もうすぐ花火だけど、」
『うん!私も陸くんと空くんと仲良くなりたいし…』
りんはくるっと振り返り、『お兄ちゃん、いいかな?』と同意を求めた。
リョーマは溜め息を吐きつつ、「先に場所取っとくから。早く来いよ」とりんの頭をぽんと叩いた。
朋「りんちゃんごめんね!ほんとーにありがとう…桜乃、悪いけど私も後で行くから!」
桜「う、うん、大丈夫だよ。一緒にいなくて平気?」
朋「!なーに言ってるの」
朋香は一瞬だけリョーマを見つめてから、桜乃にだけ聞こえるように声を落として話す。
暫くして彼女の顔が真っ赤に染まったので、りんは『?』と首を傾げながらその光景を見つめた。
「じゃあね~リョーマ様ぁ、また後で!」とぶんぶん手を振る朋香と、両手で小さく手を振るりんに見届けられながら、リョーマと桜乃は人混みに消えていった。