未来へ
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要「あー涼しい、生き返る……」
窓から図書室に入った要は、冷房のきいた室内に感動していた。
雪はこれみよがしに「肩揉みましょうかっ?」と提案したが全て却下されてしまい、今は彼を見つめることに専念している。
要「やっぱ私立は良いよなぁ、こういう整備がちゃんとしてて」
『?先生の学校はなかったんですか?』
要「公立だったからな。すごい荒れてる学校でさ、ここ(聖女)とは正反対」
「しょっ中窓ガラスが割れてた」と笑いながら話す要に、りんと雪は想像出来ず首を傾げる。(※聖華女学院はお嬢様学校です)
雪「はいはい!要先生は何で教師を目指そうと思ったんですか?」
ピシッと挙手するように質問する雪。
りんも知りたかったので少し前のめりになり、そんな2人に要はゆっくり話し出した。
要「…そうだな。やたら反抗してた時期に、見捨てず向き合ってくれた先生が1人だけいて」
懐かしむように目を細め、窓の外に目を向ける。
要「いつも真っ直ぐで…暖かい人だった」
「俺もこんな風に生きたいって思ったよ」
そう呟いた要の横顔は何処か寂しそうで、りんは思わずドキリとしてしまった。
『(こんな先生の顔、初めて見た…)』
要が憧れた"先生"は、どんな人なのだろう。
もっと聞いてみたいが、切なく笑う姿に何となく踏み込んではいけない気がした。
ふとこちらに顔を向け、「そんなことより宿題終わったのか?」と尋ねる要はいつも通りだった。
雪「(ギクリ)え、えーと、私はあと数学のドリルが少しだけです!りんは職場体験の行き先よね?」
『う、うん』
要「何か悩んでるのか?」
『やりたいことがわからなくて…』と思わず下を向いてしまう。
雪も絵に関わる仕事がしたいから美術館に行くし、他の友達も其々行く先が決まっているらしい。
自分だけ取り残された気持ちになっていると、そんなりんに要は肩を落とした。
要「…りんの好きなことって何だ?」
『好きなこと…?』
要「少しでも興味を持ったら、まずはそれをやってみる。向いてる向いてないはこれから知れば良いしー今はその準備期間な」
「はい深呼吸」と提案され、りんは言われた通りすーはーとゆっくり息を吸って吐く。(何故か雪も一緒に)
『(準備、期間…)』
不思議と要の言葉がすっと入ってきて、りんの不安を楽にしてくれた。
『(でも、私の興味あることって何だろ…?)』
頭に思い浮かべていた時、「私がりんだったら絶対悩まないのになー」と口を尖らせる雪。
雪「とにかく人前に出るわ!芸能人やアイドルだってなれるかもだし、」
『ふえ!?げ、芸能人?』
雪「要先生もそう思いますよね?」
要「まーなぁ、確かにりんは可愛い顔してるけど……確実に止められるな(白石くんとか、すっごい嫌がりそう)」
『?』
嫉妬深い恋人は勿論だが、過保護な兄(リョーマ)も妹の芸能界入りには首を横に振るに違いない。
それに長期合宿中、りんに想いを寄せているであろう男達を何人見たことか……
要「……まぁ、また何かあったらいつでも先生に相談しなさい」
『!はい』
要は別の事も心配しつつ、『ありがとうございます、先生』とふわふわ笑うりんの頭を撫でたのだった。
***
夕食後、りんは自室で本を読んでいると、机の上の携帯電話が鳴った。
表示された名前と写真にドキッと胸が高鳴り、少し緊張しながら電話に出る。(※一緒に撮った写真を設定しました)
『もしもし、』
《あ、りんちゃん?今電話大丈夫?》
『はい!大丈夫ですっ』
《ほんなら良かった。今何してたん?》
『えと、本読んでました』
『白石さんは?』と尋ねると、《風呂の順番待ち中でな、俺も本読んどった》とすぐに答えてくれる。
電話越しで会話をしている時、りんは話している白石の姿を想像するのが好きだった。
ベッドの上でリラックスしながら…?それとも床に座りながらなのか……今どんな表情をしているのだろう、と。
最近は毎日こうして夜に電話をしているが、その度に想像するのだ。
『白石さん、部活はどうですか?』
《んーこの時期から予備校行く奴も増えてな、参加人数もぼちぼちや》
《せや、この間中等部覗いたら、金ちゃんが後輩指導しててなぁ》と嬉しそうに語る白石に相槌を打ちつつ、りんはベッドの上に移動する。
白石の話に『ふふっ』と笑いながら、あることが気になっていた。
『あの…白石さんは、将来のこととか、何か決めてたりしますか?』
《ん?将来って…進学とか職業のこと?》
『はい、』
《せやなぁ、大学は薬学部のあるとこに行こうと思っとるで。一応クラスも理系やし》
『薬学部……薬剤師さんとかですか?(すごい)』
《うん。オトンが働いとるから色々話聞いて、だんだん興味湧いてきてな》
《まだ希望やけど》と笑う白石だが、植物や毒草の話をいつも楽しそうに話す姿を知っているので、全く違和感がなかった。
『(……白石さん、ちゃんと考えてるんだ)』
それに比べ、職場体験の行き先でさえ迷っている自分が恥ずかしい。
ついこの間まで同じ合宿に参加していたというのに、彼が少し遠くなっていくような気がした。
りんは落ち込んでいく思考を振り払うようにフルフルと頭を左右に振っていると、コホンッとわざとらしい咳払いが聞こえた。
《あー…それでな、その大学っちゅーのは》
大好きな人の声を聞いているというのに、何故か上手く聞き取ることが出来ない。
そんな不安な気持ちは電話越しでも伝わってしまい、《…りんちゃん、何かあったん?》と尋ねられる。
『え…?』
《いつもより元気あらへん気ぃするわ。体調悪いとか…》
『だ、大丈夫です!』
慌てて首を横に振るりん。
《ほんまに?》と心配そうな声音が聞こえ、ズキンと胸が痛んだ。
《俺、頼りないかもしれへんけど…何でも言うてくれてええんやで》
『……白石さん』
白石が頼って欲しい、甘えて欲しいと願っていることはりんもわかっている。
ただ、彼に打ち明ければその"差"を突きつけられる気がして……怖い。
『……えと、』
《うん》とりんが話すのを待っていてくれる優しさに、今度はきゅんと胸がいっぱいになっていく気がして。
そんな白石の対応に不安な心は癒されていき、りんは夏休み明けに職場体験があること、まだ行き先が決まっていないことをゆっくり話していった。
《そーか……確かに体験場所って悩むもんなぁ》
『はい…要先生は"好きなことをやってみろ"って言ってくれたんですけど、』
《(同意見とか嫌やけど)それは俺も一理あるで?挑戦出来る良い機会やし》
『白石さんは何処だったんですか?』
《職場体験は花屋やったで》
思わず『お花屋さん?』と目をパチパチさせながら尋ねてしまう。
それに対し、《あ、やっぱ驚くか?》と白石の声も笑いを含んでいた。
《最初から決めてた訳やないで?ただな、花が好きやなーって思っただけなんやけど》
《気付いたら立候補してたわ》と何処か嬉しそうに語る声を、りんは静かに聞いていた。
『(白石さんも、初めから決まってた訳じゃないんだ……)』
そう思えたら、漸く胸のつかえが取れた気がした。
自分と比べて白石は大人だといつも思っているので、同じように悩んでいたことに安心したのだ。
『私……興味あること、見付けてみます。それで挑戦したいです』
《うん。りんちゃんなら大丈夫や。俺も応援しとる》
『っはい!ありがとうございます』
『えへへ』と漸くりんにも笑顔が戻ってきた。
……のも束の間、《それか、俺のとこに永久就職っちゅー手もあるで?》との提案に、一瞬時が止まり掛ける。
《りんちゃんのことは俺が養ったる。1人や2人任したれ》
『へ……………………え、え?///』
意味を理解した途端、ボンッと沸騰しそうなほどに顔が赤く染まる。
1人や2人とは……未来のベイビーのことを言っているのだろうか。(←珍しく察しが良い)
その甘い提案に、りんの鼓動はドッキドッキと異様なほど高鳴っていく。
その反面、白石の冗談っぽい口調にモヤモヤしてしまって。
《りんちゃん、聞いとる?》
『~~~~っ///』
恥ずかしいやら寂しいやら。様々な感情が入り混じった時、『ま、まだわかりません…!!』と叫んでいた。
白石の声が聞こえる前に慌てて電話を切ってしまい、暫くしてからハッと気付く。
『や、やっちゃった………』
あんな風に言ってくれて嬉しかったのに、どうして素直に喜べなかったのだろう。
りんはじわりと目頭が熱くなっていくのがわかると、ボフッとそのままクッションに顔を埋める。
『(だって、だって私は、)』
ずっとそうなれたらと憧れていた……大切な夢だから。
自分の不甲斐なさにぐすっと鼻を啜っていた時、コンコンと部屋のドアをノックされた。
「りん、入るよ?」と聞こえた声に慌てて起き上がる。
『っお兄ちゃん、どうしたの?』
リョ「風呂、次りんの番」
『あ、うん。今行くね』
リョ「………何かあった?」
りんは何事もなかったように部屋を出ようとするが、リョーマにじっと顔を見られて思わず立ち止まってしまった。
『な、なんでもない…』とへらりと笑っていても、その目は赤く潤んでいる。
リョ「(………下手くそすぎでしょ)」
何年一緒にいると思っているのだろうか。
必死に隠したところで、妹の強がりや嘘なんてすぐにわかってしまうというのに。
ベッドに置いてある携帯がチカチカと光っていることに気付き、リョーマは何かを察する。
りんの目を自分の腕でゴシゴシと擦っていることに気付いたのは、『お兄ちゃん、痛いよ…っ』と声が聞こえた時で。
『(?お兄ちゃん、機嫌悪い……?)』
何処かムスッとして見えるリョーマに、りんも首を傾げる。
もしかして…と額に手を当てようとすれば、「熱ないから」とすぐに否定されてしまった。
リョ「……あのさ、明日って暇?」
『?う、うん』
コクッと頷いたりんの目を見て、リョーマはもう一度自分の腕で擦ったのだった。