優しい嘘
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<D組で待っとる。>
白石からのメッセージを確認したりんは、校舎まで駆け足で向かっていた。
何とか教室の前までたどり着くと、乱れた息と髪を整えながらゆっくりドアを開ける。
すぐにその姿を見付け、ゆっくりと振り返った姿にドキンと胸が高鳴った。
白「りんちゃん、来てくれたんやな」
『遅くなってごめんなさい…!ずっと携帯見てなくて、』
白「俺こそごめんな。突然でびっくりしたやろ」
「どうしてもりんちゃんに会いたくなってしもーて…」と少し気まずそうに話す白石に、カァッと顔を赤くするりん。
『わ、私も会いたかったです…』と小さくなりながら伝えれば、白石の顔は嬉しそうに和らぐ。
その表情に心臓を鷲掴みにされた気がして、きゅうっと苦しくなった。
『えと、どうしてここ(D組)なんですか?』
白「りんちゃんがここで勉強してたんやなーって想像すると、何や込み上げてくるもんがあってな……浸ってたんや」
『!ふぇ///』
白「どの席やったん?」
『こ、ここです』とりんは照れながら窓に近い席を指すと、「へ~この席かぁ」と楽しそうに椅子を引いて座る白石。
りんはすぐ隣の席に座ろうとしたが、一瞬躊躇い、白石の後ろの席に座った。
白「ははっそこは隣の席やろ?」
『っ良いんです。だって、隣だと白石さんが見えないじゃないですか』
白「?え、』
目を丸くする白石は、顔を赤く染めて俯いてしまったりんの言葉をじっと待った。
『この席だと、白石さんの姿が見えて安心するんです。
こうして傍にいてくれることが、夢じゃないって思えるから』
元々歳も違えば、住んでいる場所も離れている2人。
クラスは違えど、同じ制服に身を包み、同じ学校に通えることが奇跡のようだった。
きっとこんな経験は、もう二度と出来ないだろう。
『……このままが、良いのに』
無意識に口から溢れてしまい、りんはハッと気付いた。
頭ではわかっていても、これからまた離れ離れになってしまう寂しさはどうしようもない。
そっと触れた感触に驚いて前を見ると、白石の掌がりんの頬を包み込んでいた。
まるでどんな言葉も受け止めてくれるような、優しい瞳を向けてくれる。
『白石さんと………離れたくないです』
本音を口にした途端、ここに来て過ごした日々を思い出し……それがまたりんの胸を切なくさせた。
体温を共有したくて、頬に置かれた掌にそっと自分の手を重ねる。
白「…………自分だけやないからな」
聞き返そうとした言葉は、唇ごと塞がれてしまった。
りんは驚きで目を丸くしながらも、至近距離で自分を見つめる瞳からは逃れられなくて。
もう一度傾いた白石の顔が近付くと、りんは受け入れるように目を閉じた。
『……んっ』
少し乾いた唇も、頬に置かれた掌も、触れているところ全てが熱い。
離れていく熱を寂しいと感じてしまい、りんは自分の思考に顔が赤くなっていくのがわかった。
白「……俺かて、りんちゃんと離れたくない。このまま大阪に連れて帰りたいわ」
「りんちゃんが掌サイズになってくれれば、内緒でポケットにでも入れられるんやけど…」と真面目な顔で考え出す白石に、『何ですか?それ』と思わず笑ってしまう。
『あ…でも、そんなに小さくなったら、もうキス出来ないです』
白「!?」
『?白石さん?』
残念そうに眉根を下げるりんに、ぐぅ…と呻き声のような音(?)を出しながら胸を押さえる白石。
どうしたのかとりんが心配していると、熱っぽい視線を向けられてドキリとした。
白「それって……もっとしてええってこと?」
『っ!?え、えと///』
じーっと見つめてくる白石から視線を逸らすことが出来ず、ぽぽぽと可哀想な程りんの顔は赤く染まっていく。
答えを待たずしてその端正な顔が近付いてくるので、心音が落ち着くことはなかった。
「…時間切れ」と耳元で囁いた後、唇を啄むようにキスをされる。
『白石さ…「ごめんな。りんちゃん充電させて」
何処か切羽詰まったような声にりんの胸の奥も苦しくなり、コクンと頷くのが精一杯で。
目を瞑ったことを合図に唇が重なり、さっきよりも深いそれに脳が蕩けそうだ。
頬に触れていた手はいつの間にか頭の後ろに回されていて、『っふぁ、』とりんが声をもらす度にぐっと引き寄せる力が強くなる。
『(頭、くらくらする)』
昨日まで使っていた教室でこんな事をしている背徳感と、誰かに見られたら…という緊張感がりんを戸惑わせていた。
だが、薄っすらと目を開けると余裕のない表情をした白石がいて、きゅんと喜んでしまう自分もいる。
はっと息を吐き出した彼の顔がもう一度近付いた時……ガタンと机に体が当たってしまった。
白「………机邪魔やな」
『は、はい……』
今となっては机も、2人の愛を隔たるただの障害物だ。
甘酸っぱいような、何処か気まずいような空気が漂う中、今なら直接伝えられると思った。
『大好きです』
『白石さんが大好き』と、込み上げる愛おしさを隠さずにいれば、素直に言葉にすることが出来た。
白石は意表を突かれたように目を丸くし、「~~~っもー何なん?」とガシガシと頭を掻く。
その反応にもしかしたら間違えてしまったのかと不安になり、りんの瞳に涙が滲んだ。
『あの……ごめんなさい、困らせて』
白「……ほんまやなぁ」
『っ!』
白「困るに決まっとるやん………こんなに可愛いんやから」
「毎日毎日更に可愛くなるんやから、将来どうなってまうんやろ…」と深刻な顔をする白石を、りんはキョトンと見つめる。
少なくとも、悪い意味で困らせてしまった訳ではないらしい。
安心していたりんは、顎を持ち上げられたことにすぐ反応出来なかった。
『!?あのっ///』
白「…もう止まらへんからな」
噛み付くようなキスを何度も何度もされて、りんは先程の告白を少し後悔するのだった。
***
白「…… りんちゃーん、ええ加減出てきや?」
『む、無理です……………っ』
窓に背中を預けるようにして立つ白石は、困ったように肩を落とした。
あの後、カァァアと顔を真っ赤に染めたりんは教室のカーテンの中に隠れてしまい、それをぐるぐると体に巻き付けた。
今や芋虫のようになってしまった恋人に、白石は少し寂しくなる。
白「(あれでこんな反応なら、もっとすごいことしたらどうなるんやろ…)」
その日、りんが溶けてなくなってしまわないか心配だ。
だが……りんのあまりの可愛さにやられ、がっついてしまったのも事実で。
白「… ごめんな。つい夢中になってしもーて、」
『………………』
白「りんちゃんと居れるん、あとちょっとやから……少しでも長く顔が見たい」
暫し沈黙の後、ぐるぐる巻きのカーテンの隙間からそろ…とりんは顔を出す。
柔らかく微笑みながら"おいで"と言うように両手を広げる白石を見て、大人しくその胸に飛び込んだ。
『私も、恥ずかしがってごめんなさい…』
白「そこは謝らなくてええよ?恥ずかしがってるりんちゃんもかわええし」
『ふぇ!///』
つい本音が出てしまうと、りんの顔は更に真っ赤に染まり、恥ずかしさからかポカポカと胸を叩いてきた。
可愛い攻撃に白石の頬が緩むと、今度はくるっと反対向きになってしまう。
怒らせてしまったのではと焦る白石だが、寄り掛かるりんの耳が真っ赤なことに気付いてしまった。
白「(……俺の方が溶けそうや)」
いつまでもピュアな反応をするりんに、何度萌え殺されそうになったことか……
白石はまたキスしたくなる衝動をぐっと抑え、「そういえば」と思い出したように呟いた。
白「合宿中、すごい強いOBの選手に会ったんやで」
『!そうなんですか』
白「徳川さんって言うんやけど、りんちゃん知っとる?」
OBの選手は毎日合宿所に来てくれる訳ではないので、面識のない選手も多かった。
りんがきちんと話したことのある選手といえば、鬼とハラテツくらいで。
首を横に振ると、「そーか」と何故か安心したように白石は息を吐いた。
白「(徳川さんって、絶対りんちゃんが好きな感じやもんな…)」
『?』
恋愛感情はさて置き……クールな雰囲気と意外に熱いプレイスタイルが、リョーマと何処となく似ているのだ。
りんが懐くところを想像しただけで、ムカムカと負の感情が湧き上がる。
白石は誰にも渡したくない思いから、ぎゅっとりんを抱く手に力を入れた。
『次は、夏休みに会えますね』
白「せやな。ウィンブルドンりんちゃんも行くんやろ?イギリス初めて行くし、色んな意味で緊張するわ…」
『私も初めてですっ』
ウィンブルドンで行われる世界大会。青学は無事、全員の出場が決まった。
氷帝、立海、四天宝寺のメンバーも選抜され、合宿での実力が評価されて皆喜んでいた。
顧問は勿論、りんもマネージャーとしての参加が決まり、今から気合十分だ。
白「『(……そろそろ行かないと)』」
集合時間が迫り、お別れの時が近付く。
お互い頭ではわかっていても離れることが出来ず、りんは無意識に白石の手をきゅっと握り締めていた。
白「そうや。写真撮らへん?」
『写真…?』
白「さっき小春とユウジが撮っとるの見て、そういえば2人の写真ってあんまりないなー思うて」
日頃から隠し撮りしているのでりんフォルダには困らないが(※良い子は真似しないでね)、やはりツーショット写真も欲しい。
その提案にりんは俯くのをやめて、『撮りたいですっ』とパァッと顔を輝かせた。
途端にウキウキし出すりんが可愛くて、愛おしくて、白石は一分一秒も見逃さないように見つめてしまう。
『白石さん、ちゃんとカメラを見て下さい…っ』
白「ん?ちゃんと見とるで」
『わ、私じゃなくて、こっちです…!///』
りんの心配もむなしく……白石がりんの頭にキスを落とすのと、カシャッとシャッター音が鳴ったのはほぼ同時だった。
***
一方、なかなかやって来ないりんを心配している者達がいたー…
手「……大石、集合時間まであと何分だ?」
大「あと10分だ」
「正確には10分35秒だ」と後ろの席で呟く乾。
青学のバスの中では皆がそわそわしていて、先程からこの会話しかしていなかった。
不「りんちゃん、どうしたんだろね…いつも15分前には必ずいるのに」
菊「だよね、桃とおチビがまだなのはわかるけどさ~」
海「同感っス」
河「(……桃、越前)」
りんと、遅刻の常習犯である2人の信用度の差があり過ぎて、河村は少しだけ同情してしまった。
要「あれ?まだりん来てないの?」
大「!先生、りんちゃんが何処にいるかご存知ですか?」
ひょこっとバスを覗いた要は、大石のあまりの剣幕に驚き、掛けていた眼鏡がズレた。
要「ああ、うん。多分白石くんに呼ばれてどっか行ったんだと思うよ」
「「「「「「「!!!??」」」」」」」
その事実を知り、こんな遅い(?)時間まで振り回すなんて……と皆の頭に怒りマークが付いていく。
手「………先生。迎えに行って来ても良いですか」
要「え…良いんじゃないかな」
無表情ながらゴゴゴ…と手塚から凄まじい威圧感を感じれば、静かに頷くしかない。
その姿はまるで娘の彼氏を敵対する父親のようで、要は白石を悼むようにそっと瞳を閉じた。