優しい嘘
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*りんside*
『お兄ちゃん…?』
頬に手を添えたまま無言になるお兄ちゃんに、思わず不安になって問い掛けた。
真っ直ぐに見つめてくる瞳を見返していると、お兄ちゃんってやっぱりかっこいいなぁ…なんてしみじみ思ってしまう。
暫くそうしていると、ぽたっと今度は私の線香花火の火が落ちてしまった。
リョ「……タイプとか、あんまり考えたことないけど」
『そ、そうなんだ』
リョ「少なくとも、すぐにヤキモチ妬く奴ではない」
『!?』とショックを受ける私の頬をむにっと引っ張りながら、「変な顔」とお兄ちゃんは感想を溢す。
リョ「あと、中三になっても怖がりで一緒に寝たがったり、クリスマスやバレンタインに張り切り過ぎる奴も無理」
『っ!』
リョ「やたらハートだらけのお弁当を作ったり、落ち込んだ時に一緒に風呂に入りたがる奴もやだ」
『!うう…』
思い当たることが多過ぎて、グサッグサッと幾つものナイフが心臓を貫いたような衝撃を受けた。
客観的に聞くと、私ってすごく……
『う、ウザい……?』
リョ「……………」
『(そうなんだ…!!)』
良く雪ちゃんが「ブラコン」って言っていたことを思い出して、更に衝撃を受けた。
お兄ちゃんは頷きはしないけど、無言が肯定だと言っているようで。
私は溢れそうになる涙をぐっと堪え、泣かないようにお兄ちゃんの花火だけを見つめた。
『……じゃ、じゃあ、もうしないね、』
リョ「………ん」
『私、これ以上お兄ちゃんに嫌われないように頑張る……我慢する』
私の知ってるお兄ちゃんは、怖いドラマや映画を観て眠れなくなった時、「しょうがないな」って言いながらいつもベッドの端に避けてくれる。
どんなご飯も、全部残さずに食べてくれる。
私が熱を出した時は、寝ずに看病してくれる。
辛い時、いつも一番に気付いてくれる……優しい人。
だから、もうお兄ちゃんに迷惑を掛けたくない。
でも、
『っお兄ちゃんのこと大好きだなぁって思っても、もう伝えちゃ駄目……?』
お兄ちゃんにウザがられても、嫌われても、私は多分、ずっとずっと大好きだから。
お兄ちゃんの線香花火の火がふっと落ちると、暗くてどんな表情をしているのかわからなくなる。
ひゅっと息を吸った音さえも怖い。
耳を塞ぎたくなっていると、パッと何かが付いた気配がした。
『これ…………』
顔を上げた私の目に映ったのは、辺り一面に広がる光。
川の水に反射する光があまりにも綺麗で、言葉を失っていた。
リョ「………蛍」
その呟きに隣を見ると、お兄ちゃんも驚いたような顔をして前を見つめていた。
蛍が乱舞して出来た幾つもの光はとても幻想的で、吸い込まれるようにその光景に魅入ってしまう。
それから、どの位の時間が経ったのだろう。
静かに立ち上がったお兄ちゃんの後を慌ててついて行こうとした時、ぐらっとバランスを崩してしまった。
『(転ぶ……!)』
ぎゅ、と固く目を瞑ったけど、想像していた衝撃はやって来なくて。
怪我をしないで済んだのは、お兄ちゃんが咄嗟に支えてくれていたから。
『あ、ありがとう』と伝えてから離れようとするけど、そのままの体勢でぎゅっと抱き締められた。
『(……え…………)』
いきなりお兄ちゃんの体温に包まれて、私は頭が追い付かなかった。
だって、さっきまでの冷たい口調からは想像も付かないくらい……温かくて、優しい。
『お、兄ちゃん………?』
リョ「………………っごめん」
苦しそうに呟いた後、お兄ちゃんが離れていく。
どうしたんだろうとその様子が気になっていると、「バーカ」とまた頬をつねられた。
『っもう、頬っぺた伸びちゃうよ…!』
リョ「早くしないと置いてくよ」
そう話したお兄ちゃんはいつも通りで、ほっと胸を撫で下ろしながらついて行った。
こんな時間まで付き合ってくれて、花火のバケツまで持ってくれるお兄ちゃんはやっぱり優しい。
『(……背も、すごく高くなってた)』
抱き締められた時、筋肉の付き方も目線も今までと違くて、びっくりした。
これからも…私の知らないところでお兄ちゃんは色々な経験をして、大人になっていくんだ。
『(時間掛かるかも…しれないけど)』
寂しいって思わないくらい、強くなるからね。
決意を表す為に前を向き、お兄ちゃんの背中を目に焼き付けた。
***
合宿最終日。コートで世界大会の代表選手を発表した後、各自部屋に戻って荷造りをすることになった。
杏「じゃあね、りんちゃん」
『うん。杏ちゃんも元気で』
同室の杏ちゃんに挨拶をすると同時に、うるっと瞳に透明の膜が溜まった。
「またいつでも会えるじゃない」と杏ちゃんに笑われて、私はコクコク頷きながら抱き付いた。
杏「今度、良かったら家にも遊びに来てよ。兄さんが居るかもしれないけど」
『うんっそしたら家にも来て!お兄ちゃんが居るかもしれないけど』
顔を見合わせ、どちらともなくクスッと笑った。
杏「そういえば、寿葉ちゃんとは話せたの?」
『さっき部屋に行ったんだけど、もうバスに乗っちゃったみたいで…』
眉を下げる杏ちゃんに、『いいの』とニッコリ笑ってみせる。
寿葉ちゃんとは色々あったけど、少しだけ距離が縮まったような気がして嬉しかった。(連絡先も交換出来たしっ)
まだ集合時間には大分早いけれど、荷物を持ちながらロビーに行けば……ドアの外に人の姿が見えた。
『要先生!』
要「おーりん」
大きなリュックを背負う私を見て、「何かリュックが歩いてるみたいだな」と笑う先生。
私はムッと頬を膨らませながら、煙草の煙をすーっと吐き出す先生を見つめた。
『先生って、煙草吸うんですね』
要「吸うよ?まぁここでは流石に我慢してたけど…最終日だし大目に見て」
語尾にハートマークを付けながら話され、何だかずるいなぁと思ってしまった。
ふと、白石さんも大人になったら煙草吸うのかな?と想像してみるけれど、爽やかなイメージと結び付かない。
頭の中が白石さんでいっぱいになり掛けて、ハッと気付いた。
『あの、私…先生に伝えたかったことがあるんです』
要「ん?告白なら受け付けないけど」
『!?ち、違いますよ…っ』
ぶんぶんと音が鳴りそうなくらい顔を横に振ると、「冗談だよ」とまた笑われてしまった。
絶対からかわれてる…と少し悔しく思いながら、要先生と向き合う。
『あの、私が合宿に来る前のこと、覚えてますか?』
要「…覚えてるよ。あんな注意散漫なりん、初めて見たからな」
『うう、そうですよね…』
本当はこの合宿に最初から誘われていたけれど、色々あって一度断ってしまった。
それから何をしても落ち着かなかった私に、要先生が声を掛けてくれて。
『……あの時、先生が"私を必要としてる人はたくさんいる"って言ってくれたから、決意出来たんです』
お父さんに反対されるかもしれないけど、自分の気持ちをちゃんと伝えることが出来た。
『ここ(合宿所)に来て、色んなことを学びました。大好きな先輩達と同じ空間で生活出来たことも、すごく嬉しかった』
マネージャーとして必要としてくれる人がいることを知って、皆の力になりたいって改めて思った。
学校も、このまま皆と同じ校舎にいられたら良いのに…と何度も思ってしまうくらい、楽しくて。
『先生のお陰なんです。だから、あの時私の背中を押してくれて……ありがとうございましたっ』
心からの感謝の気持ちを述べてから、ペコリと頭を下げる。
「……っとに真っ直ぐだなぁ」と聞こえた声に顔を上げた時には、くしゃりと頭を撫でられていた。
要「どう致しまして…って言いたいとこだけど、選んだのはりん、お前だぞ」
『え?』
要「確かにきっかけは俺だったかもしれないけど、何かを学んだのは、りんがそういう姿勢だったからだ」
「俺も教師として来れて良かった」と呟き、頭を撫でてくれる先生。
嬉しそうな先生の顔を見たら、『はい!』と私も自然と笑顔になっていた。
『あ。でも、化学の(薬品を使う)実験はずっと怖いって思ってました』
要「素直か!そこはお世辞でも楽しかったって言っとけ」
先生に前髪をくしゃくしゃにされて、『もう良いです…!』と抵抗する。
暫く攻防を繰り広げていると……「一氏のせいやで!」とロビーの方から声が響いた。
ユ「小春~待ってぇや!」
小「嫌や!あんたがウチのとこ来ぃひんかったら、挨拶出来たっちゅーのに」
ツカツカと怒った様子でロビーから出て来た小春さんと、その後を追い掛けるユウジさん。
目が合うと、険しい顔付きをしていた小春さんの表情が一変した。
小「あらっりんちゃんと要先生やないのぉ。こないな所で何しとるん??」
『えと、ちょっと先生とお話しをしてて、』
小春さんに必死にしがみ付くユウジさんが気になって、しどろもどろになってしまう。
『小春さん達は…』と聞き掛けたところで、「それが聞いてぇや!」と返ってきた声にビクッと身体を浮かせた。
小「今朝な、ユウくんが思い出作ろう言うて来て、教室や宿舎で2人で写真撮っとったんやけど……そのせいで神尾くんに挨拶し損ねたんやで!」
「もうバスに乗ってしもーたみたい」と嘆く小春さん。
ユウジさんの腕を鬱陶しそうに払おうとしているけど、一緒に写真を撮るあたり、本当は仲が良いことは伝わっていた。
バスに忍び込む作戦をブツブツと呟いていた小春さんは、「あ、せやった!」と思い出したように私を見つめる。
小「蔵リンがね、りんちゃんが携帯見てくれへんって落ち込んどったで」
『えっ』
その言葉を聞いて、初めて今朝から携帯をチェックしていなかったことに気付いた。
慌てて鞄を探り確認してみると……白石さんから何件かメッセージが送信されていた。
『…あの、要先生っ少しだけ荷物見てて下さいませんか?』
要「それは良いけど。集合時間までにはちゃんと戻って来いよ」
『はい、ありがとうございますっ』
先生に頭を下げてから、小春さんやユウジさんにも挨拶をしてその場を立ち去った。
小「…何や、りんちゃん更に可愛くなったんやないの?綺麗がプラスされたってゆうのかしら」
ユ「そうか?まぁ元々かわええけど……俺にとっては小春が一番やからな!」
小「先生はどう思います~?(無視)」
要「さあーどうだろうね?」
小「はぁぁん。その読めない感じがまたそそるわぁ」
ユ「ええっ小春ー!?」
私が去った後で、実はそんな会話が繰り広げられているとは思わなかったー…