優しい嘘
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合宿最終日の前日ー…
じめじめした梅雨独特の暑い日が続いていても、日が落ちれば涼しい風が吹く今日この頃。
そんな夜に、宿舎の周りではあるイベントが行われようとしていた。
菊「花火いっぱい買ってきたよー!!」
大「色んな種類が売ってたぞ」
花火が入った袋を両手いっぱいに持ち、じゃーんと見せる菊丸。
同じ袋を持った大石もそれを掲げると、先に集まっていた者は「おお!」と声を上げた。
桃「待ってましたぁ!!早くやりましょーよ!」
海「ったく…ガキみたいにはしゃぎやがって」
桃「っ!お前こそ楽しくねーのかよ?ムスッとしてよ」
海「!?楽しいに決まってんだろーが…!」
そう叫んでしまってから、ハッと我に返る海堂。
ほんわかと花を飛ばす面々に気付き、居た堪れなくなった彼は桃城を蹴り飛ばした。
手「…海堂、同室のメンバーとは親しくやれているのか」
乾「それなら心配ないだろう。財前のブログを見る限り、仲は良さそうだ」
海「な…!ブログっスか?」
何のことだと、海堂は水が入ったバケツを落としそうになる。
乾に差し出された携帯を覗いてみると……そこには財前、赤也、日吉、自分の姿が写っていた。
しかも、寝ている海堂をバッグに3人が集まっている写真でー…
海「(あいついつの間に…!)」
『わぁ、海堂先輩可愛いですね』
海「!?りん、」
ヒョコッと現れたりんに、思わず体を浮かせる海堂。
紙コップとジュースをお盆に乗せて持つりんに、「人数分ご苦労だったな」と手塚が声を掛けた。
『いえっ先輩達こそ、花火の準備して下さってありがとうございます』
河「りんちゃん、さっき何作ってたの?」
『えと、ゼリーをちょっと…』
菊&桃「「ゼリー!?」」
途端に目を輝かせる菊丸と桃城に、りんはクスクス笑いながら頷く。
『オレンジと桃のゼリーなんですけど、皆さんお好きですかね?』
菊「好き好き!だーい好きっ!」
桃「嫌いな奴がいても、俺が全部食べるから安心しろ!!」
大「こら、桃は食べ過ぎるなよ」
手「以前もアイスの食べ過ぎで腹を下していただろう」
はいはい!と身を乗り出す菊丸と桃城が心配で、まるで息子を想うかのように溜め息を吐く大石と手塚。
「あ、不二ー!」と手を振る菊丸に合わせて振り向いたりんは、ドキッと反応した。
不「皆、お待たせ。賑やかだからすぐわかったよ」
白「相変わらず仲ええなー」
幸「準備してくれてありがとう」
先に宿舎から出て来たのは、201号室のメンバー。
「他の部屋にも声掛けて来たよ」と不二はニッコリと笑い、青学の輪に加わった。
りんは隣に立った白石と目が合うと、ぽっと頬を染める。
『こ、こんばんはっ///花火楽しみですね』
白「せやな。花火なんて久々やわ」
お風呂に入った後だからか、白石の雰囲気がいつもと少し違って、一段と輝いて見えてしまう。(※りんビジョン)
キラキラな空気を纏う彼を直視出来ず、平静を装いながら前を見つめた。
白「りんちゃんは花火とかするん?」
『私も小さい頃にしたきりなんです。だから今日は、いっぱい出来そうで嬉しくて』
ワクワク身を弾ませながら話すりんに、白石の表情もふっと柔らかなものになる。
その顔を直視してしまった為にりんの頬は遂に真っ赤になり、慌てて目線を落とした。
幸「……ごめんすごく入りにくいんだけど、りんちゃんに借りてた本、返しても良いかな」
『ふぇ!?は、はいっ』
2人の世界に浸っていた為、突然話し掛けられたりんはビクッと体を浮かせた。
差し出された本は、元々りんが図書館から借りたもの。
幸村に面白かったと伝えたところ…彼も興味を持ったので貸していたのだ。
『どうでしたか?』
幸「うん、面白かったよ。特にダリアが良い働きをしてた」
『そうですよね!最初はスパイだと思ってドキドキしましたけど、意外な展開でした』
幸「そうそう。ヒマワリと手を組んだとこも良かったよね」
「貸してくれてありがとう」と微笑む幸村に、『どういたしましてっ』とりんも嬉しくなる。
すっかり置いてけぼりの白石は、「え、それ何の本??」とただ首を傾げるばかりだ。
『えと、色んな植物が出てくるんですけど、皆擬人化されてるんです。それぞれの花言葉によってストーリーや性格も違くて…』
白「擬人化…」
『悪の組織と戦って、それがまた面白くてっ』
そのファンタジー溢れる内容を聞いても、白石は正直ピンときていなかった。
だがどんな本を好きでも、キラキラと瞳を輝かせながら話すりんはとんでもなく可愛い。ということは確かだった。
白「その本、俺にも貸してくれへん?」
『え?良いですけど…返却期限明日までですよ?(明日で合宿最後だから)』
白「うん、今日寝る前に読むから平気」
爽やかな笑顔の裏に、メラメラと闘志を燃やしながら白石は話す。(※幸村だけ気付いています)
『そういうことなら…』とりんは花を纏った少女達が表紙に映る本を、白石に渡した。
幸「…本当に1日で読むつもり?白石ってファンタジー系興味なさそうだけど」
白「何言うてん幸村くん。俺は花(毒草)も本も大好きやで?きっとすぐ読めてまうわ」
早口で返す白石を、幸村は疑い深い目で見つめる。
白石の嫉妬深さには呆れるが、『感想聞かせて下さいねっ』と無邪気に笑うりんを見れば何も言えないのだった。
***
かくして、メンバーが揃い……各々と花火を満喫していた。
千石「あれっ亜久津が参加してるなんて珍しいね」
亜「チッ……太一がどうしてもって言うからよ」
面倒臭そうにしながらも、後輩想いな一面を隠し切れていない。
そんなチームメイトに千石は思わず笑みを浮かべてしまうと、「!何キモい顔してんだ」と思い切り頭を掴まれてしまった。
「痛い痛い!」と涙目になる千石は、遠くの方にりんの姿を見付けた。
千石「(?りんちゃん、何してんだろ)」
じっと観察していると、どうやらジュースやお茶が入ったペットボトルを持ち、皆の元へ注ぎに行っていることがわかった。
亜久津は千石の視線の先を追うと…その姿に思わず意見したくなってしまい、
亜「また働いてんのかよ。忙しい奴だな」
千石「え、亜久津ってりんちゃんと交流合ったっけ?」
亜「あ゛?……別にねぇよ」
千石「何今の間!?絶対何かあったじゃん!」
まるで女子のように「ずるい!」と騒ぐ千石の頭を掴み、「いい加減にしねぇとドタマかち割るぞ」と凄む亜久津。
だが、千石の知らないことを一々教えてやるつもりもなかった。
『(お兄ちゃん、何処行っちゃったんだろ…)』
一方、キョロキョロと首を動かし、兄の姿を探すりん。
花火は行くと言っていたのにその姿が何処にも見当たらないので、どうしたんだろう…と不安だった。
神「わ、わ、りんちゃんっ溢れそう…!」
『!?ご、ごめんなさい…!』
慌てて傾けていた手を戻すと、間一髪でジュースが溢れるのを防いだ。
思わずフゥと息を吐いて安堵する神尾とりん。
そんな彼の横には杏がいて、嬉しそうに花火を眺める2人の姿にりんは癒されていた。
赤「おーいりん!何やってんだよ。こっち来て花火しよーぜ」
『!赤也先輩、』
仁「そのくらい自分達でやらせんしゃい」
『仁王先輩っ』
花火を持っていない方の手を振る赤也と、しゃがみ込みながらこちらを見る仁王。
ここで初めて何やってんだと問われ、ハッと漸く気付いた。
『確かに……どうしてこんなことしてるんでしょうか』
赤「いや、俺らもわからんけど」
真剣な表情で首を傾げるりんに、思わずツッコんでしまう赤也。
丸「そこのカーノジョ、暇なら俺らと遊びませんか」
『!丸井先輩っ』
ナンパのような台詞に振り向くと、花火が入った袋を掲げる丸井がいた。
赤「丸井先輩おかえりなさーい。良いのありました??」
丸「あったあった。何か回転式のやつとか、珍しいの色々貰ってきたわ」
「マジっスか!?」と楽しそうにガサガサと袋を探る赤也に、「小学生か…」と仁王は呆れたように呟く。
その光景を眺めていたりんの手元が突然軽くなり、気付けばペットボトルは丸井の手に渡っていた。
丸「飲み物ここ置いとくから、各自で持ってってくれー!」
『!』
大声で呼び掛けた後、「ほら」と丸井はりんの背中を押す。
その気遣いと、当たり前のように仲間に入れてくれることが嬉しくて、『はい!』とりんは笑顔になっていた。
仁「ほれ、たくさんあるぜよ」
『あ、じゃあこれが良いですっ』
花火に火を付けてくれた仁王にお礼を言い、『わぁー…』とその綺麗さに感動する。
そんなりんの姿に、3人の表情も自然と和らいでいた。
「すっげー綺麗じゃん」と丸井も一緒になって花火を楽しんでいると、じーっと何か言いたげな視線を感じた。
丸「?何だよ赤也」
赤「……なーんか、俺らいない方が良いっスか?」
丸「は!?///」
仁「赤也も珍しく気が利くのぅ」
赤也に続いてニヤニヤと口元を緩め出す仁王に、丸井の顔はだんだん赤くなっていく。
花火に集中していたりんは、ギャーギャーと楽しそうに戯れ出した(?)先輩達を不思議そうに見つめていると……「あ、りんちゃんいたー!」と呼ばれた。
芥「って丸井くんもいる!うっれC~~」
岳「何だよ、良いのやってんじゃん」
『ジロちゃん、がっくん!』
ヒョコッと姿を見せたのは、ジローと岳人。
寝癖の付いたジローの髪が気になり、りんは思わず手を伸ばしていた。
『…うんっ少し直ったかも』
芥「ほんと?ありがとーりんちゃんっ」
「もっと撫でて~」とぐいっと頭を押し付けながら甘えるジローに、『ふふ、くすぐったいよ』と言いつつリクエストに応えてあげるりん。
皆はその光景をガン見しながら、思うことは1つだった。
赤&丸&仁&岳「「「「(う、羨ましい……)」」」」
ジローのふにゃふにゃした振る舞いは天然ではなく、もしかしたら確信犯なのかもしれない。
皆にジロー=恐ろしい子という印象を与えているとも知らず、2人はほわほわとお花に包まれていた。
この後、回転式花火を楽しんでいると更に人が集まり、結局大人数で盛り上がるのだった。
***
宿舎から少し離れた場所に吊り橋があり、騒がしさとは一変して静寂に包まれていた。
橋の上でぼんやりと景色を眺めるリョーマの元へ、たったっと足音が近付いた。
『お兄ちゃん!やっと見付けたぁ』
りんの手には小さなバケツがあり、リョーマが問う前に『えへへ』と"それ"を見せる。
『お兄ちゃんと一緒に花火したくて、持って来ちゃった』
『もう線香花火しか残ってなかったけど…』と少し寂しそうに眉を下げるりん。
リョーマは「…さんきゅ」と火を付けた花火を、そっとりんの手から受け取った。
リョ「ここまで1人で来たの?」
『う、うん。暗くてちょっと怖かったけど、お兄ちゃんが絶対いるって自信あったから、』
リョ「(何その自信…)」
宿舎からそんなに離れていないといっても、山奥の夜道だ。
そんな所をたった1人で出歩くなんて…と叱りたくもなるが、姿を見せなかった自分にも非がある。
リョーマは何も言わず、小さな光を灯す花火を見つめた。
『……お兄ちゃんって、寿葉ちゃんみたいな子が好きなの?』
リョ「!!?」
いきなり過ぎる質問に、リョーマは動揺して線香花火の火を落としてしまった。
『大丈夫?もっとあるよ…っ』とわたわたしながらりんは新しいものを差し出す。
リョーマはコホンッと咳払いしてから、「何それ」と何事もなかったように呟いた。
リョ「…この間先輩達が言ってたことなら『あ、それは違うって思ってるから大丈夫…!(寿葉ちゃん忍足さんが好きだし)』
てっきり寿葉との関係を気にしているのかと思ったので、リョーマは自意識過剰のようで恥ずかしくなった。
兄の心情も知らず、ソワソワと落ち着かない様子のりん。
『お兄ちゃんと、そういう話あんまりしたことないから、』
リョ「確かにそうだけど…」
『あ、梓さんみたいな大人っぽい人?それとも、金ちゃんみたいに無邪気な子とか』
リョ「は?」
まさか金太郎の名前が出るとは思わず、素直に声に出してしまった。
この間はりんが確かに金太郎にヤキモチを妬いていると思ったが、彼を恋愛対象として見たことはない。(有り得ない)
そもそも、何故そんな思考回路になってしまったのだろうかー…
リョ「(……ほんとに、何て言うか)」
りんは何て言うか……あれだ。
リョーマはぐっと込み上げてくるものを感じながら、りんに向かって手を伸ばしていた。