優しい嘘
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テニスコートから離れた白石とりんは宿舎を目指して歩いていた………筈だったが、離れがたい思いから、遠回りして別の道を歩いていた。
繋がった手が嬉しくてこっそり微笑むりんの横で、白石は先程から険しい顔付きをしていた。
白「……………」
チラリと隣を見るとりんもこちらを見ていたらしく、ドキッと心臓が高鳴る。
頬を染めながらもふわりと微笑む姿に、白石の胸にハートの矢が刺さった。
白「(……っっか、かわええ、)」
でれっと頬が緩んでしまうのがわかると、慌てて険しい顔付きに戻す。
こうして白石はひたすら己と格闘していたので、りんの歩調が緩まったことに気付くのが遅れてしまった。
完全に立ち止まると、「りんちゃん?」と漸くその変化に気付く。
『……私と手、繋ぐの嫌ですか?』
白「え、」
『だって白石さん、ずっと難しい顔してるから……もしかしたらって』
しゅん、とまるで耳と尻尾を垂らすように落ち込んでしまったりんに、「ちゃうっ…!」と白石は慌てて叫んだ。
白「そんな訳あらへんやろ?りんちゃんと手繋ぐの好きやし、誘ったの俺やし」
『じゃ、じゃあ、何でそんなに怖い顔してたんですか?』
白「っそれは、こう……りんちゃんへの想いを抑えてたっちゅーか、愛しさが爆発しそうやったからで、」
キョトンと大きな瞳を更にまん丸にさせるりんを見て、白石は言ってしまった…と口元を覆う。
だが、りんを不安にさせているとわかった今、自分の想いを抑える必要は何処にもない。
彼女が悲しむ顔を見るよりは、ドン引きされる方がよっぽどマシだ。
白「あのな、もうぶっちゃけて言うけど……俺はりんちゃんとおると、色々したくなんねん」
『色々?』
白「つまり…………………エロいこととか」
『…………………エ!!?』
言われた言葉を繰り返そうとするが最後まで言えず、ただ鯉のように口をパクパクとさせるりん。
純度100%な反応に白石の胸はきゅっと苦しくなるが、大事なことなので確認したかった。
白「りんちゃんが俺に触って欲しいとか、甘えたいと思ってくれるのはめっちゃ嬉しい。
嬉しいんやけど……それは頭撫でたりとか、手繋いだりとか、そういうことで合っとる…?」
『!え、えと……///』
顔を赤く染めながらもコクリと顔を縦に振るうりんに、やっぱり……と白石の予感は的中した。
自分の"それ"とりんの欲は、違い過ぎる。そんなに綺麗なものじゃない。
白「……俺も、りんちゃんに触れたい」
そっと手を伸ばして頬に触れただけで、ぴくっと小さく反応する愛しい人。
恥ずかしがりながらも真っ直ぐに自分を見つめてくれるりんに、白石は目を細めた。
白「抱き締めて、キスして、まだ触れてないところに触って、誰にも見せたことのないりんちゃんを知りたい。
きっとりんちゃんが泣いて嫌がってもやめられへん」
"お互いもっと大人になったら""りんちゃんが高校生になったら"
ずっとそう想っていたのに、一緒にいればいるほど更に深い関係を求めてしまって。
白「…… こんな風に思っとるの、引くやろ?」
本心を吐き出した白石は覚悟してりんの様子を伺うと……地面を見つめながらぷるぷると震えていた。
白「えっりんちゃん?」
『~~~~~っありえないです』
いつもより低い声音に驚き、白石は無意識にビクッと肩を揺らす。
キッと顔を上げたりんの目には涙が溜まっていて、今にも零れ落ちそうだった。
『引くとか、どうしてそんな風に思うんですか?そんなこと、絶対絶対ありえないのに…っ』
白「あ、あの、りんちゃ…」
『私だって、同じ気持ちなんです。そ、そうなったらいいなって……思ってます』
『私の気持ちを、勝手に決め付けないで下さい…っ』
溜まっていた涙がポロポロと零れ落ち、透明の滴が赤く染まった頬を伝ってゆく。
目を見開いていた白石だったが、小さな体を震わせるりんを思い切り抱き締めていた。
白「っりんちゃん…ごめん、ごめんな」
『2人のことだから、一緒に考えたいです、』
白「ほんまやな……もっと早く言うべきやった」
こんなに余裕のない自分を曝け出しても、りんは引くどころか受け止めてくれるのか。
ぽんぽんと頭と背中をさすっているとだんだんと落ち着いてきたらしく、りんの涙も止まっていた。
鼻をすする姿を見て、思わずその鼻をかじってしまうと、りんの動きがピタッと止まった。
『(か、かじられた……)』
りんがぽけっとしている間にも、額、瞼、頬へと唇が寄せられていく。
思わず『ん、』と声を零してしまうと、ぐっと更に体を引き寄せられた。
白「はぁぁぁぁぁ可愛い………」
『わわ…っ』
幸せな溜め息を吐き出しながら、強く抱き締める白石。
更に密着したことによりドキドキと加速していく鼓動を感じながら、りんはそっと背中に腕を回した。
白「せやけど、怒ったりんちゃんは怖かった……」
『!だ、だって……寂しかったから』
白石が自分を大切に想ってくれることは嬉しい。
でも、触りたい、触れて欲しいと願ったことは事実で。
同じ気持ちだとわかったのも、事実で。
りんはぎゅうううと腕に力を込めて、まるで子猫のように頭を擦り付ける。
『白石さんだぁ…』と無意識に零れた言葉には気付かず、大好きな人の温もりを堪能した。
白「っっ///これで天然なんやもんなぁ、」
『?』
白「もーわかった!遠慮せぇへん」
「覚悟しててな?」
耳元でボソッと囁き、怪しく笑う白石はとてもかっこ良くて。
思わず見惚れてしまったりんだが、その意味を理解するなりボンッと顔が真っ赤に染まっていた。
謙「……って、あの2人いつまでイチャイチャしとるん!?」
財「誰かが空気ぶち壊さな、終わらないんやないですか?」
千「そげんことより……何で俺らは盗み見しとると?」
コソコソと木の影から2人の様子を伺うのは、謙也、財前、千歳の3人ー…
呆れ顔で千歳が問えば、謙也は何故か首を捻った。
謙「確かに……何でなんやろ。いきなり(イチャイチャが)始まった衝撃で忘れてもーた…」
財「謙也さんが"どうせなら通ったことのない道で帰ろう"言い出したから、変なもんに遭遇したんスわ。それで出るに出れなくなって」
謙「マジか、堪忍やで」
的確な財前の説明を聞いて、思わず真顔で謝る謙也。
しかし、確かに人通りがないといっても、あんなに大胆にイチャ付かれるとは誰も想像出来まい。
千「俺そろそろトイレ行きたいばい…」
謙「我慢しーや千歳!今出て行ったらブラック白石の餌食になるでぇ…!」
財「…いや、いつもの道に戻ればええんやないですか」
財前の冷静なツッコミに、謙也と千歳も「「確かに」」と声を揃えて頷いた。
ハァと溜め息を吐きながら立ち去ろうとする財前だったが、ふと後ろを振り返る。
相変わらずのラブラブっぷりに、頭の上に怒りマークが付きそうだ。
だが……微笑むりんはとても幸せそうで、可愛かった。
ふ、と思わず口元が緩み、「財前行くでー」と呼ぶ声の元に続いて行った。
***
『(あ、充電器ない…)』
お風呂に入って、寝る前に携帯を充電しておこうと思ったりんは、充電器をリョーマに貸していたことに気付いた。
夜も遅いので、携帯にメッセージを入れてみるが…兄のことだ。きっとすぐには見ないだろう。
留守中の杏にメモを残して、りんは静かに部屋を後にした。
206の部屋の前にたどり着き、トントンと軽くノックをする。
「どうぞ」と聞こえた声に安心して、りんはドアを開けた。
リョ「りん、どうしたの?」
『えへへ、夜遅くにごめんね。お兄ちゃん充電器持ってる?』
リョ「あ、持ってる」
「借りたままでごめん」と渡されて、『ううん』と首を横に振る。
キョロキョロと辺りを見渡し、『あれ、お兄ちゃんだけ?』と不思議に思った。
リョ「皆、売店とか風呂行ってる」
『そうなんだ「Is it that, a visitor?」
突然後ろに立っていた者に驚き、『わぁ!』とりんは飛び退く。
「Crowther, Welcome back.」とリョーマの声を受けながら、金色の髪をした青年はりんをじっと見つめた。
「オイシソウデスネ」
『へ!?』
突然とんでもない発言をされて、りんの声は思わず裏返る。
ポカーンと固まる妹を見兼ねて、「それ間違ってるから」と近付くリョーマ。
リョ「"お綺麗ですね"じゃない?」
「I see.(そうでした)」
『え、えと、』
『Thank you…』と恥じらいながらも返し、英語で自己紹介し合う2人。
リョーマと同室のリリアデント・蔵兎座(くらうざ)はりんを気に入ったらしく、ちょいちょいと手招きをした。
蔵「Do you want to know the secret of Ryoma?(リョーマの秘密、知りたいですか?)」
『…Secret?(秘密?)』
蔵「Always watches videos of the cat.(いつも猫の動画を観てます)
リョ「!りんに変なこと教えないでよ」
コソコソと話す蔵兎座の肩を引き、焦った様子のリョーマ。
りんはりんで、その光景を想像しながら『(可愛い)』と頬を緩ませていた。
『Can the older brother get up in the morning?(兄は朝起きれてますか?)』
蔵「He can get up.(起きれてますよ)」
それを聞いてほっとしたのも束の間…「タダ、メザマシウルサイ」と蔵兎座が溜め息を吐くように呟いた。
このままでは全てバラされてしまうとリョーマが危険を感じ始めた時、「たっだいま~!」とバンッとドアが開いた。
金「あれ?りんやんー!」
『き、金ちゃん…!?///』
リョ「だから服着て来いって……」
そこにいたのは、上半身素っ裸の状態で顔を輝かせる金太郎。
身長がかなり伸びたことで体格も良くなっていて、目のやり場に困ったりんは慌てて顔を背けた。
金「せやかて、暑くて面倒なんやもんー」
『金ちゃん風邪引いちゃうよ…っ』
金「そうや!りんが髪乾かしてーな」
『えっ』
漸くスウェットを頭から被った金太郎は、大きい図体からは想像も出来ないほど無邪気にお願いする。
リョ「…髪くらい自分で乾かしなよ」
金「えーワイりんに乾かしてもらいたい!コシマエのケチ」
リョ「誰がケチだ」
リョーマの頭にカチンと怒りマークが付いたのがわかり、りんはあわあわと慌て始める。
「ちょっと甘えすぎじゃない?」と指摘するリョーマに、「コシマエは冷たすぎるで」と金太郎も負けじと言い返した。
金「折角りんが遊びに来てるんやから、もっと仲良うしてもええと思う!」
リョ「っ別に冷たくないし。それに充電器借りに来ただけでしょ?」
金「ほら!その言い方が冷たいんや」
『き、金ちゃん…お兄ちゃん優しいよっ?』
2人が口論している間にも、「ぶえっくしょん!!」とくしゃみをしてしまう金太郎。
『金ちゃん、そこ座って』と促しつつ、りんは部屋に置いてあったドライヤーとヘアブラシを持つ。
喜んで待つ金太郎だったが、実際にドライヤーを当てたのはりんではなくリョーマだった。
金「えっ何でコシマエ??ワイりんがええのに!」
リョ「そんなに乾かして貰いたいならやってやるよ」
金「わわ!ボサボサにせーへんで欲しいわ!」
乱暴に髪を掻き乱すリョーマに、金太郎は嫌嫌と抵抗する。
りんはその光景を呆然と眺めながら、金太郎が羨ましい…という感情がだんだんと芽生えてきて。
蔵兎座はりんの視線の先を追い、何かに納得したような表情をした。
『…えと、私もう行くね。おやすみなさい』
「えー!もう行っちゃうん??」と嘆く金太郎に胸が痛んだが、そそくさとりんは部屋から出て行った。
蔵「"ヤキイモ"デスネ」
リョ「…それを言うなら、ヤキモチでしょ」
蔵「リョーマモ、ヤキモチ」
リョ「……………」
蔵兎座の日本語を正しつつ、「…違うから」とそっぽを向くリョーマの顔は微かに赤かった。