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寿「手紙?」
翌日の練習中ー…休憩の合間にコソコソと内緒話をするように話す女子達の姿があった。
聞き返す寿葉に、コクコクと顔を縦に振るうりん。
『うんっあのね、直接話すのが緊張しちゃうなら、手紙はどうかなぁって。手紙ってその人の人柄が伝わるから、貰ったら嬉しいと思うんだ(※白石の受け売り)』
懸命に話すりんに、寿葉は「でも、急に手紙なんて貰ったらびっくりするだろ」と不安を口にした。
確かにびっくりするかもしれないが、以前忍足は恋愛ものの映画やドラマを良く観ると言っていた。
いつだったか、氷帝の部員の間で少女漫画の回し読みをしていた……という情報もあるくらいなので、そういったことは嫌いではないと思ったのだ。
『私もね、前に父の日にお父さんに手紙渡したら、すごい喜んでくれたんだぁ。だから、手紙って心が込められてていいなって思うの』
寿「(…多分、それとは違う気がする)」
それは恋文ではなく感謝の手紙だろう。とツッコみたい気持ちを抑え、寿葉は遠くにいる忍足を見つめた。
丁度試合を終えたらしい。岳斗と話す姿はやはり格好いいし、不思議と彼の周りだけ輝いて見える。
緩みかけていた口元を、コホッと小さく咳払いすることで誤魔化す。
しかし…前を向くなり、全てわかっていると言わんばかりにりんが微笑みを浮かべていたので、寿葉の顔はボボッと赤く染まった。
寿「~~~っそこまで言うなら、書いてもいい」
『!ほんと?』
寿「その代わり、あんたも書くんだ!」
『え、ええっ!?』
寿葉と忍足のことで頭がいっぱいだったりんは、突然矛先が自分に向けられたことに驚いた。
『だ、誰に…?』
寿「何言ってんだ?そんなの彼氏に決まってるべ」
「あんた馬鹿か?」と言う視線を向けられ、りんは思わず息を呑む。
暫く顔を赤くして狼狽えていたが、いつも肝心な言葉を上手く伝えられない自分を思い出した。
『(……手紙、喜んでくれるかな)』
ありのままの気持ちを全部伝えたら、あの人はどんな反応をするだろうか。
照れたように「ありがとう」と微笑む白石を想像して、りんは膝の上に置いていた拳を握り締めた。
『……うん。私も書いてみる』
『一緒に頑張ろうねっ』とりんにぎゅうっと両手を握られた寿葉は、「ふん」とわざとらしく横を向いたのだった。
***
『(って、言ったは良いけど……)』
うーんと頭を悩ませながら、じゃがいもを手に取って見つめる少女が一人。
ここ、"エネルギースーパーたじま"は商店街の一角にあり、合宿所に近いこともあって選手達は頻繁に訪れていた。
食料品だけでなく生活用品も充実しているので、りんにとっても欠かせない場所である。
そこで明日のお弁当のレシピを考えていた筈だったが、いつの間にか寿葉との会話を思い出していた。
『(ど、どうやって渡そう………"お手紙書いてみました!"は唐突だよね。"何も聞かず、貰って下さい"………は何か怖いし、)』
寿葉にアドバイスしたにも関わらず、手紙を渡すまでのスムーズなやり取りが全く想像出来ない。(※2人は既にお付き合いしています)
もしかして普通に会話するより難しいのでは…?とぐるぐる悩み始めた時、「りんちゃん?」と声を掛けられた。
『!不二先輩』
不「偶然だね。買い物?」
『はいっ不二先輩もですか?』
不「うん。さっきまで隣の店にいたんだけど、水を切らしちゃって」
『確か、隣ってスポーツショップでしたよね』
不二はスーパーのすぐ隣にあるスポーツショップにいて、新しいグリップと交換していたことを話した。
そのお店は種類が豊富で、良くリョーマと白石も愛用していると言っていた場所だ。
「僕も一緒にいいかな?」と微笑む不二に顔を縦に振り、2人並んで歩き出した時……「不二不二~!」とまたもや聞き慣れた声が響いた。
菊「限定のチョコ出てたよ~!って、あれ?りん?」
『菊丸先輩!』
菊「何だよ不二、2人で仲良くして!俺がいることわざと言わなかっただろお!」
不「何のこと?英二。そんなわけないじゃない」
ニッコリ笑う不二に、菊丸は納得がいかないように「む~」と眉を寄せる。
菊「まぁいいや…りん、俺も一緒していいよね??」
『はいっ勿論です』
りんにしても大好きな先輩達に会えたことは嬉しいので、自然と笑みが溢れてしまう。
その反応にすっかり機嫌を良くした菊丸は、笑顔でその輪に加わった。
野菜売り場を3人で回りながら、今日の練習もハードだったこと、もうすぐ試験なことなどを話す。
ふと、りんが持つ買い物カゴを見て「お弁当用?」と不二が尋ねた。
『えと、はい。お兄ちゃんは毎日大変だから(作らなくて)いいよって言ってくれるんですけど、どうしても作りたくなっちゃって…』
何を食べても美味しいと喜んでくれる白石や、毎日残さずに食べてくれるリョーマ。
そんな反応をされれば、例え自己満足だとしても作り続けてしまうのだ。
不「何だか…2人が羨ましいな」
『?』
菊「ほんとほんと!俺だって久し振りにりんの手料理食べたいのに~~」
『せ、先輩…っ』
「おチビずるい~!」と大声で嘆く菊丸を、りんは周囲をキョロキョロ見渡しながら宥める。
菊「…それもだけどさ、俺達(青学)だってりんとご飯食べたいのに。白石とばっかいるんだもんな」
すっかりいじけてしまった菊丸の声は、だんだんと尻窄みになっていた。
確かに、合宿に来た時は梓が青学のマネージャーをしていたし、その後は(何だかんだあって)四天宝寺のマネージャーをすることになったので……青学の皆と一緒にいる機会は減っていた。
りんにとっては一緒の学校に通えているというだけでとても嬉しいことなのだが、実際にクラスが一緒なのも兄だけだった。
不「しょうがないよ、英二。白石はりんちゃんの恋人なんだから」
りんが困っていると思った不二はフォローをしつつ、2人の間に入る。
だが、"恋人"という響きに反応してりんの頬はポッと桃色に染まった。
『私も、皆と一緒に食べたいです』
菊「…ほんと?」
『はいっ本当です』
そう言うと、菊丸の顔がぱあっと輝いた。
りんは青学の皆のことを家族のように想っていて、先輩達も自分のことを大切に想ってくれていることを知っている。
なので、中々会えなくても"寂しい"と感じることはなかった。(合宿当初は思っていたこともあったが…)
それでも菊丸のように「もっと会いたい」と言って貰えることは嬉しいし、自分も素直に会いたいと思う。
『そしたら、菊丸先輩の好きなものいっぱい作ってきます!何が良いですか?』
菊「え!じゃあさじゃあさ、試合の時良く作ってくれた丸いおにぎりと、ウインナーがいい!」
『ふふ、わかりましたっ』
料理を思い浮かべながら、菊丸とりんはついついはしゃいでしまう。
不二だけは、そんな2人を何か言いたそうにして見ていた。
***
不「さっき英二が言ったこと、気にしないで良いんだよ」
スーパーからの帰り道。
荷物を半分持ってくれることにお礼を言っていたりんは、その言葉に首を傾げた。
『?どうしてですか?』
良くわからず、すぐに聞き返してしまう。
その菊丸は数分前、「大石と宿題やるんだった!!」と約束を思い出して急いで寮に戻って行ったばかりだ。
不二の口調はいつものように優しいが、その面持ちは何処か真剣だった。
不「僕らもりんちゃんと一緒にいれることは嬉しいけど、優先しなくても良いんだ」
その言葉の意味を考えて、不二が言おうとしていることが何となくわかってしまった。
りんは、合宿に来たばかりの頃…青学の皆と距離を感じていた時があった。
あの時白石は、「仲直り出来たんやろ?」と真っ先に変化に気付き、まるで自分のことのように喜んでくれた。
『…私、白石さんのことは一番特別で、だ、大好きだと思ってます。
でも、同じくらいお兄ちゃんや青学の皆も大切なんです』
それはりんの本心だった。
なのでどちらが優先か常に考えている訳ではなく……本当に自然に、身体が動いてしまうのだ。
『それに、白石さんはお兄ちゃんや皆のことも大切に想ってくれてるんですよ』
りんの言葉に表情を和らげていた不二だが、再び何かを考えるような素振りを見せた。
不「でも白石は「話って何?」
突然別の声が被さってきたことに驚き、不二とりんは反射的に声の主を探す。
そこには、宿舎の入り口に立ち、向かい合って誰かと話している忍足の姿があった。
幸いにも合宿所が山奥ということもあり、隠れる場所はすぐに見付かる。
不二とりんは邪魔をしてはいけないと本能的に察して、慌てて近くの茂みに身を隠した。
「れ、練習後で疲れてる時にごめんなさい」
忍「いや、それは別にええよ」
『(あれ、あの声って……)』
その声を聞いて、そろ…と茂みから顔を出すりん。
『(寿葉ちゃん…!)』
やはり、忍足と向かい合っている人物は寿葉だった。
いつもよりか細い声は何処か震えているので、緊張しているのだと離れていても伝わってくる。
思わずゴクリ…と喉を鳴らすりんを見て、不二も何となくだが気付いてしまった。
寿葉が後ろ手に手紙を持っているのを確認したりんは、思わずぎゅっと目を瞑った。
『(…頑張れ、頑張れ、寿葉ちゃん)」
「えっと…」や「その…」を繰り返す寿葉に、りんは心の中でエールを送り続ける。
そんな風に茂みの中から見守られているとは思いもしない2人は、ただ相手の出方を探り合って。
そして……寿葉が一歩、前に出た。