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桜が散り、夏の陽気を感じさせるような暑い日が続く頃ー…
りんが合宿に参加して2ヶ月が過ぎようとしていた。
「ーー次!」
広い体育館で、ピ!と笛を吹く音が響き渡る。
先生が合図すると、次の順番を待っていたりんは『はい!』と立ち上がった。
勢いをつけてマットに駆け寄り、綺麗に脚を伸ばして側転を決める。
2連続で完璧に決めたりんに、体育の先生は迷わず「よし、次!」と納得したように合図した。
日「(すごい身軽だな)………おい、さっきから何撮ってるんだ?」
運動神経が良いことは何となく感じていたが、それを目の当たりにした衝撃で言葉を失う者が数名。
日吉もその1人で、りんの可憐な見た目とのギャップに密かに驚いていた。
隣からこの場に不相応のシャッター音がしたので顔の向きを変えてみれば、飄々と携帯を向けている財前の姿がー…
財「ええ値段で買うてくれる人がおるから」
日「側転の動画をか?」
財「りんが何しても"かわええ"しか言わへんから大丈夫や」
何が大丈夫なのだろうかとツッコミたかったが、日吉はこれ以上詮索することをやめた。
世の中は色々な感性を持つ人がいるからな…と結論付けなければならない気がしたからだ。
2人がそんな会話をしている中、大技を決めた生徒もいて……
金「ふんぎーーーーっ!!」
トンッと助走をつけて体が浮いたと思ったら、
2回連続でバク転を決めた金太郎。
体が大きくなったと感じさせないその動きに、先生も「おお…!」と感動していた。
『金ちゃんすごいね!』
リョ「(猿みたい……)」
くるくる動き回るのはコートの中だけでなく、普段かららしい。
純粋に『すごいすごい』と感心するりんの隣で、リョーマは猿の耳と尻尾が生えた金太郎を想像していた。
次に、ピッと再び鳴った笛の音と共に「よっしゃー!決めるぜ!」と意気込みながら走り出したのは……赤也。
だが、勢い余って着地の際に思い切り尻餅をついてしまった。
赤「ちょ…!今のなし!もう一回頼みます…っ」
「切原、側転は△と……よし、次!」
赤「えええ!?今のはたまたまっスよ!」
天「体育館に鯛行くかい?………ぶ!体操するとたいそう疲れる………ぶぶ!」
赤「あんたはちょっと黙って!!」
次に並んでいたダビデがボソッと駄洒落を言うと、「何でこのタイミングで…!?」と他の生徒達の心の声が一致する。
『あ、赤也先輩…』とオロオロとその光景を見守っていたりんの髪が、くいと突然引っ張られた。
『えと……お兄ちゃん?』
リョ「……………」
無言のまま、後ろで1つに束ねたりんの髪を触るリョーマ。
ふわふわと跳ねる感触に『…どうしたの?』と堪らず聞いてしまうと、「別に」とふいと目を逸らされてしまった。
ガーンとショックを受けるりんは、自分の髪型を思い出した。
いつもは2つに結んでいる髪を、今日は何となく後ろで束ねていたのだ。
よっぽど変なのかなぁ…?と兄の反応にすっかり自信をなくしてしまい、そっと髪をほどこうとした時……
リョ「……可愛いじゃん」
『……………………ふぇ』
ボソッと聞こえた小さな声に、空耳だろうかと思わず疑ってしまった。
『(か、可愛い……?)』
リョーマがカルピン以外に"可愛い"と言うなんて……と信じ難い気持ちで見つめる。
呆然としていたりんだったが、すぐに身体中から嬉しさが込み上げてくるのを感じた。
『私、一生この髪型でいるね…!///』
リョ「…そこまでは言ってないけど」
嬉しい嬉しいと尻尾を振っているようで、たった一言でここまで…とリョーマも呆れそうになる。
だが、結局は妹の頭に手を置いて優しく撫でてやるのだった。
浦「妹さんは越前くんのことが好きなんでヤンスね~」
堀「(好きなんてもんじゃないけどな…)」
青学のマネージャーを務めるりんとの付き合いは長いので、堀尾も彼女の性格は重々承知している。
リョーマが入学当初からハート尽くしのお弁当を食べていて、それを作ったのがりんだと知った時の衝撃が懐かしい……(※りんのブラコンぶりは青学で有名)
堀尾から生暖かい目を向けられているとも知らず、すっかり上機嫌のりんはニコニコと笑っていた。
***
チャイムが鳴り響き、体育館から教室に戻る最中にB組(※白石のクラス)とすれ違った。
ぞろぞろと体育着で歩いて来る生徒達の中で、りんは無意識にある人物を探して首を動かしていた。
『(……あ、)』
遠くからそれっぽい人物が歩いて来るのを見付けて、ドキッと胸が高鳴った。
そわそわと身なりを気にして前髪を整え、汗臭くないかと今一度確認する。
『よ、よしっ』と1人意気込んで歩き出した時だった………
『わ!?』
「む!?」
ドンッと人にぶつかってしまい、赤くなった鼻を押さえながら『ごめんなさい…っ』とりんは慌てて顔を上げた。
幸「りんちゃん、大丈夫?」
『幸村さん!』
隣にいた幸村にコクコクと頷き、ぶつかってしまったのは真田だということがわかった。
「すまない」と謝る真田に、『私こそ、ぼーっとしちゃって…っ』とより深々と頭を下げた。
幸「誰か探してるの?」
『あ、えと、』
真「………?」
じっと2人から見据えられ一瞬言葉に詰まってしまったもの、りんは『白石さんがー…』と正直に伝えようとした。
「俺がどうかしたん?『ひぁあああ!?』
突然真後ろに現れた白石に驚き、バックバックと鳴る心臓を押さえるりん。
対する白石もそんなに驚かれると思っていなかったので、「…幽霊ちゃうで?」と涙目になっていた。
『ご、ごめんなさい…!さっきまで遠くにいると思ってたから』
白「うん。りんちゃんに気付いて、思わず走って来てしもーた」
『っ!///』
ふわっとはにかみながらそんなことを言う白石に、りんはきゅううんと胸を鷲掴みされた気がした。
赤い顔がバレないように下を向くも、やはり白石の顔が見たくてそっと面を上げる。
白「身体はもう平気?」
『えと、はい。この間はご迷惑をお掛けしました…』
白「迷惑なんて思ってへんで。寧ろ(うちの先輩が)夜遅くまで付き合わせてしもうて、堪忍な」
『いえっこちらこそ』と手を横に振るりんに、白石はほっとしたような表情を浮かべた。
2人に気を遣って歩き出した幸村と真田だったが、会話の内容が耳に入った瞬間ピクッと反応した。
幸「(身体………?)」
真「(夜遅く………だと?)
内容からして如何わしい想像しか浮かんでこない。
2人の意味深な会話は年頃の男子を翻弄するには十分で、顔を茹で蛸のように赤く染めながら「たるんどる!!」と真田は震え出した。
幸「(多分違うだろうけど、面白いから放っておこう)」
外見に似合わずウブな彼を見て、幸村は心の中で面白がっていた。
一方、大きな勘違いをされているとは思いもしない2人はというと……
じっと白石が何か言いた気な瞳で見つめてくるので、りんは平静を装いつつも照れを隠しきれていなかった。
白「?俺に用事やったん?」
『えと、用事というわけじゃないんですけど、』
白「?」
『白石さんのクラスの人達を見掛けて、白石さんいるかなぁって………それだけなんです……(は、恥ずかしい…っ///)』
会えただけでも嬉しいのに…こうして授業の合間に話せるなんて、今日は良いことがいっぱいだ。
ホクホクと幸せを噛み締めるりんを目を丸くして見つめていた白石は、突然ドコォ!と自分の頬を殴り出した。
終いには掌で顔を覆ってしまった彼に、『し、白石さん!?』とりんはただ困惑するばかりで。
白「………っっ大丈夫や…………己の汚れた心を悔いとっただけやから………」
『??(よごれ…?)』
りんを寮まで送って行ったあの晩……『ちゅーしたい』『触りたい』と甘えた声で言われてから、白石はずっと意識していた。
もしかしたら、りんは"そういった"行為を望んでいるのだろうか…と。
白「(…こんなピュアな子に、なんちゅーことしてんねん俺……)」
あの発言にそういった意味合いがないと頭では理解していても、どうしたって期待してしまう。
今朝見た(人には決して言えない)夢の内容を思い出した白石は、罪悪感からりんの顔を直視することが出来なかった。
白「(アカン、ここは円周率でも数えて……)」
溢れてくる感情を必死に押さえ込もうと、心の中で円周率を数え始める白石。
だが、『白石さん…?』と心配そうに顔を覗き込んでくるりんがいて、一瞬の内に数字が弾け飛んでいった。
白「そろそろチャイム鳴るんやないか?りんちゃんも早よ教室戻り」
『え!あ、そうですね』
白「ほな、また昼休みに」
ニッコリ笑ってりんの頭をポンポンと撫でた後、体育館に入っていってしまう。
爽やかに立ち去ったように見えたが、りんの姿が見えなくなった途端、白石は崩れ落ちるように床に膝をついた。
謙「えっ白石何してん?」
白「…………ッッんしが……………」
謙「は?」
両手を床について何かを耐えている友人の姿に、謙也は心配して駆け寄るが……
白「天使が…………大天使になったわ」
暫しの沈黙の後、謙也はすっと目を半開きにさせ、何処か遠くを見つめた。
先程までのスマートな彼は何処へやら、まるで産まれたての子鹿のようにプルプルと体を震わせ始める。
白「~~っ何やねんあの純粋無垢な笑顔と台詞は……!!ちゅーか髪型も似合いすぎやろ……っポニーテールて…………これ以上可愛なってどないすんねん……こっちの身にもなって欲しいわ!!」
今まで堪えていた分、一気に溢れ出した彼を止められる者は…誰もいない。
「し、白石はどうしたんだ…?」と見兼ねた橘が尋ねてくるが、「いつものことやから」と謙也は半目のまま答えた。
白「それとも俺を弄んでるんか…?天使のフリして小悪魔なん??まぁそれでも俺は構わへんけど」
謙「…………それ本人に言うてあげたらええんやないか?(引かれる思うけど)」
この男…恥ずかしいほど心の声がだだ漏れである。
白石は見た目と違い、(かなり)天然でピュアだ。
格好付けと面倒見の良い性格が相まって、周囲からスマートで大人っぽく見られてしまうことを謙也は知っていた。
謙「(…白石がこんなんなるの、りんちゃんの前だけやもんな)」
そんな彼をここまでメロメロにさせるりんは、ある意味小悪魔なのかもしれない…と謙也はしみじみと思った。
「白石、忍足!何やってる!準備体操始まってるぞ!!」
白&謙「「げ」」
先生の怒声が飛び交い、2人は慌ててクラスメートの輪に加わったのだった。