甘いあまい。
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*りんside*
コツン、コツンと夜道に足音が響いている。
その音が気になりゆっくり目を開けると、ふわっとシャンプーの香りが鼻を掠めた。
『(……いい匂い………)』
目の前にある柔らかい色をした髪が、ゆらゆら揺れている。
思わず手を伸ばした時、「りんちゃん、起きたか?」と甘い蜂蜜のような声が聞こえた。
『………白石さん?』
白「せや、白石さんやで?」
「あとちょっとで寮やからなー」と言う白石さんの声が、ぼおっとした頭にだんだんと響いてきて。
…私、あれからどうしたんだっけ……
確か、財前さんとハラテツさんと一緒にバーラウンジにいて、チョコを食べて、それから……?
良く思い出せないけれど、何だかふわふわと浮いていってしまいそうな良い気分なことは確かだった。
『……あの、重くないですか?』
白「ん?全然。寧ろ軽すぎてびっくりしたわ」
おんぶしてくれている白石さんに尋ねると、すぐに返ってきた答えにホッと安心した。
密着している分、その体温を直に感じる。あまりにも心地よくて、広い背中にぎゅっとしがみ付いた。
白「落ちないようにちゃんとしがみ付いて………………あ、もうしとるか……」
ぎゅーっと抱き付いている私は、側から見たらお母さんにおんぶされる子供のコアラみたいなのだろう。
『(いい匂い……する)』
白「ちょ、りんちゃん?くすぐったいで」
今度は犬のように、すんすんと白石さんの首筋の匂いを嗅ぐ。
形の良い耳が何だか美味しそうに見えて、パクッと少しだけ口に含んでみた。
すると、「!?~~っ○△#※!?」と白石さんは声にならない声を上げて体を固くした。
白「こら、大人しくせなアカン……!て、こらこらりんちゃん!?///」
白石さんの何もかもが甘く感じてしまって、本能のままにペロペロと舐める。
真っ赤に染まった耳元を冷まそうと息を吹きかけた時、ピタッと歩みが止まった。
白「りんちゃん、そんなことしたらアカン…!!」
『………っ!』
本気で怒られたことが悲しくて、じわあと瞳に涙が溜まってゆく。
『ごめんなさい…』と叱られた子供のように謝る私に、「いや、驚いただけやから…っ」と慌てたように返す白石さん。
白「寧ろ嬉しいっちゅーか、酔っ払ってない時にして貰えると………いや、ちゃうか、何言っとんやろ」
『??』
白「て、ほんまに反省しとる?チョコでもお酒入っとるかちゃんと確認せな危ないんやからな?」
『はい、はんせいしてますっ』
白「…ほんまかなぁ」
ぎゅーっと再び抱き付く私を、白石さんは信じていないみたいだった。
背中に張り付く私の体を一度上げてから、またゆっくりと歩き出す。
トクン、トクンと優しく刻む鼓動の音が、白石さんに伝わってしまいそうだ。
『(……もっと、特別になりたい)』
手塚部長のようにテニスが上手くなれば、白石さんを楽しませることが出来るのかな。
あの少年のような、キラキラした瞳を向けてくれるのかな。
『(……私だけが…いいな)』
私が、初めて経験すること……白石さんも、全部初めてだったらいいな。
全部全部、一緒に進んでいきたい。
『あの、白石さん、』
「ん?」と答えてくれる声にもドキンと心臓が鳴るから、大好きで仕方がないんだって教えてくれているみたい。
今なら……チャイムも鳴らないし、ちゃんと届くよね。
『…ちゅーしてほしい』
『それで、もっと白石さんに触って、くっ付きたいです』と、口から出る言葉は要求ばかりだけど。
今なら、いつも中々言えないことを言って、白石さんに甘えられると思ったから。
瞬間、ピタッと歩みが止まり(※本日2度目)、ここからだと顔は良く見えないけれど、白石さんの耳元が真っ赤に染まっていることはわかった。
白「……………………………………………………………………………………………い、今……ですか……?」
間をたっぷりとって、何故か敬語口調で尋ねる白石さん。
『今ですっ』
白「っ!今は、ちょっとなぁ…」
『じゃあ、お部屋に着いたら、ですか?』
白「それはそれでアカン気がする…!」
ばっさり拒否されてしまい、ガーンと落ち込んでしまう。
アカンくないのに。全然アカンくないのに。
「今日はぐっすり寝れるんやないか?」と話をはぐらかす白石さんに、何だか胸の中がモヤモヤとしてしまって。
ちゃんと届いたのに、駄目だった。
『大好きだから……なのに』
昼間はやっとの思いで言えた言葉が、今はすんなりと口から溢れ落ちる。
『……白石さんの、アホ』
白「わ、ちょ、りんちゃ『アホアホ、鈍感ーっ』
『…もうぜったい、言わないんですから……ね』
ポカポカと白石さんの背中を叩く手が、次第に弱まっていって。
襲いくる睡魔には勝てず…だんだんと視界が狭くなり、瞼を閉じた。
白「りんちゃん、俺はな……………」
だから、白石さんの声も、ちゃんと聞くことが出来なかった。
なんて言ったんだろう……?
*白石side*
レストラン棟から寮までは少し距離がある。
いつの日やったか、これも練習の一環なんやろか…と謙也がぼやいていた道を、俺はりんちゃんをおんぶしながら歩いていた。
ハラテツ先輩に電話を貰ったのは、部長会議をしとる時やった。
「うさ公を迎えに来て欲しい」とか訳わからんことを言うから、うさ公って?と聞いたら「りん」とか呼び捨てしよるし。
それに、バーラウンジにいた財前に一緒に帰ろう言うたのに、ついてこんかった。
ハラテツ先輩が「もっと深~く語り合うもんな?」とかニヤニヤしながら言うてたけど。
白「(…変なこと話したりされたりしたら殴って逃げるんやで?って忠告しといたし、大丈夫やろ)」
それでもやっぱり心配やけど…まぁ、もし何かあったら皆で先輩をリンチすればええ。
頭の中で色んなことを悶々と考えとると、すーすーと気持ち良さそうな寝息が聞こえた。
白「(…ったく、人の気も知らんで……)」
ムニャ…と口元を動かす音に、肩を落としながらも微笑んでしまう。
その時、背中の上でりんちゃんがもぞもぞと動く気配がした。
白「りんちゃん、起きたか?」
『………白石さん?』
白「せや、白石さんやで?あとちょっとで寮やからなー」
まだ寝ぼけとる様子のりんちゃんに、くすっと笑みが溢れる。
酔っとるからか普段よりふにゃふにゃしとって、猫みたいや。
その時の俺はただ癒されていて、己の欲望と格闘することになるなんて、想像もしとらんかった。
白「落ちないようにちゃんとしがみ付いて………………」
背中からずり落ちないか心配で後ろを振り向こうとしたら、ぎゅっとりんちゃんが強く抱き付いてきた。
更に体が密着するもんやから、ドキッと心臓が跳ね上がる。
「あ、もうしとるか……」なんて言っとるけど、実際は嬉しさと恥ずかしさでプチパニックを起こしていた。
更にそれだけでは留まらず…あろうことか、りんちゃんの口が俺の耳を挟むように、パクッと加えたではないか。
あまりの衝撃に、ビリビリと全身が震えたような気がした。
白「こら、大人しくせなアカン……!て、こらこらりんちゃん!?///」
子犬のようにペロペロと耳の裏を舐めてくる。
そのくすぐったさに制止の声を掛けても、一向に止めようとしない。
俺の理性を試しているのか、はたまた、純粋に楽しんでいるのか。
多分りんちゃんは後者やろうけど、どちらにせよ、とんでもない悪戯をされていることには変わりない。
りんちゃんの息が耳元を掠めた時に俺の欲望メーターも満タンになりかけ、気付いたら声を大にして叫んでいた。
白「りんちゃん、そんなことしたらアカン…!!」
『………っ!』
『ごめんなさい…』と涙声で謝るりんちゃんにハッと我に返った。
白「寧ろ嬉しいっちゅーか、酔っ払ってない時にして貰えると………いや、ちゃうか、何言っとんやろ」
『??』
つい本音が出てしもうて、慌てて口を塞ぐ。
ほんまに何を言っとるんや俺は……これじゃ変態みたいやないか。(※今更)
白「て、ほんまに反省しとる?チョコでもお酒入っとるかちゃんと確認せな危ないんやからな?」
こんな可愛くてエロい(?)りんちゃん、俺以外の男に知られでもしたら…危険すぎる…!
『はい、はんせいしてますっ』と可愛らしく返事するりんちゃんに、「…ほんまかなぁ」と不安が募る。
まぁ、もしりんちゃんのことをいやらしい目で見る奴がおったなら……容赦せんけど。
歩きながら、俺は凶悪犯のような顔でそんなことを思っていた。
白「(…あんまり可愛すぎるのも、考えもんやなぁ)」
最近、りんちゃんに対して歯止めがきかなくなってきとる。
可愛くて、可愛くて、どうしようもないくらい愛おしくて。
大切にしたい、怖がらせたくないって頭では思っとるのに、りんちゃんに触れるとどんどん欲が出てくる。
白「(俺がどれだけりんちゃんのことを好きか知っても、引かんでくれるやろか)」
自分でも重いって自覚しとるし、小っちゃい時からずっと忘れられへんかったって時点で、気持ち悪いと思われるんが普通かもしれん…
せやけど、りんちゃんはいつもふんわりと嬉しそうに笑って、受け止めてくれるんや。
昼休み、『大好き』と真っ赤になりながら言うてくれたりんちゃんのことを思い出すだけで、幸せで泣きそうになる。
ぐっと堪えながら、名前を呼ぶりんちゃんに「ん?」と応えた。
『…ちゅーしてほしい』
……………へ?
『それで、もっと白石さんに触って、くっ付きたいです』
今、ソプラノの可愛らしい声が、爆弾発言をしたような……
頭の中で何回もリピートされる言葉を漸く理解した時には、ボンッと顔が真っ赤に染まっていた。
白「(え、え、ちゅー?さ、触る?って………どういうことや……?)」
ぐるぐると目が回り、今度こそプチではなく頭の中がパニック状態に陥った。
どういうことも何も、そのままの言葉の意味やろうけど……頭が現実に追いつかへん。
今は無理言うたら、お部屋に着いたら?て不安気に尋ねるりんちゃん…………へ、部屋!?部屋なんか行って2人きりになったら、俺がちゅーだけで終われる自信があらへん!うん、絶対アカンわ!!
よからぬ妄想がスタートしそうになって、必死に頭を左右に振る。
何か言わなくてはと考えた結果、「今日はぐっすり寝れるんやないか?」と訳のわからへん返事をしていた。
『大好きだから……なのに』
ドクン、と鼓動が波打つ音がした。
背中越しに聞こえる声は、何処か悲しく、切ない色を持っとって。
こんな声を俺が出させとるんや…と後悔しても、もう遅い。
『……白石さんの、アホ』
白「わ、ちょ、りんちゃ『アホアホ、鈍感ーっ』
『…もうぜったい、言わないんですから……ね』
ポカポカと背中を叩かれた衝撃でりんちゃんが落ちぬよう、慌てて上に持ち上げた。
"アホ""鈍感"更に"もう言わない"というフレーズに、俺は大ダメージを受ける。
ヨロ…と足がもつれて倒れそうになりながらも、何とか踏ん張って言葉を探した。
白「りんちゃん、俺はな……………りんちゃんが思うより、ずっとりんちゃんのことが大好きなんや」
せやから、簡単にそんなこと言わへんで欲しい。
最近の俺はな、りんちゃんのことになると、体が言うことをきかんのや。
白「もし、りんちゃんがこの先も受け止めてくれるんやったら、めっちゃ嬉しい。せやけど、そういう大切なことは、もっとちゃんとした……………」
真剣に話しとった俺は、すーすーと規則正しい寝息に気付いて、一気に肩を落とした。
……今の言葉、全部聞いてへんのやろか。
ほんまにこの子は………
溜め息を吐きたい気持ちを抑え、そっと空を見上げる。
夜空には一面に星が散らばっていて、りんちゃんと湖の近くで見上げた星空を思い出した。
白「(…やっぱり、りんちゃんとおる時が一番綺麗に見えるわ)」
1人やったり、他の誰かと見上げても、こんなに綺麗に星が輝いて見えないだろう。
りんちゃんは、今どんな夢を見とるんやろ。
一緒におるのが俺やったらええけどと願うあたり、まだまだこの気持ちは膨れ上がっていくんやと思う。
白「おやすみ、りんちゃん」
トク、トク、と鳴る優しい鼓動を背中に感じながら、俺は星空を映していた瞳をそっと瞑った。