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博「葉末……俺、今どんな顔してる?」
葉「この世の終わり…って感じ」
大浴場を後にした2人は、食堂で夕食を食べた。
些かそんな気分でもなかったが、ケーキを奢ってくれるという先輩の建前、行くしかなかったのだ。
折角のケーキも心の涙でしょっぱく感じてしまい、あまり味わえなかった。
その後、意気消沈したまま、博生と葉末は今晩泊まる部屋へと足を進めた。
葉「……白石さん、かっこ良かったね」
お互いの兄に貸して貰った部屋着に着替え、枕を膝に乗せながら呟く葉末。
向かいのベッドに座り、全く同じ姿勢をとっていた博生もゆっくりと頷いた。
かっこ良かった。だから、悔しい。
確かに、2人のりんに対する気持ちは"恋"ではなく、"憧れ"だった。
隣に立つのではなく、ひっそりと眺めていたい……高嶺の花だった。
でも、実際に恋人といるところを見てしまえば傷付くし、悲しい。
博「そりゃ、彼氏もイケメンに決まってるよなぁ…」
葉「性格も良さそうだったしね…」
ハァ~と、どちらともなく溜め息を吐き出す。
きっと、白石の大人な優しさで、りんを包み込んでいるのだろう。
もう先輩が幸せならそれで幸せ…と2人が悟りの境地に達した時、トントンと控え目に部屋の扉が叩かれた。
開けに行く葉末をぼんやりと見つめていた博生だが、『遅くにごめんね』と聞こえてきた声に勢い良くベッドから抜け出した。
博「りん先輩!どうしたんスか??」
『あのね、バスが復旧したって聞いたから、明日の時刻表伝えにきたの』
葉「ありがとうございます。助かります」
起こしてしまったのではと心配していたりんは、笑顔で迎えてくれた2人を見て安堵の表情を浮かべる。
そんなりんにきゅーんと2人は胸を打たれ、立ち話もなんなので部屋の中へと促した。
りんが手に持っていたマグカップを貰い受けると、それは温かなホットミルクで、ほんのりと甘い香りが部屋に漂う。
部屋の隅にちょこんと正座する姿は小動物のようだった。
『大丈夫?他校の生徒もいっぱいいるし、気疲れしてないかなって』
葉「大丈夫です。以前にお会いした人もいましたし、」
『あ!そっか、前に合同合宿したもんね』
皆いい人ではあるが、年下となれば自然と気も遣うだろう。
自分でもお節介すぎると感じているが、後輩が心配だったのだ。
それでも「ありがとうございます」とお礼を言ってくれる2人の顔を見て、りんは微笑んだ。
博「あの!先輩……白石さんって、先輩と付き合ってるんスか!?」
『!?へ??』
葉「ちょ、バカ…っ」
正座するりんの手を取って、突然すぎる質問を投げかけた博生。
至って真剣な顔を向ける博生に、りんはコクリと小さく頷いた。
その瞬間……
『ど、どうしたの!?2人共……っ』
ぐわんぐわんと激しく左右に揺れる博生、鼻筋を摘みながら上を向く葉末。
その落胆ぶりに、りんはあわあわと慌てるばかりで。
暫くその状態が続いたが、ふぅ…とどちらかが息を吐き、何事もなかったかのように話を進め始めた。
博「でもでも、2人共超お似合いっスもん。俺安心したっス」
博生がニカッと白い歯を見せて、無邪気に笑う。
ほんの数秒前のどんよりした空気が気に掛かったが、りんは『……あ、ありがとう///』と素直に言葉を受け取った。
葉「仲良さそうだったしね」
博「そうそう!空気が同じ?ってゆうの?夫婦みたいっスよ」
『そ、そうかなぁ……』
葉「?」
急に元気がなくなるりんに葉末は引っ掛かった。
葉「…先輩?」
『あ、ごめんね。気にしないで…っ』
そうは言っても、大好きな先輩が何かに悩んでいるなら、それが解消するまで傍にいたいのが男(?)というものだ。
2人は顔を見合わせ、それだけで意思疎通したかのように大きく頷いた。
博「りん先輩!何か悩んでるなら言って欲しいっス!」
『え…』
葉「そうですよ。1人で抱え込まないで下さい」
「「力になりたいです」」
見事に声を揃え、真っ直ぐな瞳で見つめる2人。
りんは一瞬目を見開き、困惑して視線を逸らそうとした。
だが、後輩達の真剣な想いにきゅっと胸を打たれ、思い切って口を開ける。
『………あ、あのね、』
あの人のことを思い浮かべながら、りんは一言一言、絞るように話し出した。
それを聞いている間、2人は悲しそうに顔を歪めたり、眉間に皺を寄せたり、様々な表情をする。
りんが話し終えた時……「つまり、」と真剣な面持ちのまま博生が口を開けた。
博「りん先輩がモテるのが原因っスよね?」
『ええ!?(も、モテ?)』
モテる人をモテなくするには…と良くわからないことを考え出す後輩2人。
その時……僅かだが人の声が耳に届いた。
「ち、ちょっと寿葉ちゃん押さないで…っ」
「だって聞こえないから!しょーがないべっ」
『…………??』
部屋の外で聞こえた声に、ピタリと話すのを止める3人。
不思議に思ったりんがドアを開けると、「「わわわ…!」」と倒れ込んで来た女子達に目を丸くした。
『あ、杏ちゃん!寿葉ちゃん!?』
「いたた…」と目を回す杏、しまったと言うように目を見開く寿葉。
思いがけない2人の登場にりんが驚いていると、先に立ち上がった寿葉がゴホンッと咳払いした。
寿「話は途中から全部聞かせて貰ったべ」
葉「(途中から全部……)」
『?ど、どうして2人がいるの?』
杏「ごめんねりんちゃん。盗み聞きするつもりはなかったんだけど…」
続けて立ち上がった杏は、眉を下げて申し訳なさそうに言う。
杏「りんちゃんのことが心配で、ここに入ってくのが見えたから…つい」
『杏ちゃん……』
昨日何かあったことはわかっていたが、詳しくはりんから話してくれるまで聞かないようにしていた。
『ありがとう杏ちゃん』とふわり微笑むりんに、杏も安心したように笑った。
『でも、何で寿葉ちゃんも……??』
寿「!た、たまたま橘さんに会って、それだけだ!」
杏「寿葉ちゃん、りんちゃんがここに入ってくの見てて、教えてくれたの。何だかんだ言って1番心配して「!?な、何言ってんだ!?」
ニコニコ話す杏と対照的に、顔を青くして慌てる寿葉。
「誰があんたなんか…!」とりんを見ながら大袈裟に否定する。
『ありがとう…寿葉ちゃんっ』
寿「~~~ッッ!///」
犬のようにキャンキャン吠える寿葉の本音を察し、嬉しくて自然と笑顔になる。
そんなりんに最初は何か言いた気だった寿葉も、だんだん顔を赤くして俯いた。
博&葉「「((ツンデレだ……))」」
一部始終を黙って見ているだけだった2人は、心の中で声を揃えて思った。
同時に、男の子だけでなく、女の子の顔まで赤くしてしまうりんを、誰からもモテなくすることは絶対に不可能であると実感した瞬間だった。
寿「…ついてくるんだ」
『え、えと…?』
寿「だから!ここじゃ話せないからついてくるんだ!」
寿葉はばつが悪そうに、ちらっと博生と葉末に目を向けると、戸惑うりんの手を引いて歩き出した。
『わわ…っ寿葉ちゃん?』
博「先輩~~!」
博生の切ない声を背中に受けながら、杏とりんは寿葉について部屋を出て行った。
女子部屋……222号室。
りんと杏が使う部屋の、隣の部屋に連れてこられた2人。
何となくその場に正座をするりんは、椅子に腰掛ける寿葉を不安気に見つめた。
寿「(ぐ…っ可愛い)あんた、八方美人のくせに今更ぐだぐだ悩みすぎなんだべ…!」
『!ふぇ、』
寿葉は自分の中の萌えと戦いながら、ガン!とりんが傷付くことを述べた。
よくわからない構図と化してきた時、「あ~いいお湯だった」と新たな人物が姿を見せた。
梓「?何かあったの?」
タオルで長い髪を拭きながら、部屋着に着替えた梓はこの状況に瞬きを繰り返した。
今さっきまでお風呂に入っていたと感じさせる様は色っぽく、ふわっと花の香りが鼻を掠める。
りんはその色気を羨ましく思い、視線を自分の胸元にそっと移した。
寿葉は簡潔にことを説明すると、梓も一通り納得したようだった。
梓「そうねぇ……私だったら他の好意は見て見ぬフリして、彼氏にひたすら謝る、かな」
『謝って…許して貰えるでしょうか』
梓「だってキスしちゃったんでしょ?終わったことはしょうがないよ~」
杏&寿「「((軽……っ))」」
あははと笑う梓に、寿葉と杏は同時に思った。
杏「でも、りんちゃんの合意の上じゃないんでしょ?」
梓「何だ、そうなの?」
この中では1番付き合いの長い杏が、神妙な面持ちで尋ねる。
りんはコクンと頷くと、「越前くんなのに?」と梓はすかさず口にした。
『へ?お兄ちゃん、ですか?』
梓「えっキスの相手って越前くんじゃないの?」
当たり前のように尋ねる梓に、りんはキョトンと大きな目を丸くさせる。
『?えと、どうしてお兄ちゃんが…?』
梓「どうしてって………」
口を閉じ、それっきり黙ってしまった梓。
りんは不思議に思っていたが、ふと、昨日のクイズ大会の質問を思い出した。
〈りんのファーストキスの相手は、白石くんである。◯か×か?〉
あの質問の答えが×だったことには、りんも驚いた。
でも何故、今その時のことを思い出したのだろう。
考えれば考えるほどわからなくなって、りんは膝に置いた自分の手をきゅっと握った。
寿「兎に角!さっきの話の続きだけど、」
『う、うんっ』
寿「その愛想振りまくのは治らないんだから、もっと彼氏に"特別感"を与えればいいんだ」
『特別感?』
寿葉は皆の顔を見渡して、腰に手を当てた。
寿「ごく自然に、彼氏に自信を持たせられること。それは………」
『そ…それは?』
寿「それは………」
梓&杏「「……それは??」」
一緒に聞いていた梓と杏も、無意識に身体を前に傾ける。
意味深な間に、ゴクリと喉を鳴らすりん。
その緊迫した雰囲気に寿葉も言うのを一度躊躇い、声を小にして話した。
…………………………。
『…………………へ?』
あまりの衝撃にりんは言葉の意味が理解出来ず、暫し放心する。
やがてボッと顔が赤くなり、『~~ッッ!!??』と声にならない声を上げた。
『??な、ど……し!///(※何で、どうして)』
パクパクと餌を欲しがる鯉のように、口を開けたり閉じたり繰り返す。
寿葉はりんの反応に首を傾げたが、やがて自分のした発言を理解した。
寿「な…っ何でそんな赤くなんだ!?別に普通だべ///」
『ふぇ!?ふ、普通??///』
寿「!さ、さぁ……オイラも経験ないから、わかんないけど………///」
寿葉の顔もつられて朱に染まり、言葉が尻すぼみになっていく。
既に茹で蛸のように顔を真っ赤に染めたりんは"それ"を想像しようとしてみるが、白石の姿を想像しただけで限界だった。
一旦落ち着こうと、ドキドキ高鳴る胸に手を当てるりんに、杏が声を潜めて問う。
杏「りんちゃん、この間白石さんと一緒に寝てたもんね……やっぱり、そういうこと?」
『!へ!?』
梓「え!何だそうなの?」
『ちっちが…!違くもない…けどっ///』
白石と星を見に行った夜…何故そうなったのか覚えていなかったが、彼に包まれるように一緒に寝ていた。
それも、りんから誘ったのだと聞かされて。
その時のことを同室の杏は知っていて、どうやら大きな勘違いをしてしまったらしい。
寿「それならそうと早く言うべ!」
『!ちち違うよ…!本当に一緒に寝ただけで、』
梓「白石さんって意外と肉食なのね……」
『!??』
慌てて手を左右に動かして否定するりんを置いて、話はどんどん進められていく。
しかも皆、心なしかさっきよりも楽しそうだ。
杏「大丈夫だった?無理矢理されてない?」
梓「それは大丈夫じゃない?妹ちゃん(りん)にすごいゾッコンって感じだし」
寿「そ、そもそも合宿所はホテルじゃないべ!?これだから東京もんは…」
男子がいないということもあり、際どい言葉が次々に発せられる。
俯きながらプルプルと肩を震わせていたりんは、バッと面を上げた。
『わ、わたし……私、そういうことは、まだ………』
『ごめんなさい…っ』と真っ赤な顔で叫び、そのままの勢いで部屋を飛び出す。
それは脱兎のようなスピードで、誰かに話す隙を与えないほどだった。