侵入者
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コツン、コツンと廊下を歩く足音が響く。
丸井はそっと隣を見ると、自分と同じような部屋着を着たりんが歩いていた。
ふと目が合ってしまい、見すぎてしまったのかと慌てて視線を逸らす。
『先輩?』
丸「いや…何かこーゆう服新鮮だなって思ってよ(お揃いとか落ち着かねー!)」
『可愛いですよねっ皆で着れてすごい嬉しかったです!』
こんなことで、こんなに喜ぶなんてやっぱり女子はわからない。
それでもニコニコ顔のりんを見てしまえば、自分も嬉しくなってしまうのだ。
『あの、本当に送らなくて大丈夫ですよ?部屋すぐそこですし…』
丸「いや、何があるかわからないだろぃ。ジロくんやがっくんみたいに、ふんわり系の男だけじゃないんだし」
『(ふんわり系……)』
確かに、2人は空気が柔らかいからとても話しやすい。
りんが呑気にそんなことを思っている間でも、丸井は危険がないか見渡していた。
『…ずっと気になってたんですけど、』と突然りんがじっと見つめてきたので、丸井はドキリと胸を鳴らす。
丸「な、何だよぃ……」
『ずっと心配で…私』
潤んだ瞳で見上げられれば、心臓の鼓動は急速に動き出して。
思わず一歩後退りしてしまう。
渇いた喉でゴクリと息を飲み込んだ。
『ジロちゃんって、毎朝ちゃんと起きれてますか?』
丸「…………え、ジロくん?」
パチパチと瞬きをする丸井に、『あ、自分で聞けばいいんですけどっ』と焦ったように付け加えるりん。
『同じ部屋の人に聞いた方がわかるかなぁって、』
丸「(…そういうことか)ちゃんと起きれてるぜ?何せ俺が付いてるからな」
『!そうですよね、頼もしいですっ』
丸「当然だろぃ」
りんがあまりにもキラキラした瞳で見上げてくるから、何故か威張ったように話してしまう。
『お兄ちゃんなんて、いつも目覚まし時計3つも掛けてるんですよ?それで起きてきた時もずーっと眠たそうにしてて』
丸「越前ってそんなに朝弱いのか?」
『小さい頃からそうなんです。きっと夜中までゲームしてるからですよね』
微かに頬を膨らませながら話すりんだが、何処か嬉しそうだ。
さっきまで自分に向けられていた興味が、今は別のところにある。
その事実が悲しくもあり、丸井を嫉妬させるには十分だった。
丸「…………」
『でも、ここに来てからはちゃんと起きれてるみたいで、』
丸「(………お兄ちゃんばっかかよ)」
『すごいびっくりですよね』
りんが"お兄ちゃんっこ"なのは今に始まったことではないが、やっぱり嫌なものは嫌だ。
………でも、
『流石お兄ちゃんだなあって思って、』
丸「(……………っくそ……)」
『嬉しくなっちゃいました///』
丸「(………可愛い……………)」
兄の話をする時のりんは、とても可愛くて。
聞きたくないと思っても、ついつい聞いてあげたくなってしまうのだ。
丸井は思わずしゃがみ込んでガシガシと頭を掻くと、りんの身体がビクッと揺れた。
『…せ、先輩?』
丸「………今、必死に紛らしてるとこ」
『??』
一緒にしゃがんで心配そうな顔を向けるりんに、丸井はきゅううと胸を掴まれた気がした。
丸「明日さ…もし俺が出ることになったら、絶対負けねぇから」
『は、はい』
丸「…意味わかってんの?」
『?意味…ですか?』
キョトン、と目を丸くするりん。
自分だけが意識させられることが悔しくて、そのピンク色の頬にそっと手を添える。
だんだんとそれが熱をおびてくると丸井の鼓動も加速していき、衝動のまま言葉にした。
丸「誰にもやりたくないってこと」
朝ー…それは、目覚めたくなくても1日に必ずやってくる。
りんは何処か憂鬱な気分でテニスコートに向かっていた。
『(……あんまり眠れなかった)』
今日のことが気掛かりで、昨夜は何度も起きてしまった。
あんなに燃え上がる皆を初めて見たし、ザワザワと胸騒ぎが絶えない。
うー…と胸に手を当てながらその場所に行けば、思っていた状況と違っていた。
菊「あ~!りん来た来た!」
『菊丸先輩!こ、この状況は一体…?』
ブンブン手を振る菊丸の姿にほっと安堵したのも束の間。
りんは周りを見渡すと、呆然と固まった。
何処から運んできたのか、横に長いテーブル。
そこにドーンと音が鳴りそうなほどの気迫で、各学校の代表者が座っていた。
『あの、テニスで勝負するんじゃ…』
菊「へ?違うよ、【クイズ大会】だにゃ!」
おどおどと尋ねるりんに、菊丸はさも当たり前のように言い切った。
クイズ大会?とぐるぐる頭を混乱させるりんの背中を押して、「座って座って!」と別のテーブルに案内する菊丸。
何が何なのかわからないでいるりんの肩に、ぽんっと手が置かれた。
忍「堪忍なぁ…変なことになってもうて」
『忍足さん!』
申し訳なさそうに両手を合わせる忍足に、『何で忍足さんが謝るんですか?』と慌てて否定する。
忍「跡部のこと止められへんかったのは事実やし…」
『いえっそもそも私がちゃんと説明出来なかったからなので…っ』
忍「…優しいなぁ、りんちゃんは」
染々と呟き涙ぐむ姿に、何だかりんの方が申し訳ない気持ちになった。
「せやけど」とまだ続く言葉に耳を傾けると、そっと顔が近付いて、
忍「困ったことに、俺もりんちゃんがマネージャーやったらって思うと嬉しくてな」
『!ふぇ///』
忍「今回ばかりは跡部に賛同するわ」
低い声が直に耳の奥に届き、りんはそのくすぐったさに身を捩ると……グサッと忍足の頭に何かが刺さった。
跡「忍足!いつまでも無駄口叩いてんじゃねぇ!」
忍「あれ、三途の川が見えるんやけど……」
『お、忍足さんしっかり…!!』
それはクイズで使う×と書かれた札で、忍足の頭からダラダラと血が流れる。
ヒィィイと混乱して頭を覗くりんは、別のオーラを感じてゾクリと身震いした。
寿「マネージャーなんて許さねぇマネージャーなんて許さねぇマネージャーなんて許さねぇマネージャーなんて」
『ひ!?こ、寿葉ちゃん!?』
ゆらり…と髪の毛をくわえて背後から現れた寿葉に、全身を使って飛び退くりん。
助け船を出したのは、「それじゃあ始めるよーん!」という菊丸の明るい声だった。
菊「その名も【男だらけのクイズ大会】!司会者は俺、菊丸英二とーっ」
忍「忍足侑士でお送り……って何でやねん」
『(この流れ、前にもあったような……)』
菊丸と忍足のコンビにりんはうーんと記憶を辿る。
菊「ではでは~早速、各学校の代表者の紹介だー!
まずは青学からーおチビこと…越前リョーマ!!」
リョ「(何で俺がこんなこと……)」
手「越前、油断せずに行け」
桃「根性見せろ越前ー!」
リョ「…ういーっス(先輩達ノリノリだし…)」
溢した溜め息に行き場はなく、リョーマはただガクッと項垂れた。
忍「四天宝寺からは、白石蔵ノ介や」
白「紹介おおきに。後で覚えててな?忍足くん」
忍「言葉と態度噛み合ってなさすぎやろ!」
キラキラの笑顔の下に般若の顔が見えた気がして、震えが止まらない忍足だった。
忍「コホン…立海からは丸井ブン太」
丸「シクヨロ!お手柔らかに頼むぜぇ」
「ブンちゃんがんばー」「先輩ファイトー」等と緩い声援が続く中、ゴオオと燃え盛るオーラに包まれる者もいた。
幸「ブン太、立海の安息の地の確保はお前にかかってるからね」
柳「(精市の中でりんは安息の地だったのか…)」
静かに闘志を燃やすチームメイトを見て、柳は密かに納得していた。
菊「聖ルドルフからはー不二裕太!」
裕「よ、よろしく」
観「裕太くん、自信を持って挑みなさい。彼女が好きならこのくらいの試練どうってことな「わーわー!みみ観月さん何を!?///」
観月の声援に、真っ赤な顔で慌てる裕太。
菊「山吹からは、千石清純!」
千石「うーん、ライバル多いなぁ。よろしくね~」
忍「そして最後。六角からは、天音ヒカルや」
天「司会をしっかいやれ………ブッ」
代表者の紹介が終わり、りんはその緊張感にゴク…と息を飲んだ。
ピリピリした空気の中、一体どんなクイズが出されるのだろうかと……
菊「まず最初は、"はや押しクイズ問題"
答えがわかった人から、手元のボタンを押してねー!ではではー第1問!!
〈りんのいつもしてる髪型の名称は?〉」
白「"ピンポーン!"ローツインテール」
『(………………………ん?)』
菊「第2問!〈りんの身長は何センチ?〉」
白「"ピンポーン!"148.3センチ」
『(………………んん?)』
ピンポンピンポーン!と正解の音が鳴り響く。
涼しい顔で答える白石よりも、りんはその問題の内容に引っ掛かった。
『あの…』とおずおずと挙手する。
『クイズって……何の…?』
菊「へ?りんを元にしたクイズに決まってるにゃ」
『わ、私!?』
りんは忍足と目が合うが、うんうんと頷かれるだけ。
さも当たり前のように言い切るので、可笑しいのは自分の方だと言われているような気がしてきた。
齋「選手達もマネージャーを知らないといけないと思ったので」
『!齋藤コーチ』
齋「チームの結束力も出ますしね~」
緩やかに微笑みながら歩いてくる齋藤コーチ。
もしかして、"コレ"を考えたのは…と1つの疑問が生まれた時、「考えたのは僕と渡邊先生と水城先生だよ」と教えてくれた。
『(…か、要先生まで………)』
楽しそうに笑う要を想像すると、妙に納得出来る。
きっとこの企画にも快く参加したのだろう。
呆然とするりんを置いて、クイズ大会の参加者はメラメラと火花を散らしていた。
菊「第3問!〈りんの得意な科目は?〉」
丸「"ピンポーン!"これは家庭科だろぃ!」
得意気にボタンを押した丸井だったが、"ブブー!"と不正解の音が響いてしまう。
「違うのか?」と混乱する丸井の次にそれを押したのは……
跡「体育」
"ピンポンピンポーン!"と今度は正解の音が鳴り響くと、跡部はフッと口角を上げる。
その余裕そうな態度にカチンときた丸井は、「次!」とクイズの先を促した。
菊「第4問!〈りんの好きな食べ物は?〉」
裕「"ピンポーン!"…あ、甘いもの。(だよな?)」
菊「"ピンポンピンポーン!"それもあるけど、あと1つは??」
リョ「"ピンポーン!"季節を感じる食べ物」
菊「"ピンポンピンポーン!"越前正解!」
リョーマの冷静かつ堂々とした発言に、「(流石お兄ちゃん…)」と参加者達は声を揃えて思った。
杏「…思ったんだけど、これって絶対越前くんが有利じゃないかしら?」
紅「そやなぁ。やっぱり家族が一番知っとるやろうし」
『杏ちゃん!紅葉さん!』
口々に意見を溢したのは、りんの傍で黙ってその光景を眺めていた杏と紅葉。
杏の言葉に、隣で腕を組んでいた紅葉はうんうんと頷いた。
『杏ちゃんも紅葉さんも、皆を止めて欲しいっ』
杏「え、何で?」
『な、何でって…こんなことに時間を費やすより、練習とか勉強した方がいいから』
紅「いや、"こんなこと"やないで?見てみぃ、皆の真剣な顔」
『え?』とりんは紅葉が見つめる先を追えば、1つ1つの質問にこれまでにない真剣な表情で挑む皆の姿が。
紅「な?皆りんちゃんをマネージャーにしたくて頑張っとるんやで。ここは見守ってあげな」
『(皆……)そうですよね……私が邪魔するのも可笑しいですし、』
『私、見守ります…っ』素直に感じたりんだったが、皮肉にもそれを聞いた紅葉と杏は別のことを考えていた。
紅&杏「「((だって面白いから))」」
普段はテニスに夢中になっている彼等が、たった1人の女の子をマネージャーにしたくて取り合っている…という事実が可笑しくて仕方がない。
純粋に見守るりんに申し訳ない気持ちはあっても、2人は笑いを堪えることに必死になっていたのだった。