kiss
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ドッキンドッキンとこれまでにないくらい鼓動が速まっていく。
目の前では無防備に瞼を閉じる白石がいて、りんがこれからする行動を待っていた。
『(………よ、よしっ)』
1…2…3と心の中で数えて、りんは顔を近付けた。
……何故こんな恥ずかしいことに発展したのか。
それは、遡ること1時間前。
要「あ、白石くん」
化学の実験後、ビーカーの片付けをしている白石に声が掛ける。
ふさげている者もいる中、真面目に洗っていた白石は振り返るなり眉を潜めた。
要「前回の実験レポート、白石くんのすごい良くできてたよ」
白「ありがとうございます」
ニコニコ笑う顔からして、"不快"に気付いていないのだろう。
要「それでさー今回のレポート、皆にお手本として配りたいんだ」
白「ああ、ええですよ」
要「ありがとう。じゃあ今日中に俺のとこに持ってきてくれる?」
白「……今日!?」
「練習もあるだろうから、早目にお願いね」とキラキラ輝く笑顔で言う。
その裏に有無を言わさぬ何かを感じ取った白石は、顔を縦に振るしかなかった。
白衣をひるがえして颯爽と去っていく要の印象が、また1つ下がったのだった。
幸「大変だね、手伝おうか?」
白「幸村くん!」
「ほんま?」と尋ねると、ビーカーを拭きながら「いいよ」と幸村は微笑む。
白「おおきに。それにしても、あの先生ほんま人使い荒いわ」
幸「うーん…白石にだけって気もするけどね」
白「……確かに」
りんが懐いている担任。その要が自分を嫌う理由……
もしかしたら自分と同じかもしれない、と眉間の皺を深くさせていると、「くーらー」とぽんと肩を叩かれた。
紅「教室戻らへんの?」
白「あーそれが実験のレポート頼まれてな、幸村くんと終わらせてから行くわ」
紅「そうなん?まぁ今日は試合ないからええけど…」
「はよ終わらせて来るんやでー!」と忠告を残し、紅葉は教室を出て行く。
すっかり人気はなくなり、化学室に残されたのは白石と幸村の2人だけになった。
黙々とレポートに取り掛かっていると、正面に座る幸村が「気になってたんだけど…」と唐突に切り出した。
幸「琴平(紅葉)さんって、白石のこと好きなの?」
白「え?」
真剣な顔付きが途端に崩れたのが可笑しくて、幸村はクスクスと笑う。
白「さーどうなんやろ。好かれとる思うけどなぁ」
幸「白石はモテるもんね」
白「え?ちゃうちゃう、幼馴染みとしてってことや。あいつも俺と恋愛とかありえへんって言うで」
「可笑しなこと言うなー」と屈託なく笑う白石。
本当にりん以外は恋愛対象にならないのだろう。
白「幸村くんこそモテそうやで?」
幸「俺?病院生活も長かったし、そんなに接点もないんだよね」
白「看護婦さんとか!」
幸「まぁ男の夢ではあるけど」
2人は看護婦ハーレムを想像するが、白石の脳は全員りんでしか再生出来ないので、ただのコスプレでしかなかった。
幸「りんちゃんが看護婦かぁ。皆わざと入院しそうだよね」
白「!幸村くん想像したらアカンで…!」
幸「…想像にまで嫉妬するんだね」
りんの苦労が思いやられる…と少しだけ同情する幸村だった。
レポートを書き終え、職員室を訪れた時は既に日が暮れかけていた。
白「幸村くんほんまありがとうな。手伝おうてくれて」
幸「いや、俺もいつも白石には世話になってるし」
同じ部屋に加え、同じクラスなのだ。互いに協力しても何ら可笑しくない。
「さっきは大変だったね」と苦笑する幸村に、白石は数分前のことを思い出してげんなりとした。
幸「水城先生って、案外君のこと好きなんじゃない?」
白「それはない思うけど、まさかチェスの相手させられるとはなぁ……」
幸村の手伝いもあり、完璧と言っていいほどのレポートを完成させた。
職員室に持っていくなり「ありがとーちょっとここ座って」とチェスの相手にさせられたのだ。
白「(水城って何考えとるのかわからん…)」
あの胡散臭い笑顔の下に、本性を隠している気がしてならない。
何にせよ、りんが自分と似ている…という理由で要に懐いている事実が気に入らないのだが。
白「(どこも似てへんのに…)」
純粋無垢な彼女のこと。一度優しくされて信じきってしまったのではないだろうか。
イライラとした気持ちが膨らんできた時、ハッと気付いた。
どうしてか、りんのことになると細かいことまで考え過ぎてしまう。
白「(……やっぱり、俺ばっかりや)」
りんに触れられなかったあの日以来、ずっともう一度抱きしめたかった。触れたかった。
でも……彼女は、
2人が教室に着いた時には、既に皆下校した後だった。
電気を付けた時、無人かと思っていた教室に1人の生徒の姿が見えた。
白「……りんちゃん…?」
自然とその名を呼んでいた。
夕日を背中に受け、風でひらひらと揺れるカーテンで見え隠れする姿。
瞼を閉じて壁に寄り掛かっているだけなのに、まるで1枚の絵画のようだ。
幸村がそんなことを思っていると、白石はただ真っ直ぐに彼女を見つめていた。
白「…そこ、俺の席やで」
くー…と寝息をたてるりんが愛おしいのに、気持ちとは反対に冷静な言葉が出てしまう。
そんな白石に幸村は「先行ってるよ」と鞄を持って出て行った。
白「(アカンわ、俺…)」
りんを一目見たら、イライラしていた気持ちなんて最初からなかったみたいに吹き飛んでいく。
白「(こんなん…可笑しい)」
どれくらい大好きなのか、思い知らされるように。
胸の奥が締め付けられる感覚になる。
『………ん、』
白「お姫様、朝やで」
『………んんー…?』
そっと耳元で囁けば、寝惚けたような甘い声を出す。
ゆっくりと上がった瞼がふにゃっと緩んだ時、思わずドキッとした。
『王子様………………わ、わわ!しし白石さん!?』
白「(今"王子様"って言うたな…)」
あたふたと慌てる姿をもっと近くで見たくて、白石は机の前にしゃがむ。
座っていたりんには逃げ場がなく、顔を真っ赤にさせて俯いた。
そんな反応をされると、財前ではないがもっと苛めたくなってしまう。
白「俺の席座って楽しいん?」
『!これはっえと、たまたまです!///』
白「へ~たまたまなんかぁ。すごいなー」
『そうですっそれで待ってたら眠くなっちゃって、』
白「誰を?」
「りんちゃんは誰を待ってたん?」と、わかりきっていることを尋ねる。
カァァアとリンゴのように顔を真っ赤にさせたりんは、きゅ、と自身の袖を握った。
『し……白石さん、を』
白「ん?」
『~~~…っ白石さんです!!///』
こんな至近距離なのに聞こえないふりは無理があるが、ドSスイッチの入った白石は止められない。
りんもそれを感じ取っているのか、声を大にした後『謝りたくて…』と続けた。
『白石さん、会いに来てくれたのに、私ちゃんと応えられなかったから』
白「ほんまになぁ。俺がどれだけりんちゃんに触りたかったか…」
『!私もで……さ、触りた!?///』
"話したかった"と言葉を勘違いしていたりんは、慌てて自分の口を掌で覆う。
だがもう遅く、白石は楽しそうな笑みを浮かべていた。
白「…ごめんって思っとる?」
『コクコクッ』
白「ほんなら、俺に触りたかったって証明してや」
『…証…明?』とほけっと固まってしまったりんの手に、「こーいうこと」とちゅっと口付ける。
『!?』
白「やっぱり、りんちゃんは俺とはちゃうん?」
『あ、う…』
白「触りたいの、俺だけなんやな」
しゅーんと尻尾と耳が垂れたように見えて。
白石のその表情に弱いりんは、暫く考えて…やがて覚悟を決めたようにきゅっと唇を結んだ。
『……め、目をっ目を瞑ってて下さい///』
白「目?ええけど」
『もーいーよって言うまで絶対に開けないで下さいね…!』
白「はいはい」
妙に必死なりんに白石はフッと口元を緩める。
言われた通りに瞼を閉じる白石を確認し、りんはドッドッと鼓動が速くなるのを感じた。
しゃがんでいるので、いつもみたいに見上げなくても端整な顔がすぐ傍にある。
無防備に目を瞑る白石をもう一度確認してから、りんはそっと肩に手をのせた。
『(いち…にー……さん)』
心の中で数えて、近付く直前にきゅっと固く目を閉じた。
軽く唇と唇を重ねただけで、お花畑にいるような優しい気持ちが芽生える。
『……もーいーよ』とりんは消えそうな声で呟いてから、少し距離をとった。
白「……………」
『(む、無反応…!)』
合図と共に開けた筈の目は、驚いたように見開かれて。
すぐにカァッと顔が赤く染まっていった。
白「(~~~っっ口だと思わんかった)」
恥ずかしがりやのりんのこと。手や額、良くて頬だと思っていたのだ。
白石は口元に手を添えて、目の前で不安そうな顔をするりんを見据えた。
白「………全然伝わらん」
『ええ!?(そんな…!)』
頑張って証明したのに、とガーンとショックを受けていると、白石の手が伸ばされる。
頭の後ろに触れたと思ったら、ぐいっと引き寄せられて。
強引に唇を奪われ『ん…っ』と苦しさで声が漏れる。
『白石さ…「あれだけじゃ、足りない」
ドクンと大きく波打つ鼓動。
見つめる瞳が切な気に揺れ、"もっと"と熱を持って伝えてくる。
りんの身体は麻痺したように動けず、ただ白石の瞳に映る自分の姿がどんどん近付くのを見ていた。
『…んっ…………ふぁ』
さっき自分からしたのとは全く違う、深い口付け。
離れようとすれば更に深くなるそれに、全身がピリピリと痛くなった。
『………はぁっ、しらいしさ………んん!?』
何処で息をしたら良いかもわからず、ぷはっと苦しそうに息を吸ったりんの口は、すぐに塞がれてしまう。
白石の真似をして舌を出したら良いのか、でもそんなこと無理だと溶けそうな頭で思う。
白「…苦しい?やめる?」
『……ん……っんっ』
苦しい。苦しい。
それでも、意地悪な言葉とは反対に寂しそうに眉が下がっているから。
だから、
『……や………です、』
吐息と共に呟いた声は聞こえているのかわからないけれど。
引き寄せるように首に腕を回したりんに、白石は嬉しそうに笑った。