kiss
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*りんside*
金「りん~おーい!」
ぴょんぴょん飛び跳ねる金ちゃんに、タオルの束を持った私は足を止めた。
山吹のマネージャーもしている私は亜久津さんの試合を見ていると、その近くのコートで金ちゃんも試合を始めようとしていたみたいで。
微笑みながら手を振り返す私に合わせ、近くでドリンクを作っていた壇くんもその方向を見つめた。
壇「あの…良かったら遠山くんの試合見てきて下さい!」
『ふぇ!?でも、』
壇「亜久津先輩の試合データは、僕が精一杯取るので大丈夫ですっ」
私から書き途中のデータ表を自然に奪って、ニッコリ笑う壇くん。
そっか、気を遣ってくれてるんだ…
罪悪感から中々頷けないでいる私に、「それに、亜久津先輩のマネージャーがまた出来るかと思うと嬉しくて」とへへっと笑う。
『(………何か、わかるような)』
キラキラ瞳を輝かせる壇くんと、私がお兄ちゃんの試合を見ている時とが重なって。
今度語り合いたいな、なんて思いながら壇くんにお礼を言った。
『(金ちゃん、強くなった)』
ボールみたいに予測出来ない速さで動き、その身軽さに身長の高さが加わって、相手のコートへ次々にスマッシュを決めていく。
金ちゃんを見てると純粋にテニスが好きだって伝わってきて、見てる側まで楽しくなった。
金「りん~勝ったでー!!」
『うん!おめでとうっ』
金「見ててくれたん!?」
『見てたよ~』
『金ちゃんすごいね』と心からの感想を述べれば、パァアと顔を輝かせて喜ぶ。
まるで女の子同士みたいにキャッキャと喜んでいたから、
「(く…!イチャイチャしよって……)」
と、対戦相手が地団駄を踏んでいたことも知らなかった。
ドリンクを飲む金ちゃんの横に腰掛けていると、遠目からでもわかるほどダルそうに財前さんが歩いてきた。
声を掛ける前に、その後ろからヒョコッと顔を出したのは…
金「謙也ー!」
『謙也さんっ』
謙「おお!?金ちゃんにりんちゃん」
財前さんに何かを話していた謙也さんは、私達に気付くと驚いて後ろに倒れそうになる。(流石関西人だなぁ)
『謙也さんと財前さんダブルスなんですか?』
謙「そーなんや。せやけど財前のテンションが低くてなぁ」
財「そら謙也さんとダブルスとか頭痛なりますわ」
謙「ん??財前くん???」
「帰りたい…」と溜め息を吐く財前さんに、「そ、そんなに嫌なん!?」と涙目になる謙也さん。
何だか漫才を見ているようで、笑ってはいけないとわかっていても口元が緩んでしまう。
『(えと、)謙也さん頑張ってくださいね。ここで金ちゃんと応援してますのでっ』
謙「!ほんまに??」
『ほんまです!』
えへへと笑ってみせると、謙也さんの表情も徐々に明るくなってきて。
「おーきに」と答えた時は、いつもの元気な謙也さんに戻っていた。
財「…謙也さん花飛ばしすぎや」
謙「!?は…!と、飛ばしてへんし///」
財「…まぁ(りんがいて)嬉しいのはわかりますけど」
2人が話している間にも、しっかり応援しなくちゃと改めて活を入れる。
すると、突然ズザザザァと何者かがスライディングしてコートに現れた。
驚く間もなく、別の人物は綺麗なばくてんを決めて登場する。
「…10点」
「…10点」
謙「10点。見事な決め技合計30点………て何でやねん!!!」
ビシッと手を添えてツッコむ謙也さん。
私はただ、髪を結わいた男の人と、帽子を被った男の人をポカンと口を開けて見つめていた。
「久し振りやなー謙也」
謙「ハラテツさんも久し振りっス」
原「暫く見ない内にいっちょ前になったやないかい!」
何が何だかわからない内に、ぽんぽん話が進められていく。
いつもならすぐ参戦する金ちゃんも、そのスピードについていけず「??」と首を傾げていた。
財「…誰スか」
謙「ああ、財前が入った時、丁度引退したもんな。
この2人はハラゼンとヒラテツ。元四天宝寺の伝説の部長達や。
それでこっちが「突っ込み自動販売機(ベンディングマシーン)」の原哲也(ハラ テツヤ)さん」
原「何でやねん!誰がやねん!どないやねん!」
謙「おおー!!」
平「だ~~れ~~がぁ~~~笑いの狙撃手(ヒットミェーン)じゃ~~~~っ」
謙「いやいやまだ何も言ってないわ!!」
今度はビシッとラケットを突き出してツッコむ謙也さん。
もう1人は平善之(タイラ ヨシユキ)さんっていうみたい。
わいわいとはしゃぐ光景を見つめながら、『白石さんの先輩なんだ…』と1人で納得していた。
原「ん?んん??」
ハラテツさん(?)とバチっと目が合ったと思ったら、ニヤニヤした笑みを浮かべ始める。
原「謙也~やるやないか。コートに女の子連れてくるなんて」
謙「??」
原「またレベル高そうな子に惚れたなぁ」
謙「?……………ち、ちゃうわ!りんちゃんは応援してくれとるだけです!///」
原「(おー真っ赤)」
何だか謙也さんの顔が赤い気がする…?
ぶんぶん頭を大きく横に振っている姿に、首を傾げた。
すると、突然ハラテツさんに手招きされて、すぐに辺りをキョロキョロと見渡す。
困ったように笑った姿を見て、もしかして…?と自分に指を向けてみる。
コクンと頷いたのを確認してから、小走りで近付いていった。
原「堪忍なぁ呼んでもうて!
……謙也、ひじょーに言いにくいんやけど………やっぱお前には勿体ない思うでぇ」
謙「せやからそんなんちゃいますって…!///」
『???』
じーっと私の顔を見つめて、ハァと溜め息を溢すハラテツさん。
又もや顔を赤く染める謙也さんに、熱でもあるのかな、と勝手に心配になってきた。
うーんと考え中の私を、ハラテツさんは再びじっと見つめて。
原「…あれやな、自分何かに似てるって言われへん?」
『へ?何か、ですか?』
平「……うさぎ」
原「おお!そうそううさぎ!」
「よろしゅうなぁ、うさ公」とぽんぽん頭を撫で回す。
『わ、わっ』と驚いていても、まるでム◯ゴ◯ウさんのように生き生きと撫でるハラテツさんには関係ないみたいで。
途端、何やら背後で物凄い殺気を感じて、ビクッと身体が凍り付いた。
原「…いやいやいやいや、めっちゃこわいから!!」
財「………は?」
『ご、ごごごめんなさい!!??』
顔に真っ黒な縦線をいっぱい入れて、ギロッと睨んでくる財前さん。
その迫力に思わず謝ってしまうと、更に"黒"が濃くなった気がした。
原「謙也、あのピアスちゃんめっちゃ睨んどるけど?睨み殺されそうやけどぉ!?」
謙「あー…ちゃいます、財前はヤキモチ妬いとるだけやから」
原「ヤキモチ!?そない可愛らしいもんなんかアレ」
「一体誰に…」と言いかけ、ハラテツさんはカタカタと未だに震える私に視線を止めた。
原「(…あ、そーゆうこと)」
ほーんとかふーんとか言い納得したように呟く。
訳もなく睨まれていると思っている私は(※睨まれているのはハラテツです)思わずさっとハラテツさんの背中に隠れてしまった。
財「…………絶対勝つっスわ」
原「『は、はい………?』」
平「……………」
ヒュオオ…と財前さんの周りだけに冷たい風が吹いている幻覚が見えて、そう答える他なかった。
試合は両者一歩も譲らない白熱したものになっていた。
謙也さんが得意のスピードで相手の球に追い付き、すかさずライン際を攻める。
でも、ハラテツさんもヒラゼンさんも必殺技を次々決めてくるのに、苦戦しているのは……
平「バキュ~ン」
財「………っっ」
財前さんがどんな球も返しているから。
『(…すごい、)』
金「なぁなぁ、何であの兄ちゃんハラテツって言うん??」
『ふぇ!?えーと…原哲也さんだからじゃなくて?』
今まで見たこともない財前さんの姿に言葉を失っていると、突然金ちゃんがそう尋ねてきた。
「お、金太郎ええ質問やなぁ!」と聞こえてたのか、ラリーをしながら叫ぶハラテツさん。
原「そらなぁ…腹に石田鉄の顔が書いてあるからやでぇ!!」
金「『!!!』」
謙「それ鉄やなくて銀や!ハラギンやないかい!!」
バーンと効果音が鳴る勢いで自身のお腹を見せる。
まるで本物のような絵に、『上手だなぁ』と呑気に感心してしまう。
財「ふざけとると足すくわれますよ」
原「…お前、可愛くないやっちゃなぁ!」
平「どーかん」
財前さんの打球が2人の横を通り抜け、遂にマッチポイントとなった。
ハァハァと息を切らすことで、お互いの限界が伝わってくる。
『(…がんばれ、)』
いつも、いつも、ダルそうにしている財前さん。
でもいい加減なんかじゃなくて、きちんと考えて動いている人だって知ってるから。
そんな財前さんの、こんな本気になる姿が……ただ嬉しいんだ。
『…っ財前さん、頑張ってください!』
気付いたら、コートに向かって大声を出していた。
財前さんがボールを高く上げ、それは僅かな回転を掛けて相手コートに勢いよく放たれた。
ハラテツさんの長い髪を揺らし、スピードを保ったまま通り抜けていく。
とん…とボールが地面に落ちると、全員ハッとして事を理解した。
「ゲ…ゲームセット!ウォンバイ 忍足・財前 6-4!! 」
謙「ひ、光ぅうう!お前すごいやん…!」
財「ちょ、痛い…謙也さん」
謙「今のどうやってやったん!?お前の奥義にしたらええやん!」
財「もう忘れたっスわ」
謙&原「「…そこは覚えとけや!!」」
目をうるうるさせて財前さんに抱き付く謙也さん。
それを鬱陶しそうに払いながら、しれっと答える財前さんに2人が声を揃えてツッコむ。
私もととと…と小走りで近寄っていった。
『財前さん、謙也さんおめでとうございます!』
謙「おー!財前が頑張ったからやでぇ」
『財前さん、凄かったですっっ』
財「……ん」
『かっこよかったです!』と素直に思ったことを伝えると、財前さんは少しだけ顔を下に向ける。
僅かに耳が赤い気がしたけど、そのままベンチに座ってドリンクを飲み始めてしまった。
原「可愛いとこあるやんけ」
平「ツンデレなだけやな」
謙「財前はうち(四天宝寺)の子ぉやからな!」
原「いやお前のやきもちスイッチ可笑しいわ」
その馴れ合いにくすくすと笑っていれば、「お~い」と聞き慣れた声が響いた。
金「紅葉や~!」
『紅葉さん!』
原「!!」
紅「よっ…あちゃー試合終わってもうた?」
「たった今な」と謙也さんが言えば、「まーりんちゃんが見ててくれたし、ええか」と私を見ながら笑う紅葉さん。
紅「マネージャー歴もずっと長いしな」
謙「しっかりしぃや…仮にもマネージャーやろ」
紅「サボってた訳やないし。向こうのコートで蔵と千歳が試合してたから」
少しムッとしたように言う紅葉さんに、『白石さんが?』と思わず聞き返してしまった。
紅「あ~そうそう。りんちゃんどうにかしてや…もう蔵が面倒くさいのなんのって」
『?ふぇ、』
紅「りんちゃん不足やって嘆いててなぁ、練習も身が入ってへんし」
そ、そんなことになってたなんて……
ぐったりした様子で語る紅葉さんを見ると、本当なんだって伝わってくる。
『(白石さん、いっぱい話し掛けてくれてたよね…)』
一緒にご飯食べようって、一緒に帰ろうって、わざわざクラスまで来て言ってくれてたのに。
それなのに、私、ちゃんと応えられなかった。
原「も、紅葉ちゃん!久し振り「ヒラゼンさんお久し振りです」
平「お~元気か?マネージャーやっとるん?」
紅「あーはい。この合宿の間だけですけど」
平「ちょいちょいちょいちょい、ヒラゼン隊長親しいわー置いてかんといて!」
「あ、ハラテツさんもお久し振りです」としれっと挨拶する紅葉さんに、「ついでかいな!?」と涙目になるハラテツさん。
ワイワイと盛り上がっていても、私の頭の中は白石さんでいっぱいだった。
『(あっちのコート、行ってみようかな)』
財「……りん、」
『(でもでも、また人前で"充電"されると恥ずかしいし…っ)』
財「………おい」
んーと頭を悩ませては1人で赤面していると、財前さんのチッという舌打ちだけが聞こえて。
腕を軽く引っ張られ、座っていた財前さんと距離が近くなる。
一瞬…何が起きたのかわからないくらい一瞬の内に、唇の横に柔らかいものが触れた。
財「少しはこっち見ろや」
低く呟くと、何事もなかったように立ち去っていってしまう。
私はポカーンと固まりながら、熱の残った頬にそっと手を添えた。
『………………………………………………………………………………………!!??』
漸く何をされたのか理解した時、その背中は声を掛けられないほど遠くにあった。