てのひら
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『……………』
山奥の中で、じゃり…と自分の足を進める音が響く。
月明かりを頼りに歩いていたりんは、そっと前を見つめた。
白「……大丈夫?足下気ぃ付けてや」
『あ、はいっ』
前を歩いていた白石が急に振り返ったので、ビクンと身体を浮かせる。
暗闇が怖くて涙目になるりんに気付き、白石は優しく手をとった。
ふ、と短く微笑まれると、泣きそうになってしまうのは何故だろう。
りんはきゅう…と胸が締め付けられるのを感じながら、顔を伏せた。
2人がこうしている理由は、ほんの数分前にあった……
『不二先輩っ裕太さんっ』
裕「!りん…っ」
不「あれ、りんちゃん」
広い大浴場を堪能していたりんは、髪を拭きながら自室に戻ろうとしていると。
ロビーでジュースを飲んでいる不二兄弟に出会した。
不「髪、ちゃんと拭かなきゃ駄目だよ?また風邪引いたら大変だし」
『わっは、はい』
裕「(…兄貴、お母さんみたいだ)」
自分の肩に掛けていたタオルでりんの頭を拭く不二に、裕太は妙に納得していた。
不二もりんと裕太の小さい頃を重ねていると、その弟がこっちを凝視していることに気付く。
不「裕太、代わる?」
裕「!?か、代わんねぇよ…!///」
『??』
差し出されたタオルにカァッと顔を赤くし、そっぽを向く裕太にりんは首を傾げる。
髪を拭いてくれたことに『ありがとうございます』とペコリ頭を下げた。
不「そうだ、りんちゃんは知ってる?この山の先に、綺麗な湖があること」
『へ?湖、ですか?』
不「その湖で好きな人と一緒に星を見上げると、願いが叶うんだって」
『願い…』
フムフムと聞いていたりんは、"好きな人"の顔を思い浮かべて頬を赤く染めた。
そんなりんに不二はクスッと微笑む。
不「何でも一際大きな木を辿って進んでいくとか……そうだ。折角だし、裕太りんちゃんと行ってきたら?」
裕「は、はぁ!?何で俺が、」
不「いいじゃない。面白そうだし」
裕「面白くねぇよ…!///」
冗談なのか、本気なのか。楽しむ兄に裕太が言い返していると、りんの姿が忽然と消えていた。
裕「………………」
不「裕太、一緒に行こうか?」
裕「!行くわけねぇだろ…!!」
裕太の目に涙が溜まっていることに、不二は気付かぬ振りをしたのだった。
『(星が見たいって言ったら、すぐついてきてくれたけど…)』
本当は、どう思ってるのだろう。
りんは隣で歩く白石をチラリと見上げると、偶然にも視線が合わさってしまった。
ババッと慌てて顔を逸らしてから、りんはしまったと後悔する。
お互い黙ったまま暫く歩いていると、大きな湖が姿を見せた。
『わぁ……きれー…』
月明かりが湖に反射して、とても幻想的だ。
白石も感動しているらしく、湖の傍で覗いていた。
白「やっぱ大自然やからかな、水が透き通っとる」
『…ほんとだ』
掌で水を掬う白石に合わせて、りんも手を伸ばす。
バランスを崩しそうになり、「っ危ない、」と慌てて支えてもらった。
『っあ、ありがとうございます…』
白「気ぃ付けなアカンで?暗いし、いつもより注意せな」
顔を上げた瞬間、バチリと目が合って反射的に逸らしてしまう。
すると、白石が眉を下げたので胸がズキッと痛くなった。
白「…………逸らさんで」
湖の傍だと、月明かりのせいで表情が良く見える。
白石にも自分の顔がはっきり映ってるのかと思うと、恥ずかしくなった。
『し、白石さ「りんちゃんに目逸らされると、悲しくなる…」
普段は冷静で、落ち着いてて、大人っぽいのに……
自分が目を逸らしただけで、捨てられた子犬のようになるなんて。
『もう……やだ』
白「りんちゃ『胸がきゅーってして、いつも……白石さんといると、苦しい』
何でもしてあげたくなる。彼が望むものに、ちゃんと応えたいって、思う。
でも、その分、何でも白石の一番になりたくなって。
『私ばっかり、大好きで………いっぱい好きになって……恥ずかしい』
ポロポロと涙を流すりんを白石は目を丸くして見つめる。
『あ、赤也先輩がいっぱい撫でられてるのも…嫌だったし、』
『お弁当も、本当は白石さんに食べて欲しかったし…』
知ってた。
どんどん、欲張りになっていってること。
『、大好きで…苦しい…っ』
胸の奥につかえていたものが、ポロポロと溢れていく。
透明の涙がりんの頬を伝った時、唇に温かな感触がした。
齋「…黒べぇがそーんなロマンチストとはねぇ」
監督室で選手のデータの整理をしていた黒部は、その声に顔を上げた。
ミルクたっぷりの珈琲が好きだと知っているのは、1人しかいない。
黒「…何のことでしょう」
齋「おや、青学の不二君に湖のこと話したって聞いたけど、」
黒「………」
渡された珈琲を啜りながら、隣に座った齋藤を見る。
黒「…星が好きだと言っていたからですよ」
齋「元マネージャーの、奥さんとそこに行ったんでしたっけ」
黒「…情報が早いですね」
ハァと溜め息を吐く黒部に、ニコニコと話す齋藤。
合宿の精神コーチが、何故そんな個人情報を知っているのだろうか。
コーチ陣は、基本的に学校とは関わりを持たないのに、昼食も教師陣と仲良く食べているし……
齋「黒べぇももっと直接関わったら良いのに。新しい発見があるかもですよ~」
黒「選手のテニスデータしか興味ないですね」
齋「またそんなこと言ってー恐がられるよ?」
ピクッと反応する黒部。
"恐がられる"のは永遠のテーマでもあり、鬼とどうしたら治るのか会議したくらいだ。
悶々と頭を悩ませる黒部の横で、齋藤は選手のデータが書かれた書類を捲っていた。
青学について書かれたページを、じっと見つめる。
齋「…越前さんを他の学校のマネージャーにしたのは、彼ら(青学)が精神的に彼女に依存していると思ったから」
様々な相手と戦うスポーツ選手は、どんな逆境にも耐えられる精神力がなければならない。
特にマネージャーの存在が大きい青学は、それが欠けていると思ったのだ。
ページを捲り、"越前リョーマ"のところで齋藤は手の動きを止めた。
齋「でもそれは…彼らではなく、彼女の方でした」
その人達がいないと駄目になるくらい、無意識に依存している。
齋「(この3人も危険なんですよね……)」
黒「全くあなたは…マネージャーではなく、選手を見て下さい」
書類を真剣に見ている齋藤に、黒部は呆れたように話す。
「ははっごめんごめん」と緩く謝ったが、その表情が晴れることはなかった。
『…………んっ』
月明かりの下、2つの影が映し出される。
白石は薄く目を開けると、反対に強く目を瞑るりんがいた。
白「(………かわいい…)」
何回、大好きと言ってくれたのだろう。
ぎゅっと白石の服を握るのも、息の仕方が上手く出来ないのも、全部、全部。
額、瞼、頬と唇を寄せると、りんはくすぐったそうに身を捩った。
『…っし、白石さ……やだ、』
白「…嫌?」
『……っ』
触れる唇が熱くて、まるで自分の身体じゃないみたいで。
唇が首筋を掠めた時、『ひぅ…っ』と変な声を出してしまった。
白「(……声、かわええ)」
『っ、やぁ』
白「(もっと聞きたい、)」
りんに、ここまで触れられるのはきっと自分だけ。
本能のまま動いていた白石は、途中ハッと我に返った。
小動物のようにプルプルと震えるりんを見たら、「っごめん」と口から溢れる。
『や、やだって言ったのに……っ』
その言葉が、白石には自棄にショックだった。
あんな風に想っていてくれたことが嬉しくて、可愛くて、歯止めが利かなくなってしまったけれど。
本気で嫌がっているとは思わなかったのだ。
また悲しそうに眉を下げた白石に、りんはハッとして慌てたような素振りをする。
『………私、変…だから、』
白「…変?」
『白石さんにキ、キスされると、何だかムズムズして……』
自分が自分じゃなくなるような、変な感覚になって。
2人は座りながら向かい合い、りんの言葉を白石はじっと待った。
『…………っえっちな気分になっちゃうんです…っ』
…………………
……………………………………。
暫く経っても反応がなく、りんは恐る恐る瞑っていた目を開ける。
視界に姿がないので慌てて首を動かせば、白石はその場に横たわっていた。
『!!ええっしし白石さん…!?』
白「~~~~~~~~~~~~っっ」
胸をぐっと押さえ、震えているようにも見える。
ひたすら何かに堪えている彼をりんはオロオロと見守るしかない。
白「(………アカン、死ぬ///)」
りんの口から、そんな言葉が出ると思わなかったのだ。
なんとか理性を保ち、白石は気を紛らわす為に小春が女装した姿を想像することにした。(蔵リンったら酷いわぁ!by小春)
う゛~んと白石が眉間に皺を寄せている間に、りんは隣に腰を下ろした。
同じように寝そべると、空には満面の星空が広がっていて。
『(わぁ……)』
大きな瞳に目一杯星を映す。
りんの感動が伝染したのか、苦しんでいた白石も天を仰いだ。
白「……俺も同じなんやけどな」
『え?』
白「りんちゃんが言うたこと全部」
情けないくらい、りんが好きで、大好きなんだ。
「あと…」と呟き、ちょいちょいと手招きすると素直に近寄ってくれるりん。
耳元で白石が話せば、その身体はビクンと跳ねた。
白「えっちな気分になっちゃうのも」
『!!?///』
ボッと顔を真っ赤に染めるりんに、ニッコリと笑う白石。
もう完全に白石のペースだ。
熱くなった頬を冷ますように目を瞑りたくても、真っ直ぐに見つめてくる彼から視線を逸らせなかった。
白「…お弁当って、誰かにあげたんか?」
『?えと、お兄ちゃんと…渡邊先生に、』
白「オサムちゃん?」
白石の目が恐ろしく光るが、りんがまだ何か言いたそうにしていたので、すぐに元の表情に戻った。
『だ、だって、白石さんのクラスに行ったら、梓さんが』
白「梓………ああ、一宮さんか」
"梓"と白石が呟いただけで、ズキンと痛む胸。
だが、白石自身はハッキリと名前を覚えていないほどだったので、然程興味がなかった。
その人がどうしたのだろうと考えて、状況を思い出すと自然と口元が緩んだ。
『ど、どうして笑ってるんですか…!』
白「んー?笑ってへんよ?」
『絶対笑ってますよっ///』
ただ、自分の昼食を買うついでに購買で買ってきてくれただけ。
それだけなのに、梓に嫉妬してくれたのだろうか。
嬉しそうにする白石に納得がいかず、りんはむーと頬を膨らませていた。
2人肩を並べて、星を見上げる。
りんは一生懸命願い事をしていると、膝に男物のパーカーが掛けられた。
お礼を言う前に、「寒くなるし、そろそろ戻ろか」と微笑まれる。
『…白石さんの願い事って、何ですか?』
白「んー…秘密」
『!秘密?』
クスリと微笑む白石の後を、パーカーに袖を通しながらりんは遅れないようについていく。
それでも不安にならないのは、いつもすぐに歩幅を合わせてくれて、そっと手を差し出してくれるから。
白「(……小さい手やなぁ)」
小さくて、白くて、華奢で。
か弱そうなのに、繋いだら心まで温かくしてくれる不思議な手。
まるで、彼女自身を表しているような、てのひら。
白石はりんに注いでいた視線を、空に変える。
満面の星空を見上げて、先程自分が願ったことを思い出していた。
白「(どうか、)」
この先の人生、りんちゃんがいつも笑って過ごせますように。
その隣にいるのが、俺でありますように、と。
白「(…叶えてや)」
果てしなく続きそうな星空に、白石は祈るように強く願った。
白「(それにしても…りんちゃんって、男(切原くん)にまで嫉妬するんやなぁ)」
『??(笑ってる…?)』