てのひら
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*りんside*
あと5分……
そわそわして教室の時計を見つめる私は、かなり不自然だと思います。
要「このように、原子が電子の一部を放出したり、受け取ったりした状態をイオンと言い……」
朝・夜のご飯は宿舎で用意してくれるけど、学校のある日の昼食は各自自由に取って良くて。
机の横に掛けた、3つのお弁当箱が入った紙袋に自然と目がいってしまう。
『(…喜んでくれるかな)』
何回か手料理を食べてくれたことはあるけど、白石さんにお弁当を作るのは初めてだ。
特に伝えてもいないから、きっとビックリした顔をするんだろうな。
『(な、何て言って渡そう…っ自分のを作ってたら余っちゃって、とか?)』
迷惑かな、お腹空いてないかな、なんて今更不安に思ってしまう。
頭の中で渡す練習をしていると、その頭をぽんっと教科書を折り曲げた物で叩かれた。
要「ではりんさん、化学式は何と何を結合させて作りますか?」
『ふぇ!?』
気付いた時は、白衣を身に纏った要先生がニコッと微笑んでいた。
その笑顔は"聞いてねぇな?"と言ってるようで、私はひくっと喉を鳴らす。
化学の得意なお兄ちゃんに助けを求めて振り向けば、机に伏せていた。
『(お、お兄ちゃん寝ちゃってる…っ)』
先生の授業で熟睡出来るなんて、お兄ちゃんすごい…!!
オロオロと戸惑っていると、隣の席で鳳さんがノートを高く上げて指さしていた。
要先生は背を向けてるから気付いてないみたいで…
『(え、えと)陽イオンと陰イオンです』
要「……よろしい」
教壇の前に戻って行く姿を見て、ホッと安堵の息を吐く。
『(鳳さん、ありがとう)』
ぱくぱくと口を開けてお礼を言うと、鳳さんも"どういたしまして"とジェスチャーして言ってくれた。
チャイムの音が鳴り響くと、暫くしてお兄ちゃんがムクッと顔を上げた。
『もーお兄ちゃん、授業中眠ったら駄目だよ?要先生怖いんだから』
自分のことを棚に上げてるってわかってるけれど、お兄ちゃんが怒られるのは嫌だから。
心を鬼にして注意する私を、お兄ちゃんはぼおっと見つめて…
リョ「…………………うん?」
頬に机の痕を残して寝惚ける姿に、キュンと胸が締め付けられた。
『(か、かわいい…っ)』
お兄ちゃんと同じ学校で、同じクラスの桜乃ちゃんがすごくすごく羨ましい。
だって、色んなお兄ちゃんが見れるんだもん。
桃「おーい越前、一緒に飯食おーぜ!」
『桃城先輩!』
たたたた、と掛けていく私に気付いて「おーりん!」と笑ってくれる先輩。
桃「ったくお前も少しは来いっつの」
リョ「…やだ」
頭を撫でられていた私は、桃城先輩がお兄ちゃんを猫、私を犬に重ねてたなんて思わなくて。
でも、素っ気なくしながらも、お兄ちゃんが桃城先輩に気を許してることは知ってる。
今だって、嫌々ながらもこっちに歩いて来てるし…
リョ「桃先輩、制服似合わなすぎ」
桃「!んだと!?……まぁ俺も、少しは思ったけど」
桃城先輩はブレザーを脱ぎ、落ち着かないと言うようにネクタイを緩めた。
「食堂行こーぜ」と言う声にハッとして、慌ててお兄ちゃんの服の袖を掴んでしまった。
リョ「何?」
桃「りんも一緒に来るか?」
『え、えっと、』
『実はね』と机に戻ってから紙袋の中身を取り出した。
『お兄ちゃんにお弁当作ってきたんだ///』
成長期のお兄ちゃんはたくさん食べると思って、お弁当箱も大きめにした。
日頃の練習の疲れを考慮した、その名も"ビタミンミネラルたっぷりお弁当"。
『今日はね、お兄ちゃんの好きなものいっぱい入れたよ』
ニコニコ微笑む私から視線を逸らして、お兄ちゃんはすっとそれを受け取る。
リョ「………さんきゅ」
嬉しくて『うんっ』と答えると、わしゃわしゃと頭を撫でてきたお兄ちゃん。
乱れた髪のまま顔を上げると、お兄ちゃんは背を向けて教室を出て行ってしまった。
『………??』
チラチラと心配そうに振り向く桃城先輩に、小さく手を振った。
お弁当を抱えて廊下を歩いていると、千石さんと誰かが話してるところが視界の隅に映った。
楽しそうに話しているから、声を掛けずにペコリとお辞儀をして通り過ぎた時……
千石「あ!りんちゃん!」
呼び止める声に、小走りだった足が止まった。
『千石さん、こんにちは』
千石「こんにちはっ!いや~りんちゃんに会えるなんてラッキー」
「ラッキーアイテム持ってて良かった~」と呟きながら、星形のペンダントを触る千石さん。
本当に嬉しそうな姿に何だか私も嬉しくなってしまい、自然と笑顔になっていた。
『この間はお見舞いにきて下さって、ありがとうございましたっ』
千石「いーよそんなの。俺が行きたかったから行っただけだし」
「もう大丈夫なの?」と心配そうに尋ねる顔を見上げて、コクコクと頷く。
談笑していると、途中誰かの視線を感じた。
慌てて顔の向きを変えれば、千石さんと一緒にいた女の子がじっと私を見ていた。
『あの、ごめんなさい。話の邪魔しちゃって…』
千石「へ?あ、この子は『失礼しますっ』
もう一度会釈をして、さっきよりも早足で歩き出した。
『(…今の子、誰だろ)』
初めて会ったけど、何処かの学校のマネージャーかな?
悶々とそんなことを考えてる間に、B組の前に到着していた。
『(いるかな…?)』
そろ…とドアの隙間から顔を出して、教室の様子を伺う。
真剣にその姿を探していると、「わっ!」と両肩に手を置かれた。
『ひゃあ!?』とビクンと身体を浮かせながら振り向くと…
『!き、菊丸先輩』
菊「りん~なーにしてんの??」
驚きで涙目になっていたけど、ニッと笑う菊丸先輩に酷く安心した。
『菊丸先輩、ここのクラスなんですか?』
菊「そだよ~」
小声で話していた時、教室にその姿を見付けてドキンと胸が鳴った。
2つの机をくっ付けて、白石さんは赤也先輩に勉強を教えているみたいだった。
『(…赤也先輩ってば、あんなにくっついちゃって……)』
私だって、白石さんに勉強を教えて貰ったことなんて全然ないのに。
むーと頬を膨らませてその光景を見つめていた私は、「りん?どったの?」と先輩が尋ねていることに気付けなくて。
教室に入るタイミングを見計らっていると、そんな2人にすっと誰かが近付いた。
『(………梓さん、)』
所々しか聞こえないけれど、白石さんの笑い声が微かに届く。
梓さんは購買で買ってきたらしく、サンドイッチやおにぎりを机に置いていた。
『…………』
思わずお弁当の包みをきゅっと握り締める。
一緒に食べる約束なんてしてなかったけれど。
でも、それでも、
菊「りんー?どーしちゃったのさぁ!」
『!?』
大きな声に漸くハッとして、慌てて教室の方に目を向けた。
その声が聞こえてしまったのか、キョロキョロと首を動かす白石さんを見て反射的にしゃがんでしまう。
菊「?どーし『菊丸先輩っしーしー…!』
人差し指を口元に当て、一緒にしゃがむ先輩に必死で訴える。
素直に大人しくなる菊丸先輩にほっとしたのも束の間、「こんなところで何してるんだ?」と聞き慣れた声がした。
菊「あ、大石に隆さん!」
大「英二もりんちゃんも、ドアの前でしゃがんでると危ないぞ」
河「?かくれんぼ?」
『…あ、う…えとっ』
手を上下に動かして慌てる私を、ただ不思議そうに見つめる先輩達。
どうしたら良いかわからなくなって、だっとその場を駆け出した。
菊「えっりん!?」
大「りんちゃん、走ると危ないぞ…!ちゃんと前見て!」
菊&河「「((お母さん……))」」
無我夢中に走っていたから、角を曲がった時にドンッと誰かに衝突してしまった。
その拍子にお互い尻餅をついてしまい、痛みに耐えながら前を見ると、
齋「いたたたた……」
『さ、齋藤コーチっ大丈夫ですか?』
齋「あ~はい、大丈夫ですきっと…」
コーチの両手を持って起こす手伝いをすると、「ありがとうございます」と長い裾を払いながら言った。
『ごめんなさい、私が前見てなかったから、』
齋「廊下は走っちゃ駄目ですよ」
『…はい』
その指摘にしゅんと頭が下がる。
大石先輩の言うこと、ちゃんと利けなかったからだ…
落ち込む私を見ていた齋藤コーチは、「えーと…」とガシガシと自分の頭を掻いた。
齋「私は先生でもないんですけどね」
「青春ですねぇ」としみじみと私を見つめるコーチに、きょとんと目を丸くして。
大きな掌が頭に伸ばされた時、「おお、齋藤コーチやないですか」と新たな声が響いた。
齋「これはこれは渡邊先生。これからお昼ですか?」
渡「そのつもりなんですけど、えらい目にあってもうて…」
齋「…購買の争いに参加してたんですね」
渡「はっはーまぁ、そんな感じですわ」
渡邊先生の服が何処かボロボロな気がして、私はその"争い"を想像するだけでぶるりと震えた。
渡「若いもんには敵わんな」
『先生のお昼、それだけなんですか?』
渡「ん?うん、せやなぁ」
焼きそばパンを振る先生に、きゅっと手に持っていたお弁当を握り締める。
いいよね、
『あの、これ…良かったら食べて下さい』
渡「へ?それはめっちゃ嬉しいんやけど、これ自分のやなくて?」
『私のは別にあるので大丈夫ですっ』
『たくさん作りすぎちゃって、どうしようかと思ってたので』と口にしても、顔は上手く笑えない。
そんな私を先生はじっと見つめて、
渡「ほなら貰ってくな。おおきにりんちゃん」
嬉しそうに笑って受け取ってくれた先生に、私も思わず微笑んでいた。
渡「そや。齋藤コーチも昼一緒にどうですか?水城くんとも約束しとるし」
齋「おや、楽しそうですねぇ。お邪魔じゃなければご一緒します」
渡「なんのなんの!」
会話からぽつんと取り残されていると、「りんちゃんもどや?」とこっちを見ていた渡邊先生。
絶対絶対、すごく場違いだけれど、要先生もいるし……
深く考えた後、顔を上げた。