てのひら
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キーンコーンカーンコーン
山奥の中で、学校のチャイムが響き渡る。
何処を見渡しても山だらけなのに、何処にそんな場所があるのか不思議だが…
宿舎から離れ橋を渡れば、目の前に巨大な校舎が現れた。
強化合宿に参加する選手の為に新設された学校は、全てが最新型で出来ていた。
まず、校舎に入る時は専用のレーダーで瞳を読み取らなくてはならない。
世界各国から取り寄せた本が揃う図書室。
エスカレーターで移動出来る校内。
プロジェクターを使っての授業。
一面ガラス張りの校内を、りんはポカンと見上げていた。
要「…色んな意味で凄いよな」
『………』
隣にいる要に、同意するようにコクンと頷く。
監督兼、理事長の方針で制服は統一されているので、りんもそれを身に纏っていた。
紺のブレザーに、グレーのチェック柄のスカート。
薄い水色のブラウスと紺に赤色の模様が付いたリボンが爽やかである。
『何だか…ブレザーって着なれないので恥ずかしいです』
要「そっちの方が大人っぽく見えるけど?」
『!本当ですか?』
これで、大人っぽい白石に近付けるだろうか。
背が伸びたリョーマの隣にいても、双子の兄妹に見えるだろうか。
言われた言葉が嬉しくて笑みを浮かべるりんに、要はクスリと微笑んでいた。
…だが、この後比べ物にならないくらい嬉しい出来事が待ち受けていた。
要「ー…ってな事情で、昨日は欠席していた越前りんさんだ。
今日からこのクラスで一緒に学ぶことになる。仲良くな」
教壇の前で要が紹介してくれる言葉も…全ての音が耳に届かない。
教室の窓際に座る人物を見付けた瞬間、りんは一歩一歩と近付いていった。
教室にいた殆どが吸い込まれるようにりんに見惚れていると言うのに、その本人は1人に吸い込まれていて。
『(……ゆ、夢………?)』
試しにむぎゅーっと頬をつねってみるが、ヒリヒリとした痛みが残るだけ。
その人物は、そんなりんにハァと溜め息を溢した。
リョ「……夢じゃないんじゃない」
『っお、お兄ちゃん…?』
リョ「はい?」
『ほんとに、ほんとに本物のお兄ちゃん?』
リョ「そうだけど…」
幼稚園の時も、小学校の時も、同じクラスに一度もなれなかった。
そんな兄が目の前で自分と同じ制服を着て、教室にいるのだ。
『…お兄ちゃんと同じクラス、嬉しいっ』
長年の夢が叶ったりんは、『えへへー』と嬉しそうに頬を緩めた。
リョーマは少し目を丸くしてから、「あっそ」とふいっと横を向いてしまう。
要「じゃーりんの席は越前くんの隣………あーもう座ってるね」
既に着席し、にっこにっことそれはそれは嬉しそうに微笑んでいるりん。
要はブラコン全開の生徒に呆れながら、何処か遠い目をしていた。
天「同じクラスで暮らす……ぶっ」
『天根さん!』
りんの後ろの席に座っていたダビデ。
天「マネージャー、なんのまねーじゃー?……ぶっ」
『…ふふ、』
天「マドンナってまぁどんな?……ぶぶっ」
『あははっ』
次々と溢れるダジャレにりんはクスクスと笑っていると、ダビデの頬がポッと赤く染まった。
天「(……バネさん、笑ってくれたよ)」
いつもいつも黒羽に「つまんねぇんだよ!」と足蹴りをくらっているのだ。
未だにクスクスと笑ってくれるりんが新鮮で、ダビデは感動するばかりだった。
財「何や…騒がしい思うたらりんか」
『財前さんっ』
ヘッドフォンを外し、りんの前の席に座っていた財前が振り向く。
今の今までニコニコ笑っていたりんだが、今朝の一連を思い出した瞬間、ピシッと顔を強張らせた。
財前もその様子に眉を寄せ…まるで蛇に睨まれた蛙状態である。
「りんちゃん」と反対側の隣から話し掛けられ、りんは弾かれるように顔の向きを変えた。
鳳「このクラスだったんだね」
『!鳳さん、』
鳳「隣の席、宜しくね」
『はい、こちらこそっ』
『鳳さんが隣でほっとしました』と素直な感想を述べると、聞いた本人は目を丸くして。
「うん、俺も…」と呟いた声は独り言のように小さく、りんは照れる鳳にただ微笑んだ。
仲睦まじい2人のやり取りを見ていた財前は、眉間の皺を深くさせ……
財「…少女漫画か」
鳳「!!」
『??』
「違うって…!」と慌てて否定する鳳に、首を傾げるりん。
ただ、チッと舌打ちをする財前にビクゥと身体を浮かせていたのだった。
壇「ダダダダーン!越前くんの双子の妹さんなのに、顔は似てないです…!」
堀「まぁ二卵性だしなー…それ本人に絶対言うなよ?(泣かれたら困る…)」
浦「堀尾くんは詳しいんでヤンスな」
山吹の壇太一、青学の堀尾、立海の浦山しい太と、固まって座っている3人。
「あんな可愛い子と仲良いんでヤンスか!?」と尊敬の眼差しを向けてくる浦山に、堀尾は少し鼻を高くしながら「ま、まぁな」と頷いた。
堀「手作り菓子も食べたことあるしな~(先輩達皆に配ってたけど)」
壇「す、すごいです堀尾くん!」
堀「部活後は良く寄り道して色んなとこ行ったし~?(越前もいたけど)」
浦「デ、デートでヤンス!!」
えっへんと言わんばかりに誇らし気な堀尾。
キャッキャッと3人が女子のように盛り上がると同時に、りんはくしゅっくしゅっとくしゃみを繰り返していた。
『(…裕太さん、日吉さんも同じクラスなんだ……あ、赤也先輩寝てる)』
窓際の席からは教室の隅々まで見渡せる。りんはクラスメートを1人1人確認していた。
すると、一番前…教壇に近い席に座っていた人物とバチリ視線が絡み合った。
…と思ったのも一瞬で、すぐにその瞳はすっと逸れてしまう。
『(……金ちゃん?)』
背を向けてしまった金太郎が、もう一度振り返ることはなかった。
渡「ほーいじゃあ今日はここまで」
古典の担当であるオサムは、教壇の前でパタリと教科書を閉じた。
「はっはープロジェクター?書かな意味ないやろ」と彼が言い切った為、この授業だけは黒板を使用していた。
『あの、先生!』
渡「おーりんちゃん」
たたた、と小走りで掛けてくるりんにオサムは歩みを止める。
頬をほんのりピンク色に染め、何か言いた気なりんに首を傾げた。
『え、えとっ』
渡「??」
彼等の関係を知らない者が見れば、ただ女の子が告白を前に恥じらっているように見える。
いくつかの殺意を含んだ視線を感じながらも、笑いながら自身の帽子を押さえるオサム。
渡「白石なら、俺のクラスやで」
『!』
渡「りんちゃんが会いに来たら喜ぶんとちゃうか?」
その言葉に、りんの顔はカカカと赤く染まっていった。
『ほ、本当ですか…?///』
渡「本当やって!何なら10コケシかけてもええで」
『(コケシ?)』
りんが首を傾げている間に、オサムは「金太郎もそう思うやろ?」と話をふっていた。
一番前の席でぼんやりとこちらを見つめていた金太郎は、一瞬ハッとしたように目を見開く。
「そーやな」と言いながらわかりやすく顔を背ける姿に、りんの胸はズキンと痛んだ。
『あの、金ちゃ「ワイ、コシマエにノート見せて貰うてくる…!」
ぴゅーっと音が鳴りそうなほど、一瞬の内にいなくなった金太郎。
「ちゃんと授業聞きー」と言うオサムの声も、りんは何処か遠くに感じていた。
白「金ちゃんの様子が変?」
りんの教室であるD組から少し離れたB組。
教室の目の前の廊下で白石が尋ねると、りんはコクコクと頷いた。
白「いっつもせわしないけどなぁ」
『ちがくてっ目が合ってもすぐ何処か行っちゃうんです…』
白「う~ん…」
眉を寄せて考える白石に、りんも思わず必死になって話す。
白「…金ちゃんは、きっと気にしてるんちゃうかな?」
『気にしてる…?』
白「りんちゃん、この間金ちゃんに『おっきい金ちゃんなんて知らない』みたいに言うてたやろ?」
その時のことを思い出し、『…あ』と自然と声にしていた。
ー私、そんなおっきな金ちゃんなんて知らない…!
あの時の言葉を、そんなに気にしてたなんて。
金太郎を傷付けてしまった。
思わず俯きかけていると頭に温かな感触がして、そっと顔を上げる。
目の前の白石が優しく微笑むから、思わず泣きそうになってしまった。
白「大丈夫。金ちゃんはりんちゃんの気持ち、ちゃんとわかっとるよ」
『…ほんと?』
白「うん。ほんと」
白石の掌は、いつも大きくて温かい。
ゆっくり優しく撫でてくれるこの手が、今では大好きだ。
『(ぽかぽかする…)』
まるでその熱が伝わったみたいに、胸の中が温かくなっていく。
「…せやけど、」と急に動きを止める白石を不思議に思い、りんは見上げるように面を上げた。
口元に手を添え、何やら言いにくそうにする姿に首を傾げていれば、ちょんちょんと手招きをされる。
素直に従い傍に寄るりんの耳元に、白石は自身の口を近付けた。
白「……俺のことはもっと考えてな」
『!?ふぇ、』
白「金ちゃんだけそない想われてズルいわ」
『(こ、声が……っ)』
内緒話をするように手を添えていた白石が離れていくと、りんの顔はボンッと真っ赤に染まった。
白石の声がダイレクトに耳の奥に届き、くすぐったいのと恥ずかしいのとでいっぱいいっぱいになる。
『(もう……考えてるのにっ)』
これ以上白石のことを考えて大好きが増えていったら、一体どうなってしまうのだろう。
『~~~~…っ///』
白「りんちゃん?」
そっちの方がズルい、という意味を込めて、ポカポカと白石のお腹を叩くりん。
だが全く痛みを感じず、白石は「??」と首を傾げるだけであった。
真「……こ、公共の場で何をしてるのだ!!///」
『!!真田さん、』
まるで初めてエロビデオでも観た中学生のように、顔を赤く染めてパクパクと口を開け閉めする真田。
その大声に、廊下にいた何人かが振り返った。
幸「真田の声の方が公共の場に相応しくないけどね」
真「な、んだと…!?」
柳「同感だ。96.5%の生徒が、弦一郎の声を不快だと感じただろう」
真「!な…!?」
後ろから顔を覗かせた幸村と柳。
友人に口を揃えて言われ、真田は目を見開きながらわなわなと震えた。
幸「そうだ白石、次の時間英語の実力テストあるんだって」
白「え!そうなん?」
柳「隣のクラスの奴が言っていたから、間違いはないだろう」
そのまま白石を含め話し出す一同を、りんは大人しく見つめていた。
誰かと話しているところを見ると、本当に白石と同じ学校に通ってることが実感出来る。
こっそりと嬉しさを噛み締めるりんの元へ、ドドドドと誰かが猛スピードで廊下の端から掛けてきた。
赤「りん~!助けてくれ!!」
『わわ、赤也先輩…!』
ぜぇぜぇと息を切らす赤也の背中を、りんは驚きながらも擦る。
赤「次の次の時間、英語の実力テストあるって丸井先輩が教えてくれてよ…
30点以下は、1週間試合出来ねぇんだってさ」
『ええっそうなんですか?』
赤「だから頼む…!りん英語教えてくれ!」
りんが頷く前に、「赤也………」とドスの利いた低い声がした。
赤「ってあれ?さ、真田ふくぶちょー…?……皆さんお揃いで……」
真「年下に勉学を教わるなど、たるんどる!!!」
柳「(……赤也、哀れなり)」
今日一番の怒声が廊下中…学校中に響き渡った瞬間であった。
真「それに"ふくぶちょー"だと?漢字を使わんか!」
赤「そんな怒ることないじゃないっスかぁ、福部長」
幸「…赤也、間違えてるよ」
ゴゴゴゴ…と何処からか雷が鳴る音が聞こえ、赤也と同時に何故かりんもビクッと震える。
幸村も柳も察したように目を瞑り、絶体絶命かのように思えたが……
白「英語やったら、俺が教えたろか?」
赤「ほ、本当っスか!?白石さん」
白「うん。めっちゃ得意って訳でもあらへんけど、切原くんさえ良かったら」
赤「ぜ、全然大丈夫っス!助かります!!」
目を輝かせて白石を見つめる赤也は、無意識に天使化をしていた。
真田と交互に見比べると、まるで神様と閻魔様だ。
白石に頭を撫でられ犬のように尻尾を振る赤也を、立海の3人は息子を取られた気持ちで見つめていた。
りんも2人のやり取りを、ただじっと聞くことしか出来なくて。
『(……白石さん、)』
心の中で何度呼んでみても、白石が自分の方へ振り向くことはなかった。