てのひら
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冬、独特の澄みきった空気。何処か高くなった空。
白石はマフラーをかけ直し、冷たくなった鼻先を中に入れた。
白「(寒……)」
冬は嫌いじゃないが、あまり着込むのは苦手だ。
温かさを求めてコートのポケットに手を入れようとした時、ちょんと何かが触れて、反射的に振り向いた。
『…………』
カーと顔を赤くしながら、気まずそうに視線を逸らすりん。
自分の方へ控え目に伸ばされた手を見て、白石は全てを悟った。
白「(…かわええなぁ)」
愛しく思いながら見つめると、白い頬はカァァと更に朱に染まっていく。
お望み通りその手を取れば、俯きがちだった面がぱっと上がる。
嬉しそうにふんわり口元を緩めた姿を見て、今度は白石が顔を赤くする番だった。
悟られないように前だけを向き、繋いだ手に力を入れる。
白「………」
小さくて。雪のように真っ白で。少し力を入れたら折れてしまいそうなくらい細くて。
ぎゅっと握り返してくれるこの手が、自分とは違う体温が、とても好きだ。
守りたい。
この先も、ずっと、ずっと。
誓うように、白石は繋いだ手を強く握った。
だが、自分以外に手を握られるのは少し…かなり気に入らない。
千石「りんちゃん大丈夫?手も震えてるよ」
『大丈夫ですよ。今日1日ゆっくりしてたら治ります』
心配しながら、自然とりんの手を取る千石。
更に額からずれた冷えピタを直そうとした時、ゾクッと物凄い悪寒を感じた。
白「……………」
千石「白石くん!無言で睨み付けるのやめて…!!」
千石が背後を振り向くと、今にも人を殺しそうな形相の白石がいた。
離さなければ殺られる…本能で察した千石は、ぱっと手を離した。
だが、そんな空気をものともしない財前は飄々とりんに触れ、新しい冷えピタを額に貼っている。
財「冷えピタありすぎやろ」
『えと、先輩達が買ってきてくれたんです』
財「(………アホや)」
青学の過保護ぶりには呆れるばかりだ。
それにしても…いつも財前が近付くと小動物のようにビクッと跳ねるりんが、今日は熱があるからか反応が遅い。
頭を軽く撫でると瞳を細める姿は、猫のようだった。
丸「腹減ってないか?」
『大丈夫です。あんまり食欲なくて…』
夜食用にと、内緒で取っておいたお菓子を見せる丸井。
弱々しい声に「お粥とかもいらねぇ?」と尋ねても、りんはふるふると小さな頭を振るうだけ。
丸「少しだけでも食べないと薬飲めないぜぃ?」
『じ、じゃあ少しだけ…』
丸「よし!」
「えらいえらい」と丸井が頭をくしゃっと撫でると、りんは嬉しそうに頬を緩めた。
きゅうぅと胸が締め付けられるのを感じながら、丸井は視線を逸らす。
もう一度撫でようと伸ばした手は、何故か別の手に触れた。
財「……………」
丸「……………」
グギギギと音が鳴りそうな程、お互いの行為を邪魔する2人。
りんは自分の頭上でそんな攻防が繰り広げられているとは知らず、冷えピタの気持ちよさに目を瞑っていた。
「ー…連絡します。越前くん、白石くん、丸井くん、千石くん、財前くん、忍足くんは至急コートに戻ってください」
「「「「「「……………」」」」」」
朝の放送時の声とは違う、黒部のドスの利いた声が響く。
ピタリと動きを止める男達の中でも、至ってマイペースに動く人物がいた。
リョ「ちゃんと寝てろよ。何かあったら言って」
『うん。ありがとう、お兄ちゃん』
まるで今まで触れた箇所を消毒するかのように、ぽんぽんとりんの頭を撫でるリョーマ。
他方向から感じる恨めし気な視線も、まるで気にならないように…
兄に頭を撫でられ、りんの頬はポッと赤く染まっていた。
忍「ほなりんちゃん、俺らはそろそろ退散するで」
男達の戦い(?)を陰から見ていた忍足の言葉を合図に、皆は渋々と動き始めた。
千石「またお見舞いに来るからね~」
財「腹出して寝てくださんようにな」
丸「早く元気になれよっ」
『ありがとうございます』とりんが微笑むと、其々は満足したように部屋を後にする。
リョーマは部屋を出る直前にもう一度振り返っていた。
杏「じゃありんちゃん、私も行くわ。1人で寂しかったら、医務室で休んでてもいいんだからね」
『大丈夫、ありがとう杏ちゃん』
ひらひらと力なく手を振る姿に申し訳なく思いながら、杏はコートに向かった。
今まで騒がしかった部屋は急にしん…と静まり返り、りんはドアの方を見つめる。
『(……寂しい)』
具合が悪い時に心細くなるのは何故だろう。
ずっと不機嫌そうにしていた白石を思い出すと、胸がズキンと痛んだ。
『……繋いで、くれなかった』
言葉にしてしまえば、じわりと目の奥が熱くなる。
気持ちを隠すように布団を被った時、キィ…とドアの開く音がした。
だんだんと近付く気配に、りんはビクビクと布団の中で震えていると、
「っ忘れ物…した」
『!』
布団の上から抱き締められる感覚と、その声に…りんは慌てて布団を剥がした。
目の前にいる彼に、すぐ言葉を発することが出来なくて。
『わ、忘れ物…?』
白「うん」
「これ、」と呟いた白石の顔は、何故かすぐ傍にある。
ただぽけっと見つめていたら唇に触れる熱を感じて、りんは漸く事を理解した。
『……………ふ、ふあ!!?///』
一瞬すぎて、目を瞑る暇もなかった。
未だ近くにある彼の高い鼻がちょんとりんの鼻を掠めると、『う、えと、えと///』と必死で声を出す。
白「早く治るおまじない?」
『!風邪うつっちゃいますよ…っ』
白「りんちゃんからうつされるんやったら、大歓迎や」
『…!?』
脳内パニックになるりんを余所に、白石は楽しそうに口元を緩めている。
その視線から逃れたくてぱっと顔を伏せれば、ふと片手を握られた。
前を向くと、瞳を細めて微笑む白石がいて。
ドキン、ドキンと鼓動が音を奏でる。
『……白石さんの手、冷たいです』
白「はは、りんちゃん熱いから、余計そう感じるやろ」
コクンと素直に頷くりんの頭を、反対の手で撫でる白石。
さっきまではあんなに不機嫌そうにして、触れてもくれなかったのに。
寂しくなったり、胸が痛くなったり、ドキドキしたり……
いつもいつも、白石の一挙一動に振り回される。
それでも、彼の顔を見たら"好き"が勝って、何も言えなくなってしまうのだ。
今だって……
『私、』
白「?」
『白石さんと手、繋ぐの…好きです』
触れられてるところ1つ1つが、温かくて、ドキドキしてる。
こんな風に感じるのは、白石だけだった。
カァァと頬を火照らせ、熱のお陰でりんごのように真っ赤に染まっていくりん。
その赤みが少し落ち着くまで俯き、やがて様子を伺うように前を見ると……
白石は、まるで愛しいものを見つめるかのような優しい顔付きをしていた。
その表情に、さっき治まったばかりの赤みがまた戻ってきてしまって、
白「…俺も。りんちゃんと手繋ぐの好きやで」
『は、はい……///(胸、痛い…)』
きゅーっと、胸が何かに締め付けられてるみたいに痛い。
どうしたら治るのだろうと熱のある頭で考え、りんは決心したように繋いだ手を強く握った。
『…っお願いがあって、』
白「ん?」
『早く治るおまじない…も、もう1回して欲しい、です』
思わず、手と同時に自分の目もぎゅううと瞑る。
そんなりんの気持ちが伝染してしまったのか、白石の顔は赤く染まっていた。
『あの、1回だけでいいんです…っ』
白「~~~…っっりんちゃんのアホ」
『(あ、アホ…!?)』
ガーンとショックで固まるりんを余所に、白石はガシガシと自分の頭を掻く。
気付いたら、切れ長の瞳に捉えられていた。
白「1回でも、めっちゃなが~い1回な」
『なが…!?』
白「"やっぱりやめて"は、きかへんで」
『!んっ』
自分の胸のあたりを押さえていた手で、白石の服をぎゅっと握る。
胸の痛みには効いても、発熱には逆効果。
だが、りんがそのことに気付いた時は既に手遅れであった。