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翌朝、ピピピと体温計を計る音が部屋に響いていた。
杏「りんちゃんどうだった?」
『………あ』
ベッドの上で計ったばかりの体温計を眺めていたりんは、反応が遅れてしまった。
『…えと、大丈夫だったよ!』と慌てて答える。
杏「………あ、白石さんっ」
『ふぇ!?』
ドアの方を見る杏につられてその方向に視線を向けると、パジャマの中に隠した体温計を素早く奪われてしまった。
それを険しい顔で見つめる杏に、『あの…』とおどおどするりん。
『きっと薬飲めば大丈夫だよ』
杏「そうね、大丈夫………じゃない!」
いきなり大声で叱咤され、りんはビクゥと身体を浮かせた。
杏「十分熱あるじゃない!今日は安静にしてなきゃ駄目」
『!で、でも練習が』
杏「私から監督に行っておくから。ね?」
頑なだったりんも、杏の優しい声に諦めたようで。
大人しく布団にくるまるのを見届けると、「よし」と杏は笑顔で頷いた。
『(そっか…うつったら大変だもんね)』
もし選手達に風邪がうつったら迷惑を掛けてしまう。
ぼおっと天井を見つめていたりんは、コンコンと部屋がノックされる音を聞いた。
リョ「りん、入るよ」
杏「あら越前くん」
りんしか頭になかったリョーマは、にゅっと杏が出迎えたことに一瞬驚く。
その視線はベッドに行き、『おにーちゃん』と横たわりながらも笑顔を向ける妹の姿に、やるせない気持ちになった。
リョ「…大丈夫なの?」
『うん、大丈夫だよ』
ふにゃあと力なく笑えば、リョーマは手に抱えていた袋をガサガサと探る。
中から冷えピタを取り出し、額に優しく当ててくれた。
リョ「これは桃先輩から、これは手塚部長と大石先輩から、これが菊丸先輩からで、これは海堂先輩から。あとー…」
青学の先輩達から預かってきた見舞品を、袋から取り出して見せていくリョーマ。
中には熊のぬいぐるみやミニサボテンもあったが、1人1人が冷えピタを買ってくれたらしく……
杏「(こんなに大量の冷えピタ初めて見たわ…)」
『ありがとう。いっぱい冷えピタ出来て嬉しい///』
杏「りんちゃんそれでいいの?」
何故か嬉しそうなりんに、杏はすかさずツッコミを入れた。
昨夜、寝袋から出た瞬間にくしゅっとくしゃみを繰り返していたりん。
お父さん(手塚)とお母さん(大石)に過剰に心配されながら、ふらふらと部屋に帰っていったのだった。
提案者の大石は何度も謝っていたが、恐らく睡眠不足が続いたせいだろう。
冷えピタの気持ちよさに目を瞑っていたりんは、コンコンと再びノックの音を聞いた。
白「入ってええか?」
途端、ドキーンと身体が硬直する。
顔も洗ってないし、寝癖も酷いに違いない。
わざとガバッと布団を頭から被っても、微かに聞こえる話し声が気になってしょうがなかった。
白「りんちゃん大丈夫か?具合悪いんやって?」
『(わ…!)』
見えないけれど、すぐ近くにいることがわかる。
布団を被ったままでいれば、「…りんちゃん?」と白石の不安気な声が聞こえた。
『…私、』
絶対寝癖酷いもん。だらしないって白石さんに嫌われちゃったら嫌だ。
でも、
『(……顔、見たい)』
結局、会いたい気持ちには勝てないのだ。
そろ…と布団から顔を出すと、目を細めて微笑む白石がいて。
ドキドキと鼓動が高まり、何だか熱も上がってきた気がする。
『あの、昨日は(ちゃんと部屋にいなくて)ごめんなさい…』
白「ええって。青学の皆と仲直り出来たんやろ?」
『ふぇ、』
まだ何も言っていないのに、どうしてわかったのだろう。
「見とればわかる」と困ったように笑われて、りんの顔はカァァと赤く染まっていった。
『(…それって、見ててくれたってこと?)』
あんなにしゅんと落ち込んだり膨れたり自分がわかりやすいとは知らず、りんは些細な変化に気付いてくれたことが嬉しかった。
お互い見つめ合いながらほんわ~と花を飛ばす2人を見て、リョーマは部屋を出ていこうとした……
筈だった。
丸「りん大丈夫か!?」
『丸井先輩!』
ユニフォーム姿のまま、はぁはぁと息を切らしてやった来た丸井。
「丸井くん速すぎ…」と今度はぜぇぜぇ言いながら後ろから続いて来たのは、
千石「りんちゃん大丈夫??風邪だって聞いて心配で来ちゃった」
『!千石さん』
ここまで全力疾走してきた疲労感を消し、ニッコリと爽やかに手を振る千石。
だが、「お届け物でーす」と部屋に入ってきた大きな包みに押され倒れてしまった。
リョ「届け物?」
「えーと、越前りん様宛てですね」
そう言い残し、配達員はりんにサインを貰うと颯爽と去っていった。
白とピンクの薔薇の花束を渡されたりんは、何が起こったのかわからずほけっとそれを見つめる。
「跡部からの見舞品やって」とタイミング良く忍足が登場したことで、呆然としていた一同はああ…と納得した。
財「キザなことしますね」
白「『!!?』」
突然近くにいた財前に、白石とりんは同時に飛び退く。
「財前いつからそこにいたん?」と動揺を隠せず尋ねれば、「部長と同じ頃っスわ」と淡々と言い切った。
財「互いのことしか見えてないとか…ドン引き」
『!ご、ごめんなさい///』
財前にハッと冷めたように呆れられ、りんは顔を赤くした。
それをする2人に自覚がないのがまた厄介である。
忍「何や、皆りんちゃんの見舞いに来たん?」
この状況について忍足が口にすれば、男達はわざとらしくコホンと咳払いをする。
丸「!ま、まぁな。熱あるって聞いたから…」
千石「女の子を看病するのは男として当然だよ、忍足くん」
財「ま、無理せぇへんか見張りにきただけやけど」
リョ「…妹が風邪引いて放っておく奴いるの」
白「彼氏として、好きな子を守りたいだけやで」
髪の色のように顔を赤くして話す丸井。
床にうつ伏せになって倒れていたが、すくっと立ち上がりキラキラのオーラを纏う千石。
本当はスピードスターの先輩も驚きの速さで掛けてきたが、素っ気ない口調の財前。
そして、自分がデレていることに気付かないリョーマ。
"彼氏"を自棄に強調し、微笑みながらも真っ黒なオーラを放つ白石。
ゴゴゴ…と何かが降臨しそうな雰囲気に、りんは背中に冷や汗が流れるのを感じた。
『(…え……と?)』
りんの額で、青学の先輩達に貰った冷えピタがずれた。