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1日の厳しい練習も終わり、夕食の時間となった。
十分すぎるほど広い食堂でも、人が密集すると狭く感じるから不思議だ。
ガヤガヤと周囲が賑わう中、りんは終始むくれていた。
梓「桃城くん、もっと落ち着いて食べなきゃ」
桃「うめーな、美味すぎるぜ!」
梓「先輩達も何食べたいですか?取ってきますよー」
菊「え、いいの?ありがと~!」
河「ありがとう、助かるよ」
『…………』
目の前で繰り返されるやり取りを、りんは黙って聞いていた。
自分で取ってきた筈の料理も殆んど手を付けていない。
折角青学の皆と同じテーブルであるのに、りんはろくに会話も出来ないでいた。
梓「越前くん、もっとお肉食べなきゃ!私のあげようか?」
リョ「…別にいらない」
梓「もっと大きくなれないわよー」
リョ「食べるっス」
ムカムカと、普段あまり感じたことのない感情が溢れてくる。
一番"それ"が強くなるのは、兄が梓と話している時だ。
『(お兄ちゃんデレデレしてる、)』
やっぱり2人は付き合ってるのかもしれない。
頬を膨らませてその光景を見ていたりんは、ふと気付いた。
リョーマが例えあの人を好きでも…自分にあれこれ思う資格などないんじゃないか。
青学のマネージャーも、良く考えたら他校の自分がしてるより、同じ学校のあの人がした方がずっと自然だ。
『(……やだな、)』
こんなこと思うなんて。
不「…りんちゃん?」
ぐっと唇を噛み締めていると、不二が心配そうに見つめていた。
『あ…私、デザート持ってきますねっ』
不「僕も行くよ「デザートなら、私持ってきましたよ」
ここでは和食、洋食、中華、様々な料理がバイキング式で食べれる。
折角ならと席を立とうとしたりんを、梓が呼び止めた。
梓「ごめんね、妹さんの好きなのはわからなかったから適当だけど、」
『っ、』
いつの間に調べたのか、お皿には先輩達が好きな種類のケーキが並べてあって。
そこにはちゃんとりんの一番好きな苺のショートケーキもある。
思わず、きゅっとテーブルの下で自身の服を握った。
皆がデザートを食べている間に、りんは静かにその場を立ち去った。
『(私……嫌な子)』
梓に失礼なことをしてしまった。
それでも、どうしてもあの場にいたくなかったのだ。
食欲もないのに料理を眺めながら歩いていると、「りんちゃん?」と呼ぶ声に顔を上げた。
忍「どないしたん?えらいぼーっとして」
『っ忍足さん、』
確か、この間も同じことがあったような……
りんの疑問を代弁するように、「この前も声掛けたなぁ」と忍足が小さく笑った。
忍「珍しいな、1人なんて」
『えっと…』
忍「越前と食べとるん?」
ズキン、と胸が痛む。
どことなく元気のないりんに、忍足は少し考えた後、先程取った料理を箸で摘まんだ。
それをひょいとりんの皿にのせる。
忍「サゴシキズシ、上手いから食べや?」
自分の好物を分けた忍足。
元気のないりんを励ましたつもりであったが、『ありがとうございます』と微笑んだ顔はまだ萎れていた。
いつもと違う様子に忍足も不安になってきた時、「ゆーしー!」と聞き慣れた声が呼んだ。
謙「あっちにサゴシキズシあったで」
忍「もう取ったわ…」
謙「(え、何で脱力しとるん??)ってりんちゃん?」
近付いてきた謙也に、『謙也さん』とペコリ頭を下げるりん。
自分といる時よりもその表情がホッとしているように見えて、納得がいかない忍足は…
謙「ちょ、え、それ俺のやろ!?」
忍「おでんのすじ肉が好きとかキショいねん」
謙「お前に言われたないわ!!」
皿からすじ肉を奪い口に運べば、激怒する謙也。
お互いの好物に文句をつけながらギャーギャー言い合う。
ポカンと目を丸くしていたりんは、途端に可笑しくなってクスクスと笑った。
笑われたことで口論を止め、2人は自分の頬を掻く。
忍「コホン…せや、良かったら俺らと一緒に食べへん?」
『えっ』
謙「そやな、せっかくやし」
『で、でも、』
嬉しい…けれど、りんは無意識にある人物を思い浮かべて、頷けなかった。
謙「白石もおるし、おいでや」
『!行きたいですっ』
忍&謙「「((素直………))」」
その名を出した瞬間顔を縦に振る姿に、2人は同時に思った。
彼等に切なさを与えた自覚のないりんは、微かにドキドキしながらその場所へ向かう。
早足の謙也に遅れないようついていけば、さっきまで自分がいた所から、少し離れた窓際で足が止まった。
謙「おーいりんちゃん連れてきたで~」
『(えと、)お邪魔します…』
忍足と謙也の後ろからひょこっと顔を出す。
「りんちゃん!」と嬉しそうに微笑んだ顔に、ドキッと胸が反応した。
『あ、えと、お邪魔じゃなければ一緒に食べたいなぁって///』
白「ぜ「ぜんっぜんお邪魔やないで~!」
白石の横から顔を出した人物を見て、りんは目を丸くした。
『紅葉さん!』
紅「りんちゃん久し振り。旅行ぶりくらいかなぁ」
「蔵の隣座りな」と紅葉が席を譲ってくれたので、りんは恥じらいながらもそこに座った。
『紅葉さんも参加されてたんですねっ』
紅「四天宝寺のマネージャーの代理でな。時間ちゃうとなかなか会えへんね」
只でさえ広すぎる合宿所。部屋も違うとなれば、鉢合わせる機会などないに等しかった。
裏表がなく、いつでも自然体の紅葉と一緒にいると安心出来る。
りんは心強く感じていると、「紅葉ちゃんがマネージャーって違和感あるわ」と忍足が呟いていた。
紅「うちかてやりたないわ…てか侑士くん、蔵に言うてやってや。過保護も度が過ぎると嫌われるって」
忍「…また強制参加されたんか」
白「こうも男だらけやと不安やねん。俺がおらん時は紅葉が守ってな」
謙「確かに紅葉強いしなぁ。電車で痴漢撃退したこともあったやん」
紅「あの、うちも生物学上は女なんですけど」
『??』
ぽんぽんテンポ良く交わされる会話を、りんだけは首を傾げながら聞いていた。
『…?忍足さんと紅葉さんも仲良かったんですね』
紅「仲良いゆうか…小学生の時謙也通して話してただけゆうか、」
忍「ちょ、地味に傷付くで~」
そっか、忍足さんと小学校一緒なんだ。と独りでに納得するりん。
余りにも氷帝と馴染んでいるから、最初からそこの生徒のような気がしていた。
忍「白石とはあんまりやな。楽器教室くらい?」
『楽器?』
忍「俺がバイオリン習っとったとこで、白石もピアノ習ってたんや」
青汁を飲んでいた白石の動きが、ピタリと止まった。
りんは初めて聞いたことに驚きながら彼を見ると、偶然か視線が合わさる。
『(…知らなかった)』
思わず俯きかけた時、「ばれてもうたか…」と隣から溜め息混じりの声が漏れた。
白「りんちゃんには知られとうなかったのに…」
『…?どうして、』
白「どうしてって…男がピアノとかかっこ悪いやろ」
りんにはいつでもかっこ良く思われたい。
そんな白石の心情を知る筈もないりんは、『んと、』と言葉の意味を真剣に考えた。
『全然かっこ悪くないですよ?楽器が弾けるなんて羨ましいです』
『すごくかっこいいです!』と自信満々に言い切るりんに、白石は微かに目を見開いて。
「ほんま…?」と不安気に尋ねると、コクコクと何度も顔を縦に振ってくれる。
りんは、白石がすることならどんなことでもかっこよく見えると伝えようとしたが、恥ずかしくて言えなかった。
カァと顔を赤くしながら下を向くりんに、白石は優しく口元を緩め。小さな耳に内緒話をするようにそっと囁いた。
『……ふぇ!?』
白「誰にも言うたらアカンで?」
何処か悪戯っぽく微笑む彼に見惚れてしまい、りんは頷くだけで精一杯だった。
忍「……何やねんこの甘い雰囲気」
謙「……いつものことや」
紅「……せやな」
デレデレの掛け合いを見せ付けられ、死んだ魚の目をする3人だった。
その頃…このテーブルはというと。
菊「ねーりんは!?」
桃「あれ、さっきまでいたっスよね?」
不「デザート取りに行くって言ってたけど…」
無我夢中で空腹を満たしていた青学は、一段落した時そのことに気付いた。
乾「デザートを取りに行って誰かのテーブルに誘われた確率、99.6%」
海「(…ありえる)」
乾の予想に一同は慌てて顔を動かすと、離れたテーブルに2つ結びの頭が見えた。
謙也や忍足、白石と楽しそうに笑う姿に、ガーンとショックをうける。
すっと顔を下げた白石が彼女の耳元に何かを囁くと、今まで黙っていたリョーマがピクリと反応した。
梓「意地悪するから」
リョ「……別にしてないっス」
不機嫌を顕にして、リョーマは帽子を被り直しながら席を立つ。
何処か乱暴なその動作を見ていた梓は、肩を落とした。
日もすっかり沈んだ夜。
自室でドライヤーを掛けながら、りんは何処かそわそわしていた。
"今夜部屋におってな"
最近眠れないことを話していたから、もしかしたらって…ちょっとだけ期待してしまう。
『(頬っぺた、熱い……)』
包んだ両頬が熱くて、その熱がまた顔を赤く染めた。
昼間に言っていた"添い寝"は冗談だろう。
だけど、意味深に微笑んだ白石を思い出してしまって…
『(~…っドキドキして眠れないよ)』
ドクドク鳴る胸を、静まれ静まれと願いを込めて押さえる。
乾いた髪型を整えていた時、呼び鈴が鳴った。
『は、はいっ』
まるで壊れたロボットのようにぎこちなく歩き、りんは扉を開けた。