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*りんside*
『白石さん、待ってください…!』
私の手を引き、ずんずん早足で進んでいく白石さん。
コートが見えなくなると急にスピードを上げるから、私は引き摺られるようについていくことになって……
少しも振り向いてくれない白石さんに、不安になる。
食堂の前に来ると急に足が止まった。
くるっと振り向いた白石さんと目が合うことが恥ずかしくなって、何となく下を向いてしまう。
『あの、要先生は何処に……』
その姿を探そうと顔を上げた瞬間、ぎゅっと正面から抱き締められた。
『!?わ……!///』
そのままぎゅーっと腕に力を込められて、私は白石さんの身体にぴったりとくっついてしまう。
距離が近すぎることに、心臓がバックバックと暴れているのがわかった。
『……し、白石さん?』
白「………俺、アホや」
『ふぇ?』
白石さん、アホじゃないのに。寧ろすっごく頭良いのに。
鳴り止まない鼓動に堪えながら、じっと白石さんが話すのを待つ。
白「あんなちょっとのことで…めちゃめちゃ嫉妬してまう」
目を見開いた私を、またぎゅっと抱き締める白石さん。
白石さんの声って、こんなに低かったっけ……
透き通るその声が耳元で響く度、身体全部が動かなくなってしまう。
白「りんちゃんが皆と仲ええのはわかるけど、」
『……っ』
白「芥川くんと抱き合うのも、跡部と話しとるのも…見たくない」
ドキドキ、ドキドキ、白石さんの鼓動なのか自分のものなのかわからない音を感じて。
頬っぺたが熱くなるのも、こんなにくっついているせいだよね…?
そっと背中に腕を回すと、反対に白石さんは離れていく。
おでこに温かな感触がして、びっくりして慌てて身をひいた。
白「…そない逃げられると傷付くなぁ」
『!あ、ご、ごめんなさい…///』
ビタッと両手を広げながら壁に背をつける私を、傷付いた顔で見る白石さん。
その表情に私の胸も痛くなって、ちゅーされたおでこをそっと撫でた。
『私は、白石さんが特別で、一番……………す、すき』
真っ正面から見つめられるとどうしても恥ずかしくて、最後の方は聞き取れるかわからないくらいの小さな声になってしまう。
精一杯伝えたのに、クックッと白石さんの笑う声が聞こえて。
カァァアと顔が熱く上昇していった。
白「"大好き!"って言ってくれたのは誰やったかな?」
『!!?』
クリスマスイヴの前に白石さんに会いに大阪へ行った。別れ際に思わず言ってしまったこと……
覚えてたなんて。
楽しそうに口元を緩ませて見てくるから、私は赤い顔を隠すように俯いた。
『(……でも、)』
あの時は、思ったことが素直に口から出てきた。
白石さんが不安にならないように、悲しそうな顔をさせないように。
いつもいつも、真っ直ぐに伝えられたらいいのに。
『(大好き)』
大好き、と、何度も心の中で呟いて白石さんを見つめる。
震える口を開けて、本当の言葉にしようとした時…白石さんの顔がカアッと赤く染まった。
白「~~…っっ///」
『??』
どうしたんだろうと混乱しながら見ていると、ふいっと顔を背けられてしまった。
白「…その顔やめや………」
『顔…?』
白「っっ首も傾げんで、」
顔?首?とショックで泣きそうになりながら?マークを浮かべると、また顔を赤くする白石さん。
言ってることは良くわからないけれど、真っ赤になる白石さんが何だか可愛くて。
ぽーと見ていると、いつの間にか傍にあった大きな手が頬に添えられて、ビクッと反応してしまう。
白石さんの次の行動がわかった私は、慌てて辺りを見渡した。
『!こ、ここで?』
白「うん」
『でも、誰かに見られたら…っ』
白「…見とらん」
『(今間があった…!)』
ふるふると小さく首を横に振れば、寂しそうに眉を下げる白石さん。
その表情に弱い私は、覚悟を決めてぎゅっと目を瞑った。
『(まだかな……)』
そっと目を開けると傾いだ白石さんの顔がすぐ近くにあって、慌てて目を瞑り直した。
ドッキンドッキンと鳴り続ける心音が痛い。
きゅ、と唇を結んだ時……頭に何かが乗せられる感触がした。
白石さんじゃなくて真っ暗な視界が広がっていることに驚いていると、
白「越前くん」
呟いた白石さんの言葉に、大きく目を見開いた。
慌てて後ろを振り向き視界を覆っていた帽子を外すと……
『…お、お兄ちゃん!?』
すぐ後ろに立っていたお兄ちゃん。
その存在を確かめるように、まじまじとお兄ちゃんを見つめてしまう。
お兄ちゃんは呆れたように溜め息を吐きながら、「…見すぎ」と私の手から帽子を取って被り直した。
『おに、今まで、何で…っ』
リョ「宿舎から離れた崖の上で修行してた。今日からこっちに加わることになったから」
お兄ちゃん今まで何処にいたの?何でここにいるの?
胸がいっぱいで上手く喋れないのに、お兄ちゃんは理解してくれたみたい。
白「金ちゃん迷惑かけなかったか?」
リョ「…まぁ、うるさかったけど」
うるうる瞳を潤ませる私と違って、白石さんはお兄ちゃんと普通に会話している。
先輩達も帰ってきたみたいで、コートの方が賑やかだった。
と……その時、ダダダダダと誰かが物凄いスピードで掛けてきた。
菊丸先輩でもないし、あれは……
「りん~!!!」
『ひゃ!?』
その声に振り向いた瞬間、のし掛かる重さに耐えきれず地面に倒れてしまった。
チカチカと目の周りに星が回る。
ジャージに豹柄のタンクトップを合わせているのは1人しかいない。
でも、でも、
『…もしかして、金ちゃん?』
金「?せやでー!」
ニッと歯を見せて笑う顔は変わっていないけれど。
前と比べて随分高くなった背、少し低くなった声に、私はポカーンと口を開けて固まるばかりだった。
『(私の知ってる金ちゃんじゃない……!)』
一緒に旅行に行った時は全然身長も変わらなかったのにっ
呆然とする私の上に跨がり、無邪気に首を傾げる金ちゃん。
白石さんとお兄ちゃんに片方ずつの腕を掴まれて離れていった。
金「何やりんってこんなに小さかったか?」
『(はぅ!!)』
一番聞きたくない言葉がグサリと胸に刺さる。
差し出された白石さんの手に掴まりながら、私は心の痛みに耐えていた。
金「白石聞いてや~ワイ、コシマエより身長高いんやで!」
リョ「あんま変わんないし」
白「2人共成長期なんやなぁ」
ムッと眉を寄せるお兄ちゃん。
どっちが高いかで対抗する2人を、白石さんは穏やかに見守っていた。
ズキズキ痛む胸が、この後更に痛むことになるなんて。
「いたいた、越前くん」
何処かで聞いたことのあるその声に、ゆっくりと顔の向きを変えた。
『(……何で………)』
長い黒髪に、大人っぽい雰囲気。
お兄ちゃんの学校のー…
梓「急にいなくなるからびっくりしたよ。負け組の皆はコートに集合だって」
その人が前を通るだけで、香水のような花の香りが漂う。
「遠山くんも」と呼ぶと、「堪忍~」と金ちゃんは顔の前で両手を揃えた。
金ちゃんが頭を下げた拍子に、後ろにいた私と目が合ってしまう。
梓「…越前くんの妹さんよね?」
『っ』
お兄ちゃんと同じ黒のジャージを着て、今目の前にいることに動揺して。
失礼だって思うけれど、コクンと顔を縦に振るだけで精一杯で。
その人は私の態度を気にした様子もなく、「一宮梓よ」とニコッと笑って言った。
梓「そっか。妹さんが来たってことは、私もうすることないのかしら」
『…?』
梓「実は妹さんが参加出来ないからって、訳あって私が青学のマネージャーをしてたの」
ドクンと大きく鳴る鼓動に負けて、え?と聞き返す言葉が出てこなかった。
梓「私の叔父がここに勤めてて、急に呼ぶもんだから」
金「姉ちゃん凄いんやでぇ、スポーツトレーナーみたいなんや!」
梓「父親がジム経営してるからね。たまに手伝わされるし」
叔父さん、お父さん、色んな単語が出てきて頭の中を必死に整理する。
落ち着いて落ち着いてと自分に言い聞かせ、お兄ちゃんに視線を移動させた。
帽子の縁を下げながら静かに頷いたことで、肯定していることがわかってしまう。
梓「越前くんも遠山くんも、もう少し腕立て伏せをした方がいいかもねー。腹筋は十分鍛えられてるから」
『…………』
金「よっしゃーコシマエ!ワイと腕立て伏せ勝負しよやー!!」
リョ「いいけど。俺が勝つよ」
『…………』
ぽつんと会話に取り残される。
お兄ちゃんも金ちゃんも。少し会ってなかっただけなのに…身体つきも、顔つきだって変わった。
きっとあの人は、私が知らない時間を知ってるんだ。
金「なぁなぁ、りんはコシマエとワイどっちが勝つと思う??」
『……い』
金「やっぱワイやろ『……もう、いい』
くるっと背を向けて歩き出したのに、すぐに追い付いてくる金ちゃん。
「りん?」と肩を掴まれた拍子に、ばっと振り向いた。
『私、そんなおっきな金ちゃんなんて知らない…!』
自分でも滅茶苦茶なことを言ってるってわかってるけど、止まらない。
ポカンとする金ちゃんを残して、私はその場から背を向けて駆け出した。
もう、知らないんだから!