居場所
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
強豪ジュニア選手の世界大会に向けて、開かれた強化合宿。
チームで日本代表に選ばれていても、合宿で実力が伸びなかった者は、個人で外されてしまう。
反対に、チームは選ばれていなくても、合宿で認められた者は個人で選抜される。
選手は実力ごとに各コートに配置され、皆1番コートを目指して試合を行っていた。
「ー……と、いうのがここのルールです。学校ごとにマネージャーを1人つけて、選手の体調ケアやテニスプレイの少しの変化でも報告してもらいます。
ここまでで質問はありますか?」
『い、いえっ』
りんに向かって説明をしているのは、黒部コーチ。
この合宿の主催者で、選手のデータを解析し、適切な強化方針を定めるプロの戦略コーチである。
監督室に呼び出されたりんは説明を受けながら、思わず身体を強張らせていた。
「そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ~黒べぇがそんな怖い顔するから」
黒「!?こっ怖い顔…ですか」
ゆったりとした口調で話すのは、齋藤コーチ。
選手のメンタルを鍛える精神コーチとして、黒部のサポートをしている。
身長が216センチもあるので、近くにいると物凄い迫力があった。
齋「越前さんは青学のマネージャーですが、山吹、六角、聖ロドルフ、名古屋星徳、聖イカロス、牧ノ藤学院…計11人のマネージャーとして働いて貰います」
『…え、』
齋「山吹のマネージャーの、壇太一くんと2人で『あ、あの…っ』
話を進めていく齋藤に、思わず声を上げるりん。
『私、青学のマネージャーは出来ないんですか?』
途中参加した身なのに、仕事を任せて貰えるだけありがたい。
でも、何故青学につけないのかと疑問だった。
その問いに答える為に、"怖い顔"と言われたことに傷付いていた黒部が、改めてりんと向かい合った。
黒「最初に行った試合で、選手が負け組と勝ち組に分かれたことは知っていますか?」
『へ……いえ、』
黒「負け組は今、別の場所で特訓をしています。そこに同伴している者に、青学のマネージャーを任せました」
黒部の声が遠くなっていく。
りんはただ、一つ一つを聞き逃さないように耳に入れることしか出来なくて。
齋「ほんとーは正式なマネージャーの君について欲しかったんですよ?ただ、黒べぇがきかなくてねぇ、」
黒「…選手のメンタルを考えてと、提案したのは君ですよ」
齋「そうでした、はい」
呆然とするりんに齋藤は優しく説明するが、当の本人はきゅっと小さく拳を握り締めていた。
『(負け組…?同伴……?)』
自分の代わりに、誰が青学のマネージャーになったのだろうか。
やがて、握り締めた拳を胸の前に持っていく。
考えれば考えるほど答えが見付からず、りんの呼吸は速くなっていた。
『(……どうして、)』
どうして。
胸の辺りを思いきり掴むりんに、齋藤が声を掛けようとした時……
黒「今、5番コートが決まったみたいですね」
たくさんのモニターの中に、試合を終えた白石の姿が映っていた。
りんは2人に挨拶をすると、その足でコートへと向かった。
『白石さん…!』
白石の姿を瞳に入れると、りんは真っ先に名前を呼ぶ。
同時に試合を終えた橘と談笑していた白石は、その声に素早く顔を上げた。
白「っりんちゃん、」
ほわっと頬を緩ませる白石に、りんの胸はきゅううと締め付けられた。
だけど、聞きたいことがあるんだと、甘い感情に負けないようにふるふると首を横に振る。
「先戻ってるな」と橘が去っていき、2人きりになった。
白「昨日、りんちゃんが出ていってから心配してたんやで?女子部屋に移ったって聞いたから安心したけど、」
『ご、ごめんなさい…』
「無事で良かった」と安心したように微笑まれ、りんはドキンと鼓動を鳴らした。
素直な反応をしてしまう自分を恥ずかしく思いながら、きゅっと拳を握る。
『白石さん、お兄ちゃんは…負け組として練習に参加してるんですか?』
『今、ここにいないんですか?』と震える声で話すりんに、白石は目を見開いた。
だが、すぐにいつもの優し気な表情に戻って。
白「…そうやで」
『っどうして言ってくれなかったんですか?』
白「言うたら、りんちゃんが心配するやろ思うて、」
『……っ』
切なそうに瞳を細める白石に、言い返す言葉が出てこなかった。
わかってる。白石は、自分を想って言ってくれてること。
でも、
『でも………!?』
必死に言葉を繋げようとしていたりんは、突然、白石の指が顔に触れたことにビクッと身体を浮かした。
長い指で目の下をなぞられ、微かなくすぐったさを感じる。
『あ、あの、しら「…クマ」
「昨日寝れなかったんか?」と聞かれ、ぐっと息を詰める。
素直に顔を縦に振るりんを、白石は眉を下げながら見つめた。
白「堪忍な、俺が一緒に寝てあげれば良かった」
労るように目の下をなぞられれば、りんの胸はドキンと大きく飛び跳ねた。
ドキドキと速くなる鼓動を感じながらも、その言葉の意味を考えてみる。
『(…それじゃ、逆に眠れないっ)』
今、こうして白石に見据えられるだけで恥ずかしいのに…
その光景を想像したりんは、ボッと顔を真っ赤に染めた。
自覚のない白石は、赤い顔で俯いてしまったりんに首を傾げる。
小さな頭の上に手を伸ばそうとした時、「白石!」と呼ぶ声がした。
「明日、5番コートと3番コートの総入れ替え戦が決まった。ミーティングだ、来い!!」
その野太い声に顔を上げたりんは、思わず目を真ん丸にした。
それは、昨夜合宿所に向かっている時に、大きな木を持ち上げながら奇声を上げていた巨人(?)だったのだ。
白「鬼さん、今行きます」
思わずサッと白石の後ろに隠れたりんは、鬼(オニ)と呼ばれた男を見上げる。
その鬼も、白石の背にくっついているりんを見た瞬間、カッと目を見開いた。
鬼「…………」
『……!あ、あの……?』
普段から見た目で人を判断しないりんだが、暗闇で木を持ち上げる姿が相当怖かったのか。
じっと鋭い目付きで見つめられる度、ガタガタと身を震わせた。
だが、その本人はというと…
鬼「(…昨日作ったあみぐるみに似てる)」
自作のウサギのあみぐるみと、りんを重ねて見ていただけだった。
白「じゃ、りんちゃん。行ってくるな」
白石は宥めるようにりんの頭を撫でると、鬼と共に行ってしまった。
鬼「(………今日は白の毛糸で編んでみるか)」
白「………」
大きな身体とは正反対に、小さなあみぐるみを想像して花を飛ばす鬼を、白石は横目で見ていた。