遠距離
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菜々子に呼ばれたりんは下に降りていくと、縁側に寝そべる南次郎の前で足を止めた。
菜「おじ様、りんちゃんの気持ちはとっくにわかっていらっしゃるんでしょ?」
南「……何のことだ?菜々子ちゃん」
菜「いつまでも大人気ないと、おじ様が本当は健康だって言いますよ」
南「!」『え?』
「あら、」と口が滑ったと言うように手で塞ぐ菜々子。
既に目を真ん丸にさせるりんに、「本当に病気なんだぞ…!」と南次郎は飛び起きて弁解する。
南「ほら、水虫も頑張って治療してるし」
『…………』
南「………ぐっ」
純粋な娘に嘘をついてしまった罪悪感が今更襲いかかり、南次郎は胸をうたれた。
嫌われても仕方ないと恐る恐る顔を上げると、りんに怒ってるふしはなく、何かを決意したような表情をしていた。
『…お父さん、お願いがあるの』
拳をぎゅっと握り締め、りんは南次郎を見据えた。
『私、合宿に行きたい』
父が自分を心配していることはわかっている。
それでも、
『私は、青学のマネージャーだから』
皆が必要としてくれるなら、その想いに応えたい。
真っ直ぐ自分を見つめる娘に、南次郎は甚平の袖に入れていた手でポリポリと頭の後ろを掻いた。
南「……3日」
『?』
南「3日に1回は…家に連絡しろよ」
『!うん…!』
『ありがとう、お父さん!』とりんはぱあっと目を輝かせて頷く。
りんが去っていった後、縁側に背中を向けて座る南次郎。
猫じゃらしでカルピンと遊ぶ姿を見ていた菜々子は、「おじ様」と思わず声を掛けた。
南「りんの幸せは、もう他にあるんだな」
誕生日を一緒に過ごすのも、嬉しいことを報告するのも、寂しさを埋めてくれるのも。
もう自分や家族じゃない。
その事実を認めるのが寂しくて、大人気ない嘘をついて引き留めてしまったけれど。
あんな笑顔を見せられたら、自分の選択に後悔は出来なかった。
菜「おじ様はいつまでも少年みたいですよね」
南「ちょ、菜々子ちゃんさっきから辛口よ!?」
菜「いいえ。りんちゃんも、そんなおじ様だから大好きなんだなって」
ふふ、と微笑みながら話す菜々子に、南次郎は目を丸くして。
「どーかね」とくるっと反対を向いた背中は嬉しそうに見えて、菜々子は再び微笑んだ。
ガタン、ゴトンと電車が揺れる音で目を覚ます。
りんはぼおっとする頭を振るい、瞼を擦りながら隣を見た。
要「おはよー」
ニッコリと眩しいくらいの笑顔で微笑んだ要がそこにいて、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
肩同士が触れる距離にいたことに驚き、『ご、ごごめんなさい…!』とりんは慌てて距離をとった。
『お、重かったですよね?』
要「いや?寝言はたくさん聞いたけど」
『ふぇ!?』
電車に乗ってから暫く経つのに、ずっと要の肩に頭を乗せて眠っていたのだろうか。
申し訳なさそうに謝るりんに要は怪しく笑い、今さっき実際に聞いた言葉を並べた。
要「なんだっけなー"私も"とか"会いたかった"とかいっぱい言って『わ、わわわ、先生!!///』
顔を真っ赤にしながら口に手を当ててくるりんに、要は堪らず吹き出す。
りんは更に顔を赤く染め、身を小さくして座り直した。
皆が合宿に参加した日からずっと、あの夢ばかり見ていた。
それなのに、今の夢は全然違う内容で……
「りんちゃん」と自分の名前を呼びながら、優しく抱き締めてくれる白石。
大丈夫と言うように頭を撫でてくれて、とても幸せだった。
『(…覚めたくなかったな)』
出来れば、これからもずっとあの夢を見たい。
窓の外の景色が移り変わる度、もうすぐ本当に会えるんだという実感が沸いてくる。
要「(嬉しそうにしちゃって)」
嬉しそうに身を弾ませるりんを横目に、要は安心したように肩を落とした。
「山ノ奥駅」に2人が降りた時には、もう日が暮れていた。
人通りがない上に辺りは山しか見当たらないので、余計に真っ暗に感じてしまう。
暗闇を大の苦手とするりんは要の後に続き、ゆっくりと歩みを進めていた。
要「なんかコウモリでも出そうなとこだな」
『(コ、コウモリ!?)』
そんな生物がこの暗闇から出没しようものなら、自分は間違いなく失神する。
りんはふるふると首を勢い良く振り、要を見失わないようにしっかりと見つめた。
得体の知れない動物の鳴き声が何処からか聞こえ、身体をピシッと強張らせるりん。
慌てて要に尋ねようとするが、前を歩いていた筈の彼は忽然と消えていた。
『っせ、先生……?』
身体全身の血が冷えていくのを感じる。
どうしよう、どうしようと戸惑っていた時、ガサッと近くで物音がした。
要かと思い、素早く振り向くと…
「ぬぉぉおおおおお!!」
丸太の上で大きな木を持ち上げる巨人が、そこにはいた。
『…ぴゃあああああああ!!!』
余りの恐怖に変な奇声を上げながら、りんは全力疾走で駆け出した。
曲がり角を曲がったところでドンッと人にぶつかり、そのまま抱き付く形になる。
『か、要先生!おば、お化けが出ました…っ!』
助けを求めるように背中にぎゅうううと抱き付くと、その人物はゆっくりと振り向いた。
白「りんちゃん、」
『し、白石さん…!?』
突然現れた白石にりんは目を見開く。
何が何だかわからず混乱していると、白石はふっと笑った。
白「りんちゃん今日着くって連絡くれたやろ?せやから、迎えに行こう思うて」
『へ…でも、時間なんて言ってなかったのに』
白「愛の力やないか?」
『!///』
そう、冗談交じりに微笑んだ白石に、りんはカァァと顔を赤く染めて。
お化けの存在なんてすっかり忘れ、ただ小さくコクンと頷く。
いいこいいこするように頭を撫でられれば、りんの胸はじんと熱くなった。
要「(俺はガン無視か…)迎えに来てくれて助かるよ。暗くてわかりづらかったし」
白「…いえ」
夢見心地でいるりんは、白石の声がワントーン低くなったことに気付いていない。
要「てかお前大丈夫か?お化けがどうのって慌ててたけど、」
『はっそうでしたっさっき、そこに……』
数分前の出来事を思い出してその方向を指差すが、誰もいなかった。
『あれ…?』と首を傾げるばかりのりんに、「ったく…」と要は呆れたように溜め息を吐く。
要「あんなに怯えてたら、何かあったのかと思うだろ」
『ご、ごめんなさい…』
叱られてしゅんと頭を垂れるりんに、要はもう一度息を吐く。
ふと、恐怖のあまり要の背中に抱き付こうとしたことを思い出して。
りんは勘違いしてしがみついてしまった白石をそっと見上げると、彼も自分を見つめていた。
白「さ、行こか。暗いから気ぃ付けてな」
「先生も、こっちです」と物腰柔らかに案内するのは、いつもの白石だ。
りんは何処かホッとしながら、その後についていった。