想いの行方
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鳩が飛び立った音も、遠くではしゃぐ子供の声も聞こえない。
ただ、丸井の声だけがりんの耳の奥に届いた。
『え…え、と』
丸「わかってる!去年のバレンタインの時、好きだって聞いた…でも、俺のは違う」
「女の子としてだから」
目と口を開けてポカンとしていたりんも、暫くしてカァアと顔を赤くさせた。
何より、ニット帽で顔を隠しながら言う丸井の耳が真っ赤で、その姿を見たら更に恥ずかしくて。
丸「…笑顔が、可愛いって思ったんだ」
夏祭りで綿あめを食べた時。
その笑顔を見たら、胸がいっぱいになって苦しかった。
親しくなる度、優しいとこも、芯が強いとこも、泣き虫なことも知った。
何より、コロコロ表情が変わるりんといると楽しかった。
丸「…俺は、りんが誰を好きでも、お前が笑ってるだけで嬉しいから」
気持ちを伝えて、自分の前では笑ってくれなくなっても。
"好き"をなかったことにも出来ないし、抑えることも出来ない。
これは……賭けだ。
すべてを伝えた丸井は、自分を落ち着かせるように静かに深呼吸をする。
先程から黙ったままのりんが心配になり、チラリと隣を見ると…
『………ーっ』
一筋の涙が、頬を流れていた。
丸「は、え…りん!?」
『……へ』
泣いてることに気付いていないりんは、慌てて顔を覗き見る丸井に首を傾げる。
「泣くほど嫌なのかよ…」と独り言のような言葉が聞こえて、漸くその事実に気付いた。
『あの、違うんです…っそんな風に思って貰えて、嬉しいです』
思い出してしまった。
好きになってくれた人が見せる、寂しそうな顔を。
"私といるとくるしいから、たのしくないんですか…?"
あの時、跡部は何も言わなかった。
自分にとっては楽しかった思い出も、相手にとっては苦しいだけ。
だから…丸井もそうなのかもしれないと思ったら、悲しくなって。
一言一言ゆっくり語るりんの頬を、丸井はむにっとつねる。
じんじんとした痛みが残り、りんは涙目でそこに手を当てた。
丸「あのさー…俺の話聞いてなかったのか?」
『……ふぇ…?』
丸「一緒にいると楽しいって言っただろぃ?…ったく何度も恥ずかしいこと言わせんな」
もう一度頬をつねられても、りんは言われた言葉に目を丸くした。
丸「りんのことだから、気持ちに応えられないのに仲良くして、酷いことしてるとか思ってんだろ?」
『………っ』
図星だと、顔を俯かせる。
丸井はハァと溜め息を吐くと、ガシガシと自分の頭を掻いた。
丸「…応えなくていいから、覚えててくれ」
見つめる顔は、後輩の赤也に見せる顔でも、友人の仁王に見せる顔でもなかった。
普段の明るいイメージとは違った…大人びた真剣な顔。
その瞳は自分を好きだと言っているのに。
どうして気付けなかったんだろうと、りんは心底鈍感な自分を責めた。
丸「でも、お前は白石にデレデレだから無理か」
『デ…!お、覚えられます!///』
丸「じゃー今まで誰から告白されたのか言えんのか?」
『!!え……えと、』
その時のことを思い出し、ボンッと顔を赤らめるりん。
丸「(やっぱいんのか…)」
自分のことだけ覚えてて欲しい。
他の男の気持ちは忘れて欲しい。
そんな自分勝手なことを思ってしまう。
優しい性格の彼女には無理だとわかってるけど…
告白したという事実が今更恥ずかしくなって、「…そろそろ帰るか」と丸井は腰を上げる。
ついてくると思っていたりんは、そわそわと何か言いたそうにしていた。
『……先輩と、』
丸「?」
『もう会えないですか…?』
『皆でいる時、先輩もいて欲しいです』と眉を下げながら呟くりんに、目を見開いた。
丸「……いーのか?」
変わらずにいてくれるのだろうかと、期待してしまう。
キョトンとしていたりんは、その問いに力強く顔を縦に振った。
ふわり、自分を真っ直ぐに見つめて笑う姿に…息が詰まりそうになる。
丸「ありがとな」
この愛しい気持ちを教えてくれて。また笑ってくれて。
りんも、丸井がやっと笑ってくれたことが嬉しくて、『こちらこそ』とすぐに返した。
幸「何だつまらないな…もう終わりかい?」
日の沈みかけたテニスコートでは、終戦を向かえていた。
気絶した男達は我を思い出して起き上がると、SP…基立海メンバーに試合を申し込んだ。
だが、相手が間違っていた。
1人1人にコテンパンに負けた挙げ句、幸村のテニスで五感を奪われ、今に至るのだった。
「「お、覚えてろよ…!」」
捨て台詞を吐き、男達はバタバタと去っていく。
「きちんとズボンを履かんか!!」と真田にファッションを注意されながら。
赤「仁王先輩ー」
1人、コート横のベンチに腰掛けている先輩に、赤也は近寄っていく。
「何ぜよ」と仁王は顔だけ振り向いた。
赤「丸井先輩どうしてるっスかね~」
仁「さぁーどうじゃろな」
赤「そんなに心配しなくても大丈夫っスよ、きっと」
仁王が目を丸くすれば、赤也は何処か遠くを見つめるように前を向いた。
ー…先輩!
赤「りんと出掛けるとこ決まったんスか?」
丸「ぶっ!!…水飲んでる時にやめろぃ」
赤「待ち合わせを早目にして、色々2人で遊ぶといいって姉ちゃんが言ってたっス」
丸「…色々ね」
赤「オススメの場所は「いや、大丈夫」…へ、いいんスか?」
丸「その日に決める。りんが好きなとこがいいから」
仁「………」
赤「先輩…覚悟決めてたみたいだし」
仁「…赤也は馬鹿なのかわからんぜよ」
赤「へ!?馬鹿じゃねーっス!赤点も2教科しか取ってないし」
仁「(やっぱり馬鹿じゃった)」
キャンキャンと犬のように反論する赤也の話を聞き流す仁王。
「あれ、ブン太?」と驚く幸村の声に、同時に顔を向けた。
丸「おーやっぱまだいた」
『ゆ、幸村さん…?皆さんも何で…?』
正体を見破っていた丸井は、やっぱりと言った様子。
だが、立海メンバーを見たりんは困惑していた。
幸「りんちゃん、久し振りだね」
柳「精市に誘われ、SPに扮して遊んでいたんだ」
『そうだったんですかっ』
幸&柳「「((信じた…))」」
怪しい格好をしているにも関わらず、全く疑わないりんに色々と心配になった。
「ジャッカル似合いすぎだろぃ!」とケラケラ笑う丸井を見て、仁王がほっと肩を落としたことは誰も知らない。
柳生「宜しかったら、りんさんも打っていきませんか?丁度ダブルスをしようとしてたんです」
『へ、』
柳「次の予約時間まで、あと29分35秒余っているからな」
よく見れば、皆やる気満々にジャケットを脱いで腕捲りをしている。
「誰と組む?」と笑顔で幸村に問われ、りんは真剣に悩むが…
『丸井先輩がいいです』
恥ずかしそうにしながらも、ニッコリと言い切ったりん。
仁「良かったの~ブンちゃ…」
ニヤニヤと口角を上げて近付いていった仁王だが、思い留まった。
夕日のように顔を赤く染めて、本当に嬉しそうにする丸井がいたから。
仁「じゃ、次は俺と組みんしゃい」
赤「じゃーその次は俺とやろーぜ!」
『はい!』
丸「はぁ?お前らとなんかやる暇ねーからな!」
やっぱり、丸井は丸井だと実感しながら、皆は微笑ましく思うのだった。