想いの行方
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「ありがとうございました」
スイーツの説明をしていた店員が深々と頭を下げる。
大満足、と言った様子の丸井とりんは、その声を背中に受けて歩き出した。
『いっぱい食べましたねー』
丸「ほんとにな」
振り返れば、今日1日食べてばかりだった気がする。
『(ふ、太っちゃったかな…?)』
以前、四天宝寺の皆と旅行に行った時、財前に顔が太ったと言われたことがトラウマになっているのか…
顔をぺたぺたと触って確認するりん。(今更)
対する丸井も、仁王あたりにデブン太とからかわれそうだとお腹周りを気にした。(今更)
丸「りん、まだ時間大丈夫か?」
『ふぇ?はい』
丸「じゃー食後の運動付き合ってくれ」
『?』
ニッと笑った丸井は、何処か幼く見えた。
パーンパーンと、ラケットでボールを打ち合う音が響く。
都会にあるとは思えない木々のたくさんある公園を抜ければ、巨大な運動場が見えた。
そこの一角にあるテニスコートで、丸井とりんは試合をしている。
丁度予約客がキャンセルしたらしく、おまけに学割で入れたので安く済んだのだ。
丸「妙技、綱渡り」
丸井が打った打球は、綱を渡るようにネットの上を通る。
トン、と相手コートに落ちれば、りんは目を真ん丸にさせた。
『すごい…すごいですね!』
丸「天才的だろぃ?」
『はいっ天才的です!』
丸「っっ!///」
純粋な瞳を向けるりんに、自信満々でいた丸井もだんだん恥ずかしくなってきた。
あっという間に顔を赤くし、キラキラと輝く瞳を見ないようにした。
『どうやったら、丸井先輩みたいに上手になるんでしょうか…』
丸「そう簡単には真似出来ねーよ。てかりんも上手いじゃん。テニスやってたのか?」
『いえ、小さい頃にお兄ちゃんの真似して練習してただけで、』
見よう見まねで、大きなラケットを必死に振っていた時期が懐かしい。
特に教えてくれなかったけど、好きにさせてくれていたのは、リョーマの優しさなのかもしれない。
丸「サーブにもうちょい力込めた方がいいぜ」
『!はい、』
丸「こうやってラケットを「あれ~?人がいる」
その声に顔を向けると、入り口のところに見知らぬ男女の集団がいた。
高校生…大学生だろうか。
ぞろぞろとコートに入ってきた時、反射的に丸井はりんの前に立っていた。
「だから行ったじゃーん。まだ時間まで30分もあるって」
「しょうがねぇじゃん飽きたんだから。さっさとテニスして帰ろうぜ」
「ごめんね~もう譲ってもらっていい?ちゃんとお金払うし」
丸「は?何言ってんだよ、あんた達は次の時間だろ?」
お金とかの問題じゃない、そう言い切った丸井に、男の目付きが変わった気がした。
睨み付けるように顔を近付けられ、りんはぎゅっと丸井の服の裾を握る。
「高校生?中学生?可愛い顔して女の子みたいでちゅねー」
「つか彼女可愛すぎじゃん!超タイプなんですけど」
男達はわらわらと詰め寄り、1人の男がりんの手を握った瞬間、丸井の頭にカッと血が上る。
「触んな!!」と勢い良くその手を払うが、別の男に肩を押されてしまった。
「やってくれんじゃん、チビちゃん?」
丸「…ってーな」
「ねぇねぇ、あんなガキより俺達と遊んだ方が絶対楽しいよ」
『や…!』
丸「だから触んなって!」
男達を押し退けりんの手を引いた時、自分でその力の強さに驚いた。
地面に尻餅をつかされた男達は、怒り心頭で丸井に手を伸ばした。
…が、
「な…何だよお前」
すっと間に立っていたスーツ姿の人間。
『??』と呆然とするりんとは違い、「へ…」と固まる丸井。
更にずらーっと同じ格好をした人間が揃い、男達はその威圧感から腰を上げることが出来なかった。
「ブンちゃん、早く」
丸「!」
その声に、丸井は正体を確信した。
未だ呆然とするりんの手を引き、コートを駆け足で去る。
2人がいなくなった後、1人の男が「な、何者だよ!」と漸く言葉を発した。
幸「警視庁警備部警護課、第四係…君達を逮捕する」
真「貴様ら…順番も守れないとはたるんどる!!」
幸村がサングラスを外すと、今までキャハハハと笑って見ていた女がぽっと頬を染めた。
同じく、サングラスを外した真田の気迫に、男達は「ひ…!」と後退りする。
柳生「こちらとしても大事にはしたくないんですが…仕方ありません」
柳「"ふざけるな"とお前は言う」
「な…!ふざけんじゃねぇよ!」
バッと身を乗り出した男の胸ぐらは、一瞬にして幸村に掴まれてしまった。
「さっさと帰れよ」
その一言で、男は顔を真っ青にした。
女は恐怖で逃げ出し、男達はその場に気絶してしまう。
「おーい」としゃがみ込み仁王がヒラヒラと手を振っても反応がなかった。
桑「こいつらどうするんだ?」
幸「服でも脱がして放置しとく?」
赤「え!逮捕するって嘘なんスか?」
柳生「嘘も方便と言いますから」
赤「(…この人達こえー)」
ニッコリ笑ってとんでもないことを言う先輩達を見て、つくづく敵に回したくないと思う赤也だった。
2人分の足音が道路に響く。
あれから無我夢中で走り、駅に向かっていた筈が公園を回っていただけだったらしい。
そのことに漸く気付いた時、丸井はハッと後ろを振り向いた。
丸「わ、わりぃ…走らせちまって」
『い、いえ…』
息を整えるりんの姿に、悪いことをしたと罪悪感に包まれる。
丁度近くにあった大きな木の下に腰を下ろした。
丸「本当にごめん。俺がテニスコートに連れてったから」
『先輩は悪くないですよ…!あの、嬉しかったです』
丸「へ!?」
何が"嬉しい"のかと丸井の口から素っ頓狂な声が溢れる。
例え間抜けでも、正しい反応を抑えることが出来なかった。
『先輩、"触るな"って守ってくれたから…いっぱい嬉しかったです』
怖かった筈なのに、ふんわりと優しい笑みを浮かべるりんにきゅっと胸が締め付けられた。
丸「……んなの、当たり前だろぃ」
『そんなことないですっありがとうございました』
丸「…………」
こんな時でも、りんの真っ直ぐな瞳に自分だけが映っていることが、堪らなく嬉しい。
子供みたいに笑ったり、小動物みたいに慌てたり、キラキラ目を輝かせたり。
それが失われるくらいなら、言わない方が良いと思ってた。
でも、
丸「(…無理だろぃ)」
こんなにも、こんなにも。
丸「俺は…」
失いたくない。
ずっと一緒にいて欲しい。
『先輩…?』
思い詰めた表情をする丸井を心配して、りんは手袋をした手で触れる。
丸井は覚悟を決め、ぎゅっとその手を握り返した。
丸「…っ好きだ」