想いの行方
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*丸井side*
まだ夢を見ているのかと思った。
2月っていってもまだまだ寒い。
冷たい風が吹く中、俺はマフラーに赤くなった鼻先を埋めた。
バレンタインデー1週間前の日曜日。
都会ってのもあるだろうけど、駅前はカップルだらけだ。
こんなとこをあの子と歩くのを想像したら、やけに落ち着かなくなった。
丸「(…つーか、本当に夢じゃねぇよな?)」
試しに頬を引っ張ってみても、じんとした痛みが残るだけ。
ぼおっと行き交う人を眺めていると、『丸井先輩!』とホームの中から高い声がした。
バッと物凄い速さで振り向いたことに自分で驚く。
『こんにちはっ』
丸「……………」
『あの、先輩?』
丸「あ、ああ」
首を傾げるりんが目の前にいて、自分がぼおっとしていたことに気付いた。
そういや、クラスメイトの奴が読んでた雑誌に"マフラー姿の女の子は可愛い"みたいなページがあったっけ。
何だよそれって思ったけど、
『?』
丸「(ほんとーだぜぃ…!)」
長い髪を白いポンポン?の付いたマフラーの中に埋める姿が、か、可愛い…ような。(←小声)
『丸井先輩…?』と不安そうに尋ねられ、テンパった俺は「似合ってるな!」と叫んでしまった。
キョトンと目を丸くするりんにしまったと思っても、もう遅い。
すぐにふわりと微笑まれ、ドキッと鼓動が音をたてた。
『丸井先輩も、そのニット帽すごく似合ってますっ』
ニコニコ笑うりんを直視出来なくて、「さんきゅー…」と帽子を目元まで下げた。
つーか何のこと言ったのかわかってんのかよぃ…
『あの、まだちょっと時間あるみたいですけど…』
丸「そうだな。時間潰すか?」
『はいっ』
ここら辺何かあったっけとお互いに情報を交換してると、「あの」と声を掛けられた。
スーツを着た女性は、キラキラ瞳を輝かせながら俺達を交互に見つめる。
「私、○○芸能事務所の者です。アイドルとか興味ありませんか?」
『へ…!?』
ずいっと渡された名刺をビクビクしながら受け取るりん。
「もう何処かに所属されてるんですか?」と今度は俺に聞いてきた。
「こんなに可愛らしい女の子初めて見ました!お2人共、是非うちの看板アイドルにと思いまして!」
「『へ……』」
女の子……?
2人ってことは………
事務所の所属アイドルを語り始める声を聞きながら、わなわなと震えた。
丸「…俺、男ですけど」
しん…と場が静まり返った後、「すいません!!」と慌てて女性が頭を下げたのだった。
『あの、先輩…っ』
丸「…………」
人込みの中を器用に掻き分け、ずんずん進んでいく。
『丸井先輩っ』と呼ぶ声に漸く足を止めた時、『わ、』と俺の背中にりんが衝突した。
鼻を押さえるりんに、「悪い…」と向き直る。
『いえ!……あの、丸井先輩、大丈夫ですか?』
丸「え」
『何だか怒ってるみたいだから…』
不安そうに尋ねられ、俺は自分の言動を振り返る。
確かに、1人で早足で歩いてたらそう思うよな…
女顔ってゆーのは理解してるつもりだ。
だけど、りんといる時に言われたくなかった。
前にかっこいいって言ってくれたけど、もしりんが『確かにそうかも』なんて思ったら嫌だ。
丸「(っつーかほんとに女かよ、俺…)」
ごちゃごちゃ考えてカッコ悪い。
テニスとかなら自信はあるのに、りんの前だとすげー考えちまう。
『先輩、クレープ食べませんか?』
丸「へ、」
突然、クレープ屋を指すりん。
迷わず頷く俺にニッコリと笑い、何味にしようか真剣に悩み出した。
丸「ここ、苺生クレープが一番美味いんだぜぃ」
『そうなんですか?じゃあそれがいいですっ』
丸「よっしゃ!苺2つね」
店員に伝え、流れ作業のように素早く代金を払い受け取る。
「ほい」と渡すと、りんはポカンとしていた。
『……わ、私払います!』
丸「え?あのくらい要らねぇよ」
「それより早く食べよーぜ」と身体を弾ませると、俺を見上げていたりんはくすくすと笑った。
『ごめんなさい…だって先輩、ほんとに男前だなって思って、』
可笑しそうに笑う声を聞きながら、持っていたクレープを握り締めそうになった。
丸「苺生クレープとか頼んでんのに…?」
『?はい。丸井先輩、いつも気付いたら先に払ってて、それがすっごく自然だから』
真っ直ぐに俺を見つめる瞳は、少しも揺らいでいなかった。
…今の言い方だと、ずっと前から思ってたみてーじゃん。
丸「(やばい……)」
何でこんなに嬉しいんだよ。
にやけそうになる口元がバレないようにクレープを食べると、りんもつられて口に運んだ。
甘いクレープが、いつもよりも甘い気がした。
『(あ。あの服お兄ちゃんに似合いそう…)』
丸「(…越前に似合いそうって思ってんだろーな)」
男物の服屋の前で足を緩め、じっと一点を見つめるりんに思った。
俺がその店に入っていくと、慌てて後ろから着いてくる。(犬みてー)
『えと、』
丸「俺服欲しいんだよなー見ていい?」
そう言ったら、りんは安心したように顔を綻ばせた。
その笑顔に心臓が締め付けられた気がして、慌てて背中を背ける。
店内を物色する俺に合わせて、りんも自由に見始めたみたいだった。
丸「(お、この服いいじゃん)」
「そちらと同じデザインのワンピースもあるんですよ」
「彼女とお揃いにいかがですか?」とにこやかな笑顔で話し掛けてきた若い男の店員。
か、彼女…!?
『先輩、』とタイミング良くやって来たりんに気付いた店員は、更に笑顔を作る。
その熱い視線を感じながら、「どうした?」となるべく平静を装って聞いた。
『えと、もう大丈夫です』
丸「そっか。じゃあ俺もいいわ」
店員には悪いけど…この空気に耐えられねぇ。
店を出て再び並んで歩く。
女物の服屋の前を何度か通り過ぎても、りんは特に興味を示さなくて、
丸「りんは服とか見なくていいのか?」
『え?あ、やっぱりお兄ちゃんと一緒に行こうかなって、』
丸「越前のじゃなくて、りんの服」
わかりやすく頭の上に?マークを浮かべるりん。
丸「いや、女子って服とかすげー気ぃ遣ってる感じだから…」
別にりんが気を遣ってないとかじゃなくて、(今着てんのもか…可愛いし)ただ、全く入りたがらないから驚いただけ。
『えと、洋服には特に困ってないですし…それに、自分に何が似合うのかよくわからなくて、』
丸「えっ絶対似合うのいっぱいあるって!勿体ねぇよ!!」
大声で力説していたと気付いたのは、目の前にポカンとしたりんがいたから。
カァアと顔全体が赤く染まっていくのが自分でもわかる。
でも、嘘はついてない…よな。
『じゃあ、もし丸井先輩が迷惑じゃなかったら』
丸「…おー」
『一緒に洋服、選んでくれませんか?』
『ほんとに迷惑じゃなければ』ともう一度付け足す。
嬉しくて思うように声が出せないでいると、りんは俺が嫌がってると勘違いしたらしく。
どんどん不安そうな表情になっていく。
俺は頷く代わりに、小さな手を取っていた。
丸「迷惑な訳ねぇだろぃ」
こんなに、こんなに俺は……
りんは手を振り払うこともなく、ふわっと花が咲いたように笑った。