迷路
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目が合っていた青い瞳は、すっと別の方向に逸れる。
跡「っ……龍間、来てたのか?」
龍「えー何それ。俺も客人なんだけど」
跡部の髪やコートには雪が付いていて、息も微かに乱れていた。
跡「…りん、久し振りだな」
『"とつぜんおじゃましてすみません"』
跡「?どうした」
近付いてくる跡部から顔を逸らしてしまいそうになりながら、ボードに言葉を綴るりん。
首を捻る跡部に、「喉が痛くて喋れないんだって」と龍間が説明した。
跡「そうか…そんな時にミカエルが無理矢理誘ったみたいで悪かったな」
『"いえ!私もごめんなさい"』
跡「りんが謝ることねぇだろ」
「その断れない性分は相変わらずみてぇだな」とふっと口元を緩められ、りんはチクリと胸が痛くなった。
今まで跡部の話をしていたこともあり、何故か正面から顔が見れない。
龍「景吾、着替えてきたら?風邪引くよ」
「景吾様、そのようなお姿ではお身体が冷えてしまいます!早急にお着替えになってください!」
跡「あーん?何だ?揃いも揃って…」
龍間の言葉を合図に、扉の前で待機していたメイド達が一斉に入ってくる。
皺1つない大きなタオルを跡部の頭に被せると、そのまま自室へと連れていってしまった。
龍「…はぁ、あんなに慌てて来ちゃって」
『(跡部さん大丈夫かな…?)』
ミカエルから来客を聞かされた直後、跡部が広い屋敷を走って来たこと等りんは知るよしもなかった。
ただ、先程メイドに言われたことを一緒になって心配していると、目の前で呆れたように溜め息を吐かれた。
龍「君もさぁ、そういう顔するのって計算?」
『?』
龍「そんな心配されると、勘違いしちゃう奴もいるってこと」
か、勘違い…?と頭の上に?マークを浮かべるりんを見て、龍間は更に溜め息を吐き出す。
龍「その様子だと、彼氏にも良く嫉妬されるんじゃないの」
『…!』
龍「当たりでしょ」
白石のことをいつも不安にしているようなことを言われ、りんはぎゅっと服の裾を握り締めた。
これまで感じたことがないような感情が芽生え、その衝動のままボードに書いていく。
『"私は、白石さんだけがすきです!"』
それをばっと龍間に向かって見せる。
すると…こっちを見ていた筈の龍間の目が、部屋の扉の方へ移動した。
りんもつられてそこを見ると、ラフな服に着替えた跡部が立っていた。
見開いていた瞳が揺れると、りんの鼓動はドクンと音をたてる。
龍「越前さん、彼氏に悪いからそろそろ帰るってさ」
跡「……そうか」
『…っ』
龍間がわざとらしく口元を緩めると、りんはすくっと立ち上がった。
"しつれいします"と書いたボードを見せ、跡部の前でペコリと頭を下げてから部屋を飛び出した。
跡「りんっ車を出させるから待ってろ」
その声を背中に受けていても、りんは来た道を必死に思い出しながら走る。
1人になりたい、
普段そんなこと思わないのに、今はこの気持ちでいっぱいだった。
無我夢中で出口を探していたりんは、角を曲がった直後、ドンッと誰かにぶつかってしまった。
『"ごめんなさい"』
それが誰なのか確認する間もなく、丁寧に頭を下げてりんは再び走り出した。
彼女の表情が気掛かりで、去っていった方向を見つめ続ける男に、別の足音が近付いた。
跡「樺地…!りん見なかったか?」
樺「…今、あっちに走っていきました」
跡「っそうか、助かったぜ」
早足で追い掛ける跡部に、すべてを察したかのように樺地は頭を下げた。
龍「……何?何か言いたそうだけど」
トントンと部屋をノックしては動こうとしない樺地に、紅茶を飲んでいた龍間は眉を寄せた。
イギリス時代からの知り合いである2人は、お互いの性格は一応理解している。
彼が黙って観察している時は、何か言いたいことがあるのだ。
樺「りんさんを傷付けたら……跡部さんが悲しみます」
真っ直ぐに自分を見つめる瞳を、龍間は細めながら見返した。
その鋭い瞳に込められているのは……間違いなく怒りの感情。
龍「景吾の為だよ」
再び紅茶に口を付ける龍間に、これ以上言葉はなかった。
『(さ、寒い…)』
跡部の家を出てからも夢中で走っていたりんは、その足を緩めて歩いていた。
思えば、急にジローや岳人に誘われて外へ出掛けたので、マフラーや手袋をするのを忘れていた。
冷たい風にぶるりと身を震わせていると、「りん…!」と呼ぶ声がした。
『!!』
跡「動くんじゃねぇ!!」
低い声で怒鳴られるのは相当な迫力で、りんはビクッと身体を浮かした。
素直に従い、少しも微動だにしない様を確認すると、跡部はゆっくり近付いていく。
跡「…俺様の車が嫌なら、タクシーを呼ぶから待ってろ。雪の中歩かせるわけにはいかないからな」
有無を言わさず、ピ、ピ、と携帯で連絡を取る跡部に、りんは慌てて"ありがとうございます"と書いたボードを見せた。
跡「龍間に何か言われたのか?」
『……』
跡「お前らしくない様子だった」
家族を調べられたこと、白石との関係を詮索されたことだけが、嫌だったからじゃない。
何より、跡部に対して酷いことをしていたと改めて思い知ったから。
取り乱してしまった自分が恥ずかしくて、カァッと顔が赤くなる。
『"あとべさんは"』
りんがボードに書き終わるのを、じっと待ってくれる。
恐る恐るそれを見せた時、跡部の目は大きく見開かれた。
『"私といるとくるしいから、たのしくないんですか…?"』
待っても、何も言わない。
もう、それが答えのようだった。
タクシーが着くと、跡部は巻いていたマフラーをほどき、りんの首にかける。
跡「…早く風邪治せよ」
*リョーマside*
遅い。
遅すぎる。
桃「おばさんっ超うまいっス!!」
大「こら桃!もっとゆっくり味わって食べないか!消化に悪いぞ」
海「(…うまい、)」
不「本当に美味しいですね」
倫「あらそうー?じゃんじゃん食べてね、育ち盛りなんだから」
「「「ウッス!!!」」」
母さん特製の鍋を囲み、再び炬燵に入る先輩達。
中高生の男子に誉められることが余程嬉しいのか、母さんは次々に肉や野菜を運んでいた。
河「りんちゃんの味付けに似てますね」
倫「そうかしら?あの子ったら、もう私より料理が上手なのよー」
先輩達も、お世辞を言うのが上手すぎる気がするんだけど…
俺は交わされる会話を呆れ半分に聞きながら、無意識の内に時計を見ていた。
…りんが芥川さんと向日さんに連れていかれたことは、不二先輩から聞いた。
すぐ帰ってくるって言ってたみたいだけど、
リョ「……俺、ちょっと出てくるっス」
大「越前?」
倫「あら、りんならすぐ帰ってくるわよ~」
リョ「…………」
理由を言わないで席を立ったのに、母さんには既にバレていた。
そのせいで先輩達にまで知られてしまい、気まずさから早足で玄関に向かった。
冬の夜は、日が沈むのが早い。
街灯を頼りに曲がり角までいくと、遠くに人影が見えた。
リョ「りん、」
俯きながら歩いていたりんは、角にいた俺を見て『!!?』とあからさまに驚いた。
まるでお化けを見たような反応に、ムッとする。
『"おにーちゃん"』
俺だとわかると、ふにゃあと笑った。
『"ごめんね、おそくなって"』
リョ「本当だよ、何処行ってた……」
りんが首に巻いていたマフラーに気付いて、言葉が続かなかった。
リョ「…それ、どうしたの?」
『?』
どう見ても男物の黒のマフラー。
自然と眉を寄せていた俺に、りんは慌てた様子でボードに書いた。
『"ジロちゃんにかりたの!"』
あの人、黒のものとか持ってなさそうだけど……
「ふーん」と返すと、りんはまだ慌てていた。
『"せんぱいたち、まだいる?"』
リョ「いるよ。特に菊丸先輩がまだかまだかってうるさくて」
『"よかった"』
微かに震える手に気付き、「りん?」と首を傾げる。
頭に付いた雪を払おうと伸ばした手が、りんの顔を見て止まった。
ポロポロと頬を伝う涙が、白い地面に染みをつくっていく。
震える唇が、"おにいちゃん"と動いた。
『"ずっと、こえでなくていい"』
声もなく、涙を流し続ける姿は痛くて、今にも壊れてしまいそうで。
気付いたら、抱きしめていた。
リョ「泣くな……」
ぎゅっと回した腕に力を入れると、俺の肩に透明の滴が落ちる。
あの人以外に、りんをこんな風にさせる人がいる。
その事実に、無性に苛立ちを覚えた。
痛い、苦しい。
そんな感情が、りんから伝わってくるような気がした。
リョ「……っ」
痛みが伝染したかのように、俺の胸も締め付けられる。
この時の俺は動揺していて、もう既に、自分が深いところに迷い込んでいたなんて、思いもしなかったんだ。
それは永遠に叶うことのない
長く、切ないー…
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