愛のカタチ
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りんは、数時間前に起きた出来事を頑張って短くまとめた。
まず、謙也が白石宅に来たこと。
その後に、今度は弟の翔太が来たこと…
友香理はライブの誘いを断ろうとしていたが、2人の恋を応援しているりんがそれを止めた。
最後まで遠慮していた友香理を見送った後、文月が白石のバイト先を教えてくれたのだった。
『…それで、えと、』
財「どーせ、部長が女の客に絡まれとるの見てられんかったんやろ」
『!(うぅ…)』
図星を言い当てられ、本日何度目だろう顔を俯かせるりん。
『そっそれもあるんですけど、』と続く話を、財前は悴んだ手をポケットに入れながら聞いていた。
『働いてる白石さんが……………か、かっこ良くて、恥ずかしくなって、』
最後の方は尻すぼみになっていくが、ちゃんと届いていた。
カァァと赤く染まる顔をマフラーに埋めるりんを、財前は横目で見ていた。
財「(……しょーもな)」
わざわざ足を止めて話を聞いてあげたことを、激しく後悔する。
それでも放っておけない、一緒にいたいと思っている自分が…一番しょーもないのに。
財前がハァと白い息を吐き出すと、自分に対しての溜め息だと思ったりんは居たたまれなくなった。
『あの、ごめんなさいっ変な話聞かせちゃって…』
財「…別に。甥の相手しとるよりはええし」
『甥っ子さん?』
財「兄貴の息子。体力有り余ってて煩いねん」
財前が小さい子供と遊んでいる姿を想像していると、頬に何かを当てられて。
りんは一瞬ビクッとしてからそれを手に取ってみれば、ハートの形をしたカイロが目に映った。
『?これ…』
財「さっき買って余ったからやる」
「明日誕生日なんやろ」と言えば、戸惑っていたりんの顔は嬉しそうに輝いていった。
『ありがとうございますっ財前さん』
財前が覚えてくれていることが、とても嬉しかった。
りんはニコニコと機嫌良くカイロの袋を開けると、掌を温めるように包み込んだ。
『…財前さんは、いつも励ましてくれます』
財「……は?」
『合宿の時も、無人島に取り残された時も、今も…』
不安な時、財前はいつも話に耳を傾けてくれるから。
普段から気にしていることを言われても、苦手なものを押し付けられても、りんの目には意地悪ではなく、優しいと映っていた。
『だから…財前さんが困った時は、私がいつでも力になりますね』
『味方ですっ』と微笑んだりんを見て、財前の目は一瞬見開かれた。
かと思ったらすぐに下を向いてしまった財前に、りんはあわあわと心配する。
『?ざ、財前さん…?』
いくら声を掛けても顔を上げない財前に、不安になるりん。
その様子に、もしかしてとんでもなく迷惑だったのかな…と思ってしまう。
りんはどうしたらと考え、何かに気付いた後、自分のコートのポケットを探った。
『あの、カイロのお礼ですっこんなもので申し訳ないんですけど、』
『今日はありがとうございました』と律儀に頭を下げて、りんは小走りで去って行った。
掌の上に置かれたものの存在に、ゆっくり顔を上げてから気付く。
財「………やばいやろ、これ」
人の言葉がこんなに気持ちを左右するなんて、思ってなかった。
ハートの形をした小さな飴玉は、甘い味がした。
白石は走りながら、携帯の画面で時間を確認した。
白「(…ほんま、あの先輩)」
時間がきたというのに、中々上がらせてくれなかったことを思い出す度に腹が立つ。
辺りはすっかり暗くなっていて、照らすように細かい雪が降り続いていた。
何度かりんの携帯に電話を掛けているが、折り返し掛けてくる気配はない。
心配からか足を速め、白石は勢い良く玄関の戸を開けた。
白「(…誰もおらへんのか?)」
珍しいほどにしん…と静まり返ったリビング。
不思議に思いながら電気を付けると、テーブルの上に置き手紙を見付けた。
〈くーちゃんへ
今日は紅葉ちゃん家に泊まります。りんちゃんによろしくなー!
蔵ノ介へ
ダーリンが出張から帰ってきたんで帰るわ~
優しくするんやで☆〉
白「…………」
白石は一通り読むと、すぐに2階へ向かう。
友香理の部屋を確認してから自室を開けると、ベッドの上でりんが丸くなっていた。
白「…おった……」
その姿を見て、安心からか溢れた言葉。
りんの優しい性格からして考えにくいが、電話にも出ないし、てっきり怒って紅葉達と一緒にいるのかと思っていた。
近付いていくと、眠りながらうさぎのぬいぐるみを抱いていることに気付いた。
その腕の中にあった違うものは、白石の動きを止める。
『………ん、』
小さく身を捩りながら、うっすらと瞼を開けるりん。
ぼんやりとした視界のまま身を起こせば、誰かがこっちを見ていることに気付いた。
それが白石だとわかった瞬間、パチッと目を大きく開けた。
『っし、白石さん…!あの、おかえりなさい!』
慌ててベッドから下りようとすれば、突然強い力に抱き締められて。
ドクンドクンと鳴る心臓もお構い無しに、腕の力は更に強くなる。
『ど、どうしたんですか…?』
白「ごめんな…1人にして、」
どんな理由であれ、わざわざ大阪まで来てくれたりんを独りぼっちにするなんて最低だ。
抱き締められると、白石の気持ちが伝わってくるような気がした。
りんは広い背中にそっと腕を回すと、あやすようにぽんぽんと撫でる。
『白石さん、お仕事お疲れさまです』
抱き締めていた腕をほどくと、ふわりと微笑むりんがいた。
白「…ほんまに、寂しくなかったん?」
『大丈夫ですよっ友香理ちゃんや文月さんとお喋りしてたらあっという間でした』
白「じゃあ、それは?」
『?ふぇ、』
それ…?と白石に合わせて視線を向けると、抱き枕の他に抱いていたあるものが目に留まった。
少しだけ皺がついてしまった白石のシャツを見て、りんはカァアアと顔を赤く染める。
『ご、ごごごめんなさい…!ちゃんとアイロンかけますので…っ///』
慌てて立ち上がろうとするりんの手首を、白石が掴む。
その大きな手は華奢な肩へと置かれた。
白「寂しかったんとちゃうん?」
『…っ』
白石の真剣な眼差しに、りんの心臓は停止する寸前だった。
白石に似せたぬいぐるみとシャツを抱いて寝ていた時点で、答えは決まっているのに。
りんは違うと言うように首を横に振るだけだった。
白「…言うても、りんちゃんのこと嫌いになったりせんで?」
『……さ、寂しくなかったですよ』
視線から逃れるように俯けば、暫くして「…そーか」と手が離れていった。
白「困らせてしもたな。今、温かい飲み物持ってくるから待っとって」
『!あ…』
部屋を出ていこうとする白石の手を、りんは咄嗟に掴んでいた。
白石よりも、そうしたことにりん自身が一番驚いた。
ずっと触れたかった手は、今ここにあって。
『……ほ、ほんとはっ』
勇気を出す為に、その手をぎゅっと握る。
『……もう、何処にも行かないで………傍にいて欲しい、です』
俯いている顔は、きっと赤いんだろうと自分でわかるほどだった。
恐る恐る顔を上げて白石と目が合った瞬間、りんは慌てて隠れる場所を探し出した。
ベッドの裏に隠れようとしては諦め、テーブルの下に隠れようとしては諦め…を繰り返すりんに、白石は吹き出してしまう。
白「りんちゃん必死すぎ…はははっ」
『!!///』
全部正直に伝えた方がいいと思ったから言ったのに。
心臓が壊れる思いをしたのに。
拗ねたように頬を膨らませるりんの頭を、白石は優しく撫でた。
だんだんとしぼんでいく頬を見て、本当にわかりやすいとまた笑いそうになる。
白「りんちゃんは、俺に何でも言うてええんやからな?」
好きだから、全部知りたい。りんが思っていることをぶつけて欲しい。
りんは嫌われると思って隠しているつもりでも、白石は言いたいことがあるとわかっていた。
『…何でも、ですか?』
白「うん。何でも」
りんごのように顔を赤くしたりんに、『白石さんも言うなら』と言われてしまい、白石は一瞬目を丸くした。
少しずつ距離が近くなっていることに気付いたのは、ベッドの端に自分がいたから。
白石が膝を乗せると、ギィ…と音が鳴った。
白「……じゃあ、」
耳元で囁けば、りんの顔はぶわっと赤みを増す。
困惑したような表情を浮かべ、自然と縮こまるりんに白石は小さく笑った。
冗談やってと頭を撫でようとした時、『…も』と消え入りそうな声がした。
『…わ、たし、も、同じこと言おうとしてました』
これ以上赤くなれないというくらい顔を真っ赤にして、りんはそっと白石を見つめた。
"キスしたい"
心臓がドクンと跳ね、頭の中ではうるさいほど警告音が鳴っている。
白「……っ」
早く冗談だと笑い飛ばして、離れなければ。
頭ではわかっているのに、今にも泣き出しそうな瞳で待っているりんを見た瞬間、白石の中で何かが切れた。
『…!』
りんの頭を引き寄せ、赤い唇に自分の唇を重ねる。
『んっ』と小さく声を上げるりんが可愛くて、だんだんと深くしていった。
重なる吐息が、白石の理性を壊していく。
少し唇を舐めただけでビクッと身体を強張らせるりんを、気付いたら押し倒していた。
『…っは、はぁ、…んん…!』
りんはキスの合間に頑張って息をしようとするけれど、すぐにまた塞がれてしまう。
苦しいというように肩を叩いた時、漸く白石が動作を止めた。
身を起こしながら自身の唇を拭う彼を見て、りんの鼓動はドキンと音を立てた。
いつもの優しく微笑む顔からは想像も出来ないほど、余裕のない表情を浮かべている。
寂しそうに、苦しそうに細める目から視線を逸らせなかった。
『白石さ…』
白「……やっぱり、俺はこういうことしたんやな」