travel!! 前編
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広い旅館を歩きながら、りんは部屋までの道のりを必要以上に長く感じていた。
白石は自分で歩いているもの、柱に衝突しそうになったり足元が覚束ない。
だがりんはというと…皆の前で抱き締められたこともあって、支えるどころか距離をとってしまっていた。
後ろからハラハラ見守りながらなんとか部屋の前にたどり着くと、既に鍵が開いていた。
『白石さん着きましたよ…っ』
白「部屋…?」
トロンとした瞳で首を傾げる白石に、胸がキュンと鳴く。
『(酔うと子供っぽくなるんだ……)』
彼の知らない部分が、まだまだたくさんある。
その事実に少しだけ気が沈むのを感じながら、りんは部屋の中に足を踏み入れた。
中には既に謙也と財前と千歳がいて、気持ち良さそうに眠っていた。
謙也の腕が財前の顔の上に乗っているので、財前の方は寝苦しそうだ。
布団が敷いてある代わりに、紅葉の姿は見当たらず。
他の皆を隣の部屋に運んでいるのかも…と、りんは独りでに納得した。
ふと、彼女から言われたことを思い出して、布団に横になった白石へ振り向く。
『あの…お水、ここに置いときますね』
白「…ん」
『他に欲しいものとかありますか?』
白石の反応がないので、りんは退散しようとした。
……筈だったが、「りんちゃん」と呼ぶ声にすぐさま足を止めてしまった。
白「行ってまうん…?」
『え、えと』
白「行かんで」
眉を下げて見つめてくる白石は、まるで捨てられた子犬のようで。
胸がズキンと痛み、罪悪感に襲われた。
『(少しだけなら、大丈夫だよね…?)』
鈍感なりんは、紅葉がしつこく言い聞かせていた理由がわかっていなかった。
横になる白石の隣に大人しく正座した瞬間、ぐいっと腕を引っ張られた。
驚いて目を見開いた時には視界が反転していて、見下ろす白石と視線が重なる。
『あの、白石さ「ほんま、無防備なんやから」
さっきとは真逆の低い声に、背筋が凍り付いた。
同時に、暗闇の中で切れ長の目が妖艶に光るのを見てしまった。
白「…あのぬいぐるみ、そない嬉しいん?」
『あ…あの』
白「財前に取ってもらったから?」
あまりにも真っ直ぐ見据えてくるので、思わず目を逸らしてしまうりん。
白石の手によって、すぐに元の位置に戻されてしまった。
頬に触れた手が酷く熱いのは、お酒を飲んだからだろうか。
白「謙也とも仲ええみたいやしなぁ…」
『どうしてそんなこ……!?』
りんの声は、与えられた口付けに呑み込まれた。
突然のことに目を見開いてしまうと、白石も薄く目を開けていた。
『~っしら、さ…っ』とりんは何とか言葉を発するが、空いた口の隙間に何かが入ってきた。
『…!?』
それが舌だとわかった時、りんは無意識の内に目を閉じていた。
くちゅ、と粘膜的な音が脳を刺激し、耳を塞いでしまいたい。
重なった唇から感じるアルコールの匂いに、りんも酔ってしまいそうだ。
『んん…っふ、』
聞いたこともないような自分の声に、カァッと顔が熱くなるのを感じた。
ここには、皆がいる。
もし起きてしまったら…と恐ろしい考えが浮かび、りんは声を必死に抑えた。
『(…な、なにこれ…っ)』
初めての感覚に思考が追い付かない。
白石にされているのだと思うと、余計に頭が真っ白になった。
漸く隙間が出来た時、りんはハァハァと酸素を取り戻すように肩を上下する。
『…ど、どーして…』
白「…りんちゃんは俺のもんやろ?」
『ひゃ…!』
首筋に白石の舌が這い、ビクッと身体が飛び跳ねる。
はだけた浴衣姿を直視することに躊躇うが、胸板を押して精一杯の抵抗を試みた。
だが、どんなに力を入れてもびくともしない。
りんがどんなに名前を呼んでも…聞いてくれない。
つぅ…と、生理的な涙がりんの頬を伝った。
『(やだ……)』
アルコールに酔ってこんなことをされるなんて、虚しいだけだ。
悲しくて、ポロポロと涙が溢れてくる。
そんなりんの異変に白石も気付き、顔を覗き見た。
白「…泣かんで、」
『…ごめんなさ、い…』
白「俺のこと、怖い?」
コクコクと頷くりんに、暫くして白石の身体が離れた。
すっと細長い指で涙を拭ってくれるのは、いつもの彼で。
りんはゆっくりと目を開けると、白石は寂しそうに微笑んでいた。
白「りんちゃんが、好きなんや」
『…白石さ、』
白「好きや……もっと近付きたい」
その声は微かに震えていて、悲しそうに目を細める白石を見ていられなかった。
りんが彼を抱き締めたのは、泣きそうだと思ったから。
拒む理由が…見付からない。
大好きな人が自分を求めてくれることに、拒絶なんて出来ない。
更に強く抱き締めると、白石の心音を感じた。
白「りん……」
優しく押し倒され、白石の顔が徐々に降りてくる。
首筋に気配を感じ、りんは覚悟を決めてぎゅうっと目を瞑った。
…が、身体が妙に重く、想像していたことは起きない。
不思議に思って目を開けてみると、白石はりんに被さるようにして眠っていた。
『………』
穏やかな寝息は、一生分の緊張を簡単に解いてしまう。
『……も、死んじゃうかと、思った……』
自身の腕で顔を隠しながら、りんは身体を布団に沈める。
バクバクと高鳴る鼓動は、止みそうになかった。