travel!! 前編
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小「皆さんグラスは持ちましたかぁ~?」
「「「「はーい!!」」」」
小「それではご一緒に、」
「かんぱーい!!」と、楽し気な声と共にグラスが重なる。
大広間が丁度空いていたことから、夕食はここで食べることになった。
アワビや蟹、豪華な海の幸を使った料理を、皆は勢い良く頬張る。
健「りんちゃん、ちゃんと食べとる?」
『はい!どれもすごく美味しいです』
四天宝寺の皆の食欲に圧倒されているのかと思い、小石川は声を掛ける。
紅葉と金太郎の間に座っていたりんは、本当に美味しいと箸をすすめていた。
謙「それにしても、さっきは凄かったなぁ……色んな意味で」
ユ「目が血走っとったもんなぁ…」
長いテーブルの端に座る謙也とユウジは、数分前の悪夢を思い出していた。
今では新鮮な料理を写真に撮りブログに載せる財前、金太郎の行儀を叱る白石だが、さっきまでは別人のようだったのだ。
謙也の手から卓球のラケットを奪ったと思ったら、高速で打ち合い始めた2人。
止めようとした謙也は頬にボールを喰らい、散々な目にあった。
謙「(俺はずっとこんな役目なんやろか…)」
普段から弄られたりからかわれたりしているというのに、巻き込まれるのはいつも自分だ。
ハァ…と長い溜め息を吐いていた謙也は、『謙也さん』と呼ぶ声に気付くのが遅れてしまった。
顔を上げると心配そうな顔をしたりんと目が合い、「!?」と身体を浮かせる。
『あの、頬大丈夫でしたか…?』
謙「ああー大したことあらへんよ」
ニカッと笑う謙也だが、その頬はうっすらと赤く腫れてしまっていた。
『ちょっと待っててください!』とりんは席を外すと、すぐにトトト…と小走りで戻ってきた。
ドライアイスを新しいお絞りで巻くと、そっと謙也の頬に当てた。
謙「!!りんちゃん?」
『暫くこうしてれば、腫れも引くと思います』
りんは白石と財前の戦いの発端が自分であると自覚していないから、純粋に心配しているのだろう。
それがわかった謙也は、少しだけ顔を下に向けた。
謙「…おおきに」
りんの優しさに涙が出そうになって、謙也の声は震えていた。
『っそんなに痛いんですか?』とりんもあわあわと慌ててしまう。
そんな2人を近くで見ていた小春は、「良かったわねぇ謙也くん…」と目を細めた。
ユ「よっしゃー小春!新作のコント披露しよーや!」
小「ええわよユウくん☆」
すくっと席を立ったユウジと小春は、何処から取り出してきたのかカツラを頭に被り出す。
「「はいど~も~」」と手を叩きながら皆の前に行くと、金太郎や千歳も合わせて手拍子をした。
突然始まったコントをりんはクスクスと笑いながら見ていると、隣に誰かが座った。
顔の向きを変えた瞬間、ドキンと鼓動が鳴る。
白「あいつら変なことしよるやろ?」
『いえ、楽しいですよっ』
白「ほんま?」
「なら良かった」と白石が微笑むと、りんの鼓動はもう一度音をたてた。
動揺を隠すように食べかけだった蟹を慌てて口に含んでいると、「そない急いで食べたら消化に悪いで?」と注意されてしまう。
騒がしい周囲でも声が聞こえるようにと、りんは白石の傍に正座して座った。
『あの、旅行に誘ってくれて、本当にありがとうございました』
白「ははっなんや改まって。そんなん普通やろ?
りんちゃんは皆にとっても仲間なんやから」
『仲間…』とりんは言われた言葉を繰り返して、胸のあたりが熱くなった。
大好きだと思っていたのは自分だけじゃなくて、皆も受け入れてくれていたのだろうか。
そうだったら…堪らなく嬉しい。
『私…皆さんと一緒にいれて、すっごく幸せです』
素直に思ったことを言えば、自然と笑顔になっていた。
てっきり、白石も笑ってくれると思ったのに、「…そーか」と呟いたきり黙ってしまう。
この沈黙は経験済みだ。
りんは頭をフル活動させ、会話を繋げようと努力した。
『えと、白石さん温泉好きなんですか?さっきも長く入ってたみたいだったから、』
白「うん、健康にもええし」
『そうですよね、温泉気持良かったですもんね』
白「……うん」
『私マッサージの椅子に座ってたんですけど……あ、あの…?』
さっきよりも距離が近くなっているのは気のせいだろうか。
白石の端整な顔が目の前にあった時、その事実を確信した。
『あ、あああの、白石さ「りんちゃんはわざとなん?」
じっと見つめられてしまえば、りんの顔はどんどん赤く染まっていく。
白石の瞳には困惑した表情の自分が映っていて、そのことが顔の赤みを加速させた。
白「そーやってかわええ顔すると、男は期待するんやで」
『!そんなこと、』
白「ん?聞こえへんなー」
『し、ししし白石さん?///(ち、近い!)』
何だか様子が可笑しいと感じた時、白石の頭に鉄拳が落とされた。
よろりと倒れた白石を、『白石さん!?』と慌てて支える。
紅「ったく蔵ノ介は…大丈夫?りんちゃん」
『紅葉さん!』
りんはコクコクと頷くが、ピクリとも動かない白石が心配だった。
紅葉は腰に手を当てながら、「実はな…」と周囲を見渡す。
紅「皆が飲んだジュース、お酒やったみたいなんや」
『お酒?』
紅「うちとりんちゃんと銀はお茶飲んでたし、何ともないみたいなんやけど…」
紅葉に合わせりんも周囲を見渡してみると、いつの間にか様子が変わっていた。
コントをしていた筈のユウジは小春に泣きながら抱き付いていて、小春はそれを無視し何かをブツブツと呟いている。
手拍子をしていた筈の千歳は眠ってしまい、小石川は顧問のオサムに何かをひたすら訴えていた。
謙「ひーかーるーお前派手好きやろーピアスめっちゃカラフルやもん!」
財「うっさいっスわ。しばき倒しますよ?」
ケラケラと笑いながら財前の耳を触る謙也。
迷惑そうに眉を潜める財前は普段通りに見えるが……
財「…蟹にはやっぱ醤油やろ」
紅「光!それ醤油とちゃうから!」
皿に胡椒をかけていた財前を、紅葉は慌てて止めた。
酔ってしまった面々をポカンと呆けて見ていたりんは、「なーなー」と浴衣の裾を引っ張られ振り向いた。
金「何で皆可笑しいん?」
『金ちゃんは大丈夫なの?』
金「ワイあの飲み物嫌いやから、飲んでへん」
紅「(流石金ちゃん…本能でお酒との違いを見極めたんやな)」
一見りんごジュースのように見えるが、金太郎は野生の勘を働かせたのだろう。
どうやら、旅館側が隣客と間違えてしまったらしい。
申し訳なさそうに謝罪しに来た仲居達が去っていき、どうしたものかと紅葉は溜め息を吐く。
紅「取り合えず、この酔っ払い達を部屋に運ぼか」
銀「そやな。小春はんとユウジはんはワシが連れてく」
「銀さんの二の腕逞しいわぁ~」と引っ付く小春に泣きながら引っ付くユウジを、銀は抱えながら歩き出す。
紅葉と金太郎は長身の千歳を協力して支え、後はふらふらと歩けているので大丈夫だろう。
問題はー…
紅「ほら蔵、部屋戻るで」
白「んー…」
りんに支えられていた白石は眠そうに瞼を擦った後、そのままぎゅうっとりんを抱き締めた。
『!!あ、あの…っ』
紅「こらぁ、何しとんねん!」
金「白石がイチャイチャしとるでー!」
周りが何を言っても白石は離す気がないのか、りんをぎゅうぅと抱き締め続ける。
りんは酔っていない筈なのに、あまりの恥ずかしさに頭がクラクラし始めた。
幼馴染みからりんを奪うのは無理だと諦めた紅葉は、「しょうがない…」と肩を落とした。
紅「りんちゃん、蔵のこと支えて部屋まで歩ける?」
『ぇ!?た、多分…』
紅「布団に放り投げたらすぐ帰ってええから。何かしようもんなら1発殴って逃げるんやで」
紅葉はきつく言い聞かせると、先に歩き出してしまった酔っ払い達の後を追った。
『(し、心臓が持ちません…!)』
いつもより数段幼い白石に抱き締められながら、りんは心の中で助けを求めた。