桜の下で 後編
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謙「………」
謙也は、先程から恐ろしいくらいに普通の白石を観察していた。
こうしている理由は…数分前に見た黒いオーラにある。
あれは尋常ではなかった。
この世の終わりかと思ったものだ。
原因は一つ。桜満開の中気分も高鳴ってきた直後に、自分の彼女が他の男を愛してますと叫んでいたのだ。
りんは顔を青くして、『こ、これは遊びで…!』と必死に否定したのだが、相手の男は白石を見てフッと不敵な笑みを浮かべた。
あの勝ち誇った顔が、白石のどす黒いオーラの引き金となった。
カーンと何処からかゴングが鳴った気がして、謙也は冷や汗を流したのだが、
金「白石ぃーあれも食べたい!」
白「金ちゃん、今皿に乗っとるのが食べ終わってからにし」
あれもあれもと駄々を捏ねる金太郎に対し、保護者っぷりを発揮している。
その表情は、さっきまでの彼とはまるで別人だった。
謙「なぁ紅葉、あいつ何であんなに普通なん?」
紅「え?あいつ?」
謙「白石に決まっとるやろ。さっきまであんな黒かったのに(背後が)」
謙也は小声で言いつつ、顎で白石を指す。
隣に座る紅葉はその視線の先を追い、ああと納得したように頷いた。
紅「普通に見えるん?」
謙「は、」
紅「蔵、結構子供やで?」
紅葉の言葉に、謙也はもう一度白石を見た。
昔からの親友だけに、謙也は知ってるつもりだ。
何事にも冷静で一歩引いて見れる彼は、感情よりもいつも理性を優先させている。
だけど、りんに対しては違った。
拗ねたり、いじけたり、さっきみたいに感情を剥き出しにしたり…白石をそんな風に出来るのは、きっとたった一人だけ。
謙「(早よどうにかして欲しいわ)」
そうしないとまた自分の寿命が縮まる…と、謙也は深い溜め息を吐いた。
一方、りんはというと…
リョ「…りん、手元」
『へ?あ、』
リョーマに言われハッとして手元に視線を戻し、お茶を注いでいた動きを慌てて止めた。
『あ、ありがと…』
リョ「…どうかした?」
『ううん、何でもないよっ』
『考えごとしちゃって』と笑って誤魔化したが、リョーマには既にばれている気もした。
どんなに違うことをしていても、やっぱり視線は同じところに行ってしまう。
『(…なんて思ったかな)』
遊びでも、あんな大胆に告白をしてしまって。
だけど白石に変わった様子はなく、意識してるのは自分だけなのかと恥ずかしくなる。
それに、少しだけ…寂しい。
『(寂しい…?)』
自分で思ったことに疑問を感じて、首を傾げた。
ふと、今朝家で焼いて来た苺のタルトが、まだワンホール残ってることに気付く。
氷帝や青学の皆には既に運んでいたので、残すとこはあと……
『(…よ、よしっ)』
ぐっと服の裾を掴み、りんは歩み寄って行った。
金「ん?りんやんかー!」
その存在にいち早く気付いたのは金太郎で、りんに向かって大きく手を振る。
皆もそれに合わせて振り返り、白石も顔の向きを変えた。
『あの、これ良かったら、皆さんで召し上がって下さい』
コトリと、ケーキを下に置く。
小「あら~美味しそうやないのぉ」
千「りんちゃんが作ったと?」
『はい!お口に合えばいいんですけど…』
金太郎は素早く手に取り、瞬時の早さでペロリと感触してしまった。
金「めっちゃくちゃ美味いでぇ!!」
『!本当に?』
金「ほんまや!」
ニッと笑う金太郎を見て、『良かったぁ』とりんは思わず口元を綻ばせる。
こんな子が傍にいてくれたら…と密かに思った者がいたが、そんな考えが白石にバレでもしたらと怯え、頭を勢い良く振った。
白「小石川、どうかしたん?」
健「あ、いや…別にっ」
『あの、今日財前さんは?』
この場に財前がいないことに気付き、りんは問い掛ける。
紅「光なら、面倒臭いって言ってこんかったで」
ユ「ほんま協調性のあらへん奴やな」
『そうなんですか…』
いつも苛め…からかわれているので、ほっとしたような残念なような複雑な気持ちになった。
金「なぁなぁ、りんって跡部のこと愛してるん??」
ぶっはぁと、口に含んでいた飲み物を勢い良く吹き出す皆。
白石の眉が微かに動いたのを、謙也は見逃さなかった。
謙「ちょ、金ちゃん、ストレートに…」
金「?やってさっき言うてたやん。違うん?」
『あ、あれは…っ』
顔を赤くして慌てるりんは、自然と白石と目が合った。
怒ってるとか、悲しんでるとか、そんな様子じゃなく……ただ答えを求めるように、自分を見据えている。
『あれは遊びで、言わなきゃいけないから仕方がなくて、』
途中で何かが引っ掛かった。
これじゃ、言い訳をしてるようにしか聞こえない。
白「………」
白石は何も言わず、ただ目を伏せた。
その姿にズキンと胸が痛む。
彼は…どんな答えを期待してたのだろう。
芥「りんちゃーん!こっちで一緒に遊ぼーよ」
『ジロちゃん、』
遠くから自分を呼ぶジローの声が響く。
『えと、それじゃあ失礼します』
金「えーりん行っちゃうん?」
小「金太郎さん、りんちゃんは人気者なんよ。また後で遊んで貰えばええやないの」
りんはペコリと小さくお辞儀をして去ろうとしたが、その片腕がふと掴まれた。
振り返った瞬間、瞳がバチリと合わさる。
『……しら…』
その顔を見た瞬間、ドクンと大きく鼓動が鳴った。
何処か寂しそうな、熱を帯びた瞳で自分を見つめてくる。
そんな白石は、初めてで。
『…あの、』
白石の口元が僅かに開いた時、再び自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
白「…ごめんな」
腕を掴んでいた力を緩め、フッと笑われる。
続きを聞こうとしたが、その顔を見れば聞けなかった。
『じゃあ、また…』
小さく頭を下げて、りんは背中を向け歩きだした。
紅「……行かんでって言えばええのに」
二人のやり取りを見ていた紅葉は、ふと口から零れてしまった。
絶対にそう言うと思ったから。
白「俺もそう思うわ」
その笑顔は、何処か弱々しかった。