ひとりじめ
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それから一通り歩いて回り…白石とりんは、目的の教室の前にいた。
『国際屋…?』
様々な国の国旗がドアの前に装飾として飾られていて、りんは何の店なのかと不思議そうにそれを見つめる。
白「他国の名物料理が、出店感覚で食べれるらしいで」
「よぅ考えるよなぁ」と我教室ながら感心する白石に、りんも共感しコクコクと頷いた。
『(この教室で、白石さんが勉強してるんだ…)』
門を潜った時、白石が毎朝同じことをしてるんだと嬉しくなった。
あのグラウンドで体育の時間走ったり、あのテニスコートで部活をしてる……
その場所に自分がいることを、りんはとても嬉しく感じていた。
白「りんちゃん?」
『あ、えと…!何でもないです』
気付いたら、顔を白石に覗き込まれていて。
その距離が思いの外近く、りんは赤くなる顔を隠すように慌てて教室のドアを開けた。
紅「いらっしゃいませーお2人さん」
『紅葉さん!』
2人の存在にいち早く気付いてくれた紅葉が、"たこ焼き屋"と書かれた場所から出てきた。
教室内はどうやら国ごとに分かれ、店の前にはその国の国旗が吊るされているようだ。
紅葉が出てきた場所には、日本の国旗が吊るされてあった。
白「…日本がたこ焼きなぁ」
紅「日本と言えばたこ焼きしかあらへんやん!なぁりんちゃん?」
『ふぇ!?は、はいっ』
突然求められ変な返事をしてしまうが、流石関西人だなぁとりんはこっそり思った。
『あ、じゃあたこ焼き2つ下さい』
紅「毎度おおきに!オトン、たこ焼き2つなー」
店の方を向きながら紅葉が叫ぶと、「了解~」と中から聞いたことのある声がした。
白「おじさんお疲れ様です」
「なんのこれくらい!いつもやっとるから何ともあらへんで」
『こんにちはっ』
「おーりんちゃん、久し振りやなぁ!」
ニッと明るく笑う紅葉の父親に、ペコリとお辞儀をするりん。
顔見知りということで、代金は貰わないでくれた。
「しっかし、こう2人並ぶと美男美女でお似合いやな」
『!///』
普段から不釣り合いなんじゃないかと不安に感じていたりんだから、その言葉が嬉しくて堪らない。
ふと隣を見ると、顔を赤く染めながらもりんが嬉しそうにしていたので、つられて白石も頬を緩めた。
紅「蔵は美少女でもあるもんなー…聞いたで?えらい人気やったそうやん。蔵子ちゃん」
白「…うっさい、蔵子ちゃん言うなや」
紅「後で写メ送っとくからな、りんちゃん」
『!ありがとうございます!』
白「送らんでええし!ちゅーかりんちゃん貰わんでええからな」
パアッと顔を輝かせるりんを見て、白石は慌ててそれを制す。
普段冷静な白石が取り乱している姿は新鮮で、紅葉は内心面白がっていた。
紅「そや、謙也に早よ手伝えって言っといてな。只でさえ人足りないんやから。…誰かさんのせいで」
白「ごめんて、後で奢ったるから」
「まぁ接客好きやしええけど」と笑う紅葉は、白石がりんとデート出来るように当番を代わってあげていた。
紅「何奢ってもらおかな~」
白「紅葉は遠慮を知らへんからな…そない高いのは無理やで」
紅「あそこがええか、この前の回転寿司」
2人の会話が弾んでいる中、目下にいるりんはぽつんと取り残されてしまっている。
『(……え、ぇと、)』
普通彼女なら、どうするのだろうか?
こんな時、普通は……
それでもりんは、楽しそうな白石の邪魔をすることはしたくないと思った。
…けど、
だけど、
他愛ない会話をしていた白石は、弱い力を背中に感じた。
振り向けば、制服の裾を後ろからくいっと小さく引っ張るりんがいて。
白「…りんちゃん?」
『!あ、わ、私…っ』
ハッと気付いたように裾から手を離し、りん自身その動作に自覚がなかったので混乱していた。
気のせいか、白石は目を細めて答えを待っているように見える。
『何でも、ないです、ごめんなさい…』
俯いてしまったりんの頭に手が置かれて、ゆっくりと面を上げる。
白石はいつもみたいに柔らかく笑ったが、その瞳は何故か寂しそうに見えた。
白「堪忍な、早よ回ろっか。りんちゃんは何食べたい?」
『えっと、』
頭を撫でられることにドキドキして、先程の表情は気のせいだと思ってしまった。
その頃、校舎の外では……
「見て、あの噴水…」
「こ、怖…!何あれ、人?」
コソコソと噂する者達の視線の先は、かの有名な噴水にあった。
銀「…………」
銀は瞳を瞑り坐禅していて、そこが噴水の中でなければ修業であると納得出来る。そう、噴水の中でなければ。
四天宝寺の生徒であればまた石田くんだろうと理解してくれるものの、やはり一般の人には珍しいらしく。
奇妙なものでも見るような視線に居たたまれなくなり、銀はゆっくりと瞳を開けた。
…その時、中庭の木の向こうに見知っている人影が見えた。
銀「(…あれは、白石はんとりんはん)」
どうやら、こちらには気付いていない様子。
白「は~ぎょうさん遊んだな」
『あの、ありがとうございました、たくさん奢って頂いて…』
白「ん?ええってあのくらい」
お金を出そうとしても、毎回白石が有無を言わさず支払ってしまうので、りんはそのことをずっと気にしていた。
白石が中庭のベンチに腰掛けたので、少しスペースを空けつつりんも座ることにした。
白「…何か遠いなぁ」
『ほぇ!』
白石はこっちと言うように自分の隣を指す。
カァァと顔を真っ赤に染めて、おずおずとりんは距離を縮めた。
少し動いたら肩が触れてしまいそうで、心臓の鼓動が速くなるを感じる。
白「…りんちゃんは、もっと甘えてええと思うで?」
緊張で自分の足下しか見ていなかったりんは、その言葉に顔を上げて隣に視線を移す。
あまりにも真っ直ぐ見つめてくる白石に、りんは一瞬心臓が止まりかけた。
『甘える…?』
白「例えばな、今みたいに奢って貰った時とか、なんちゅーか…ほら、」
困ったように前を向く白石をじっと見つめ、続く言葉にりんは耳を傾ける。
白「男はな、好きな子には甘えて欲しいもんなんや」
『………!』
好きな子…とまるでエコーのように頭の中に響き渡り、りんの顔は赤く染まった。
更に追い打ちをかけるように、白石の掌がそっとりんの頬に触れる。
白「やからな…俺、りんちゃんにもっと甘えて欲しいねん」
『…っ』
頬を包み込まれ、顔を伏せたくても出来ない。
白石の低い声や寂しそうな表情に動揺させられて、目を逸らせないのは事実だ。
『…わ、私は……』
ギュッと膝に置いていた手を握り締める。
『私……』
言いたくても、言えない。
いつしかりんの丸い瞳には涙が溜まり、そんな顔で見上げれば白石の方がドキッとしてしまった。
白「…りんちゃ『も、もう…げんか、いです~』
あまりにも顔が近くて、触れられてる頬が熱くて、心臓が破裂しそうになったりんの顔は茹で蛸のように真っ赤だった。
シュウゥゥと何かが抜けるような音がして、白石は慌てて頬から手を離した。
白「わ、堪忍!」
『い、いえです…』
白石の行動は全て無意識なので(たまにわざとだが)りんがいつもその言動に振り回されていることを知らない。
美形だからとかそんなことじゃなく、りんの場合は相手が大好きな白石だから、こんな風に溶けそうになってしまうのだ。
白「ちょお待っとってな、冷たい飲み物でも買うてくるわ」
『あの、お構い無く…!』
立ち上がり行ってしまった白石の背中を、未だ動悸が治まらぬりんは見送る。
『(…う、私、駄目だなぁ)』
もう付き合って随分経つのに、こういうことには全然慣れなくて。
白石もきっと呆れてるだろうなと思うと、自分のヘタレさに泣けてくる。
…本当は、言いたいのに。
『たくさん、あるのに』
秋風に吹かれる落ち葉を見つめながら、ぽつりと零れる。
「あの」と後ろから声を掛けられたので、りんは慌てて振り向くと、そこには女子生徒が数名いた。
白石のようなブレザーを着ていることから、高校生だとわかる。
「ちょっとええですか…?」
『へ、私…ですか?』
良くわからないが、そっと不安気に見つめてくる女子生徒に、りんは顔を縦に振っていた。
銀「…………」
そのまま歩き出す集団を、噴水の中から見ている者がいた。