ひとりじめ
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大阪、四天宝寺中学校の文化祭は少し…かなり変わっている。
毎年高等部と合同で行われている為、校舎は一般客や生徒で溢れ、
クラスの出し物も他と一味違い、ボケとツッコミが基本の大変ユニークなものとなっていた。
体育館はお笑いライブとして使われていて、行き交う生徒は、まるで必然のように被り物を装着している。
『(…着いた)』
"木下藤吉朗祭"と太く書かれた幕を見上げ、りんはほっと胸を撫で下ろした。
今日はいつもみたいに髪を2つに結い、白石から貰ったお花のヘアピンを付けてきた。
いつもと少し違うのは…セーラー服の上に桜色のカーディガンを羽織っていること。
先程からやけに人の視線を感じるので、りんは慌てて自分の服装を確認していた。
「パンフレットでーす」
『あ、ありがとうございますっ』
笑顔で受け取った後、思わずバッと振り返り二度見してしまった。
渡してきたその人はマグロの被り物をしていて、何故魚?とパンフレットを渡された人達は戸惑っている。
『(マ、マグロだ。マグロにパンフレット渡されちゃった…!)』
だが例外もいて、何故か心の中で大喜びするりんだった。
それを開き、早速テニス部に行ってみようと足を動かす。
予定時間よりかなり早く着いてしまったが、自分から出向いて白石を驚かせたい。
『(もう少しで会えるんだ)』
それもあるが、やはり1番は早く会いたいという気持ち。
きっと驚いた顔をして、それから「りんちゃん」と柔らかく微笑むのだろう。
それを想うだけで気持ちがふわふわと温かくなる。
白石さん、白石さんと何度も心の中で呼びながら、一呼吸して庭球部と書かれた戸を開けた。
「おかえりなさいませー…」
『……………………』
一瞬固まった後、りんはゆっくりと戸を閉めてしまった。
落ち着いて落ち着いてと自分に言い聞かせる。
確かに、今まさに強く想っていた人と目が合ったはず。でもそれは……
もう一度表札を確認して、ぐるぐる混乱する頭を落ち着かせる。
小さく戸を開けて、隙間から伺うように顔を覗かせた。
ユ「おかえりなさいませ…って、なんやりんやん」
『…………ユ、ユウジさん!?』
理解するのに数秒かかってしまった理由は、彼の姿にあった。
ユウジの髪はロングヘアーで、フリフリのエプロンを付けている。
それと似たようなものも頭に付けていて、恐らくメイドだろう。
小「あら、りんちゃんやないの!おかえりなさいませ~お嬢様っ」
金「あ、りんやー!!」
ぼおっとユウジの姿を見ていたりんに気付き、小春と金太郎が駆け寄ってきた。
小春は黒髪のオカッパ頭に、大きなリボンを付けている。
金太郎の赤髪は長くそれをツインテールにしていて、2人共ユウジと同じ様な服装をしていた。
『え、えと、この店はどうゆう…』
抱き付いてきた金太郎の頭を撫でながら、りんは首を傾げて問う。
小「女・装・喫・茶☆テニス部皆が女の子で、メイドさんなのよ~」
『メイド…さん』
弾んだように話す小春の説明を聞き、りんは部室(店内)を見渡した。
可愛らしい装飾は、まるで本物のメイド喫茶のよう。
女性客が多いが、中には男性もいた。
「おーい店員さん、頼んだメニューまだ?」
男性客が待ちくたびれたように手を上げると、中から黒髪の美少女が出てきた。
財「……さっさと食べたらどうですか」
「(ツ、ツンデレ?///)」
ハァと短く溜め息を吐いた美少女、財前が顔の向きを変えた瞬間、その黒く縁取られた瞳が見開いた。
『あ、こんにちは…!』
財「………何笑っとるんですか」
小&ユ「「別に~」」
りんからばつが悪そうに視線を逸らし、隣で腹を抱える先輩達を睨み付ける財前。
金「光女の子みたいやなー」
財「それ言うたら部長もやん」
『そういえば、白石さんは…?』
さっき、目が合ったような…
キョロキョロとりんが顔を動かした瞬間、店内にキャア!と黄色い声が響いた。
「白石くんかわええー!」
「もっとちゃんと見せてー」
白「ちょ、今は堪忍やって…っ」
端の方で後ろを向き、床を掃いていた人物が女性客に腕を掴まれていて。
財「…何しとるんですか」
白「掃除や掃除!」
金「白石ぃー早よこっち来や!」
白「っき、金ちゃん…」
箒とちり取りを持った白石は、折れたように皆の輪に近付いて行く。
チラッとりんに視線を向けるが、やはりその目は大きく見開かれていた。
白「りんちゃん?あんな、これは『…可愛い!』………」
素直なりんは、思ったことをそのまま伝えてしまった。
白石の顔は固まり、皆は堪えていた笑いを一気に吹き出したのだった。
謙「白石…いつまで拗ねとんねん」
白「…拗ねてへんし」
『え、ぇと、』
皆は気を遣ってか、白石を先に休憩にいかせた。
カーテンで仕切られた休憩室の椅子に座りながら、りんに女装姿を見られたことが余程ショックだったのか、白石はずっと拗ねている。
『あの、ごめんなさい。私が早く来ちゃったから…』
謙「りんちゃんのせいやないからな」
まるで仲介者のように、慌ててフォローする金髪縦ロールの謙也。
不機嫌そうな白石を見て、自分のせいなんだと思うと泣きたくなる。
白石が待ち合わせ時間を細かく指定した意味を、りんは漸く理解した。
白「りんちゃんには見られたくなかったんや…」
『すごくすごく可愛いですよっ』
白「……………」
美形とする容姿だからか、女装しても可愛いし綺麗だ。
白石はエクステなのか髪を下ろし、緩く巻いていて。
睫毛もくるんと上を向き、まるで本物の女の子のよう。
キラキラと瞳を輝かせるりんと同等に、白石の眉間の皺も深く刻まれてゆく。
小「蔵リンは元が良いんやで~つけまつげもいらへんかったし」
ユ「ちゅーかこの店、お前と財前目当てで来る客しかおらへんわ。あと謙也をからかいに来る客」
謙「どうせキモいわ!悪かったな」
カーテンを開ける小春とユウジ。
紅茶を運んで来てくれたことにお礼を言うりんの横で、今度は謙也がブツブツ言いながらふてくされてしまった。
小「蔵リン、折角りんちゃん来てくれたんやないの」
泣きそうなりんに気付いてくれたのか、小春がゆっくりと言い聞かせるように話す。
目も合わせてくれないし、何だか今日の彼は小さな子供みたいだ。
『私、あ、会いたかったから』
りんはキュッと自分の服の裾を握った。
『早く早く白石さんに会いたかったから……だから、待てなくて、』
女装でも何でも、白石に会えたことが嬉しいのに。
だからそんなに、機嫌を悪くしないで欲しい、冷たくしないで欲しい。
そんな態度を取られると、悲しくて胸が痛くなる。
こんなにも白石が向けてくれる愛情に慣れていたのかと、りんは情けなくなって俯いた。
白「……ごめんな」
顔を上げると、白石の瞳とぶつかった。
白「俺も、ほんまは嬉しかったんや…りんちゃんから来てくれて」
『ほ、本当…?』
白「うん、本当」
ふわっと微笑んだ彼は、いつも通りで。
途端りんは一気に嬉しくなって、笑顔で頷いた。
ユ「(…なんちゅーか)」
謙「(…おん、わかるで)」
小「(…そうやね)」
ユ&謙&小「(居づらい……)」
微笑み合い、ほわほわと淡いピンクの花を飛ばす2人に対して、周囲の心の叫びは一致していた。