赤ずきんと狼王子
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"狼王子は遂に、姫に口付ける決心をしました"
騒がしかった体育館も急にしん…と静まり返る。
壇上を上がる足音はりんの前で止まり、その人物が立て膝を突いたのがわかった。
『(……だ、誰?)』
目を開けて確認したいけれど、もし客席に気付かれてしまったら…?
ドキドキとうるさい心臓を感じながら、そっと瞼を上げた。
『!(…お兄ちゃん?)』
リョ「…………」
そこにいるのは確かに兄のリョーマで、驚きで思わず叫んでしまいそうになった。
何故、どうして…と頭が混乱する。
目を大きく開けてしまっているりんは、リョーマに閉じろと言わんばかりの視線を受けて慌てて閉じた。
リョ「(…何で俺が、)」
一方のリョーマも突然の事態に戸惑っていた。
今日は他校で練習試合があって、リョーマは誰よりも早く着替え聖華女学院に来た。
りんの教室を覗いたらここにいると言われ、体育館に入るなりいきなり指名されたのだ。
普段なら無視するところだが、劇の主役はりんとゆうこともあり…放っておけなかった。
リョ「(……口付けって、)」
裏で"姫に口付けて!"カンペを持つ演劇部。
リョーマは何となくだがこの劇のストーリーを理解し、ハァと溜め息を吐きたくなった。
そっと頭を下げてフリをしてみるが、カンペを持つ人間は納得していないように首を横に振る。
『(…お、お兄ちゃん…?)』
なかなかナレーターが話さないので、疑問に思ったりんは気付かれぬよう目を開けてみた。
リョーマの瞳は何処か困惑するように揺れていて、りんはどうしたのかと内心オロオロする。
観客もこの雰囲気に違和感を感じ、ざわざわと騒ぎ始めた。
要「………姫は私が貰っても宜しいのかな?」
りん同様、無理矢理連行された挙げ句劇に立たされた要は、実は隣国の王子を演じていた。
その要は戸惑うリョーマに近付き、挑発的に口元を緩める。
要「それとも、私が変わりに口付けをしても…?」
リョ「……っ」
リョーマはぐっと拳を握り、覚悟を決めてりんを見つめた。
客席からキャアアと黄色い声が響き渡り、驚いたりんは遂に目を開けてしまうと、
リョーマの顔があまりにも近くにあって。
リョ「……ごめん、りん」
『っお兄ちゃ…』
更に近くなる顔に思わずギュッと目を瞑ると…瞼にそっと唇が触れた。
琥「……王子の口付けによって、姫は目を覚ましましたっ(キャ~萌え!)」
『あ…貴方が私を、眠りから目覚めさせてくれたのですね』
動揺しながらも何とか台詞を言い、合わせて体を起こした。
リョ「ですが私はこんな身、一緒にいたらいつか貴方を襲ってしまうでしょう…」
『そんなこと、私は…っ』
次は、姫が抱き付かなくてはいけない。
いつも?兄にしているようにするだけ。
それなのに…先程のことを思い出してしまい、顔が真っ赤になって動けない。
そんなりんに、リョーマは自ら手を引いて抱き寄せた。
リョ「りん、台詞」
小声で教えてくれるリョーマ。
心臓の音がドキドキと忙しなく鳴って、上手く話せないけれど。
『…私は、貴方のその優しい人柄に惹かれたのです』
いっぱいいっぱいになって何とか最後の台詞を呟く。
すると背中に回していただけの腕に、僅かだが力が込められた。
リョ「…俺も」
ワァァァと盛り上がる声と同時に、パッと体育館全体が明るくなった。
「(あれ、王子って答える台詞あったっけ?)」
「(?さぁ?)」
気付いたら観客は全員立ち上がっていて、鳴り止まない拍手の中、最後は1列に並び頭を下げた。
琥「グッチョブよ☆2人共限界を越えたわ…!!」
リョ「…はぁ」
『(か、顔!顔洗えないよ~///)』
少なくとも右の瞼だけは洗えないと、頭を下げながら思うりんだった。
『疲れた……』
折角の楽しい文化祭が恐ろしく(精神的に)疲れてしまった気がする。
教室に戻ったりんは、カーテンで仕切られた控え室の椅子に座り、机にゴンッと頭を付けた。
『(そ、そうだ…!)』
白石さん!と教室の前で引き剥がされたきりの彼を思い出した。
慌てて携帯電話を開いてみると、《大丈夫?》などと心配のメールや電話が入っていて。
慌てて電話を掛けようとしていると、「りん!」と叫びながら雪が教室のドアを開けた。
『雪ちゃんっ』
雪「あんた営業はどうしたのよ!午後からの担当でしょ!?しかもまだ衣装着てないし、」
『だ、だってあの衣装恥ずかしいよっ』
まるでウサギのように逃げ待とうりんを捕まえ、雪は自作の衣装に素早く着替えさせた。
りんは恥ずかしさから、咄嗟に机の下に隠れる。
そんなりんにハァと溜め息を吐く雪。
雪「さっきの方が恥ずかしい格好してたじゃない」
『ええ!さっきは無理矢理……だ、だってこうゆうコスプレ?みたいの着て、人前に出るなんて、』
「似合ってるよーりん」
「てゆーかりん目当てで来る客が殆んどなんだよ?」
控え室にいたクラスメートは、2人のやり取りを見守っていたので苦笑い。
どんな格好であれ、仕事をサボるわけにはいかない…とりんは思い始める。
雪「りんの大好きな人が来てるのに?」
『ふぇ…?』
慌てて机から飛び出し、カーテン越しに顔を覗かせるとそこにいたのは……
「あの、りんがいつもお世話になってますっ」
「何処で知り合われたんですか?りんなかなか教えてくれなくて」
白「はは…そやなぁ」
クラスメートに囲まれて困ったように笑う、白石だった。